第209話 待たせちゃってごめんね。ロザリーお姉ちゃん参上
光が収まってシルバが目を開けると、そこは今までに来たことがない場所だった。
特別小隊のメンバーが無事か確認しようとして、シルバは自分とその肩にしがみついていたレイ、それとグリルスの死体しかないないことに気づいた。
(俺とレイだけ転移された? アリエル達は何処だ?)
シルバは飛ばされてもパニックになることなく、マジフォンを取り出して掲示板で他の特別小隊のメンバーの安否を確認した。
すぐにアリエルから反応があり、へメラ草原から消えたのはシルバとレイ、グリルスの死体だけだったと回答を得た。
「転移魔法陣には足を踏み入れなかったはず。それがどうして転移されたんだ?」
シルバの疑問に答えたのはレイだった。
『ご主人、ピカッて光る前に円陣がレイ達の足元まで広がってたよ』
「マジか。不安定な転移魔法陣が俺達の戦闘のせいで暴走したってことかよ」
『ご主人と一緒で良かったよ。もしもレイだけだったら不安で仕方なかったもん』
「そうだな。俺もレイが一緒でホッとしたぞ」
レイが自分に甘えて来るから、シルバはその顎の下を優しく撫でた。
シルバはレイを落ち着かせた後、とりあえずグリルスの死体を解体してその魔石をレイに与えた。
現状ではここがどこかわからない以上、少しでもレイに強くなっていてほしいのがシルバの正直なところである。
グリルスの魔石を取り込んだことにより、レイは
これで
シルバは解体とレイの強化を終えた後、周囲の写真を撮ってワイバーン特別小隊の掲示板に掲載した。
また、緊急事態なのでアルケイデスとロザリーの掲示板にも現状を報告した後、自分が今いる場所の風景を写真で知らせた。
最初は万難を排してでもシルバを見つけ出すと言っていたロザリーだったが、見覚えのある写真を見てビビッと来たようだ。
1時間で迎えをやるから待っていてくれと言われ、シルバは自分がランダムに飛ばされて来た場所がゼパルスとアーブラの中間地点だったことを知った。
ロザリーは今、ゼパルスからアーブラに帰還する途中だったらしく、帰路にシルバとレイがいる場所があるそうだ。
彼女が向かって来てくれているのはありがたいが、シルバは掲示板を見ている内によく考えたらレイに大きくなってもらえれば帰れるんじゃないかと思った。
それでも、ここまで相談しておいて勝手に帰りますではロザリーに申し訳ないから、シルバはこの場で待機することにした。
勿論、ワイバーン特別小隊の掲示板にも自分の現在地がわかり、この後の対応が決まったから先にディオスで報告を頼むと入力しておいた。
シルバの代わりの報告はアリエルが責任を持って行うと言ったため、シルバはそれをアリエルに任せた。
「やれやれ。おおよその現在地がわかったのは良いけど、ロザリーお姉ちゃんが来るまで暇になったな」
『ご主人、あそこ見て』
「ん? おぉ、暇潰し相手が来てくれたのか」
レイが指し示した方向からブラックヴァーチャー率いるレッドヴァーチャーの群れがやって来た。
解体されたグリルスの死体を奪いに来たのだろう。
編隊飛行するブラックヴァーチャー達に対し、それらが射程圏に入った瞬間、シルバは迎撃を始める。
「壱式氷の型:砕氷拳」
シルバの拳から氷の破片が放たれ、それらがブラックヴァーチャー達に命中する。
翼を射抜かれて墜落するレッドヴァーチャーは少なくなく、シルバ目掛けてダイブする段階で撃墜されていなかったのは群れの長であるブラックヴァーチャーだけだった。
「參式光の型:仏光陣」
急に光の仏像が現れた結果、ブラックヴァーチャーは目をやられてバランスを崩してそのまま地面に墜落した。
いつからか現れたブラックヴァーチャー達にアーブラとゼパルスを行き来する商人達は悩まされていたが、シルバ達が暇潰しがてら倒してしまった。
この事実を知れば、アーブラとゼパルスにある商会や行商人達がシルバに感謝することは間違いない。
ブラックヴァーチャーを解体し、レイにその魔石だけ与えたが今度は何も技を会得しなかった。
レッドヴァーチャー達の死体も解体していたところで、帝国軍の紋章が入った馬車隊がシルバとレイのいる場所に向かってやって来た。
シルバ達の前で馬車隊が停まると、真ん中の馬車からロザリーが飛び出して来た。
「シルバ~!」
「ちょっ!?」
ダイブしてくるロザリーを見て、シルバはびっくりしたもののしっかりと受け止めた。
「待たせちゃってごめんね。ロザリーお姉ちゃん参上」
「あっ、はい。迎えに来てくれてありがとうございます」
「あれ? 何か足りなくない?」
「ありがとう、ロザリーお姉ちゃん」
「どういたしまして」
ロザリーお姉ちゃんと呼んでほしいロザリーのリクエストに応じると、護衛の軍人達が目を丸くして見ていた。
普段の第一皇女とは全く違う振舞いを見て驚きを隠せないのだ。
そのショックから立ち直った後、今度はシルバが仕留めたであろうモンスター達の解体された姿を見て再び驚くのもセットである。
それらを預けた後、シルバとレイはロザリーが乗っていた馬車に乗る。
「転移魔法陣の発見するなんてシルバは自慢の弟ね」
「見つけたのは俺じゃなくて他のメンバーの従魔だけどね」
「細かいことを気にしちゃ駄目よ。シルバの手柄はシルバのもの。シルバの部下の手柄はシルバのものなんだから」
「それは人によっては寝首を掻かれる案件では?」
シルバはロザリーがとんでもない発言をするので控えめにツッコんだ。
そう言った考え方について、シルバはマリアから異界で世話になっていた時に聞いたことがある。
(そうだ。確かジャイアニズムって言うんだっけ?)
シルバがそんな風に思い出していると、ロザリーは華麗にスルーして別の話題に突入する。
「さて、お姉ちゃんはサタンティヌス王国の第一王女の亡命の後始末でゼパルスに行ってたんだけど」
「話題のチョイスがいきなりハードですね。後始末って何をしたんですか? 帝国に来なかったことにするって言うのは聞きましたが」
「護衛も含めて火葬した後、身分を証明する燃えないアクセサリーは割災の時に罅割れた空間に投げ込んだわ。流石に異界に死体を投げ込むには量が多過ぎたから火葬したの」
「流石はロザリーお姉ちゃん。俺に思いつかないことを平然とやってのけるね」
普段悩まされる割災を証拠隠滅に利用するなんて、普通の思考回路では思いつけまい。
「シルバに褒めてもらえると嬉しいわね~」
シルバが褒めているかどうかは怪しいが、レイはそれに触れないぐらいには空気を読めた。
「ところで、ロザリーお姉ちゃんは転移魔法陣がへメラ草原に隠されてた理由について心当たりはありますか?」
「今すぐに思いつくものはないかな。でも、その転移魔法陣は一方通行だったのよね?」
「そうですね。飛ばされてきた場所に魔法陣は見当たりませんでしたから」
「そうなると、ディオスに攻め込む目的で設置されたとは考えにくいね。可能性としては、昔の皇族がディオスを攻められた時に脱出できるよう設置したとかかしら」
「なるほど。皇族がディオスから抜け出した際に使う転移魔法陣ですか。でも、それならロザリーお姉ちゃんやアルケイデス兄さんがご存じだと思うのですが」
ロザリーの考えに頷ける部分はあったが、そう考えるには否定材料があったのでシルバがそれは厳しいと口にした。
「わからないわよ。ザナドゥの一件もあるし、ディオニシウス家が闇に葬った可能性はある。臭いものに蓋をするように、あの転移魔法陣があると不都合な事態が生じて存在を隠したのかもしれない」
「あぁ、確かに不安定な魔法陣だったらしいですよ。本来は何処に飛ばす予定だったのかわかりませんが、魔法陣に欠けがあったそうです」
「そんな状態で転移魔法陣があったってことは、ディオニシウス家を陥れようと画策した者がいるのかもしれないわね。お父様は転移魔法陣について知ってたのかしら?」
「俺もそこまではわかりません。もしかしたら、アルケイデス兄さんが既に確認してるかもしれませんが」
ロザリーとアルケイデスが転移魔法陣のことを知らないならば、知っている可能性があるのは
タイムリーなことに、アルケイデスが皇帝に訊ねた結果を皇族専用掲示板に登校した。
その結果は皇帝も知らなかったというものであり、過去に皇族が転移魔法陣を消そうとしたところ、その処置が不完全だった説が濃厚になった。
この後、シルバはロザリーに頼まれて車内でロザリーのマッサージを行いつつアーブラへの到着を待った。
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