第204話 ディオニシウス家滅ぶべし!

 シルバ達はモンスターと遭遇することなく行き止まりに着いてしまった。


 しかし、レイの光源ライトで照らしてみるとただの壁ではなく、わかりにくいデザインだが扉になっていた。


 その扉は石でできており、力のない者ではとてもではないが押して開けることは難しいだろう。


「ロウ先輩のちょっと良いとこ見てみたいなー」


「この後輩怖い。俺のどこにそんな力があると思ってんの? シルバに比べたら俺って貧弱だぞ?」


「そんなの知ってますよ。わざと言ったに決まってるじゃないですか」


「シルバ、お前の婚約者が俺を虐めるんだけど」


 ロウは下手な見栄を張る性格ではない。


 自分では無理だと言外にアリエルに伝え、シルバにアリエルの手綱をしっかり握ってほしいと訴えた。


「アリエル、意味もなくロウ先輩をいじらないで」


「はーい」


「違う、そうじゃない。意味があればいじって良い訳じゃないんだ」


 シルバの注意が自分の望んでいた展開に繋がらなかったため、ロウはちょっと待てとツッコミを入れた。


「そうは言いますけど、ロウ先輩が自業自得でいじられる時だってあるじゃないですか」


「・・・否定できない」


「ということで、いじられたくなかったらいじるネタを作らないことをお勧めします」


 そう言いながらシルバは石の扉を押し開けた。


 そこは壁画がびっしりと描かれた部屋であり、その奥には石でできた玉座にボロボロのローブを着た魔術師らしき骸骨が座らされていた。


 玉座には杖も立てかけられている。


「歴史的価値がありそうな部屋だな」


『何者だ』


 シルバが壁画を見て呟いた直後、骸骨の眼窩が赤く光って喋った。


「スケルトンが喋った!?」


「ロウ先輩、落ちついて下さい。スケルトンは喋れません。あれはスケルトンに似た別の何かでしょう」


『その通りだ小僧。儂をスケルトン如きと一緒にするでない。儂はザナドゥ。大昔に禁じられた<屍体化アンデッドアウト>を使って人間の身からリッチになった賢者であるぞ』


 シルバの予想は半分当たっており、ザナドゥが自分は人間からリッチになった賢者だと自己紹介した。


 ザナドゥという名前を聞いてシルバは驚いた。


「マジか。その名前、禁書庫の本に出てたぞ。外道な研究をしてディオスを追放された狂人だって」


『貴様、今なんと言った?』


「お前が狂人として本に記されたと言ったんだ」


『そうではない! 貴様、禁書庫に入れると言ったな! ディオニシウス家の者か!?』


 ザナドゥは立ち上がって杖を構えた。


 シルバが皇族だとザナドゥにとっては問題があるらしい。


 現にザナドゥはシルバに対して殺気を向けている。


「ディオニシウス家かそうでないかって言われたら一応ディオニシウス家になるな。もっとも、自分がその一員だってことは最近知ったんだけど」


『大方皇帝になるための醜い継承権争いに巻き込まれたのだろう。だが、儂の研究を外道認定したディオニシウス家の者は殺す!』


「そこまでわかってるなら俺が皇族らしい教育を何も受けてないってわかるだろ」


『いつの世も醜い皇族はいる。貴様には同情の余地がある。だが、ディオニシウス家ならば殺す!』


 (こいつ、話が通じないぞ)


 ザナドゥのディオニシウス家への恨みは簡単に晴れないようだ。


 そのおかげでシルバの境遇に多少は同情しているようだが、依然としてザナドゥはシルバに対して殺気を向けるのを止めない。


『ディオニシウス家滅ぶべし!』


「伍式氷の型:獄炎反転」


 杖を掲げたザナドゥがシルバに向けて火炎放射をしてみせるが、シルバが両手に冷気を纏わせて親指と人差し指で三角形を作ったところ、火炎放射がその三角形に吸い込まれて冷気に変換されていく。


『馬鹿な!? 儂の魔法が吸収されただと!?』


「残念だったな。今度はこちらから行くぞ」


 シルバがそう口にすれば、ザナドゥの注意は自然とシルバに向くに決まっている。


 だがちょっと待ってほしい。


 ワイバーン特別小隊には無詠唱で魔法を発動できる者がいるのだ。


 アリエルは表情を変えずにノーモーションで大地棘アースソーンを発動した。


『何ぃ!?』


 ギリギリのところで自分への攻撃に気づき、ザナドゥは空に逃げた。


 それはジャンプしたというよりも浮上したと表現する方が相応しく、ザナドゥはアリエルの奇襲を躱すことに成功した。


 シルバのように空を蹴る技術ではなく、<浮遊レビテーション>というスキルで宙に浮いているからザナドゥは足を動かさずに済んでいる。


『無詠唱で魔法を使ったのは誰だ!?』


「誰だろうな!」


 ロウは答える代わりに6本のナイフを投げてみせた。


 それをスルリと避けたザナドゥは腕を組んでブツブツ呟き始める。


『従魔共にそこまでの狡猾さは見て取れない。皇族の小僧は面妖な技を使うが後衛らしさがない。ナイフを投げた軽薄そうな小僧には魔法系スキルのセンスが感じられない。棒を持つ小娘は不意打ちなんてできなさそうな雰囲気だ。つまり、剣を携えたまま動かぬ、貴様が犯人だ!』


 (ザナドゥ、お前それは言っちゃ駄目だろ)


 シルバは心の中でザナドゥが余計なことを言ったことに溜息をついた。


「おい、骸骨。お前の存在を消してやるよ」


 アリエルからゴゴゴと効果音が聞こえそうなぐらい不機嫌なオーラが放たれた。


『不遜なめ、やってみるが良い!』


「僕は女だ!」


 アリエルはそう宣言するのと同時に<鋼弾乱射メタルガトリング>を発動し、創り出した鋼の弾丸をザナドゥ目掛けて乱射した。


 怒れるアリエルの攻撃は凄まじく、移動して避けるのは厳しいと判断したのかザナドゥは闇壁ダークウォールで身を守った。


 闇の壁はザナドゥを覆っても全然余裕があり、その厚さは壁の向こうをとてもではないが透視できるようなものではなかった。


 だからこそ、シルバはチャンスだと判断して動く。


「弐式光の型:光之太刀」


 闇の壁ごとザナドゥを真っ二つにするつもりでシルバが薙ぎ払うと、避けるのが遅れたザナドゥのローブが切れて落ちた。


 その結果、ザナドゥの骸骨ボディが露わになる。


『おのれディオニシウス家め! なんてことをしてくれる!』


「おい、スケルトン。僕のことを忘れてない?」


 悪意のある笑みを浮かべ、アリエルはザナドゥの真下から岩柱ロックピラーを出現させた。


『うごっ!?』


 シルバへの怒りのせいで注意が散漫になったこともあり、アリエルの攻撃でザナドゥは岩の柱によって天井とサンドウィッチにされた。


 ザナドゥの体は骨と魔石だけなので傷つくべき臓器はないのだが、全身が岩と岩挟まれれば痛いに決まっている。


 アリエルに反撃したい気持ちは山々だったが、ザナドゥがそうしなかったのは手に持っていた杖をアリエルからの攻撃で手放してしまったからだ。


 杖がなくても魔法は使えるけれど、杖の有無で出力の差が全然違うのだ。


 その杖が何処に行ったかと言えば、ジェットが素早く空中でキャッチしてロウのいる場所に持ち帰っていた。


 アリエルが急に岩柱ロックピラーを解除したことにより、ザナドゥは重力に負けて地面に落下する。


 それでもどうにか落下によるダメージを防ごうと<浮遊レビテーション>を発動したことで、どうにかザナドゥは落下する速度を落として宙に留まれた。


 しかしながら、ザナドゥが減速に必死になっている間にシルバが接近していた。


「肆式光の型:過癒壊戒!」


 光付与ライトエンチャントを施した両手でザナドゥにラッシュを喰らわせれば、リッチのザナドゥに一つひとつの攻撃が大ダメージを与えていく。


 アンデッド型モンスターに光属性の攻撃は効果が抜群のようだ。


 最後の一発で吹き飛ばされたザナドゥは壁に激突した時には眼窩の光が消えて動かなくなった。


 倒したことを確認するべく、シルバは慎重に接近した。


 調べたところ何も反応しないので、ザナドゥは力尽きたのだと判断した。


「当時の皇族が何をしたか知らんが成仏してくれ」


 シルバは手を合わせた後に魔石を回収した。


 そんなシルバが視線を感じて振り返れば、レイがにっこり笑って待っていた。


「よしよし。ザナドゥの魔石が欲しいんだな。おあがり」


『いただきます!』


 ザナドゥの魔石を取り込んだことにより、レイは光弾ライトバレットを会得した。


 <光魔法ライトマジック>で初めての攻撃魔法にレイが喜ぶので、シルバはその頭を優しく撫でた。


 レイが満足した後、シルバは横から抱き着かれた。


 抱き着いて来たのはアリエルだった。


「シルバ君、僕のことを慰めて。僕ってそんなに男に見えるかな? 胸だって少しずつ大きくなってるのに」


 胸の件については下手にコメントできないので、シルバはアリエルを自分の正面に移動させて抱き締める。


「アリエルは俺の可愛い婚約者だ。骸骨狂人の言うことなんか気にするな」


 この後、アリエルが機嫌を直すまでシルバはひたすらアリエルを甘やかした。

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