第168話 他人の手柄で昇進しようなんて甘いよな
情報共有をした中でシルバには気になることがあった。
「アリエル、そこで気絶してる奴がアルベリ盗賊団を訪ねて来た軍人を見たの?」
「見たらしいよ。その軍人は1人だったらしくて、少なくとも軍学校の学生でもなければどこかの隊に所属してる感じじゃなかったってさ」
「今のジェロスの状況からして、軍人が1人でディオスから向かわされることは考えにくい。その人ってジェロス支部所属かわかる?」
「多分ジェロス支部の人だね。目撃した場所がジェロスの悪党しか知らない隠し通路だって言ってたから」
アリエルの言葉を聞き、シルバはこの状況で考えられる可能性について口にする。
「売国奴か」
「シルバ君、僕的には売国奴じゃないと思うよ」
「何か知ってるのかアリエル?」
「そいつは第一皇子派だろうね」
「俺が仕入れた情報からしても第一皇子派だと思うぜ」
ロウがシルバとアリエルの話に加わった。
「第一皇子が次の皇帝になるためにサタンティヌス王国と手を組んだんですか?」
「おう。元々、第二皇子は皇位の継承に興味なかっただろ? だから、戦うべきは第一皇女だけで良かった。ところが、着々と出世して注目されてるシルバと第二皇子が仲良くなり、明言してないものの第二皇子が皇位継承権争いに参戦した。焦った第一皇子はサタンティヌス王国と手を組んで自分が皇帝になろうとしてるって訳だ」
「サタンティヌス王国と手を組めば、自分が即位できた時に干渉されるってわからないんですかね?」
「王国は今、ブラック級モンスターによる被害の立て直しでそれどころじゃないと考えてるんだろうな。計算高い第一皇子にしては随分甘い見積りだぜ」
ロウが自分の仕入れた情報を得意気に披露すると、アリエルが負けじと追加情報を出す。
「アルベリ盗賊団は第一王女の傘下だって話だよ。だから、もしかしたら第一王女が第一皇子と結婚して王国と帝国の合併を狙ってる可能性があるね」
「一国もまともに管理できてない連中が合併とか正気?」
「そこはほら、王族とか皇族特有の選民思想が根拠のない自信を与えてるってことじゃない?」
アリエルもその王族になる訳だが、アルケイデスのように自身の実力を正確に見極めて行動できる皇族もいるのでシルバもエイルもツッコんだりしなかった。
情報を引き出すだけ引き出して出発しようとした時、こっそりと接近する者達がいたのでシルバが声をかけた。
「すみません、その建物の陰に隠れてるのはバレバレなので出て来てもらえます?」
「10秒以内に出て来ないと隠れてる辺りを爆破するよ」
「「「「ちょっと待って下さい!」」」」
アリエルの脅し文句を聞いて4人組が建物の陰から出て来た。
その者達は軍学校の制服を着ており、ミッションでジェロスに来たようだった。
「僕達を陰からこそこそ見てるってのは後ろ暗いことでもしてるのかな、5年生の先輩方?」
「話を聞いて下さい」
「私達はそこの盗賊に用があるんです」
「俺達はそっちの殺し屋に用があるんです」
「功績が足りなくて困ってるんです」
話を聞いてみたところ、5年生の4人組は5年生のペアが偶々合流しただけだった。
それぞれに盗賊と殺し屋をジェロスの支部長に捕まえるか殺すように指示を出されており、それができればミッションをクリアしたと認定されるらしい。
そのミッションをクリアしたと判断されなければ、功績が足りなくて
事情を聞いたところでエイルが気になったことを指摘する。
「私達が捕まえた盗賊と殺し屋を自分達が捕まえたことにしたとして、それで本当に昇格できると思ってるんですか?」
「「「「あっ・・・」」」」
(この人達、よく
エイルが指摘した点について誰も予想していなかった様子を見て、シルバはこの程度でも
同じアークエンジェルでもタオやメリルはモンスターの盗伐やモンスターの使役に役立つ薬品を発表しているので、間抜けな彼等と同じ階級だと思いたくないのである。
空気が一瞬でお通夜みたいになったところでロウがそのフォローに回る。
「まあ、この2人を捕まえたことで次のミッションに移れると思って前向きに頑張ろうぜ」
「「「「はい」」」」
落ち込んで時間を浪費するばかりではいられないから、ロウに言われた通り5年生達は盗賊と殺し屋を連行していった。
シルバ達もそろそろ第一小隊との合流する時間が近づいていたため、門の外へと向かった。
第一小隊はシルバ達が着いてから3分後に到着した。
馬車の屋根には拘束された何者かがいたので、シルバが気になって訊ねた。
「ソッドさん、屋根に縛り付けてるのは何者ですか?」
「アルベリ盗賊団の副団長だよ。偶然カヘーテ渓谷と街道に繋がる隠し通路を見つけて、そこから出て来たところを捕縛したんだ」
「おめでとうございます。ところで、アルベリはいなかったんですか?」
「いなかった。どうもジェロスから単身で出かけてるらしい。団員達は功績が足りなさそうな物乞い軍人達に後処理を含めて任せて来た」
苦笑するソッドに対してシルバも同じ表情になった。
「あぁ、そっちにもいたんですね」
「そっちにもってことはシルバ君達の方も出くわしたのかい?」
「はい。と言ってもこちらは軍学校の学生でしたが」
「他人の手柄で昇進しようなんて甘いよな。仮に昇進できたとしても、身の丈に合わないミッションを割り振られて命を落とすリスクが増すだけなのに」
本当にソッドの言う通りだ。
身の丈に合わないミッションは帝国軍にとって人と物、金、時間の観点でロスになる可能性が高い。
楽して昇進できたところでそれが自分の首を絞めるのでは意味がないとわからないのだろうか。
残念ながら、わからない者もいるのが現状なのでそれは帝国軍の抱える課題である。
その時、レイが何かに勘付いて顔を上げた。
「キュ?」
「見つけたぞ!」
「副団長を奪い返せ!」
「ザッケンナコラー!」
レイが視線を向ける方向から副団長を奪い返しに来たであろうアルベリ盗賊団が現れた。
「へぇ、まだいたのか。第一小隊、迎撃開始!」
「第二小隊も迎撃開始。レイ、エイルさんを守ってくれ」
「キュイ!」
小隊メンバーとレイに指示を出した後、シルバはアルベリ盗賊団の残党を相手に戦闘を始めた。
『アタシ達の出番なのよっ』
『活躍、希望』
「お前達を使う程の相手じゃないだろ」
実際のところ、シルバが思った通りアルベリ盗賊団の残党は大したことなかった。
5分とかからず返り討ちにしてしまい、これには熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュもがっかりしていた。
『雑魚過ぎたのよっ。アタシ達じゃオーバーキルなんだからねっ』
『失望』
だから言っただろうとシルバは思った。
【村雨流格闘術】も派生の型を使わず基本形だけで倒せてしまう程度の敵だったため、タルウィもザリチュも使えなかったのだ。
その後、倒したアルベリ盗賊団の残党は身包みを剥いでから死んだ者を土の下に埋め、まだ息のある者は順番に情報を引き出すため尋問した。
「サタンティヌス王国に関わりがあるのはアルベリと副団長だけでしたね」
「そうだね。甘言で団員を集めたという点ではアルベリ盗賊団もウェハヤ盗賊団も変わらないらしい」
「ですね。それと、アルベリの行き先を知ってる者はいませんでしたがどうします? もう少しジェロスで情報を集めますか?」
「いや、そろそろ第三小隊と合流しよう。待ちぼうけさせるのも悪いからね」
シルバとソッドが第三小隊の話をしていると、パァンと大きな音が鳴った。
「戦闘か」
「そのようですね」
「ソッドさん、シルバ君、第三小隊がアルベリと思しき強敵と接敵したと連絡が入りました」
マジフォンを手に持ったエイルがキマイラ中隊のスレッドを見せながら状況を知らせて来た。
ジェロスを根城にした悪党達は多少数がいても大した実力はない。
だからこそ第三小隊だけでもなんとか捌けると判断したのだが、アルベリだけは別だ。
ウェハヤと同程度の実力があるだろうアルベリと戦えば、とてもではないが第三小隊も無傷では済まないだろう。
「シルバ君、先行してくれ」
「わかりました。レイ、行くぞ」
「キュ!」
馬車よりも早く移動できるレイがシルバを背中に乗せて現場に急行した。
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