第203話 腹が減っては戦はできぬ

 シルバーバットの魔石を与えられたレイはご機嫌だ。


『ご主人、新しい魔法が使えるようになったよ』


「おぉ! どんな魔法?」


『状態異常を治せるの』


治癒キュアか。回復ヒールだけじゃ状態異常は治らないからありがたい」


 シルバはマリアに魔法系スキルで使える魔法について教わっているから、自分が使えなくても魔法に明るい。


 レイはシルバに喜んでもらえられてドヤ顔を披露する。


『ドヤァ』


「よしよし」


 レイが胸を張って褒めてくれとアピールするので、シルバはレイの頭を撫でて褒める。


 ブラックバットの魔石はマリナ達が1つずつ貰い受け、マリナ達も新しい魔法が使えるようになったようだった。


「ブラック級モンスターすげえ。ジェットが強くなるならもっと出て来ないかな」


「ロウ、貴方はさっきシルバにフラグを立てるなって言ってましたよね?」


「エイル、許してくれ。俺はジェットが強化されると思ってブラック級モンスターの魔石に目が眩んだんだ」


「キィ・・・」


 エイルのジト目にロウが弁明したら、ジェットがしゅんとしてしまった。


「別にジェットを悪く言うつもりはないんですよ。悪いのはロウですから」


「エイルさんや、なんで俺にだけ冷たいんだい?」


「ロウ先輩、おめでとうございます。あっちからシルバースパイダーがブラックスパイダーをうじゃうじゃ連れて来ましたよ」


「嘘じゃん」


 エイルとロウの話を遮ってシルバが指し示した方向から、確かにシルバースパイダーがブラックスパイダーの集団を率いてやって来た。


 常識的に考えたら絶望的な状況だけれど、シルバは全く絶望していなかった。


「目を瞑って下さい。レイ、攻撃は任せる。參式光の型:仏光陣」


 シルバの指示でアリエル達が目を瞑った直後、シルバが參式光の型:仏光陣でシルバースパイダー達の視界を奪う。


 目を閉じたせいでシルバースパイダー達の反応が遅れ、目を閉じた状態で準備をしていたレイの竜巻トルネードに巻き込まれた。


 それにより、シルバースパイダー達がこっそり仕掛けていた糸の罠ごと吹き飛ばされ、いずれも背中から落ちて藻掻いている。


「僕の出番だね」


 アリエルが大地棘ガイアソーンでブラックスパイダー達は串刺しにされて力尽きた。


 シルバースパイダーも背中に棘が当たったけれど、刺さらずつるりと滑るように体勢を立て直した。


「頑丈だな!」


 ロウが6本のナイフを投げたが、シルバースパイダーはそれら全てを吐き出した糸で絡め取った。


「チュル!」


 ロウに続いて水弾乱射ウォーターガトリングでマリナが攻撃したが、それもシルバースパイダーは自分の糸で作った壁を防ぐ。


「全部切れば良い。弐式雷の型:雷剃」


 ロウとマリナの攻撃を防いだシルバースパイダーだったが、シルバの繰り出した雷の斬撃を防ぐことができず糸の壁ごと左右に切断された。


「さっ、回収回収」


『レイも手伝うー』


 後続の敵がいないことを確認すると、シルバはすぐに切り替えて戦利品回収を始めた。


 レイも戦利品回収に人手が要るだろうと判断し、甲斐甲斐しくシルバを手伝う。


「ロウ、間違ってもフラグを立ててはいけませんよ?」


「すまん、肝に銘じる。アリエルの攻撃でも傷つかねえなんてヤバいだろ」


「わかれば良いんです」


 エイルに咎められてロウは自分が余計なことをしたと反省して謝った。


 ロウが素直に反省するぐらいにはシルバー級モンスターの耐久力が高かったのだ。


 今の戦闘で倒した敵のだが、シルバースパイダーが1体とブラックスパイダーが9体だった。


 これだけの戦力がいきなり街に現れたとしたら地獄絵図になるのは間違いない。


 マリナ達はブラックスパイダーの魔石を3つも貰えてご機嫌であり、レイもシルバースパイダーの魔石を貰ってニコニコしている。


 レイはシルバーバットの魔石に続いて<風魔法ウインドマジック>の突風衝撃ガストインパクトを会得して大喜びだ。


『ご主人、今日の探索は豊作だね』


「そうだな。でも、逆に言えばニュクスの森の地下空間にこれだけ強いモンスターが集まってたってのは怖いことだぞ。少し間違えればここにいた連中がディオスに押し寄せて来たかもしれない訳だし」


『そう考えると確かに怖いね。気を引き締めないと』


「わかってくれたか。偉いぞ」


 レイはこの地下空間が自分達にとってのボーナスエリアになるだけでなく、このまま放置しておけばディオスが大変になるかもしれないと理解して真剣な表情になった。


 シルバはレイが正しい危機感を抱いてくれたのでその頭を優しく撫でた。


 さて、ここに来てとある問題が発生した。


 それは戦利品の持ち帰りである。


 シルバーバット1体とブラックバット3体ならば持って帰れただろうが、シルバースパイダー1体とブラックスパイダー9体を全て持ち帰るのは難しい。


 この先を調べる必要があるのに持ち切れない荷物があるというのは地味に困った問題だろう。


 だが、一昔前と違ってこの状況を打破できる解決策がシルバにはあった。


 シルバはマジフォンでアルケイデスに掲示板経由で状況を説明し、倒したモンスターの死体を回収する人員を派遣してほしいと頼んだ。


 アルケイデスもシルバー級モンスターがニュクスの森にいたとなれば穏やかではいられないし、ブラック級モンスターがシルバー級モンスターの取り巻きとして出現したことは見過ごせない。


 シルバ達が万全の状態で探索ミッションを続けられるように至急回収する人員を送ると返事をした。


「アルケイデス兄さんが戦利品を回収するために人を派遣してくれるらしいから、俺達は一旦ここで休憩する。昼食にしよう」


「そっか。そんな時間だったね」


「暗い空間なので時間感覚が鈍ってますね」


「腹が減っては戦はできぬ」


 シルバに言われてアリエル達はマジフォンを確認し、もうそんな時間になったのかと気づいた。


 意識していなければなんてことはなかったけれど、もう昼だったと気づけば途端にお腹が空いてしまう。


 シルバ達は持ち込んだ携帯食料で昼食を取り始める。


 シルバとアリエル、エイルはハンバーガーを用意していた。


 シルバが大食いなのもあるが、レイ達従魔組もシルバ達と同じ物を食べるから量は多めである。


 ロウもクレアの手作りハンバーガーだが、作る者が違えば挟む具材も変わって来る。


「それにしても、シルバのハンバーガーだけアリエルやエイルと違ってデカいな」


「俺特性のスペシャルバーガーですから」


 バンズ、レタス、パティ、チーズ、レタス、パティ、チーズ、レタス、パティ、チーズ、バンズの順で積んだハンバーガーを見れば確かにスペシャルだ。


 味付けにはケチャップが使われており、甘味と酸味が食欲を増進させる。


 ちなみに、レイ達従魔もそれぞれの主人の膝の上で食事を取っている。


 ワイバーンとレイクサーペント、ステルスホーク、コカトリスが揃ってハンバーガーを食べている光景なんてワイバーン特別小隊でしか見られないだろう。


 それから30分後、腹ごなしにストレッチしたり軽く体を動かしているとアルケイデスが派遣して来た者達が現れた。


「ん? ハワード先生がいらっしゃったんですか? それにみんなも」


 アルケイデスが派遣したのはポール率いるB3-1の学生達だった。


「まあな。貴重な素材を盗まれたら困るから、アルケイデス先輩が俺に信頼できる奴を連れてシルバ達から素材を受け取れって言われたんだ」


「あぁ・・・、納得しました」


 ポールの説明を受けてシルバは苦笑した。


 アルケイデスは貴重な素材を盗んだりされては困るから、ポールに信頼できる者をシルバ達がいる場所に派遣するよう命令した。


 ポールはキマイラ中隊を派遣したかったが、既に別のミッションで外出していたので自らB3-1の学生達を連れてこの場にやって来た。


 ヨーキ達に強いモンスターを見せたり、護送ミッションの経験を積ませることもできると考えているあたり、ポールは教師としてしっかりしている。


「魔石はレイ達にあげたんだよな?」


「はい。シルバー級モンスターがここまでに2体現れてますから、パワーアップはできる限りしておいた方が良いと判断しました」


「だろうな。俺がシルバでもそうする。俺達は死体を持ち帰って帰るが、お前達もこの先に行くなら気を付けろよ」


「勿論です。お気遣いいただきありがとうございます」


 シルバ達はポール率いるB3-1の学生達と別れて地下空間の先へと進んだ。

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