第208話 俺だってなんでもは知らない。知ってることだけ答えられるんだ

 3日後、シルバ達ワイバーン特別小隊はへメラ草原に来ていた。


 ニュクスの森で見つけた地下空間でザナドゥが身を潜めていた空間だが、そこには壁にびっしりと壁画が描かれていた。


 それはザナドゥがまだ人間として生きていた頃よりも過去のことが記されており、帝国軍の研究部門が調べてもザナドゥの生きていた時代に関係性は見受けられなかった。


 しかし、壁画に描かれている内容は分析できた。


 どうやら過去の帝国で起きた割災の壁画らしく、モンスターの大群に押し寄せられた時の記録だろうことがわかった。


 それがシルバ達のへメラ草原行きと何の関係があるかだが、へメラ草原にもニュクスの森と同様に地下空間がある可能性を無視できず、その探索ミッションをワイバーン特別小隊が任されたのである。


 ディオス南東部にあるへメラ草原は視界を遮るものがない。


 それが理由でここで割災が起きたとしてもモンスターはすぐに討伐されてしまう。


 今となってはニュクスの森よりも安全な場所認定されており、仮にブラック級モンスターが出てもなんとかなるだろう。


「さて、空から見てる訳だけど、おかしいところはないかな?」


『上から見て変な魔法陣みたいなものは見えないね』


「そうなると、地道に探さなきゃならんのか」


『しょうがないよご主人。そもそもあるかどうかもわからないんだから』


 シルバが困ったなと苦笑すると、シルバを背中に乗せて空を飛ぶレイが励ます。


「そうだった。あるかもしれないから探すのであって、絶対にある訳じゃないからな」


『地上に降りるね』


「頼んだ」


 レイはシルバに言われて高度を落として草原に着陸した。


「シルバ君、空から何か見えた?」


「ただの草原だった。地道に探すしかないね」


「そっかぁ。探索が面倒だから、さっさと終われば嬉しかったんだけどね」


「それな。俺も効率的に探したいんだが・・・」


 シルバとアリエルの考えはタイムパフォーマンスを意識したものだ。


 エイルやロウよりも効率性に重きを置く。


 地上ではリトとマリナ、ジェットが探しており、従魔ならではの視点でへメラ草原に不審な点がないか探していた。


 モンスターが1体も現れない中、探索を続けているとマリナが何か見つけたのか動きを止めた。


「マリナ、何か見つけたんですか?」


「チュル」


 エイルに声をかけられたマリナは見つけたぞと首を縦に振った。


 エイルが拾った木の棒でマリナの視線の先を突いた。


 その結果、突いた先が水に触れた時のように波紋が生じた。


 波紋が橋まで行き渡るだけでなく、ただの草原だったはずの風景が罅割れて魔力によって描かれた円陣が現れた。


「マリナ、お手柄ですね。よくやりました」


「チュルル♪」


 マリナはエイルに褒めて貰えてご機嫌になった。


 そこにシルバ達が駆け寄る。


「なんだこれ?」


「シルバ君も知らないの?」


「俺だってなんでもは知らない。知ってることだけ答えられるんだ」


 自分の知らないことでもシルバなら知っているはずと思っていたが、そうとも限らないと知ってアリエルは意外に思った。


 とはいえ、得体の知れない何かを見つけて放置する訳にはいかない。


 シルバは円陣をマジフォンのカメラで撮影し、アルケイデスとポールに心当たりがないか掲示板経由で訊ねた。


 それから、自分の知らないことでも知っているケースがあることから、シルバは熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに訊ねてみる。


 (タルウィとザリチュにはこの円陣に心当たりはある?)


『その質問を待ってたわっ』


『私達、知ってる。転移魔法陣』


『ちょっとザリチュ、私が言いたかったのよっ』


『当然、早い者勝ち』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュはこの円陣を転移魔法陣だと言った。


 彼女達には心当たりがあったようだ。


 (転移魔法陣って何? 言葉の響きからして、これに触れたらどこかに飛ばされる感じがするけど)


『その認識で正解だわっ。でも、この転移魔法陣は不完全なのよっ』


『欠け、ある。意図的、意図せず、不明。使う、危険。どこ、飛ぶ、不明』


 (使ったらヤバイってのはよくわかった)


 シルバ達は熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが教えてくれた話を聞き、目の前にある転移魔法陣が危険であると理解した。


「この円陣は危険らしい。タルウィとザリチュが教えてくれた。急いで離れよう」


「「「了解」」」


 シルバが知らなくても熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが知っているならば、その言葉に説得力がある。


 すぐにシルバ達は転移魔法陣から離れようとした。


 その時、運が悪いことに空間が揺れ始める。


「クソッ、こんな時に割災かよ!」


 ロウがそう叫んだ時には罅割れた空間から2体のモンスターが現れた。


 1体目は腹部に人間の顔、背中に虎の顔を持つ鷲の外見を持つモンスターだ。


 2体目は巨大な黒い山猫だった。


「1体目は知らないが、2体目はキャスパリーグだ。城の禁書庫で読んだ本に載ってた」


「禁書庫の本に載るぐらいなんだから、とんでもないモンスターなんだろうね」


「どうだろうな。戦って倒したことのあるモンスターも書かれた本だったから、絶対に強いとは限らない。ただし、油断は禁物だけど」


 アリエルが面倒な相手が来ちゃったねと苦笑するが、シルバはそれほど悲観的に考えていなかった。


 ところが、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュはキャスパリーグよりも不気味な鳥型モンスターを警戒していた。


『シルバ、グリルスに注意するのよっ』


『グリルス、デバフ、プロ。倒す、優先』


 不気味な鳥型モンスターはグリルスという種族らしく、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュのどちらともキャスパリーグよりグリルスを危険視していた。


 それもそのはずで、グリルスは常に他の種族のモンスターと組んで行動し、敵を弱らせる役割を担う代わりに組んだモンスターから倒した敵の肉を分けてもらうのだ。


「俺が鳥の方をやる。3人はキャスパリーグを頼む」


「「「了解!」」」


 アリエル達はシルバの指示に従ってキャスパリーグに攻撃を仕掛ける。


 アリエルがキャスパリーグの足元に落とし穴を掘ると、キャスパリーグはそれを察したらしくジャンプして落とし穴に落ちるのを回避した。


「ジャンプするのを待ってたぜ」


 ロウは大きく跳躍したキャスパリーグにナイフを投げて攻撃するが、キャスパリーグは自身の毛が硬くてナイフを通さないと知っていたからか避けずに毛で弾いた。


 キャスパリーグはアリエル達が受け持ってくれたから、シルバはグリルスに集中することができる。


 息を吸い込んだグリルスに何かさせる訳にはいかないと判断し、シルバは距離が離れていても放てる攻撃を仕掛ける。


「弐式雷の型:雷剃」


 雷の斬撃に触れたくなかったようで、グリルスはスキルの発動を中断して避けた。


 グリルスがシルバの攻撃に気を取られた隙を突き、上空からレイが光弾ライトバレットでグリルスを攻撃する。


『ここだね!』


「ぼえ!?」


 背中の虎の顔に光弾ライトバレットが命中し、グリルスから間抜けな声が聞こえた。


 シルバはグリルスが怯んで動きが止まった瞬間を見逃さない。


「壱式光の型:光線拳!」


 シルバの拳から光線が放たれ、怯んだグリルスにクリティカルヒットした。


 空中でバランスを崩してしまい、グリルスが地面に落下してそのまま力尽きた。


 グリルスが余計な手出しをしなくなったため、シルバがキャスパリーグと戦うアル達の方に視線をやる。


 すると、キャスパリーグを相手にアリエル達が従魔と協力して着実に追い詰めていた。


 リトとマリナ、ジェットの従魔組とロウがキャスパリーグを誘導し、アリエルが<土魔法アースマジック>ダメージを与えていく作戦のようだ。


 アリエルは<土魔法アースマジック>の中でも鋼槍メタルランス鋼棘メタルソーン鋼弾乱射メタルガトリングを使ってキャスパリーグにダメージを与えており、キャスパリーグは気づけば満身創痍になっていた。


「手柄はいただくぜ!」


 ロウがトンファーに仕込んでいた刃でキャスパリーグの首を斬り落とした。


 ロウは闇付与ダークエンチャントが使える訳じゃなく、これはトンファーに張られた札から闇を放出して闇付与ダークエンチャントを再現したのだ。


 属性付与された刃であれば、硬いキャスパリーグの毛に弾かれることはない。


 しかも、アリエル達がダメージを確実に与えて来たことで弱っていれば尚更だ。


 キャスパリーグが力尽き、これで後はグリルスとキャスパリーグの死体を持ち帰れば探索ミッションは終了だった。


 しかしながら、シルバ達の受難は続く。


 不安定な転移魔法陣がシルバ達の戦闘をきっかけに作動してしまい、シルバ達は光に包み込まれてしまった。

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