第67話 ゴブリン1万体の首置いてけ

 馬車が停まってシルバ達が降りた場所は木々が大きくて日光が届かない暗い場所だった。


「ここから先は慎重に行かないといけない。この先に洞窟があり、亡者盗賊団はそこに潜伏してるという情報だ。まずはエレンとロウに斥候として情報を集めてもらう」


「わかりました。ロウ君、行きますよ」


「はい」


 (ソッドさんは斥候向きじゃないと思ったけど、やっぱりエレンさんが斥候もこなすのか)


 ソッドの戦い方は存在感があるから斥候向きではないため、シルバは誰が斥候の役割を受け持つのか気になっていた。


 他のメンバーと比較してエレンが担当するだろうという読みは当たっていたらしい。


 キマイラ小隊は1人あたりの担当分野が広い。


 それゆえ、1人何役もする訳だ。


 エレンは作戦参謀と戦闘、斥候が担当であり、ロウはエレンから斥候の技術を学ぶべく同行するのだ。


 シルバ達は馬車と一緒に待機しており、エレンとロウが最新の情報を集めるために亡者盗賊団がいるとされる洞窟へ向かった。


 5分後、エレンとロウは洞窟を目で見て確認できる位置までやって来た。


「見張りは武装した2人ですね。何か喋ってるようですけど少し距離があって聞こえませんね」


「左の見張りが早く獲物が来ないかなと言い、右の見張りが金品も良いけど女も欲しいと言ってます」


「ロウ君、この距離で聞こえるんですか?」


「いえ、僅かに聞こえる程度で読唇術です」


「君は小隊長とは違う分野で優秀ですね。私をサポートする人材として欲しいぐらいです」


「恐縮です」


 ロウはエレンから評価してもらえたことに静かに喜びつつ、見張り2人の会話から情報を収集した。


 余談だが、エレンはロウからソッドの情報も仕入れたいという気持ちもあって自分のサポートにロウを付けたいと考えている。


 好きな相手のソッドに対してなかなか素直になれないエレンとしては、ソッドの弟という情報源は是非とも確保しておきたいところなのだろう。


 見張り2人からこれ以上役に立つ情報が得られないと判断し、エレンとロウは洞窟をぐるりと回った。


 見張りがいた出入口以外に非常口がないか確かめるためである。


「ロウ君、少し待って下さい」


「何か見つけたんですか?」


「ええ。ロウ君、そこの地面と周辺を見比べてみて下さい」


「掘り返されて隠蔽された形跡がありますね」


 エレンが指摘した場所を見てロウも気づいた。


「正面を塞がれた時にこちらの非常口から脱出するつもりでしょうね」


「非常口から挟み込むように攻め込みますか? アルがいれば地形操作も楽にできると思いますよ」


「そうですね。逃げられては困りますから挟撃作戦にしましょう。ひとまず小隊長達のいる場所は戻りますよ」


「はい」


 長居して亡者盗賊団に見つかるのは望むところではないから、エレンとロウはシルバ達の待つ場所へ戻った。


 シルバ達と合流したエレンは亡者盗賊団のある洞窟とその周辺について情報を共有し、挟撃作戦も提示した。


 正面からの突撃隊はソッドとマルクス、ロウとエイルに決まった。


 エレンとロウが非常口の場所を知っているため、どちらかは非常口から攻め込む必要がある。


 別働隊を指揮できる者という観点で考えればエレンがやるべきだからロウが正面の突撃隊に入った。


 回復役も分ける必要があるから潜入するには運動能力に不安があるエイルが突撃隊に選ばれた。


 別働隊はエレンとアリア、シルバ、アルになった。


 シルバはソッドに並ぶ戦力としてエレンが期待している。


 アルもシルバと一緒に動けて安心している様子だ。


 二手に分かれて馬車に乗り込み、ソッド達はわざと目立つように洞窟に向かう。


 シルバ達はそれによって自分達から注意を逸らして洞窟の裏手にある非常口付近に向かっている。


 ソッド達を見つけた見張りが目を見開く。


「なんだあの馬車!?」


「帝国軍じゃねえか!?」


「敵襲! 敵襲!」


「敵が来たぞぉぉぉ!」


 御者台にいるソッドの姿を見て見張り2人が騒ぎ出す。


 そのせいで洞窟の中からわらわらと団員達が現れる。


 馬車の手綱はロウが握っているため、ソッドは馬車の操縦をロウに任せて飛び降りた。


「一度だけ警告する! 全員武器を捨てて投降しろ! 投降しなかったら命の保証はない!」


「上等だゴラァ!」


「お前等金持ってるだろ! 金置いてけ!」


「装備を剥ぎ取って帝国軍に潜入してやんよ!」


 盗賊団員達は戦う気満々な様子だ。


 ソッドは自分の警告で投降しない団員達を見て攻撃を開始する。


 広範囲に向けた斬撃を放ったのだ。


 シルバと戦う時のように雷を剣に纏わせてはいないが、それでも普通の敵ならば余裕で倒せる。


 盗賊団員達の実力はまちまちで自分の武器を盾にして防げた者もいたが、防御が間に合わずに上半身と下半身が真っ二つになったものもいた。


「冗談じゃねえぞ、なんでこんな奴がいるんだよ!?」


「おい、誰か応援を呼んで来い!」


「俺達だけじゃ時間稼ぎにしかならねえ!」


「そうはさせないんだよなぁ」


 馬車を停めたロウが投げナイフで応援を呼ぼうとした団員を仕留めた。


「でかしたぞロウ! どうしたどうした!? お前達はその程度なのか!?」


 ロウに声をかけつつソッドは次々に団員を斬り捨てていく。


 馬車からマルクスとエイルも降りているが、2人が降りた時にはほとんど勝負がついていてやることはなかった。


 洞窟の正面を制圧した後、ソッドはマルクスとエイルに死体から使えるものと退治の証として首をまとめておくように頼んだ。


 自分とロウは挟撃作戦の成功確率を上げるべく、洞窟の中へと踏み込んで行く。


「兄貴、罠が仕掛けられてる可能性があるから考えなしに進むなよ?」


「ロウ、私は考えなしの突撃馬鹿ではないぞ?」


「わかってるけど念のためさ」


「そうか。じゃあロウに罠の調査は任せる」


 ソッドは単独でもない限り自分よりも適性のある者に任せる。


 だからこそ、ソッドは斥候として弟の方が優秀だと判断してロウに任せた。


「罠だ。でも、解除されてる。応援が出てきた時に解除されたっぽい」


「いち早く応援に駆けつけるのに罠を掻い潜って行くはずもないだろう」


 ロウが罠について伝えるとソッドがそうだろうなと頷いた。


 しばらく何もない一本道だったが、Y字路に辿り着いた。


「しまったな。中の様子がわからなかったからY字路になっているとは思わなかった」


「それは仕方あるまい。流石に外から内部までわかるとは思ってない」


「二手に分かれるか? 片方を選んで進むのは敵を取り逃がす恐れがあるけど」


「それは避けたい。私がここを守るからロウに片方ずつ調べてほしい」


「俺が残るよりもその方が良いか。了解」


 ロウはソッドの考えを聞いて生存確率の高いのはソッドの言う通りのプランだと判断した。


 ソッドが退路を潰してロウがスカルマスク達主戦力がいる場所を探して右の通路を進んでみる。


 ロウが最初に選んだ道はワイヤートラップが張り巡らされていた。


 先に進んでみるのも考えたけれど、罠を解除して団員が出てきたのならばわざわざ罠を設置し直す暇はないだろうと判断してソッドのいる場所に戻った。


「兄貴、多分もう片方の道だ。こっちにはワイヤートラップがかかったままだった」


「だったら今度は2人で行くか」


「それが良いと思う」


 ロウが少し前を歩いてソッドがその後ろに続く。


 左の通路は罠が解除されており、2人はこちらが当たりだろうと目で合図して進んだ。


 その考えは外れだった。


 左側の通路の先は行き止まりであり、運び込まれたであろう物資しかなかったのだ。


「外れか。ロウ、こっちの調査は任せる。私は戻るぞ」


「了解。調べたら戻る」


 自分達が釣り出されたと思ったので、ソッドは物資の確認をロウに任せて自分はY字路に急いで戻る。


 亡者盗賊団を逃してはならないという思いから走って戻ると、Y字路に着いた途端に隣の通路から飛び出す団員達と遭遇した。


「クソッ、なんでこんなところにいるんだ!」


「挟み撃ちかよ畜生!」


「成敗!」


 ソッドは慌てるだけの団員達を次々に斬り捨てた。


 刃に付着した血を振って綺麗にしたタイミングでスカルマスクを身に付けた人物が現れた。


「チッ、今回の追手は随分と優秀じゃねえかよ」


「お前が頭領のスカルマスクか」


「だったらどうした?」


「ゴブリン1万体の首置いてけ」


「てめえそーいう思考回路かよクソが!」


 額に青筋を浮かべたスカルマスクは手に持った両手剣でソッドに襲いかかった。

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