第68話 盗賊だろうとなんだろうと煽る。これがアルだ

 ソッド達が正面から目立つように突撃した少し後、別動隊は非常口がある場所まで馬車で移動していた。


「アル君、手筈通りにお願いします」


「わかりました」


 既に馬車から降りており、エレンに声をかけられたアルは<土魔法アースマジック>で掘り返された辺りの地面を操作して土を除ける。


 そうすることで石を加工して作られた蓋が露出した。


「エレンさん、蓋も取っちゃって良いですか?」


「<土魔法アースマジック>でどうにかなるんですか?」


「はい」


「わかりました。お任せします」


 直接手で触れて開けると罠があるかもしれないので、手を使わずに開けられるならそうするべきだとエレンは判断していた。


 アルが<土魔法アースマジック>で蓋を開けられると言う以上、それ以外に有効な手段がないからアルに託すしかない。


 次の瞬間、蓋の周囲の土が動いて豪快に蓋を地上に持ち上げ、蓋が裏向きになって地面の上に落ちた。


「アル君、お疲れ様です。罠の類はなさそうですね。では、シルバ君、アル君、アリア、私の順番で入りましょう」


「「はい!」」


「はーい」


 この順番にしたのは接近戦が得意なシルバを前に置いた方が不意打ちにも反応できると判断してのことだ。


 エレンも小隊長補佐としての責任から別動隊の背後を守るポジションにおり、回復役のアリアと純粋な後衛のアルは守られる真ん中に配置された。


 蓋の先には梯子が設置されていて地下に繋がっていた。


 シルバ達は静かに梯子を使って地下に移動し周囲の安全を確認する。


 亡者盗賊団の団員がいない代わりに壁際に岩の扉があった。


「これが洞窟は想像以上にしっかりとしたアジトのようですね」


「これは僕の推測になりますが、亡者盗賊団にも<土魔法アースマジック>の使い手がいると思います。そうでなければ洞穴をここまで改築できないはずです」


「私も同感です。どれぐらいのレベルの使い手かわからないので注意しましょう。アル君、あの岩も除けてもらえますか?」


「任せて下さい」


 アルは<土魔法アースマジック>で地面を割り、生じた穴に岩の扉を落とした。


 その先は螺旋スロープになっており1階分上に進むとまたしても岩の扉があった。


 これにはエイルも腕を組んで考えるしかなかった。


「どうしましょうか。先程のように扉を地面の下に落とすのは難しいですよね」


「エイルさん、岩を移動させるのではなく変形させてみます」


「<土魔法アースマジック>はそんなこともできるんですね。やってみて下さい」


「はい」


 アルの<土魔法アースマジック>によって岩の扉が右側にギュッと圧縮された。


 扉が棒のようになってしまえばシルバ達が先に進む障害はない。


 扉の先にあったものは大銀貨や銀貨の詰まった小箱と物資が入った箱や樽だった。


「エレンさん、盗賊団のアジトにしては貯め込んでる物が少な過ぎませんか? 俺の認識では亡者盗賊団ってもっと稼いでる印象があったんですが」


「私もシルバ君の認識と同じです。仮説の段階ですが、貯め込んだ硬貨や物資をいくつかの部屋に分散させてるんでしょう。ここは非常口に繋がる部屋ですから、正面から追手が来た際に物資を置いて逃げさせたと思わせつつ、彼等にとって価値の高い物をここで回収して非常口から逃げるなんてことができます」


 エレンの仮説を聞いた後、アリアがゆっくりと手を挙げる。


「はーい」


「どうしたんですかアリア?」


「亡者盗賊団の活動資金を見て放置するのは良くないと思いまーす」


「それはそうですが、小箱を持って移動するんですか?」


「このメンバーなら私が戦うことなんてないだろうしー、私が小箱だけでも回収するよー」


 アリアの言い分を聞いてエレンはシルバとアルの顔をチラッと見て頷いた。


「わかりました。アリアにその小箱は預けます。亡者盗賊団の団員が見たらアリアが真っ先に狙われるでしょうけど、できる限り守りますから慌てずに行動して下さい」


「はーい」


 小箱を回収したアリアを囲うようにシルバが正面、アルが左後ろ、エレンが右後ろという位置についてから先へと進む。


 岩の扉がまたあったのでアルがその形を変えようとした時、扉の向こうから声が聞こえる。


「穴よ、我が視界に映る物体を落とせ! 落穴ピットフォール!」


 キマイラ小隊にも学生会メンバーにもアル以外で<土魔法アースマジック>を使える者はいない。


 亡者盗賊団の団員に洞窟を改築した<土魔法アースマジック>使いがいるという推測は確信に変わり、シルバ達は臨戦態勢に入る。


「エレンさん、攻撃許可を下さい」


「許可します」


「目を瞑ってて下さい」


 それだけ言ってシルバは落とし穴に岩の扉が落ちたことで発見した団員達に接近する。


「何者だ!」


「クソッ、挟み撃ちとは卑怯な!」


「盗賊に卑怯なんて言われたくない! 參式光の型:仏光陣!」


「「「・・・「「目がぁぁぁ!」」・・・」」」


 シルバの手の動きに応じて背後に大仏の幻覚が現れ、それがその場で目を開けていた者達の視界を奪う。


 アル達はシルバが何をやるかわかっていたため、シルバが目潰しを使う前に目を閉じていたから目を守れた。


 しかし、亡者盗賊団はシルバが何をするかわかっていなかったせいで大半の者が目をやられ、目を手で押さえてフラフラしている。


 倒れていないのは奥にいた3人だ。


 手ぬぐいを被った両手斧の大男と弓矢を背負った面頬の小柄な女性、そして両手剣を握るスカルマスクである。


 シルバの目潰しが終わった瞬間、目潰しで倒れた団員達を先頭に復帰させたくないのでアルが落とし穴で生首だけ地面の上に出るようにした。


「挟撃を仕掛けて来るだけの戦力があったか。それにしては学生が交じってるようだが」


 スカルマスクの発言に対してアルが応じる。


「あれ? でもその学生に団員の大半を生首フェスティバルにされてますよね? ゴブリン1,000体分の首がこんなにあっさりと収穫寸前だなんて美味しい仕事ですよね」


 (盗賊だろうとなんだろうと煽る。これがアルだ)


 アルの煽りにシルバが心の中で苦笑している一方で、両手斧の大男が額に青筋を浮かべていた。


「黙れガキ風情が! ミンチにすんぞ!」


「亡者盗賊団ってスカルマスクとそれ以外の懸賞金で分けられてますよ。それって貴方が雑魚モブ扱いされてるってことですよね?」


「おのれガキがぁぁぁぁぁ!」


「ボス、ここは我々に任せて正面の方からお逃げ下さい。情報によればあちらの方が手薄です。我々もすぐに後を追います」


 大男がマジギレしても隣の女性は煽り耐性があるのか冷静にスカルマスクを逃がそうとしている。


「そうはさせないよ」


 アルが落とし穴を操作して岩の扉を元通りにした。


 そうなればスカルマスク達に逃げ場はなくなる。


「面倒だな!」


 スカルマスクは斬撃を放って岩を切断して逃走した。


「岩を斬って逃走するとは予想外です」


「別にアルが悪いとは思ってないさ。スカルマスクの技量が予想以上だけだった。それだけだ」


「その通りです。アル君は十分活躍してくれてますよ。後は目の前の2人を捕えてスカルマスクを怯えさせてやりましょう」


 シルバとエレンがアルを慰めたことでアルは気持ちを切り替える。


「お前らまとめて斬り飛ばしてやる!」


 大男は両手斧を大きく振り落として斬撃を飛ばした。


「弐式:無刀刃むとうじん


 属性を付加しない通常の型でシルバが攻撃したということは、大男の攻撃は見掛け倒しという判断になったのだろう。


 実際、シルバの攻撃と衝突した大男の斬撃はあっさり消えてしまった。


「あれれ~? おかしいですね~。学生の攻撃に負けてますよ~」


 アルの煽りに大男の怒りはどんどん増していく。


「アックス、学生の戯言に耳を傾けてどうするの? 何も考えずに倒してしまいなさい」


「そんなこと言ってもシルバ君が強過ぎて倒せないんですよね、わかります」


「金髪ぅぅぅぅぅ!」


 面頬の女性が怒れる大男の代わりにアルを狙って矢を放ってみるけれど、その矢はシルバがアルの前に出てキャッチする。


「危ないですね。当たったらどうするんですか?」


「私の放った矢を素手でキャッチした? スキルも使わず? あり得ない」


「目の前で起きたんならあり得るじゃないですか。現実を受け入れたらどうです?」


 シルバは面頬の女性が冷静でいられなくなるように煽った。


 その隙にエレンが必要としていた時間が稼ぎ終わった。


「水の牢獄よ、我が敵を拘束せよ! 水牢ウォータージェイル!」


 エレンの詠唱の直後、大男と面頬の女性が水の牢獄に包まれてしまう。


 息ができなければ満足に動くこともできず、2人は少しして息が持たずに溺れ死んだ。


「シルバ君とアル君のおかげで完全に隙を突けました。ありがとうございました」


「「とんでもないです」」


 それからシルバ達は生首状態の敵を始末し、洞窟正面にある出入口に向かったであろうスカルマスクを追う。


 亡者盗賊団の壊滅まで残り僅かなのかもしれない。

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