第297話 バレる前に隠蔽するならまだしも、バレてから隠そうだなんて三流だよね

 アリエルが<土魔法アースマジック>で瓦礫をどけ、スロネ王国軍と合流した後、シルバ達は地上の後処理を任せた。


 シルバ達には地下の英雄召喚陣を確認する大事な役割があったため、レイとジェットが<収縮シュリンク>で小さくなってから地下の探索が始める。


 地下空間は黒ずんでおり、ここで英雄召喚陣が爆発した後なのは間違いなかった。


 国会議事堂が爆発した時なのか、それよりも前なのかは定かではないけれど、爆発が起きて英雄召喚陣が復元不可能なレベルで跡形もなくなっているのは間違いない。


 ロウは周囲の確認をしながら自分の知っている情報をシルバ達に伝える。


「ネイビーが消失前の英雄召喚陣を撮影した時には爆発物はなかったらしいぞ」


「そうでしょうね。十中八九、地下を爆破したのは英雄召喚陣の情報が漏れた後です。国会議事堂と同時に爆発したのなら、ここが人の立ち入れる気温になってるのがおかしいですから」


「バレる前に隠蔽するならまだしも、バレてから隠そうだなんて三流だよね」


 (アリエルの思考がどう考えても裏工作する側の発言だけどスルーしよう)


 シルバは口に出してツッコまなくても今更だったので、アリエルの発言には触れないことにした。


 ロザリーの密偵になったネイビーの報告によれば、この地下空間には英雄召喚陣があるだけだった。


 英雄召喚陣の理論自体はバルガスという議員の部屋に書類として残っていたが、先程の爆発でその理論が書き記された書類は焼失してしまった。


 流石のネイビーも、英雄召喚陣の理論を完全に理解して報告することは時間の面でも知識の面でも厳しかったから、端的にどんなことが起きるかという結果しか調べられていない。


 トスハリ教国で元々は秘密裏に使われていたらしいことまではわかったが、それでもどういうプロセスで英雄召喚陣が作動するのかまではわかっていない。


 だが、その方がエリュシカにとって良かったと言えよう。


 何故なら、英雄召喚陣なんてものがあれば、地球からマリアやオロチのような超人的存在が召喚されてしまうのだから。


 異世界人の拉致も人権的にアウトだけれど、それ以上に召喚した者を利用して争いが起きてはならない。


 英雄召喚陣が跡形もなく消え去ったのなら、それを確認できただけでシルバ達はここに来た甲斐があったというものだ。


「念のために調べておくか」


 そう言ってシルバは近くの壁を殴り、その反響でこの地下空間に隠されたものがないか確かめた。


 もしもこのまま帰ったとして、実はまだ何か隠されていてそれがエリュシカにとって災いを齎すならば、シルバ達はとんだマヌケ扱いされてしまう。


 それを避けるために念には念を入れたのである。


 反響する音を聞き取り、シルバは短く溜息をついた。


 彼が何かを見つけたのだと察してアリエルは訊ねる。


「シルバ君、まだ何か隠されてたの?」


「ああ。隠し扉と地下に続く階段がある。アルケス共和国は俺達の想像以上に厄ネタに事欠かないらしい」


本職ネイビーでも気づけない仕掛けにわかるとか、シルバの拳はマジですげえよな」


『ドヤァ』


 レイはシルバの代わりにロウにドヤ顔を披露した。


 シルバはあまりドヤらないから、レイがシルバの分までドヤるのだ。


 ドヤるレイの頭を撫でてから、シルバは仕掛けのある壁をリズミカルに叩く。


 その直後に地下室が揺れ始めて壁が引っ込み、隠し階段が姿を現した。


「こいつはグレートだぜ」


「ロウ先輩、当たり前なこと言ってないで早く先導して下さい」


「おまっ、相変わらず人使いが荒いな」


『「人?」』


「おいおいおい、そんなところで主従の息ぴったり感を見せつけなくて良いんだ。シルバ、なんとか言ってくれよ」


 アリエルとリトが仲良く首を傾げるのに対し、ロウがシルバに自分のフォローをしてくれと頼む。


「すみません。ロウ先輩を揶揄うのはアリエルとリトのライフワークみたいなので無理です」


「なん・・・だと・・・?」


 シルバの口からライフワークなんて言葉が飛び出すものだから、ロウの表情が固まった。


『元気出して』


「ジェット、俺の味方はお前だけだ」


「クレアさんは味方じゃないっと。よし、チャット完了」


「もう止めて! 俺のライフはとっくに0よ!?」


「冗談ですって。まだ送信してませんから、早く先導して下さい」


「・・・はぁ。わーったよ」


 これ以上アリエルに揶揄われるのは嫌だったので、ロウはスイッチを切り替えて斥候モードになった。


 慎重に階段を下り、地下二階にやって来たシルバ達は青白く光る魔法陣の上で四肢を鎖に繋がれたモンスターの姿を見つけた。


 そのモンスターは9つの首を持つ大蛇であり、全ての首元には鎖付きの首輪が嵌められている状態で寝ていた。


「なんだこのモンスターは?」


 ロウは初見のモンスターを見てシルバに知っているか訊ねるが、シルバも知らないと首を横に振る。


 頼みのモンスター図鑑機能にも該当なしとなれば、歩く図鑑と呼ぶべきマリアですら知らないモンスターだとわかる。


 しかし、シルバにはマリア以外にも頼りになる知恵袋がいるので、心の中で熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに訊ねる。


 (タルウィとザリチュに心当たりはないか?)


『真打ち登場なんだからねっ。あいつはヒュドラなのよっ』


『再生力、猛毒、脅威。首、別々、行動。最低、ゴールド級、以上』


「なんでそんなモンスターがこんな所に幽閉されてるんだよ」


「シルバ君、もしかして彼女達が教えてくれたの?」


「ああ。運が良いことにタルウィとザリチュが知ってた。ロウ先輩、おめでとうございます。こいつは相当タフで厄介なモンスターらしいですよ」


「うへぇ。そんなことだろうと思ったよ」


 シルバから残念なお知らせを聞かされ、ロウは勘弁してくれよと呻いた。


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの情報をシルバが共有すれば、アリエルもロウも首を捻る。


「なんでヒュドラがアルケス共和国なんかに幽閉されてるの?」


「歴史上アルケス共和国がゴールド級モンスターをどうこうできる国だったことはないはずなんだが、どうやら俺達は隠された何かを掘り当てちまったみたいだな」


 アルケス共和国には秘密が隠されていると知り、それが何か手掛かりになる物が周りにないか調べてみた。


 そして、シルバ達は自分達が降りて来た階段とは反対側の壁の端に上り階段を見つけた。


 ついでに言えば、拘束されているヒュドラと魔法陣のせいで気づくのが遅れてしまったけれど、この空間は訓練室に非常に似ていた。


「・・・まさかな」


 シルバが何か思いついたのだろうと思い、アリエルは声をかける。


「シルバ君、どうしたの?」


「ヒュドラを捕獲した手段はわからないが、ここがどんな用途で使われてたのか仮説を思いついた」


「教えて」


「ここはアルケス共和国軍の軍人を促成栽培するための訓練施設だと思う」


「促成栽培?」


 アリエルは腕を組んだまま考え込んでしまったが、ロウは人間を植物のように育てられる訳がないと思って首を傾げた。


「大した根拠はないのですが、再生力の高いヒュドラを拘束したまま戦わせられるなら、比較的安全に戦えると思いませんか? しかも、この魔法陣の一部には魔力回路からして治癒キュアと同等の効果が組み込まれてるようです。これは戦う軍人を毒で即死させない措置と考えられます」


「つまりあれか? アルケス共和国の軍人達はヒュドラをサンドバッグにして鍛えてたのか?」


「状況から推察しただけですが、その可能性はあると思います」


『レイ、アルケス共和国のことが大嫌いになったよ』


『僕も嫌い』


『同じく』


 レイ達従魔組のアルケス共和国に対するヘイトは天井知らずになった。


 自分達を襲うモンスターに容赦はしないけれど、同じモンスターとしてアルケス共和国のヒュドラに対する仕打ちは許し難いものだったからである。


 その時、ヒュドラはシルバ達の話し声によって目を覚ましてしまった。


『サンドバッグは嫌だぁぁぁぁぁ!』


『人間死すべし、慈悲はない!』


『人間だ! 殺せ! 俺達を害する人間は殺せ!』


治癒キュアなんて効かねえ猛毒で殺してやる!』


『ヒャッハァァァァァッ! 人間は鏖殺だぁぁぁぁぁ!』


『糞野郎共、ぶち殺してやる!』


『この世との別れは済んだか? 済んでない? そんなものは知らん!』


『貴様等の死だけが我等の痛みを癒してくれる!』


『消え去れぇぇぇぇぇ!』


 9つの首は最初からクライマックスと表現すべき勢いで猛毒をレーザーのように吐き出した。

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