第113話 村を潰すってマジですか?
シルバとアルがキマイラ中隊の部屋に入った時、そこにはエイルとポール、第一小隊のソッドとエレンがいた。
「「お疲れ様です」」
「「「お疲れ様です」」」
「お疲れー」
2人は部屋にいたメンバーに挨拶をしてから自分達の席に座った。
それからすぐに他のメンバーも続々とやって来た。
全員揃ったところでポールが気怠そうに話し始める。
「よーし、全員集まったな。集まってもらったのは情報共有とミッションの伝達のためだ」
中隊の部屋に呼び出された時点で十中八九ミッションがあるとわかっていたため、誰も驚いたりはしなかった。
それよりもどんな情報が共有されるかという方に意識が向いている。
共有される情報によってミッションの方向性が推測できるからだ。
もっとも、推測できようができまいがミッションは基本的に受けるしかないから、シルバ達にできるのは覚悟を決めることだけなのだが。
「まずは情報共有だな。隣のサタンティヌス王国で本格的に内戦が始まった。争いに巻き込まれて家を失った者もいれば、国内の不穏な空気が嫌で俺達の国まで逃げて来た者達が少なくない。難民の規模は30年前にあった現国王とその兄弟姉妹の王位継承権争いの時よりも酷い」
サタンティヌス王国の王位継承権争いは国民と隣国に迷惑をかけるぐらいの規模らしい。
ここまで聞いてソッドが手を挙げた。
「ハワード先輩、こちらの国に被害はありますか?」
「そりゃあるさ。サタンティヌス王国と隣接してる街は難民が起こすトラブルでどこも治安が一時的に悪化してる。ついでに言えば、難民がトレインして来た可能性が高いモンスター達のせいで流通が一部滞ってる。今は近隣の街の基地から軍人達が駆り出されてモンスター退治してるってよ」
「モンスターの数はどれぐらいでしょうか?」
「さてな。雑魚はそこそこ狩ってるから数は減ってるっぽいが、レッドに至ったモンスターとゴブリンの巣の目撃報告があって面倒なことになってるらしい」
レッドを冠するモンスターといってもピンからキリまであるというのがシルバの認識だけれど、異界を知らない者達にとってはレッドと聞くだけで厄介という認識があるらしい。
「最近になってからモンスターの目撃報告が増えましたよね~」
「アリアの言う通り、近頃発見されるモンスターの数は増える一方だ。割災の数が増えてる訳じゃないが、割災が起きた場所に毎度軍人がいる訳でもないから取り逃がした個体が数を増やしてるんだ。まあ、それ以外にもモンスターが増えてる要因があるんだけどな」
そこまで聞いてシルバは嫌な予感がして訊ねる。
「ハワード先生、まさかサタンティヌス王国がモンスターを増やしてるとでもいうんですか?」
「正解。第二王子が現国王ににて娯楽にばかり金を使う奴らしいんだが、そいつがハマってるのがモンスター同士を戦わせる興行でな。第二王子が何者かに暗殺された後、それらのモンスターが解き放たれて各地に散ったらしい」
第二王子が死んだと聞いてシルバはチラッとアルの様子を窺った。
だが、アルは特になんとも思っていなかったようで表情に変化はなかった。
「それでだ、お前達の次のミッションはその第二王子の娯楽に関連してるんだ」
「帝国内に入り込んだそれらのモンスターを討伐せよということでしょうか?」
「それは別の奴等が担当する。キマイラ中隊に言い渡されたミッションは帝国と隣接する王国のブリード村を潰すことだ」
「村を潰すってマジですか?」
盗賊退治とは訳が違うと思ってロウがポールに訊き返した。
盗賊はのさばらせておいて良いことなんて何もないから殺すことに抵抗はないが、村人を殺さなければいけないだろうミッションの内容にロウは躊躇ったのだ。
「そいつ等が第二王子の命令によって村ぐるみで凶悪なモンスターを育ててたんだ。第二王子が暗殺された後、第一王子と第一王女がそこで育てられたモンスターを使役して帝国の襲撃を計画してるという情報を掴んだ。仮にデマだとしても、その可能性があるなら潰しておかなければ帝国に甚大な被害が出るかもしれない。それは阻止しなきゃならんだろう?」
ポールはロウの気持ちもわからなくもなかったが、内戦で混乱している今がブリード村を潰すチャンスなので心を鬼にした。
そこに兄であるソッドが続く。
「ロウ、大人になれ。シルバ君やアル君がグッと堪えてるのに年上のお前が躊躇ってどうする。それに、やらなきゃやられるのは私達だ」
「・・・わかってるさ」
ロウはまだ割り切れていなかったけれど、これ以上シルバとアルの前で情けない姿を見せる訳にはいかないので受け入れた素振りを見せた。
ポールはロウの心中を察してフォローする。
「誰だってこんなミッションを楽しいと思っちゃいねえさ。俺だってこのミッションをお前等にやらせるのはどうかと思って抗議したんだ。だが、ミルメコレオやデーモンを倒せる戦力を遊ばせておく訳にはいかないって上が判断して覆せなかった。すまん」
ミルメコレオはシルバ達がアーブラでデーモンと戦うよりも前、別の場所でソッド達第一小隊が倒したモンスターだ。
獅子と蟻という複数の生物の特性を持つミルメコレオはソッド達が偶々割災の現場に居合わせた際に戦い、苦戦を強いられつつもどうにか倒した相手である。
ミルメコレオとの戦いでもっと強くならなければと思ったからこそ、ソッドは騒乱剣サルワを使いたいと言い出したのだ。
それはさておき、ポールに謝られたロウは慌てて頭を下げる。
「いや、ハワード先生が悪い訳じゃないです。俺こそすみません、勝手なことを言いました」
「悪いのはハワード先生でもそれを命令した軍の上層部でもありません。余計なことをしたサタンティヌス王国です」
「アル・・・。そうだな。悪い、気持ちを切り替える」
事情を知らなければアルが先輩想いの後輩で済むけれど、サタンティヌス王国にヘイトマシマシな実情を知るシルバとポールは心の中で苦笑した。
ロウが割り切れたと判断してからソッドはポールに訊ねる。
「ハワード先輩、ブリード村を潰す時に何かこれだけは守らなければいけないって条件はありますか?」
「当然のことだが帝国軍の制服を着てブリード村を潰すのは駄目だな。いずれバレるにしても、わざわざ俺達帝国軍ですって名乗りながら攻撃するのは愚策だ。後はまあ、敵対する者は生かしておくな。同情して逃がした相手に殺されるぞ」
「わかりました」
「他に質問はあるか?」
ソッド以外にもまだ質問がありそうだと思ってポールが周囲を見渡すと、シルバが手を挙げた。
「シルバ、質問があるなら遠慮せずに言ってくれ」
「はい。もしもブリード村がもぬけの殻だった場合は何を基準として撤退すべきと判断すれば良いですか?」
「ブリード村の連中がどこに行ったか突き止めてくれるのがベストだ。それが敵わない場合は手掛かりだけでも探して帰還してくれ」
「承知しました」
サタンティヌス王国にとってブリード村は軍事機密のある拠点と言える。
そうであるならば、第一王子と第一王女が王位継承権を争っているとしてもディオニシウス帝国の破壊工作を警戒して村から隠すべき情報を持って撤退している可能性がある。
下手をすればその軍事機密を餌にのこのこやって来た帝国軍の数を減らそうとする可能性だって否定できない。
それゆえ、シルバは撤退基準をどのように設定すべきか事前に訊ねたのだ。
ソッドとシルバ以外に質問は出なかったため、シルバ達はどのような服装でブリード村に潜入するか話し合うことにした。
「ここは無難に行商人で良いんじゃねえの?」
「女性も3人いれば売り子としては十分ですね」
「もしくは旅行者なんてどうです? 各国を旅して見分を広めてますと言うのはいかがでしょう?」
「ロウ、8人で旅行は違和感がある。ここはマルクスの言う通り行商人にしよう」
マルクスの考え方は他国に潜入する時の帝国軍の常套手段だ。
マニュアルも用意されており、経験の浅い軍人でもそれさえ読めば駆け出しの行商人よりは行商人らしく振舞えるクオリティである。
その後、8人で行商人よりも行商人と雇った護衛にした方がより自然だろうと話が進み、潜入の方法やスケジュールが決まった所で本日は解散となった。
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