第198話 おーい、食いしん坊2人は妄想から戻って来ーい

 翌朝、シルバとアリエル、レイは軍学校に登校した。


 他の軍人の手柄の問題もあるが、遠征後すぐに遠征をさせるブラックな職場ではないのは良いことだ。


 ヨーキ達クラスメイトがアリエルの抱える卵に興味を持って集まって来る。


 ハンドボール大の卵からどんなモンスターが生まれるのか気にならない者はいないだろう。


「アリエル、それってなんの卵なんだ?」


「カヘーテ渓谷で見つけたの?」


「もうすぐ生まれそう?」


「みんな落ち着いて。この卵がどのモンスターの卵かはわからない。見つけたのはカヘーテ渓谷。魔力は昨日からちょくちょく注いでて、それに応じるように卵が揺れたりするよ」


 アリエルはヨーキとサテラ、メイの質問に対して順番に応じた。


 他のクラスメイト達からもアリエルが質問を受けていると、そこに担任のポールがやって来た。


「ほらー、席に着けー。アリエルが卵を手に入れたのが気になるのはわかるが、ホームルームを始めるぞー」


 そう言われてしまえばヨーキ達も渋々自分の席に戻った。


 一声かけてすぐに席に着くのだから、ポールは楽ができていると言えよう。


 全員が席に着いたところでポールはホームルームを始める。


「連絡事項は2点だ。1点目は師弟制度についてだ。明日から早速始まるから、シルバとアリエルは弟子をきっちり鍛えるように」


「はい」


「ハワード先生、質問して良いですか?」


 シルバが頷く隣でアリエルが手を挙げた。


「なんだ? 弟子にどこまで厳しくして良いかって質問か?」


「その通りです。流石ハワード先生ですね。僕が言う前から質問を想定してるだなんて」


「アリエルがそんな質問をして来るんじゃないかと思ってただけだ。答えは好きにしろだ。ただし、どのように鍛えたか説明責任は果たしてもらうからな」


「わかりました。しっかり説明できるぐらい鍛えます」


 ポールの言葉を自分に都合の良いように捉えたアリエルはとても良い笑顔を浮かべていた。


 それを見て他のクラスメイト達が何をする気だこいつと言わんばかりの視線をアリエルに向けた。


「シルバの方はまあ、ジョセフ相手にやり過ぎるってことはないだろうから特に言うことはない。良い感じに鍛えてくれ」


「わかりました」


「さて、2点目だが今日の授業中のどこかで全校的に割災発生訓練を行う。ディオスで割災が起きることもあるんだから、気を引き締めろよー」


 割災発生訓練とは文字通りで割災が発生した際に備えて訓練することだ。


 一般人ならばただの避難訓練で済むが、シルバ達は軍学校の学生だ。


 もっと言えば既にシルバとアリエルは正規の軍人でもあるので、割災が起きた時に役割期待を果たしてもらわねば困る。


 それゆえ、割災が発生したことを想定して訓練を行うのである。


「連絡事項は以上だ。つー訳で早速モンスター学の授業に入るぞ。今日はタイムリーなことでテイムの話を取り扱う。テキストの12ページを開けー」


 ポールの指示に従ってシルバ達はモンスター学のテキストの12ページを開いた。


 そこにはテイムの手順が図解されていた。


「それじゃ、ウォーガンに俺が良いと言うまで読んでもらおうか」


「はい。テイムとはモンスターを調教することであり、現在は卵から孵したモンスターを親代わりとして育てることがテイムの主流とされる」


「よし。次はタオだ」


「はい。また、植物型モンスターのマンイーターに限って言えば、その種を品種改良することでマンイーターを持ち運びできるテイムのやり方も確立されている」


 (確立した本人が音読するのって新手の羞恥プレイでは?)


 ポールは席順に音読させているだけなので、タオをいじっているつもりなんてない。


 だからこそ、特になんとも思っていない様子で次のメイを指名した。


「過去には首輪をつけてテイムするサタンティヌス王国のやり方が主流だったが、その手法を行う村が壊滅したことでテイムのやり方は根本的に見直された」


 (ブリード村のことですね、わかります)


 ブリード村を壊滅させた張本人であるシルバは心の中で苦笑した。


 アリエルもすまし顔でなんのことだろうととぼけている。


「よろしい。今読んでもらった通り、テイムは首輪をつければできるなんて考えは古い。現にシルバとレイを見てみろ。首輪なんかなくてもレイは誰も襲わないお利口さんだ」


『ドヤァ』


「よしよし。レイはお利口さんだな」


 自分の前でドヤ顔を披露するレイの頭をシルバは優しく撫でてあげた。


「ちなみに、シルバ達ワイバーン特別小隊のおかげで帝国軍はモンスターの卵の回収量を少しずつだが確実に増やせてる。そのおかげでテイムできるモンスターが増えた。その影響をお前達が感じるとするならば、蜂蜜なんかが市場に多く出回るようになったところか」


「甘味、増える。良いこと」


「甘味、食べる。幸せ」


 ソラとリクが蜂蜜を使ったお菓子のことを思い出したのか、涎を垂らしてお菓子のことを考えていた。


「おーい、食いしん坊2人は妄想から戻って来ーい。とまあ、虫型モンスターと鳥型モンスター、爬虫類型モンスターは卵から孵るから、将来的に帝国軍の従魔として珍しくなくなるだろう。レイは珍しいままだろうけどな」


 ワイバーンをテイムできる機会なんて何度もありはしない。


 シルバがレイをテイムできたのは運が良かったのだ。


「さて、ここで一旦テキストの音読は終わろう。シルバ、テイムする際に注意することは何か教えてくれ」


「わかりました。まずは孵化する際に光付与ライトエンチャント闇付与ダークエンチャントを使うことです。これにより、<光魔法ライトマジック>もしくは<闇魔法ダークマジック>を会得した状態で孵ります。現時点では他の属性による<付与術エンチャント>では効果がないことが証明されてますね」


「ということで、身近な例で言うと希少種のテイムを目指すならシルバに光付与ライトエンチャントをしてもらうのが良い訳だ。現にレイはシルバのおかげで<光魔法ライトマジック>を使えるんだからな」


『ご主人のおかげでレイは<光魔法ライトマジック>の使えるワイバーンになれたんだよ』


 ポールの説明に補足するようにシルバはすごいんだとレイは胸を張った。


 その姿が可愛くてクラスがほっこりしたのは言うまでもない。


 この理論に基づくと、アリエルが大切に抱えている卵は何もしないと希少種ではなく通常種として孵化することになる。


 アリエルはシルバに習って<付与術エンチャント>を会得し、火付与ファイアエンチャント土付与アースエンチャントを交互に使っている。


 今まで軍の研究部門がやった<付与術エンチャント>は1つの属性だけだったため、複数の属性の付与は未知の領域なのだ。


 これで新たに希少種として孵化すれば検証が必要になるし、通常種になればそれはそれで光属性と闇属性が特別であることが強調される。


「シルバ、他の注意点も教えてくれ」


「はい。従魔と一緒にいる時間をなるべく長くすることです。親代わりなんですから、少しでも子供と一緒にいてあげるのは当然のことですよね」


「確かにそうだな。シルバはよくレイと一緒にいるのを見かける」


『そうだよ。ご主人はほとんどずっとレイと一緒にいる仲良しなの』


 レイはシルバと仲良しをアピールするため、シルバの肩の上に移動してシルバの顔に頬ずりした。


 この行動もまた可愛いので従魔のいないクラスメイト達がシルバを羨ましそうに見ていた。


「シルバ、参考までにテイムに向いてるモンスターがいれば教えてくれ。あるいはその特徴を羅列してもらっても構わない」


 ポールはヨーキ達が訊きたいと思っていた質問をシルバにぶつけた。


 よく訊いてくれたと感謝する者がいる中、シルバは少し考えてから回答する。


「テイムに向いてるモンスターは卵を回収しやすいのが絶対条件ですね。それと、自分にできないことを従魔に補ってもらうのが良いでしょう。例えば、俺はレイのように<風魔法ウインドマジック>は使えませんし、光属性に適性はあっても<光魔法ライトマジック>は使えません」


「ふむ。シルバの言う通りだな。卵がなきゃマンイーターの種の品種改良ができない者はテイムなんてできない。それに折角テイムするんだったら自分にできないことを従魔に補ってもらえる方が各種ミッションで役割分担できる」


「俺は空を駆けることができますが、それでもレイのように自由に空を飛べたりしません。人は空を飛べませんから、偵察や移動の観点から飛べるモンスターをテイムできると戦略が広がりますよ」


「間違いない。飛べるモンスターは優先的にテイムしたいところだ」


 その後はクラスメイト達からも割災発生訓練が始まるまでテイムに関する質問が続き、本日のモンスター学の授業は大変実りのあるものになったのは間違いなかった。

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