第70話 偉くなると当然仕事が増えるじゃんか
シルバ達が亡者盗賊団を解体させてスカルマスクを生け捕りにした日の翌朝、軍学校の校長室にポールとソッドが呼び出されていた。
「ポール=ハワード、ソッドが参りました」
「入って良いぞ」
「「失礼します」」
自分の前にポールとソッドが並ぶと
「よく来たな。ソッドは学生を連れた中、しっかり職責を果たしたな。ご苦労だった」
「ありがとうございます。以前、ハワード先輩に見せてもらった資料が役に立ちました」
「俺としてはいつか遭遇するかもぐらいの気持ちだったんですが、思いの外その機会が早かったですね」
ポールとソッドがこの場に呼び出されたのは亡者盗賊団の件だ。
頭領がサタンティヌス王国の諜報員という可能性を最初から捨てていた訳ではなかったが、それでもその可能性は低いだろうと思っていたらまさかの的中である。
しかも、ボルグ派のトップであるイブリス=ボルグが売国奴の可能性まで出て来れば穏やかではいられない。
「何が役に立つかわからないのだから、日頃からあらゆる事態に備えておくべきということだろうな。さて、昨日のゴタゴタの結果から話そう。イブリス=ボルグが黒であると発覚し、どこまで隣国と通じてたか吐かせようとしたところ、舌を噛んで自殺した」
「死んだんですかあのガリガリ親父」
「同じ階級として恥ずかしいですね」
「ちなみに、ボルグ派は解体されて余罪でしょっ引かれたやつも何人もいる。おかげで軍学校の校長なのに私まで人事部門の職務を手伝わされてる」
ブータスの時もそうだが、今回も派閥トップの取り巻きが色々やらかしていたせいで処罰の対象者が多い。
降格や帝国からの追放、欠員補充に伴う昇格等、人事部門は昨日から仕事が山のように追加された。
「それはお疲れ様です」
ポールの顔には自分だったらそんな仕事を回されるなんて嫌だと書いてあった。
それに対してジャンヌは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「校長、その笑みはなんですか? 嫌な予感しかしないんですが」
「おめでとう、ハワード。過去の功績に加えて本件で間接的に功績があったと判断され、
「昇格の辞退ってできませんか?」
「駄目だ。人材が足りん。今回はおとなしく昇格するんだ」
「そんなぁ」
しょんぼりするポールにジャンヌは
「ハワード先輩、おめでとうございます。昇格を嫌がるなんてハワード先輩ぐらいですよ?」
「偉くなると当然仕事が増えるじゃんか。
帝国軍の階級だが、
仮に軍学校を階級なしで卒業した場合、帝国軍に上がれるのは
小隊長になれるのは
大隊長になれるのは
ポールは軍学校の教師をしているため、帝国軍の中でも業務形態が違ってジャンヌの仕事を手伝いつつ、B1-1の担任をしていれば問題なかった。
時々論文やレポートを提出して帝国に貢献していたため、功績だけは着実に積み上げていたことで次の階級に昇格することになってしまった。
今回ポールが昇格してしまった
気づけばジャンヌの
「ハワード、諦めろ。皇帝陛下が昇格すると仰ったのだ。逆らえるはずあるまい」
「・・・わかりました」
ディオニシウス帝国のトップからのお達しと言われてしまえばポールは逆らえない。
もっとも、皇帝の指示でなくてもポールだってなんだかんだ言っても結局は受け入れざるを得ないとわかっていたのだが。
「それでソッドだが、キマイラ小隊をキマイラ中隊に再編成し、中隊長兼第一小隊長に任じられた。中隊に組み込むメンバーのこともあって私から伝えるように頼まれてる」
「ありがとうございます。まさか、第二小隊は弟達でしょうか?」
「その通りだ。異例に次ぐ異例なのだが、シルバを
「私自身は彼等の実力を理解してますので喜んで迎え入れますが、学生すら本格的に軍人にするというのは情けなくも思いますね」
ジャンヌがなんとも言い難い表情で人事異動について話したことに対し、ソッドは苦笑するしかなかった。
そこにポールが疑問を投げかける。
「ちょっと待って下さい。学生組は軍学校を卒業扱いになるんですか?」
「いや、第二小隊は基本的に学業メインだ。今回の任務の時だけ公欠扱いで参加してもらう」
「そうですか。それなら良いんですが」
「ハワードは本当に学生思いだな。教育者として覚醒したのか?」
そうではないだろうと思いつつ、ハワードが何を考えているのか気になってジャンヌは訊ねた。
「違いますよ。学校なんてものは社会の縮図です。そこで慣らすこともなく軍に放り込むなんてとんでもないと思っただけです。自分の教え子が使い潰されるのは気分が悪いですからね」
「そうか。では、キマイラ中隊の監督は任せる。私に任されていた仕事だが、私よりもハワードの方がソッドやシルバとも距離が近い。レポート体系については私から人事に言っておくから安心しろ」
「・・・わかりました」
下手に使い潰されそうな所の仕事を回されるより、自分の教え子や後輩の面倒を見る方が気持ちの問題で楽だからポールはジャンヌの言葉を受け入れた。
「今はキマイラ中隊に2つの小隊しかないが、いずれは倍にする想定だ。その人選はポールに任せるから見極めをしっかり頼むぞ」
「承知しました」
「それとソッド、言い忘れていたが家名を考えておけとのことだ。昇格はさせられなかったが、家名については私のプッシュを上が通してくれたようだ。早い内に決めておけよ」
「ありがとうございます!」
小隊長から中隊長になれただけでも良かったけれど、家名を名乗れるのは帝国において一番の名誉である。
それゆえ、ソッドはとても嬉しそうに返事をした。
兄弟も同じ家名を名乗れるので、ロウもソッドと同様に家名持ちになる。
これでロウもシルバに階級で追い抜かれても自分には家名があると思える訳だ。
「それにしても、シルバは本当にポンポン出世しますねー」
「仕方あるまい。第二小隊を編成するにあたって他の3人は指揮に向かんのだからな」
「エイルは回復と補助ならできますが戦闘指揮の経験がないですね。ロウは指揮もできなくないですが、情報収集して小隊長を補佐した方が光ります。アルはシルバのフォローする方が性に合ってます。そう考えるとシルバしかいませんかー」
「その通りだ。ついでに言えば、シルバには合同キャンプでミッションコンプリートした功績もあるしな」
ジャンヌの言い分を聞いてポールとハワードは頷いた。
その後、ジャンヌはポールとソッドと共にキマイラ中隊の部屋に移動して異例の人事発令を伝えた。
年下のシルバが隊長だと聞き、エイルもロウも悔しくないと言えば嘘になるが納得した。
これも普段からシルバが先輩を立てているからだ。
もしも先輩に対するリスペクトの気持ちがなかったなら、エイルとロウは納得できなかっただろう。
ロウはアルからやっぱりこうなったという視線を受けたけれど、兄と同じ家名が名乗れると知ってアルの視線なんて気にならなかった。
シルバは<
この日、キマイラ中隊は特殊中隊として発表されると共に、異例の人事も発表されたこと帝国軍は大騒ぎになったとだけ言っておこう。
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