第167話 OK、わかってるぞ。これが欲しいんだろ?

 ロウが引き出した情報によれば、4年生3人組はジェロスの支部長の指示で闇商人を追っていたらしい。


 アリエルのおかげで捕まえた闇商人だが、帝国軍の兵站部門で軍用の物資を闇市場に流していたことがバレてクビになり、ジェロスに流れ着いてから過去の経験を活かして闇商人になった。


 その商人のバッジは帝国軍の紋章に縦線が入り、その線を境に紋章自体が上下にずれているマークだ。


 ジェロス支部では彼が転売に特化した闇商人であることから、テンバイヤーという二つ名をつけて懸賞金を懸けている。


 4年生3人組がテンバイヤーを捕まえるよう指示されたのは、テンバイヤーが特に戦闘能力は高くないからである。


 ジェロスの支部長も軍学校出身なので、B4-1の学生ならテンバイヤーぐらい逮捕できると思って指示を出したのだ。


 結果として、逃げ足だけは速く地の利があるテンバイヤーに逃げられ続けたため、アリエルがいなかったらテンバイヤーに逃げ切られたであろうことは間違いない。


 テンバイヤーを連れて4年生3人組がジェロス支部に向かったのを確認して、アリエルはやれやれと首を振った。


「情けないね。自力でテンバイヤーを捕まえられないこともそうだけど、ジェロス支部まで同行してくれないかと言い出すとはね」


「自分達が実力不足だって理解できてるだけマシだろ。自分達だけで捕まえられたとか言い出さないんだから今後に期待ってやつだ」


「まあね。もしもそんなことを言い出してたらしばいてたよ」


 シルバの考えに賛同しつつ、もしもそうでなかった時のことを考えてアリエルはチョップする素振りを見せた。


「シルバ君、更なる情報収集のために手分けしよう。2時間後に入って来た門の前に集合でどうだい?」


「わかりました。俺から言わなくても良いかもしれませんが、お気を付けて」


「そんなことないさ。ありがとう。シルバ君達も気を付けるんだよ」


 今回のミッションは偵察が目的だから情報を多く持ち帰る必要がある。


 小隊が2つ固まって動いていると得られる情報に限りがあるので、第一小隊と第二小隊は手分けして情報を集めることになった。


「俺はレイと一緒に馬車の上空から調査する。もしかしたら、地上から俺達を狙って姿を見せる奴がいるかもしれない。そうなったらアリエルがそいつを潰すか捕獲してくれ。ロウ先輩は周囲を警戒しながら馬車を操縦して、エイルさんはアリエルと手分けして周囲を見張って下さい」


「「「了解!」」」


「行くぞ、レイ」


「キュイ!」


 指示を出し終えたシルバに待ってましたとレイが翼を広げて応じ、シルバはレイの背中に乗って空を飛んだ。


 上空からジェロスを見下ろしてみると、あちこちで軍人や軍学校の学生が賞金首を追いかけていた。


「一般人は本当に出歩いてないな」


「キュウ」


 シルバがジェロスを見下ろした感想を口にすると、レイはそうだねと応じるように鳴いた。


 空からの調査はレイの体がまだ成長途中なので、シルバを乗せるのが精一杯だ。


 それゆえ、空を移動している時はレイがシルバの話し相手になる訳である。


『アタシ達を使う必要がある相手を探すのよっ』


『同意。出番、必要』


 訂正しよう。


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュもシルバの話し相手になる。


「そんなこと言ったらアルベリ盗賊団を探すしかないぞ?」


『打倒アルベリなんだからねっ』


『賞金、がっぽり』


 タルウィとザリチュはアルベリを倒すことに貪欲だった。


 だが、その方針は帝国軍に在籍する身として正しい。


 カヘーテ渓谷でウェハヤ盗賊団だけを潰したから現状のようになっている訳で、ジェロスの状況を改善するにはアルベリ盗賊団を潰すのが手っ取り早いのだ。


 そんな考え事をしている時、地上でアリエルが建物の陰から弓矢でシルバ達を狙っている曲者を倒していた。


「釣れたか。俺達という餌に食いつくのは良いけど、それが罠だってわかってないのは駄目だよな」


「キュイ」


 レイも自分達が囮の役割を担っている自覚があったらしく、まだまだシルバの言う通りだと頷いた。


「おっと、今度は俺達がアリエル達をフォローする番だ。レイ、あの建物の屋上にいる武装した男に風弾ウインドバレット


「キュ!」


「ぐへっ!?」


 シルバはレイの攻撃が馬車を狙っている男に命中して気絶させたからレイを褒める。


「ナイスショット」


「キュイ♪」


「一旦着陸しよう。あいつも何か情報を持ってるかもしれない」


「キュウ」


 レイは気絶した男のいる屋上に着陸した。


 男が気絶して手から離れた長杖の先端にはモンスターの魔石が使われており、レイが気になるのかじっと見つめている。


 (パッと見た感じではレッド級モンスターと同程度の魔石っぽいな)


 シルバはいくつものモンスターを倒していたため、魔石を見ればどのモンスターのものかまではわからなくとも大体の強さまでは絞り込めるようになっていた。


 その見立てではレッド級モンスターの魔石だった。


「キュイ?」


 食べても良いかとレイは首を傾げるので、シルバはその長杖の先端から魔石を取り外してレイに差し出した。


「おあがり」


「キュウ!」


 ありがとうとレイは感謝して魔石を一飲みにした。


 シルバはレイの頭を撫でてから、男が他に危険な物を持っていないか調べた。


 その結果、腰に下げた巾着袋の中に先程レイに与えたのと同じサイズの魔石が3つ入っていた。


「もしかして、杖の先端に魔石を付け替えることで使える魔法が変わるのか?」


「キュウ?」


「・・・欲しがりさんめ。検証に使うかもしれないからもう1個だけだぞ」


「キュイ♪」


 レイはお礼の代わりにシルバに頬ずりしてからシルバの差し出した魔石を飲み込んだ。


 残った魔石と長杖は魔法を使うアリエルに見せるために取り置き、それ以外については特筆すべき物を持っていなかったから、男の服を剥いで下着だけにしてから手足を縛って転がした。


 逃げることも反撃することもできないようにしてから、シルバは気付け薬で男を強制的に目覚めさせた。


「キュウ」


「ひぃっ!?」


 レイが近くで自分の存在をアピールしたことで、男は喰われると思ったのか短く悲鳴を上げた。


 本当はレイが人間を食べることなんてないのだが、脅して尋問がスムーズに進むならばと食べちゃうぞアピールをしてみせたのである。


「さて、自分の命があっさり尽きるかもしれない現状が把握できたなら俺の質問についてキリキリ吐いてもらおうか」


「話すから食べないでくれ!」


 男の体はヒョロヒョロであり、その見た目に見合った気の小ささだった。


 あっけなく自分の持つ情報を話し、全て話し終えたらレイを見て勝手に気絶してしまった。


「キュイ・・・」


「そうだな。失礼な奴だ」


 レイは演技で怖がらせたとはいえ、気絶するまで怖がるとは失礼じゃないかと言いたげに鳴いた。


 そんなレイをケアするためにシルバは特別に押収した魔石をもう1つだけレイに与えることにした。


「キュ?」


「食べて良いぞ。どの魔石を使えばどんな魔法が使えるのかこの男が喋ってくれたからな」


「キュウ♪」


 全部あげる訳にはいかないから、シルバは1つだけ残して魔石をレイに与えた。


 そのおかげでレイはすっかり機嫌を直してくれたのだから、狩ろうと思えばいつでも狩れるレッド級モンスターの魔石なんて安いものだ。


 尋問で得た情報を共有するべく、シルバとレイはアリエル達に合流した。


 シルバは合流して早々に魔石が着脱可能な長杖をアリエルに見せる。


「アリエル、倒した敵からこんな杖を貰ったんだけど見たことある?」


「あぁ、それって魔法スキルを持ってない人でも魔法が使えるって触れ込みの杖だね。一発発動する毎に魔石が割れるから、コストパフォーマンスが悪過ぎて5年ぐらい前に発売されてから全然売れなくて市場からすぐに消えたんだ」


「それなら帝国軍に提出するまでもない?」


「提出してもガラクタ扱いされると思うよ」


 そこまで聞くとレイがとても物欲しそうな目でシルバを見つめた。


「OK、わかってるぞ。これが欲しいんだろ?」


「キュ!」


 シルバはレイが残していた魔石を欲しがっていると察して巾着袋から取り出し、そのままレイに差し出した。


 レイは待ってましたとその魔石を飲み込んで満足そうにシルバに甘えた。


 その様子を見ていたロウが思いついたことを口にする。


「モンスターをガンガン狩れる奴が持ってたなら、その杖も飛び道具として使えるんじゃね?」


「魔力回路によって杖に刻まれた魔法次第ですね。でも、シルバ君の魔力回路が当時は知られてませんでしたから、もしかしたら効率化して生まれ変わるかもしれません」


「おお! それなら俺も魔法が使えるようになるかもしれないじゃん! 夢が広がるぜ!」


「ロウもアリエルさんも夢を広げる前にミッションを遂行しないと駄目ですよ」


「「はーい」」


 エイルに優しく諫められてシルバ達は情報交換を再開した。

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