第115話 村ぐるみで行商人をモンスターのおやつにするとは許せませんね
ブリード村の門番が馬車でやって来たシルバ達を警戒する。
「止まれ。身分を証明しろ。できなければ村の中には入れぬと思え」
「わかりました」
高圧的な門番に対してシルバは商業ギルドの会員証を提示した。
「商業ギルドに属してるアンジェロ商会か。本店は何処だ?」
「まだ店は持ってないんですよ。いつか持ちたいと思ってる行商の身です」
「随分と若く見えるが身分は証明されてるからこれ以上は訊くまい。ブリード村では何を販売するつもりだ?」
「旅で仕入れた物もそうですが、まだ寒いので毛皮も用意しております」
門番はシルバが物怖じすることなく堂々と答えたため、行商人を騙った何者かではないと判断した。
自分を前にして嘘らしい仕草をしたら問い詰めてやろうと思ったけれど、シルバが全く動じなかったから見た目よりもずっとしっかりした行商人なのだろうと考えたのだ。
(まずは潜入成功。後はブリード村をどう潰すかだな)
シルバ達は門番の許可を得てブリード村の中に入った。
村をどうやって潰すか考えながら、シルバは噴水が見える中央広場に向かった。
中央広場に向かうまでの間、シルバ達は誰ともすれ違わなかった。
どの家も扉や窓はしっかりと閉ざされており、外からの侵入者を中に入れまいとしているのがわかる。
(これでどうやって行商をやれば良いんだろうか)
村人が外に出て来なければ買い物は行われない。
そうなれば、行商を通じた情報収集が困難になってしまう。
噴水の見える広場に着いた後、シルバ達は荷物を降ろして行商の準備を行った。
行商人は村にとって数少ない娯楽の1つだから、行商がいつでもできる状態になった瞬間、村人達は扉を開けてぞろぞろと広場にやって来た。
先程まではじっと閉じ籠っていたのが嘘のようである。
「小麦をおくれ!」
「塩がほしい! 砂糖もあったら助かる!」
「あちこち回ってるんだろ? 珍しい物を見せてくれ!」
生活必需品だけを欲しがる者でなく、行商の旅で手に入れたであろう物を見せてくれという者もいた。
閉鎖的な村のようだが物は行商人に頼っているらしく、村人達は次々にシルバ達から物を買っていった。
「これは皮か。赤い皮とは珍しいがどんな皮だ?」
「これはレッドブルだよ~」
目つきの鋭い客が近くにいたアリアに訊ね、アリアはいつも通りの態度で皮について説明した。
(あいつはモンスターの育成に関わってるかもしれないな)
シルバはその男の容姿をしっかりと記憶しておいた。
その後、事前に用意していた品が次々に売れてしまってあっという間に売れる物が先程倒したモンスター素材しかなくなってしまった。
どうやらブリード村は物資が不足していたらしい。
「モンスターの素材なんてここいらじゃお目にかかれないのによく仕入れたね」
「そこはまあ、私達も色々と伝手がありますので」
「なるほど。商売の秘密を簡単に話す訳ないか」
「お察しいただけて助かります」
世間話をしてきた相手に対してシルバは商売上の秘密を話せないという態度で押し通した。
モンスター素材は毛皮や牙、爪が多く売れ、薬の素材になりそうな眼球や臓物等は薬師らしきものが買い占めた。
売れる物がなくなったため、シルバ達は少し早めだが閉店することにした。
全ての客が既に家に戻ってしまっているので、広場には買い物の余韻でご近所同士で話している者が1人もいない。
アルがシルバに近寄る。
「シルバ君、聞いたところだとブリード村には宿屋がないみたい。今までに来た行商人は自分の馬車で寝泊まりしてたんだって。どの行商人も二度ここには来なかったとも聞いた」
「そりゃ泊まれる場所がなきゃ疲れが抜けないからしょうがないさ。村の名産品が何か訊けた?」
「強いて言うなら薬草。それもブリード村限定のものじゃないから大した産業はないってさ」
「マジで売るだけしかできなさそうだ。行商人が定期的に来ないのはそんな理由かもな」
シルバとアルが話しているところに売り子をしていたエイルが加わる。
「アリアさんなんてお客さんから執拗に今夜泊まりに来ないかって言われましたよ」
「アリアさんってば流石ですね」
「その通りですね。ただ、気になったのはその男性がかなり必死だったんですよね。ロウがどうせなら自分も泊めてほしいって割り込んでくるまでアリアさんが断わっても粘り続けてました」
「アリアさんに一目惚れしただけにしてはしつこい勧誘だった訳ですか。馬車で寝泊まりさせると不都合な何かが起きるのかもしれないですね」
エイルの発言からシルバは自分の推測を話した。
ロウがそろそろ自分の出番だろうと思ってシルバ達の話に加わる。
「その件についてなんだけど、周りの頑丈な家がヒントになると思うぜ」
「ロウ先輩は何か気になる話が聞けたんですか?」
「アンジェロ商会の大売り出しの最中にコソコソしてる連中がいたからこっそり後を尾行してみた。そしたらもう怪しいワードが出るわ出るわ」
「と言うと?」
「シルバは”夜の散歩”と”商品は買い尽くせ”、”気の毒な行商人達”って聞いて何を連想する?」
ロウが出した3つのフレーズと頑丈な家、アリアを執拗に家に誘った男性客とパズルのピースが揃い、シルバはとある仮説に行きついた。
「マジですか。村ぐるみですか」
「流石はシルバ。どうやら俺とエレンさんと同じ仮説に辿り着いたらしいな」
「ロウ先輩、僕は夜に<
「アルも辿り着いたか」
シルバだけでなくアルも同じ仮説を思いつき、寝る時は用心しなければと口にしている。
エイルは一番最後だったが他と同じ仮説に辿り着いたようだ。
「ブリード村は容赦ないですね。やられる前に潰してしまいましょう」
「そうしたいのは山々だけど確たる証拠もなくやっちゃうのは不味い。せめて俺達が大暴れしてもおかしくない状況を作らなきゃな」
もし何も知らなければ、自分達が凄惨な目に遭っていただろうと思ってエイルにしては過激な発言が飛び出た。
ロウも既に村を潰すことに抵抗があるなんて甘っちょろいことは言えないぐらいには覚悟を決めたし、自分達が暴れられる理由作りに頭を回転させていた。
シルバ達が辿り着いた仮説とは次の通りである。
ブリード村にはモンスターを育てる施設があり、それは村人達も知っているが暗黙の了解で口にしないようにしている。
それらのモンスターはずっと施設にいるとストレスが溜まってしまうから、夜になると散歩と称して解放される。
村の家の扉や窓はモンスターの散歩中に壊されないように頑丈である必要がある。
同じ行商人が二度ブリード村にやって来ない理由は宿屋がないこともそうだが、外で寝泊まりしていたせいで散歩中のモンスターに襲われて死んでしまうからだ。
だからこそ、アリアを気に入った男性客はアリアを死なせたくなくて粘り強く自分の家に泊まっていけと誘った。
また、商品が残らなかったのも行商人の持ち物がモンスターの散歩の後に無事である保証がないから、襲われる前に買い尽くす勢いだった訳だ。
「それもそうですが、問題はどこでモンスターが育てられてるのかでしょうね」
「村長の家の倉庫よ」
「エレンさん、どうしてわかったんですか?」
自分の疑問に断定口調で答えたエレンにシルバは訊ねた。
「足跡や地面の減り具合からして一定の方角に人間じゃない足跡が集まってたんです。そこは倉庫だったんですが、所有者は村長でした」
「村ぐるみで行商人をモンスターのおやつにするとは許せませんね」
「ええ、許せません。ですから、これから夜まで細工をしましょう」
笑みを浮かべるエレンだが、その笑みはなんとも腹黒さを感じる笑みである。
ソッドやマルクス、アリアもそのタイミングでシルバ達に合流した。
「ここでやらねば将来的に罪なき帝国民がモンスターに殺されるかもしれない。そうならないように未然に防ごう」
「よし、窮屈な護衛の真似事はここまでで良いよな?」
「執拗に誘って来たお客さんは~、生理的に受け付けなかったのでやっつけちゃいましょ~」
アリアは執拗な誘いをかなり我慢していたらしく、口調は緩かったけれど目が
この後、シルバ達はエレンが考えた作戦を聞いてから行動に移り、できる限りの準備をして夜を迎えた。
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