第205話 そりゃアリエルよりエイルの方が守ってあげたくなるだろ

 アリエルが落ち着いた後、シルバはリッチになったザナドゥの遺骨を回収した。


 なんとなく放置していると骸骨が悪用される予感がしたからだ。


 エイルは周囲に敵がいないとわかっていたため、今なら質問しても良いだろうと判断してシルバに訊ねる。


「シルバ、ザナドゥはどんな研究をしてたのですか?」


「死者蘇生や永遠の命、人間の進化。そんなところかな」


「人間の進化はさておき、永遠の命と死者蘇生の研究は禁忌なされてましたよね」


 エイルは元学生会長であり、ワイバーン特別小隊に配属されなければ研究部門への配属を狙っていた。


 それゆえ、エイルは研究部門で研究されている内容について明るいから、ザナドゥの研究内容が禁忌だとすぐに理解した。


「その通り。ザナドゥは帝国軍研究部門で座天使級ソロネまで昇進した天才だった。最初は人々の生活の発展のためにその知識を活かしてたらしいが、婚約者を当時の皇帝に強権で奪われ、その皇帝が嗜虐趣味のせいでその女性が死んでから狂ったように禁忌とされる分野に手を染めた」


「それは酷い話です。ザナドゥはその婚約者を蘇らせたかったのでしょうね。愛がザナドゥを歪めてしまった訳ですか」


「そうなるね。禁書庫で読んだ本によれば、その皇帝は15番目に寝床に連れて来た女性に寝首を掻かれて死んだらしい。皇帝を殺した女性はその後修道院に預けられて死ぬまで奉仕活動をすることになってたが、修道院で急死した」


「まさかとは思いますけど、その女性はザナドゥに何かされてたのですか?」


 エイルは嫌な予感がしたため、どうかその予想が外れていてほしいと願ったが、シルバは首を縦に振った。


「正解。その女性は姉を皇帝に殺されて皇帝に復讐しようとした。そして、ザナドゥが怪しげな実験をしてることを調べてザナドゥの研究の実験台になることを志願した」


「人間の進化がそこに絡んで来る訳ですか」


「ああ。彼女はモンスターのDNAを取り込み、一時的に力を増幅させる薬の実験台になり、そこで手に入れた。だが、薬の副作用で血を吐いて死んだ」


「悲しいことばかり続きますね」


「そうだな。結果的にザナドゥが間接的にその女性を殺してしまった。それが余計に彼が死者蘇生の研究に没頭させた。研究は上手くいかず、彼はどんどん老いた。死者蘇生をする前に自分が死んでは敵わんと不老不死の研究を優先し、非人道的な実験を繰り返して帝国から追放されたはずだった」


 ところが、ザナドゥは自身の研究の成功を諦めずに自分の寿命が尽きる前に不老不死にならねばならないと考え、<屍体化アンデッドアウト>のスキルを完成させた。


 禁書庫の本によれば、ザナドゥが追放された後はどの国でも見つからなかったとされているから、<屍体化アンデッドアウト>を完成させた場所はこの空間なのだろう。


 ザナドゥがこの空間を研究所として作ったのか、それとも元々あった無人の空間を自分の研究所にしたのかはわからない。


 答えを握るザナドゥはまともに話すこともできずにシルバ達に襲いかかり、シルバ達がそれを返り討ちにしたからだ。


 今シルバ達にできることは、全ての壁画を写真に収めることぐらいである。


 写真を撮り終えたところで、シルバ達は部屋に何もないことを確認して部屋を出ようとした。


 その時、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュがシルバに待ったをかける。


『ちょっと待つのよっ』


『出る、早い。まだ、見るとこ、ある』


 (何かこの部屋に隠されてるのか?)


 今までおとなしくしていた熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが喋り出したならば、シルバはその内容についてしっかりと耳を傾ける。


 シルバが熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに話しかけられているということは、アリエルも騒乱剣サルワに悩まされている可能性が高い。


 そう思ってシルバがチラッとアリエルの様子を見れば、彼女の眉間に皺が寄っていた。


 おそらく、騒乱剣サルワの声が頭に直接響いて迷惑に思っているからだろう。


 シルバ達の手中にある呪われた武器達が騒ぐのなら、ここで考えられるべきことは限られて来る。


 (呪われた武器が隠されてる。違うか?)


『正解なのよっ』


『お見事。主人、賢い』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュはシルバが少しのヒントで正解に辿り着いたから褒めた。


 そうとなれば、シルバはレイに力を借りるべく口を開く。


「レイ、俺に風付与ウインドエンチャントを頼む。この空間をもう少し調べたい」


『わかった〜』


 レイはシルバの全身に風付与ウインドエンチャントをかけた。


 それからシルバが壁を殴り、壁に耳を当てて音の反響から今いる空間について調べた。


 すると、床下の一部が空洞になっている部分を見つけた。


 シルバが音を反響させて探し物をするのは二度目なので、ここまでやればいまいち状況が掴めていないエイルやロウも何かがこの空間に隠されていることに気づいた。


「シルバ、何か手伝えることはありますか?」


「俺達は何をすれば良い?」


「何が起きても良いように身構えといて下さい。呪われた剣が隠されてるようなので」


「「了解!」」


 呪われた剣と聞いてエイルとロウの警戒度が引き上げられた。


 アリエルもいつ何があっても良いように騒乱剣サルワを鞘から抜けるように準備していた。


 全員が警戒しているなら問題ないだろうと判断し、シルバはアリエルに声をかける。


「アリエル、あそこの床下が怪しいんだ。床を崩せるか?」


「任せて」


 シルバの指示通りにアリエルは<土魔法アースマジック>で床の石を砂に変えて崩した。


 その瞬間、床下から怪しい気配が放たれた。


『気をつけるのよっ。この気配は混乱剣アカ・マナフなんだからねっ』


『主人、心、強く、持つ』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュがシルバに注意するのは珍しい。


 それだけ危険な剣が床下に隠されているのだろう。


 剣がザナドゥのように宙に浮くことはない。


 ただし、床下の空間にレイの光源ライト>が届いたことで混乱剣アカ・マナフと思しき物がガンガンと壁にぶつかる音が聞こえ始めた。


「状況がわからないままここに閉じ込められたらホラーだな」


「そういう場合は怖がった方がシルバ君的にポイント高い?」


「なんのポイントだよ」


「シルバ君が守ってあげなきゃって思うか気になったんだよ」


「アリエルはホラー展開で怖がったりしないだろ。エイルが本気で怖がるだろうから、アリエルのは嘘っぽく見えると思うぞ」


 腕っぷしにそこまで自信がないエイルだから、見えない敵とか触れない敵を得意とは思っていない。


 だからこそ、エイルは今も少し震えてシルバの後ろに移動しており、それと比べて堂々としているアリエルよりもエイルの方がシルバは心配である。


「そりゃアリエルよりエイルの方が守ってあげたくなるだろ」


「ロウ先輩、マジでいびりますよ?」


「すいません!」


 4つ年下の後輩にいびるぞと脅されるのはいかがなものかと思ったが、今のは100%ロウが悪いのでシルバは何も言わなかった。


 そんなやり取りをしている間もガンガンと一定のリズムで混乱剣アカ・マナフが壁にぶつかる音が響く。


 シルバはすぐに何か起きないだろうと考え、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに訊ねる。


 (混乱剣アカ・マナフってどんな剣?)


『優秀な大剣に見せかけてとんでもない屑なのよっ』


『腹黒。善悪、曖昧。使用者、殺戮人形』


 (なるほど。さっさと壊したくなるね)


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの答えを聞いてシルバは早々に壊すべきではないかと思った。


 最初は優秀な大剣のように思わせておいて、使っていく内に使用者の善悪の判断をつかなくさせる。


 挙げ句の果てに使用者を殺戮人形にする剣と聞けば、シルバがそう考えるのもおかしくない。


 シルバは慎重に混乱剣アカ・マナフに近づいた。


 その見た目はツヴァイハンダーと呼ぶべきものであり、筋力的な問題でも使用者を選びそうだ。


 混乱剣アカ・マナフはシルバに見られていると気づき、先程まで壁にガンガン当たっていたのが嘘みたいにおとなしくなった。


 それと同時にシルバは粘着質な視線を向けられて不快に感じる。


『ふーん、清濁どちらも理解してるなんてつまらないね。自分が正しいと思ってる奴を殺戮人形にするのが最高の愉悦なのに』


「よし、壊すか」


『賛成なのよっ』


『賛成』


『ちょっと待ってくれ! 見つけられて早々にそんな扱いはあんまりだ! 君に人の心はないのか!?』


「あるから壊そうとしてるんだろうが。お前みたいな屑に人の心があるか問われたくない」


 シルバと熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが多数決で壊そうとしたら、混乱剣アカ・マナフが情に訴えた。


 性根が曲がった呪われた武器なんてない方が良いと考えるシルバに対し、混乱剣アカ・マナフは自らの存在意義をどうすれば伝えられるか必死に悩み始めた。

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