第279話 ビジュアルがデーモンでその訛り方はヤバい

 昼食ハンバーガーセットを食べて食休みも終えた後、シルバ達は探索を再開した。


 今のところ、放牧ではあるが飼育にチャレンジできているのはシルバーブルだけだ。


 マンドラゴンとマンドラゴラ、バイコーン、ノーブルホースは全て倒してしまったため、モンスターファームとして旧トスハリ教国領を運営していくならば、なんとか倒さずに済むモンスターを見つけたいところだ。


 レイの背中から地上を見下ろしていると、シルバは大きな畑を見つけた。


「マリア、あそこに畑がある」


「畑っていうか、あそこに植物型モンスターが根付いてるじゃないの」


「えっ、あれって全部モンスターなの?」


「ボムポテトにクフトマト、ソードリーキね」


 マリアがモンスターだと言うからにはそうなんだろうと思い、シルバはマジフォンのモンスター図鑑機能でそれらを調べた。


 大きいジャガイモがボムポテトであり、感情が昂ると自爆する習性を持つ。


 不気味な笑みが張り付いた大きなトマトがクフトマトであり、ずっとクフフと笑っている。


 剣みたいに畑に刺さってる葱がソードリーキであり、戦闘の際は体が硬質化する。


『ご主人、行ってみる?』


「行ってみよう。植物型モンスターなら、収穫しても種さえ残ればまた育てられるだろうし」


『わかった~』


 レイが高度を下げて地上に向かったその時、畑の向こうから3つの存在が猛スピードで接近してくるのが見えた。


 マリアはそれに心当たりがあったらしく、やれやれと首を横に振る。


「モンスター畑の番人が来たわね」


「番人?」


「畑にいる奴等って守られてたの?」


「そうよ。だって、単体じゃ精々パープル級モンスターなんだもの。その程度の強さでブラック級以上のモンスターがうようよいる場所で自衛できる訳ないじゃない」


 マリアの言い分を聞き、シルバは確かにその通りだと納得した。


 そして、シルバ達の前に現れたのは3体の白いデーモンだった。


 厳密に言えば、頭から葉を生やした大根の悪魔と呼ぶべき見た目である。


 これもまた初めて見るモンスターだったので、シルバはマジフォンのモンスター図鑑機能で調べてみた。



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名前:なし 種族:デーコン

性別:雄  ランク:シルバー

-----------------------------------------

HP:B

MP:B

STR:B

VIT:B

DEX:B

AGI:B

INT:B

LUK:B

-----------------------------------------

スキル:<土魔法アースマジック><根捕縛ルートボンド><体力吸収エナジードレイン

    <催涙霧ティアーミスト><念話テレパシー><自動再生オートリジェネ

状態:激怒

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『オラ達の畑に手を出そうとしてるのはおめえらかぁぁぁ!』


『畑の肥やしにしてやるだ!』


『んだんだ!』


 (ビジュアルがデーモンでその訛り方はヤバい)


 シルバは笑いを堪えるのに苦労した。


 しかし、レイは素直なので笑うのを我慢しなかった。


『プッ、変な喋り方~』


『んだとゴラァ!』


『カラッカラの干し肉にしてやるど!?』


『んだんだ!』


「何か言えよ!」


 3体目のデーコンが先程から「んだんだ」しか言わないので、我慢していたシルバも思わずツッコんでしまった。


「シルバ、ツッコミはそこまでにしておきなさい。悪魔大根デーコンも野菜もどきも全て収穫するのよ」


「わかった」


『収穫されるのはおめえらの方だぁぁぁ!』


『オラ達の畑に手を出そうとしたこと、後悔させてやるどぉぉぉ!』


『んだんだ!』


 デーコン3体が岩弾乱射ロックガトリングでシルバ達を蜂の巣にしようとするのに対し、シルバは慌てずにレイに声をかける。


「レイ、よろしく」


『任せて!』


 元気に返事をしたレイは、反射領域リフレクトフィールドでデーコン達の攻撃を全て反射してみせた。


 自分達の攻撃を反射されてダメージを受け、デーコン達の怒りのボルテージが更に上がる。


『卑怯だど! オラ達とおめえの力でたたけえ!』


『おめえ、雄なら拳で勝負しろ!』


『んだんだ!』


「3対1で戦えって言ったり、ハンデをせがんだりってお前達が弱いから言ってるんだよね? わかったわかった」


『は?』


『はぁ?』


『はぁぁぁぁぁ?』


 3体目のデーコンはワンパターンでしか喋れないのかと思ったら、そんなこともないようだ。


 シルバがその事実を知ってホッとしたのはさておき、煽って沸騰しそうなぐらいキレているデーコン達は連係プレーなんてできないだろう。


 そう判断したシルバはレイの背中から跳躍し、空を駆けて先頭のデーコンの頭上に接近する。


「壱式雷の型:紫電拳!」


 至近距離から雷を纏った拳を突き出せば、先頭のデーコンの脳天に直撃してその衝撃で地面に墜落した。


『兄弟を良くもやってくれたな!』


『んだんだ!』


「仲良く地面に墜としてやるよ。壱式雷の型:紫電拳! 壱式雷の型:紫電拳!」


 壱式雷の型:紫電拳を連発したことにより、3体のデーコンは等間隔で地面に叩きつけられて力尽きていた。


 シルバがレイの背中の上に戻ってから、レイは畑の近くに着陸した。


 畑にいる植物型モンスター達は我関せずというか、野菜に擬態して見逃してもらおうとしている。


 そんな都合の良いことにはならず、シルバとレイがきっちりとそれらも仕留めた。


「シルバもレイもお疲れ様。植物型モンスターモンスターなら、体内にある種を畑に蒔いておけば、勝手に育っていくわ。デーコンの場合は例外で、頭頂部の葉の部分を切り取って地面に植える必要があるわね。そうすることで、再生する要領で食べられる部分が生えるの」


「畑に何かする必要はないのか?」


「特にないわ。だってモンスターだもの。基本は放置よ。強いて言うならば、デーコンの頭頂部の葉を畑を囲う三角形になるように植えることかしらね。それだけでデーコンがいると周りが勘違いから、下手に手出しはされないはずよ」


「放置するだけで収穫できるなんて農家泣かせだな」


 シルバは植物型モンスターを放置するだけの農業形態を知り、農家の人が知ったら悲しむに違いないと思ってそう言った。


 それに対してマリアは首を横に振る。


「そんなことないのよ。農家は野菜の品種改良をするけれど、野生のモンスターが自ら美味しくなろうと品種改良することはないわ。だから、放置して勝手に育った植物型モンスターの味は農家の野菜には敵わない。まあ、私がこの放置栽培に手を加えるなら話は別だけど」


「どゆこと?」


「いくつものモンスターを食べたことのあるシルバならわかるでしょうけど、ランクが高ければ高い程モンスターは美味しいの」


「まさか、魔石を与え続けるのか?」


 レイ達従魔を強化するのと同様に、畑で育つモンスターにも魔石を与えるのかとシルバは訊いた。


「魔石を与える訳じゃないわ。それだとコストがかかり過ぎちゃうもの」


「だったらどうするんだ?」


「私の指示に従いなさい。作業を終えたらびっくりさせてあげるから」


 そう言ってマリアは倒した植物型モンスター達の種をシルバに渡し、シルバはマリアの指示通りに種を蒔いた。


 その間にマリアはデーコンの頭頂部の葉を畑を囲む三角形の位置に植え、魔力回路を刻んでいく。


 全ての準備が整ったことで、マリアが畑を囲む魔法陣を起動させた。


 起動してすぐにデーコンの頭頂部の葉が植えられた3ヶ所が光の線によって繋がり、それが立体的な壁になって結界を形成する。


「これが放置栽培陣よ。デーコンを案山子に見立てて組んだし、3体分の頭頂部の葉を使えたからシルバー級以下のモンスターはここに近づかなくなるわ。しかも、デーコンの再生速度を半減させる代わりに畑で育つ植物型モンスターにMPが供給されるから、魔石を取り込むのと同じ効果が見込めるの」


「何それすごい」


「フフン。すごいでしょ。これが私の実力・・・、ん?」


 マリアはドヤった直後に違和感を抱いて直感的に右を見た。


 周囲が激しく揺れて近くの空間に穴が開いた。


「しまった。旧トスハリ教国領を割災予報機能に組み込むのを忘れてたわ」


 ムラサメ公国民が誰もいない土地なので、割災が起きても誰も困らない。


 それが理由でマリアはマジフォンの割災予報機能に旧トスハリ教国領を組み込んでおらず、割災を察知するのが遅れてしまったのだ。


 異界に繋がる穴が広がり、シルバ達は穴の向こうに肌は浅黒くて耳が長い人型生物を見つけた。


闇耳長族ダークエルフ!」


 穴の向こうにいた者達はバレたと気づいて逃げ出した。


 シルバは種族名を口にしたまま動けなかったが、マリアはマジフォンで闇耳長族ダークエルフの姿を写真に収めていた。


 だが、今は闇耳長族ダークエルフのことよりも優先事項があった。


 闇耳長族ダークエルフが逃げ出したその場所から、穴を通って身体の両端に頭のついている双頭のドラゴンが現れたのである。

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