第169話 お前のような勘の良いガキは嫌いだよ
レイに乗ったシルバが街道を肉眼で捉えられるようになると、そこには槍を持った偉丈夫と戦う第三小隊と倒されて壊滅した盗賊団の姿があった。
盗賊団の中に1人装備が豪華な者がいるから、第三小隊と戦っている偉丈夫は盗賊団の一員ではないのだろう。
偉丈夫は槍を持っており、その槍捌きだけで第三小隊に対して優勢だった。
第三小隊の4人が押されていると判断したのは第三小隊の方がダメージを負っていて、偉丈夫の方は無傷だからである。
「どうした? この程度か? やはりキマイラ中隊も第三小隊では相手にならんな」
「言わせておけば!」
「せいっ」
ヤクモとプロテスが左右から挟み込むように攻撃を仕掛けるが、偉丈夫はヤクモのハルバードを槍で受け流し、武器を持っていない方の腕でプロテスの蹴りを受け流した。
「岩の棘よ、我が敵を地面に縫い付けろ!
「甘い」
「風の槍よ、我が敵を穿て!
「効かん!」
フランが
ところが、槍に火を纏わせた偉丈夫はあっさりと風の槍を打ち消してみせた。
「そろそろ射程圏だ。レイ、俺が飛び降りたら第三小隊の4人の治療を頼む」
「キュイ」
シルバに役目を与えられたため、レイは任せてくれと頷いた。
レイの背中から飛び降りたシルバは空中を蹴り、死角から偉丈夫に攻撃を仕掛ける。
「弐式:無刀刃」
「来たか、シルバ=ムラサメ!」
偉丈夫は殺気を感じてシルバの方を向き、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべてその斬撃を槍で弾いた。
シルバは着地してから偉丈夫に訊ねる。
「あんた誰? あんたは俺を知ってるらしいけど、俺はあんたのことを知らないんだよ」
「ふん、手配書に載って有名になったと思ったがそうでもないらしいな。俺の名はアルベリ。アルベリ盗賊団の団長だ」
「あぁ、ジェロスにいた仲間を見捨てて逃げたのかと思ったよ。元お仲間なら全員倒しといたぞ。感謝してくれよな」
シルバが挑発したことでアルベリは額に血管を浮かべて乱れ突きを放つ。
「そうか。それは懇ろに感謝しないと、なぁ!」
「參式水の型:流水掌」
「ぬっ、やりおるな!」
水を付与した受け流しにより、シルバはアルベリの
「肆式水の型:驟雨」
「ぬぉ!?」
次はこっちの番だとシルバが反撃したところ、アルベリは下手に防ごうとせず大きく後ろに跳躍して避けた。
先程は挑発に乗ったけれど、アルベリはすぐに落ち着いて対処できるぐらいの余裕があったようだ。
『槍相手に素手は危ないんだからねっ。アタシ達のターンなのよっ』
『出番、到来』
ここぞとばかりに自分達を使えと熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュがアピールした。
(ここは素直に使っておくかね)
シルバはウェハヤと同程度の実力の持ち主が相手ならばと頷き、タルウィとザリチュを装備した。
「そいつが熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュか」
「そうだ。サタンティヌス王国に持ち帰りたいってお前の顔に書いてあるぞ」
シルバの発言を受けてアルベリは舌打ちする。
「お前のような勘の良いガキは嫌いだよ」
「そう言うなって。ぶちのめしてウチの第一皇子との繋がりについても吐かせてやるから」
「お前は知り過ぎた! 死ね!」
アルベリは付与する火力を上げてから上半身のバネを活かした刺突を放つ。
「伍式氷の型:獄炎反転」
シルバはアルベリの刺突をタルウィとザリチュで受け流しつつ、槍に付与された火を吸収して冷気に変えて放出した。
突然の気温の変化にブルリと体を震わせたアルベリに隙が生じたので、その隙にシルバが反撃を叩き込む。
「壱式雷の型:紫電拳!」
「ぐぼぉっ!?」
雷が突き刺されたアルベリの体を焦がすだけでなく、熱尖拳タルウィの効果で傷口から発火し始めた。
咄嗟に急所は躱したけれど、それでもアルベリに無視できないダメージが入ったのは間違いない。
アルベリにとって更に悪いことに、このタイミングでキマイラ中隊第一小隊と第二小隊が応援に駆け付けた。
「おのれ、ド畜生がぁぁぁぁぁ!」
追い詰められたアルベリは槍を地面に突き刺すと、胸ポケットから取り出した小さいケースに入った丸薬を飲み込んだ。
その瞬間、アルベリから感じられた魔力の総量が急激に増えるのと同時にアルベリの全身に血管が浮かび上がった。
変化はそれだけに留まらず、アルベリの肌が小麦色から焦げ茶色へと変わってボディビルダーのように全身ムキムキになった。
「おいおい、ドーピングかよ」
「できれば使いたくなかったんだがよぉ、お前等全員ぶっ殺すために使わせてもらうぜぇ」
「その薬、デメリットがありそうだがサタンティヌス王国で開発したのか?」
「冥土の土産に教えてやる。・・・なんて言うと思ったかバァァァカ!」
槍を地面から抜き取ったアルベリは先程までよりも確実に速さも力も増した乱れ突きを放つ。
「參式雷の型:雷反射」
アルベリの動きを鈍らせようと雷を纏わせたタルウィとザリチュで受け流すが、残念ながらシルバの目論見通りにはならずアルベリの動きは鈍くならなかった。
「力こそプァワァァァだぁぁぁ!」
「何言ってんだこいつ!?」
そう応じつつ、シルバは頭がおかしくなったように思えるアルベリの攻撃を受け流すことに集中した。
もしも一撃でも受けたら不味いと判断したからである。
その瞬間、アリエルがシルバを援護するべく仕掛けた。
「僕達のこと、忘れないでくれる?」
落とし穴でアルベリの足場を掘れば、アルベリはズボッと穴に落ちた。
それでも、空中で姿勢を制御して両脚で穴の底に着地したアルベリはシルバを狙って全力で槍を投擲した。
「ヒャッハァァァァァッ!」
槍には当然の如く
そんな攻撃に対してシルバは落ち着いて槍の側面に回り込む。
「伍式氷の型:獄炎反転」
シルバは槍に付与された火を吸収して冷気に変えて放出しつつ、槍の側面を叩いてそれを叩き落とした。
その隙にアルベリが急上昇した身体能力を生かして大きく跳躍したが、アリエルがアルベリの好きにさせるはずあるまい。
「やらせないよ」
「ごえふっ!?」
穴の中の壁から突然突き出した岩の柱により、アルベリの体は反対の壁に叩きつけられた。
アリエルは常人なら確実に体のあちこちの骨が折れる勢いでアルベリを攻撃したけれど、驚くべきことにアルベリは動けていた。
「クソガキ共がぁぁぁ!」
アルベリは全身に力を込めて岩の柱を砕き、壁を蹴って地上に戻って来た。
だが、アリエルはアルベリが着地する瞬間に落とし穴を広げてアルベリは再び穴の底まで落ちた。
しかも、落ちた瞬間にアルベリの悲鳴が聞こえた。
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!」
シルバが穴の底を覗いてみたところ、穴の底に岩の棘を敷き詰めていたらしく、足の裏を強化しても落下分のエネルギーをカバーできずに岩の棘がアルベリの足の裏を貫いたのだ。
「丸薬を飲んでからのアルベリはちょろいね」
アリエルはとても良い笑顔で言ってのけた。
『デーモンなのよっ。アリエルって女はデーモンよりもデーモンらしいのよっ』
『酷い。心、何処?』
(アリエルさんや、呪いの武器にドン引きされてるけど良いのかい?)
シルバはアリエルが敵に対して容赦ないことに慣れているが、タルウィとザリチュはここまで徹底的にやるアリエルのことを見たことがなかったためドン引きしていた。
「何か失礼な気配がその2つの無機物から感じられる」
『ぴぇっ、こいつヤバいのよっ』
『驚愕。異常』
アリエルがタルウィとザリチュの思念を感じ取ったらしく、余計なことを考えていないかと疑いの視線を向ける。
タルウィとザリチュはアリエルを危険人物認定するが、騒乱剣サルワに選ばれた者が普通なはずない。
それはさておき、穴の中で悲鳴を上げたアルベリが急に何も言わなくなった。
両足の甲が岩の棘によって貫かれたけれど、それだけで死んだり気絶するとは考えにくい。
再びシルバが穴の中を覗いてみると、そこには両足の痛みに耐えて丸薬をもう1つ飲み込むアルベリの姿があった。
丸薬を飲み込んだ直後、アルベリの体が激しく痙攣し始めて奇声をあげる。
「URYYYYY!!」
人間をやめたような奇声をあげた直後、アルベリの体がブクブクと泡立って変色しながら形まで変わり始めた。
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