第69話 アル、身バレするから発言には気を付けてくれ

 シルバ達がスカルマスクを追って行った先ではソッドとスカルマスクが戦っていた。


「クソッ、てめえ強いな。能天使パワーなのは伊達じゃねえ」


「私は名乗ってない。スカルマスク、お前は何処からその情報を手に入れた?」


「あん? そんなの帝国軍てめえのお仲間に決まってんだろうが」


「帝国軍だと?」


 ソッドの反応を見てスカルマスクから下衆な雰囲気が漂う。


 顔が見えていたのならば、間違いなく下卑た笑みを浮かべていただろう。


「なんだ、てめえは売られたことにようやく気付いたのか?」


「いや、この任務が罠であることは理解してた」


「いけ好かねえやつめ!」


「洗いざらい吐いてもらうぞ!」


 ソッドとスカルマスクが剣をぶつけ合い、それによって火花が散る。


「小隊長、手助けは必要ですか?」


「この程度なら不要だ」


「チッ、アックスもアーチャーもられたか。使えねえな」


 スカルマスクが不快そうに言うのを聞いてソッドがムッとした表情になる。


「部下に対してその言い様とは最低だな」


「部下じゃねえよ。奴等は俺と同じ依頼を受けた同業者だ。力の差を教えてやったら俺に従ったがな」


「依頼か。それが帝国軍の裏切り者からのものならば、そいつは裏稼業の者とズブズブの関係らしい」


「おうよ。俺が俺に逆らう盗賊の情報をそいつに流し、そいつが俺達に代わって邪魔者を消してくれるんだ。win-winってやつだよ」


 巨悪を潰すために小粒な悪を見逃す潜入捜査はよくある話だが、今回は巨悪と手を組んで小粒な悪を潰しているという逆パターンだ。


 ここまでの話を聞いてエレンに心当たりがあった。


「<能天使パワー>のボルグさんですか」


「ほう、イブリスの野郎が黒幕だって一発で見抜くとはなかなかやるじゃないか」


「エレンさん、そのイブリス=ボルグってどんな人ですか?」


 エレンとスカルマスクの話にアルが興味を持って訊ねた。


「前にシルバ君が決闘で倒したデイブ=プウェルの父、ブータス=プウェルと張り合う派閥にいる者です。盗賊の検挙数が多いことで有名ですが、色々と後ろ暗い噂は私の耳にも入ってます」


 ブータス=プウェルはシルバに模擬戦で息子を倒されて逆恨みした結果、帝国軍から追放された人物だ。


 今はディオスの牢屋に閉じ込められており、ブータス自体がスカルマスクに関わっているとは考えにくい。


 イブリス=ボルグは昔からブータス=プウェルと勢力争いをしており、ブータスがいなくなった今、能天使パワーで最も権力を持つ。


 エレンが言う通り盗賊の検挙数が多いのだが、それはどれも小粒だったり亡者盗賊団にとって都合の良い盗賊団ばかり倒して能天使パワーになったのだ。


 ブータスと同様に力天使ヴァーチャーになるには力が足りず、能天使パワーから昇格しそうな者を邪魔する迷惑な存在である。


「帝国軍もなかなか面倒なことになってますね」


「そうなんです。だからこそ、私達がもっと上に行って軍を正さねばなりません」


 アルが苦笑しているとエレンが使命感に満ちた目をしながら応じた。


「イブリスの野郎のことはどうでも良いとして、数では不利だからなりふり構わねえぜ?」


 スカルマスクは数的不利のこの状況をどうにかしようとアルに向かって駆け出した。


 学生服を着たシルバとアルはこの状況で狙うべき弱点だと判断し、アルを人質にしようと考えたのである。


 だがちょっと待ってほしい。


 アルと一緒にいるシルバはソッド並みの実力者であることを忘れてはならない。


 シルバがアルとスカルマスクの間に割り込んで迎撃する。


「壱式氷の型:砕氷拳!」


「クソがぁ!?」


 まさか学生から高度な攻撃を受けるとは思っておらず、油断していたスカルマスクの全身に氷の礫が散弾のように命中した。


 スカルマスクはシルバの攻撃のせいでまともに動けなくなり、それを見抜いたシルバが追撃する。


「壱式雷の型:紫電拳!」


 シルバはスカルマスクを生かしたまま捕えた方が良いと考えてとどめは刺さず、気絶させるぐらいに威力を抑えた攻撃を放った。


 避けられる余力がないスカルマスクはシルバの攻撃を腹部に受けて軽く吹き飛び、背中から倒れた時には気絶していた。


 周囲に後続の敵がいないことがわかっていたため、アルがシルバに近づいてお礼を言う。


「シルバ君、助けてくれてありがとう」


「どういたしまして。アルなら返り討ちにできると思ったけど一応な」


 そこにロウが合流する。


「兄貴、すごいもん見つけた! って、それスカルマスクじゃね!?」


「ロウ先輩、美味しいところはシルバ君に取られちゃいましたね」


「またかよ!?」


 夏季合宿で割災が起きた時もシルバの働きが大きかったため、ロウはまた美味しいところを取られてしまったと嘆いた。


 それでもまだロウには救いが残っていた。


 エレンがロウに声をかける。


「ロウ君、何を見つけたんでしょうか? 私に見せてくれませんか?」


「どうぞ」


 作戦参謀のエレンに自分の手に入れた物を見せれば評価してもらえるかもと思い、ロウは期待を込めてエレンにそれを手渡した。


 エレンに手渡したそれは手紙だった。


「・・・お前の仕事の邪魔をしに来る小隊が来るから殺せ。グルボ=スリブイ。名前は家名と名前の順番を逆にしてどちらも入れ替えてますが、筆跡は本人のものでしょう。お手柄ですよ、ロウ君」


「ありがとうございます!」


 ロウはエレンから評価してもらえて喜んだ。


 自分が重要な書類を手に入れたつもりでも、他人にとってはそうでない可能性もあるのだから評価してもらえてホッとしたのだ。


「すまん、ちょっとこっちに来てくれないか?」


 今度はソッドがシルバ達に声をかける。


 彼等がソッドに呼ばれて移動すると、ソッドはスカルマスクの手足を縛って髑髏の仮面を外したところだった。


「この顔、どこかで見たような・・・」


「アル?」


「ごめん、やっぱりなんでもない」


 アルがポツリと言葉を漏らしたのでシルバが知っているのかと言外に訊ねたが、それは気のせいだったと答えた。


 しかし、それは気のせいじゃないだろうなとシルバは感じた。


 出会ってから4ヶ月しか経っていないが、シルバはアルといつも一緒にいるから隠し事をしている時の雰囲気を感じ取れるようになっていたのだ。


「スカルマスクの正体はサタンティヌス王国の諜報員だ。以前、ハワード先輩から見せてもらった資料で見たことがある」


 ソッドが答えを言ってシルバの直感は正しかったことがすぐにわかった。


 アルは元々サタンティヌス王国に住んでいたため、あちらにいた頃に見たことがあったのだろう。


 (アル、身バレするから発言には気を付けてくれ)


 現王の庶子であること、2種類の魔法系スキルが使えることがバレたらサタンティヌス王国に連れ帰られて大変なことになるのだから、アルにはうっかり余計なことを言ってもらっては困る。


 シルバがジト目を向けるとアルがごめんと目で謝った。


「小隊長、それでは亡者盗賊団の活動はサタンティヌス王国によるものなのですか?」


「その可能性は否めない。ボルグさんがそれを知ってスカルマスクと通じてたかは定かじゃないが、いずれにせよボルグさんが帝国にとってとんでもないことをやらかしたのは間違いない」


「プウェル派に続いてボルグ派も解体されたなら、軍の風通しも良くなりそうですね」


「どうだろうね。今よりは良くなるはずだけど、まだまだ軍には問題が山のようにあるからな」


「ねーねー、とりあえずできるだけ回収してさっさと帰ろー?」


 ソッドとエレンがこの場であれこれ話し合いを始めそうになっているのを察し、静かにしていたアリアがそれは帰ってからで良いだろうと提案する。


 その通りなのでシルバ達は手分けして洞窟の中にある物を外の馬車に運び出す作業に移った。


 何往復もして物資と硬化を回収した後、盗賊団の団員の死体は首だけ回収して体は土の中に埋め、スカルマスクは生かしたまま縄でぐるぐる巻きにしてディオスに連れ帰った。


 帝国軍の基地に到着し、シルバ達は明日盗賊退治の報酬を渡すと言われて解散になった。


 軍学校の学生寮にある自分達の部屋に着くと、アルがシルバに声をかける。


「ごめん、さっきの発言は不用意だったよ」


「そうだな。アルらしくないミスだった。知り合いだったのか?」


「知り合いじゃなくて監視されてたんだ。多分、あいつは碌でもない父親の命令で一時期だけ僕を見張る任務でも請け負ってたんだよ」


「監視がバレてるって駄目じゃね?」


「僕が1人で迷子になった時に助けてくれたことがあったんだよ。その後も何度か1人で困ってる時に偶然を装って助けてくれたの」


「帝国に対しては敵対的でもアルのことは王女として心配してたのかもな」


「どうだろうね」


 真相はスカルマスクのみぞ知る話であり、シルバとアルにはわからなかった。

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