第116話 こういうのを内助の功って言うんだよね?

 その日の夜、シルバ達の馬車村の外に突貫工事で建築された岩の砦の中にあった。


 この岩の砦は合同キャンプでアルが創造したものをより強固にしたものだ。


 堀も深ければ壁は高く、即席の孤島の中でシルバ達はテントを張っている。


 もっとも、キマイラ中隊のメンバーでテントで寝ている者は誰もいないのだが。


「「「・・・「「アォォォォォン!」」・・・」」」


「「「・・・「「モォォォォォ!」」・・・」」」


 (ウルフ系とブル系モンスターの声だな)


 シルバは聞こえた声から大まかにモンスターの種類を判断した。


 ソッドは作戦開始の時が来たので口を開く。


「さて、ブリード村で育てられてるモンスターの散歩が始まる。今夜が勝負だ。皆、行動開始だ!」


「「「・・・「「了解!」」・・・」」」


 ソッドの指示に従ってシルバ達は作戦に移る。


 砦に残るのはエレンとマルクス、アリア、エイルだ。


 エレンは作戦参謀でマルクスはその護衛、アリアとエイルは回復役として残る。


 砦から出るのはソッドとシルバ、アル、ロウだ。


 こちらはソッドとロウ、シルバとアルの二人一組ツーマンセルで行動することになっている。


 組み分けは連係がスムーズなことを優先し、ガルガリン兄弟とB1-1主席次席コンビになったのだ。


 モンスターが散歩に出る夜は門番が外に立っていない。


 それゆえ、シルバ達はブリード村に侵入するのを誰にも止められたりはしなかった。


 シルバ組とソッド組は村に入ってから二手に分かれた。


 手分けをして村を潰すつもりである。


 ソッド組が村長の家に向かってシルバ組が村を駆け回る。


「来たか」


「うわぁ、レッドブルがたくさん向かって来てる」


 シルバとアルは遠目にレッドブルの群れを見つけた。


「問題ない。俺達はこいつ等を利用するんだから」


「そうだね」


 レッドブルの群れがシルバ達を見つけて突撃するが、シルバはアルを背負って大きく跳躍して家の屋根に乗った。


「「「・・・「「モォォォォォ!」」・・・」」」


 スピードを上げて突っ込んで来たレッドブルの群れは急に止まれない。


 群れごと家の壁に激突していくのは避けられなかった。


 石造りの家がレッドブルの群れの突撃で破壊され、予想外の襲撃にあった家の住人達は倒壊した家屋の中に埋められてしまった。


 当然、シルバ達はそうなる前に隣の家の屋根に飛び移っており、崩れていく家を見て上手くいったと2人で拳を合わせる。


「やったなアル」


「やったねシルバ君」


 家を壊したレッドブル達だが、先程見つけた2人が見当たらなくて何処にいるのかと走りながら探している。


「「「・・・「「アォォォォォン!」」・・・」」」


「アル、俺はウルフ達を始末してくるからレッドブル達は任せた」


「了解」


 シルバは自分とアルを見つけて遠吠えするウルフ達を始末するべく、屋根から降りてウルフ達に向かっていく。


 それを見届けたアルは村を駆け回っているレッドブルの群れの先頭の個体に石の礫を発射した。


「モォ゛!?」


「ここまでおいで」


「モォォォォォ!」


「「「・・・「「モォォォォォ!」」・・・」」」


 アルの挑発を受けて上等だゴラァと戦闘の個体が叫び、後ろに続くレッドウルフ達も一緒になってブチギレしている。


 レッドブルの群れはアルが屋根に乗っている家に向かって突撃し、アルはギリギリのタイミングで隣の家の屋根に飛び移った。


 ブリード村は区画が整理されており、家が5軒は横並びになっている。


 その5軒目まで家が壊れそうになったら、次の列にある家にアルは移動する。


 移動する時は<土魔法アースマジック>で即席の空中階段を作っているからわざわざ地面に降りる必要はない。


「君達は本当にのろまだね」


「モォ゛!?」


「モォ゛ォ゛!?」


「「「・・・「「モォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!?」」・・・」」」


 アルが馬鹿にするような素振りで挑発すれば、レッドブルの群れは5軒を貫通して破壊する突撃を見せる。


「少し驚いた。でも、僕は無事だよ?」


 アルがニッコリと笑みを浮かべることでレッドブル達の突撃は更に勢いを増していく。


 20分程アルは逃げ続けた結果、ブリード村の半分の家は倒壊してその住人達は生き埋めになった。


 レッドブルの群れは先頭の個体が突撃の衝撃で疲弊しており、その後ろに並ぶ2体も先頭の個体程ではないが疲れていた。


 その後ろに続く個体も前の個体程疲労が見えた。


 そろそろ頃合いだろうと判断し、アルは集まっているレッドブルの群れを落とし穴に落とした。


 勿論、落とし穴の底には岩の棘を設置しているので、レッドブルの群れは一網打尽である。


「そうだ、シルバ君のためにレッドブルのお肉を確保しておこう」


 アルは自分のノルマを達成していたため、倒したレッドブルの処理に移った。


 モンスタートレインと結果は変わらない方法で村を半壊させたのだから、これぐらい良いだろうとご機嫌な様子でシルバのためにレッドブルの肉を切り分ける。


「アル、レッドブルの血がモンスターをここに集めるぞ?」


「シルバ君、お帰り。シルバ君がお肉を欲しがると思ってさ。ウルフ達はもう倒したんだ?」


「まあな。それと気遣ってくれてありがとう」


「こういうのを内助の功って言うんだよね?」


 表立ってないというにはがっつりレッドブルの群れを仕留めていたが、シルバはツッコまずにありがとうとお礼を言った。


「ファファン!」


「「「ファファファファン!」」」


「「「「「ファファファファンファン!」」」」」


 遠くから特徴のある鳴き声が聞こえた後、マスタードファンガスの集団が黄色い粉を傘から飛ばしながら行進し始める。


「懐かしいな。マスタードファンガスだ。アル、<麻痺粉パラライズパウダー>を吸い込むなよ」


「今飛びまくってるやつ?」


「そう」


「危ないから燃やすね」


「あっ・・・」


 シルバが止めるにはもう遅く、アルが火の玉を<麻痺粉パラライズパウダー>に向かって飛ばしてしまった。


 粒が細かい粉にアルの火の玉が引火すれば、それは周囲を巻き込む爆発へと早変わりする。


 シルバ達の周りに粉がなかったから良かったが、爆発によってレッドブルの群れが壊していなかった家屋の残りのほぼ全てが倒壊してしまった。


 ついでに言えば、マスタードファンガスの群れも真っ黒焦げである。


「アルさんや、言い分を聞かせておくれ」


「ごめんなさい。粉に火は駄目でした」


 シルバにジト目を向けられたアルは素直に謝った。


 決してむしゃくしゃしてやった訳ではなく、広範囲にばら撒かれた粉を吸い込まないようにするには燃やすのが一番と考えたのだ。


 それは間違っている訳ではないが、周囲への影響も大きいのを見落としていたのが良くなかった。


 シルバもアルが謝れたのならば次は注意するだろうと判断し、やれやれと首を振って苦笑する。


「よろしい。周辺の状況を調査する。アルはこのまま解体を続けるか?」


「後もうちょっとでキリが良いからそこまでやらせてくれない?」


「わかった。俺も手伝おう」


 シルバはアルの解体作業を手伝った。


 【村雨流格闘術】を使えば解体速度は飛躍的に上がり、必要な部位だけを回収するとシルバ達はそれをいつでも持ち運べるようにしてから周辺の状況を調査し始めた。


 持ち運べる量は限られており、両手が塞がっている状態で調査をしては何かあった時に不味いからひとまず持ち運べる状態にして置いておくのだ。


 爆発によって吹き飛んだ家屋はレッドブルの群れに突撃された家屋よりも派手に破壊されており、ブリード村は少し離れたところにある村長の家と倉庫以外が一晩だけでなくなってしまった。


 シルバとアルで調査した結果、家の住人達に生存者はいなかった。


「シルバ君、そっちはどう? こっちは爆発のせいでどれもこれも壊れちゃってる」


「こっちは・・・。なんだこれ?」


「何か見つけたの?」


 シルバの応答が疑問形になっていたことから、アルはシルバの様子を見に来た。


 シルバは壊れたケースの中にあった卵を取り出したところだった。


 その卵は間違っても鶏卵と呼べるサイズではないぐらい大きかった。


「モンスターの卵を見つけた。異界で何回か見たことある。流石にどのモンスターの卵かはわからないけど」


「まさか食べたりしないよね?」


「ブリード村で保管されてたってことは孵化するはず。俺が孵化させたら懐いてくれるかもしれないし、持って帰ろうと思う」


「モンスターの世話なんてできるのかな?」


「異界でモンスターの習性は嫌って程学んだから大丈夫なはず」


 シルバがモンスターの卵を孵化させる意思は固そうだったので、アルはシルバが世話できるならばとシルバの考えを受け入れた。

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