第296話 とっくにご存じなんだろ? デーモンを超えるアークデーモンだ

 英雄召喚陣の発見から2日後、ディオニシウス帝国とムラサメ公国、スロネ王国が合同でアルケス共和国へ侵攻を始めた。


 合同でと言っても大規模な派兵をしたのはスロネ王国だけだ。


 ディオニシウス帝国はアルケイデス直属のロウとジェット、一部の密偵だけ派遣し、首都で起きた内乱をサポートすることに徹している。


 それを上空から見下ろしているのがムラサメ公国から代表としてやって来たシルバとアリエル、レイ、リトである。


「アリエル、あそこにロウ先輩とジェットがいるぞ」


「どこ? あっ、本当だ。ジェットが大きくなってるね。進化したのかな?」


「そうらしいぞ。ルフだってさ」


 シルバとアリエルはマジフォンのモンスター図鑑機能を使い、進化したジェットのデータを確認した。



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名前:ジェット 種族:ルフ

性別:雄  ランク:ゴールド

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HP:A

MP:A

STR:A

VIT:A

DEX:A

AGI:A

INT:A

LUK:A

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スキル:<風魔法ウインドマジック><氷魔法アイスマジック><無音移動サイレントムーブ

    <隠密ハイド><収縮シュリンク

    <全半減ディバインオール><念話テレパシー

状態:集中

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 (<氷魔法アイスマジック>も使えるようになってるし、スキル構成がロウ先輩に似てる)


 ロウが斥候としての役割を求められるのと同様に、ジェットも斥候系のミッションに同行することが多い。


 それゆえ、自然とロウに似たスキル構成になっている。


 もっとも、属性の適性は闇属性のロウと異なって風と氷属性だが。


 ジェットは国会議事堂から反乱軍を鎮圧しようと出動した軍隊の鎮圧を邪魔するべく、氷壁アイスウォールで道を塞いだ。


 それだけで完全に足止めできるとは思っていないだろうが、軍隊がもたついている間に他の密偵が国会議事堂に続く別のルートを使うように誘導している。


 そうしている内にスロネ王国軍も首都に到着し、共和国軍は内にも外にも敵がいててんやわんやになってしまった。


「良い感じに場が温まって来たね」


内乱これを見てそう言えちゃうアリエルが恐ろしいよ」


「やだなぁ。これぐらいで怖がらないでよ。大量殺戮してる訳でもないんだしさ」


 (サラッと大量殺戮ってワードが出て来るのは良いんだろうか)


 シルバはアリエルの発言に戦慄した。


「とりあえず、条約違反とはいえムラサメ公国としてまだ声明を出してないから、いきなり<隕石メテオ>は駄目だぞ?」


「わかってるって。ちゃんと事態の説明をして、それから降伏勧告をしても応じなかったら国会議事堂が潰れるだけだよ」


「それなら良いんだが」


 ちゃんとした手順を踏めば、アリエルの行動にも正当性が見られるからシルバは彼女が手順を守るならとやかく言うつもりはない。


 アリエルは予め準備していた拡声器マイクを使って話し始める。


「アルケス共和国の議員諸君に告ぐ。僕はムラサメ公国の第一公妃アリエルだ。無駄話をする気はない。諸君が使用した英雄召喚陣は非人道的手段であり、エリュシカ平和条約を破ったものとみなされる。降伏して心を入れ替えたと思いきや、陰でコソコソと良からぬことを企むその所業は許し難い。マリク議長と関係者は国会議事堂の前に10カウントの間に出て来い。さもなくば隕石メテオを落とす」


 アリエルの声が聞こえた途端、反乱軍がそれを援護するように声を上げる。


「そうだそうだ! さっさと出て来い!」


「私達は汚い政治家と心中なんて真っ平ごめんよ!」


「人の命をなんだと思ってるんだ!」


「勝手なことをするな! 税金泥棒!」


 (最初に声を上げたのはディオニシウス帝国の密偵だな)


 トスハリ教国での行いから、アリエルはやる気になったら容赦なく隕石メテオを落とす。


 それで自分達も巻き込まれる可能性があるのだから、密偵達も自分達の安全のために必死である。


 アリエルが10秒数えている間、シルバはロウとジェットが慌ててこちらにやって来るのを見つけた。


「ロウ先輩、こんにちは」


「こんにちはじゃねえよ。隕石メテオに巻き込まれて死ぬなんて勘弁してくれ」


 ロウが訴えている間にアリエルは10秒数え終わり、その間に国会議事堂からマリク議長や関係者が出て来ることはなかった。


 国会議事堂の外に出ても殺され、出なくても殺されるなら彼等が姿を見せるはずはない。


「警告はした。国会議事堂に引き籠る議員諸君、恨むならマリク議長とその関係者を恨め」


 アリエルは宣言通りに国会議事堂に隕石メテオを落とした。


 その時には既に反乱軍もディオニシウス帝国の密偵達も避難を済ませていたため、ただ隕石メテオが国会議事堂に落ちた。


 いや、ただ落ちたというのは語弊があるだろう。


 隕石メテオは錐揉み回転しながら落下して来たのだから。


 国会議事堂には隕石メテオ対策で魔力結界が展開されたが、回転する隕石メテオにガリガリと削られて結界が破られ、そのまま国会議事堂に落ちた。


「トスハリ教国で僕は学習したからね。結界に負けない隕石メテオを落とさせてもらったよ」


「シルバ達と同じ高度まで避難して本当に良かったと思ってる」


 ロウがシルバ達の隣で真顔で言った。


 結界のおかげで首都全体に隕石落下の衝撃波は広がらなかった。


 むしろ、結界のせいで国会議事堂に衝撃波が閉じ込められて被害が悪化したと言えよう。


 策士策に溺れるとはこのことに違いない。


 アリエルは隕石落下による衝撃が治まったのを確認し、再び拡声器マイクを使って話し始める。


「もしもまだ生きてるならば、何かしらのアクションを取って降伏しろ。降伏しないのなら、瓦礫が粉々になるまで隕石メテオを落とそうじゃないか」


 容赦ないアリエルの降伏勧告に対し、国会議事堂だった瓦礫の中から光が放たれる。


 それを見たシルバは咄嗟に判断してレイに声をかける。


「レイ、国会議事堂周辺を反射領域リフレクトフィールドで覆ってくれ!」


『わかった!』


 シルバの必死さが伝わり、レイは即座に反射領域リフレクトフィールドで国会議事堂周辺を覆った。


 その直後、反射領域リフレクトフィールド内部で爆発が発生した。


 爆発音と衝撃が落ち着き、レイが技を解除すればそこには国会議事堂の姿はなく、唯一残された地下に続く階段も瓦礫に埋もれていた。


「やっぱり自爆したか」


「まったく、彼等は僕を何だと思ってるんだい?」


 拡声器マイクをオフにしてアリエルが憤慨すると、ロウがノータイムで正直な感想を述べる。


「とっくにご存じなんだろ? デーモンを超えるアークデーモンだ」


「そうですか、そうですか。ところでロウ先輩、圧死と爆死のどっちがお好みですか?」


「シルバ助けて!」


「ロウ先輩、いい加減学習しましょうよ」


 アリエルが目の笑っていない笑みを浮かべ、自分に死に方を選ばせようとするものだから、ロウはこの事態をどうにかできるシルバに助けを求めた。


「まあ、ここでこの虫が死ぬとお義兄さんの政務に支障が出るから、クレアさんへの情報解禁だけにしておきましょう」


「おい、ちょっと待て。一体何をした? 何をチャットで送ったんだ?」


 ロウはアリエルがササっとマジフォンの掲示板経由でクレアに何か送ったと悟り、彼の顔から徐々に血の気が失われていった。


「何ってそんなの決まってるじゃないですか。ロウ先輩がムラマサに来た時に寄ったお店であったことを写真を添えて教えたんですよ」


「・・・終わった」


 ロウがジェットの背中の上で膝から崩れ落ちた。


 誤解のないように補足するならば、ロウは断じて浮気なんてしていない。


 しかし、ロウはワイバーン特殊小隊が解散してからシリアスさが増し、異性から言い寄られることが増えたのだ。


 以前シティバリアと割災予報機の件でロウがムラマサに来た際、ロウはムラマサの街でクレアに土産を買おうと散策していた。


 丁度良さそうなものを見つけて購入しようとした時、その店員の娘に言い寄られてしまった時の写真をアリエルは入手していたのだ。


 それが彼女のマジフォンに映し出され、ロウはそれを見てしまったことで帰国後の展開を察して膝から崩れ落ちたのである。


 クレアの独占欲による暴走は激しいと知っているので、シルバは帰国してロウを待ち構える困難を察し、心の中でエールを送った。


 このままではロウが使い物にならなくなってしまうから、シルバはこの場の空気を切り替えるために口を開く。


「アリエル、そこまでにしておけ。それよりも国会議事堂の地下を調べよう。英雄召喚陣が残ってたら利用する者が出て来ないとも限らない。きちんと始末しよう」


「そうだね。ロウ先輩、行きますよ」


「あっ、はい」


 シルバ達は国会議事堂跡に着陸し、瓦礫の撤去作業を始めた。

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