第278話 マリアを怒らせたらヤバい。レイ、わかったね?

 マンドラゴンとマンドラゴラを回収したシルバ達は、空から砂埃を立てながら爆走する集団を見つけた。


「へぇ、こっちに紛れ込んでるバイコーンなんているのね」


「バイコーン?」


「そう。先頭の曲がった2本の角を生やした青白い馬のモンスターよ。その後ろを追いかけてる紫色の馬はノーブルホースの集団ね。バイコーンが何かやらかしたんじゃないかしら」


「ふーん」


 シルバは珍しいと聞いたバイコーンのことが気になり、マジフォンのモンスター図鑑機能でそれを調べてみた。



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名前:なし 種族:バイコーン

性別:雄  ランク:ゴールド

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HP:A

MP:A

STR:A

VIT:B

DEX:A

AGI:A

INT:A

LUK:B

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スキル:<闇魔法ダークマジック><剛力突撃メガトンブリッツ><怒蒸気アングリースチーム

    <魅了霧チャームミスト><念話テレパシー><全半減ディバインオール

状態:愉快

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 (なんで追われてるのに愉快なんだ?)


 シルバが首を傾げていると、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュがその疑問に答える。


『バイコーンがノーブルホースの雌を誑かしたんだわっ』


『バイコーン、ノーブルホース、雌、寝取った』


『キレたノーブルホースの雄が追いかけ、雌はバイコーンが欲しくて追いかけてるのよっ』


『三角関係、いくつも。バイコーン、逃亡、楽しむ』


 (バイコーンが下種野郎だってことは理解した)


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが教えてくれた推測から、シルバはバイコーンがゴールド級モンスターである前に下種だと断定した。


 ちらっとマリアの方を見てみれば、彼女もバイコーンを軽蔑したような目で見ているので、シルバはマリアに訊ねる。


「バイコーンだけ倒せばノーブルホースは飼育できると思う?」


「それは微妙なところね」


「その理由は?」


「ノーブルホースって基本的にどの個体もプライドが高いのよ。番になった相手だけは見下さないけど、同種ですら見下すから同じ環境で飼育してもすぐに喧嘩になると思うわ。今はバイコーンを追いかけるって目的でまとまってるけど、バイコーンを倒したらすぐに喧嘩するんじゃないかしら」


「バイコーンもバイコーンなら、ノーブルホースもノーブルホースなんだな」


 シルバはまともな馬型モンスターがいないことに嘆いた。


 それでも、倒せば馬肉になるだろうと思って気を取り直した。


 マリアもそんなシルバの考えを読み取って頷く。


「安心してちょうだい。バイコーンもノーブルホースも食べられるわ。ただ、バイコーンの角は少し注意が必要ね」


「まだ何か駄目なところがあるの?」


「あるのよ。バイコーンの角って危ない薬の材料になるから、絶対に流通させちゃ駄目なの」


「危ない薬ってどんな?」


「・・・シルバにはまだ早いわ」


 そう言ったマリアの顔は赤くなっており、シルバはマリアが恥ずかしがる薬ができるのだろうと察した。


 実際のところ、バイコーンの角を使った危ない薬とは媚薬のことだ。


 大人向けに販売されている代物とは比べ物にならない程効果があるとだけ補足しておこう。


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュにはそこまでの知識はなかったので、シルバの中で彼女達も首を傾げているのだが、それも今は置いておこう。


「とりあえず、掃討するってことで良いよな?」


『異議な~し』


「それで良いと思うわ」


 レイとマリアから賛成を取り付け、シルバは行動に移ることにした。


「レイ、バイコーン達の前に割り込んで低空飛行できる?」


『任せて!』


 シルバに訊かれたレイはその通りに動き、バイコーン達の前を飛ぶ。


 シルバ達を見た瞬間、バイコーンは走りながら地面に唾を吐いた。


『ペッ、童貞と処女かよ。しかも、処女は若作りのババアじゃねえか。売れ残り乙』


 その言葉が吐かれた瞬間、シルバは急激に寒気を感じて震えた。


 自分の隣を見れば、表情が抜け落ちたマリアが無言で抜刀術の構えを取っている。


「弐式光の型:光之太刀・ざん


 左手から光の鞘が創られ、右手で鞘から光の刀を抜いて横薙ぎを放つ。


 刀なんて持っていないはずなのに、弐式光の型:光之太刀・斬は抜刀術としての結果を齎した。


 それだけでなく、横薙ぎにした瞬間に右手から創られた光の刀身が伸び、バイコーンどころかその後ろのノーブルホース達も巻き込んでそれらの首を刎ねたのだ。


 ドサドサッと音を立てて敵モンスター全てを片付けた後、マリアの手から光は消えた。


 レイは戦闘が終わったのを知って着陸し、シルバとマリアはレイの背中から降りた。


「マリア、さっきのって新技だよな?」


「新技ね。怒りが限界を超えちゃって、とっさに頭に思い浮かんだものを実行したの」


「マリアを怒らせたらヤバい。レイ、わかったね?」


『うん。ご主人のお師匠様の殺気も技もすごかった。レイも負けてられないよ』


「そうだけどそうじゃない」


 レイが素直で強くなろうと前向きな姿勢なのは好ましいが、求めている反応と違ってシルバは困ったように笑った。


 そんなシルバに対し、マリアは師匠として話しかける。


「シルバ、いつまでも教えてもらったことだけをやってるなんて駄目よ。守破離しゅはりの考え方は教えたでしょ?」


「それは覚えてるけど、まだまだ教わったことも極められてないんだが」


 守破離とは修業における段階を示したものだ。


 守は師匠や流派の教え、型、技を忠実に守って確実に身につける段階。


 破は他の師匠や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。


 離は1つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。


 これらについてシルバも理解しているが、今のシルバは破で伸び悩んでいるところである。


 アリエルのダーティーな戦い方は良いところだけ取り入れているが、破の段階を突破するにはまだまだ取り入れる数が足りない。


「シルバ、貴方の【村雨流格闘術】をより強い形に昇華させなさい。さっきの弐式光の型:光之太刀・斬だって、事前に新しい技を編み出せるぐらいの知識と経験があればぶっつけ本番でも成功したわ。シルバも自分の知識や経験を活かし、今ある形を壊すのよ」


「肝に銘ずるよ。でもさ、さっきのってキレたのが原因なら偶然ってことだよな? マリアですらブチギレなきゃ思いつかない技を編み出すってのは大変だぜ」


「・・・さぁ、血抜きと解体を進めるわよ!」


 言い返せない指摘を受け、マリアは即答できないから誤魔化すようにバイコーンとノーブルホースの血抜きと解体を始めた。


 シルバもマリアだけ働かせる訳にはいかないので、下手に突いてデコピンを喰らわないようにおとなしくマリアの作業を手伝った。


 ノーブルホースから取り出したのは銀魔石であり、これではバイコーンに良いようにやられるのも仕方ないとわかった。


 それと同時に、たかがシルバー級モンスターのくせに格上相手に見下そうとするノーブルホースの習性に苦笑いもした。


「さて、これで作業も終わったことだしお昼にしましょう」


「バイコーンは帰ってからアリエルやエイルと一緒に食べるまで我慢するとして、ノーブルホースはたっぷりあるから食べてみたい」


 留守番しているアリエルとエイルよりも先に、ゴールド級モンスターであるバイコーンの肉を一部とはいえ食べてしまうのは気が引けた。


 それゆえ、シルバは大量に仕留めたノーブルホースの肉を食べてみたいと告げた。


「良いんじゃない? 出先だから馬刺しとステーキぐらいしかできないけど」


「パンに挟んで即席ハンバーガーにするよ」


「シルバは本当にハンバーガーが好きよね」


「ハンバーガーなら無限に食べられる気がする」


「止めておきなさい。シルバが食べ盛りなのはわかるけど、バランス良く栄養を取らないと駄目よ」


 伊達に120年以上生きていないと思える発言を受け、シルバはマリアの言い分に頷いた。


「わかった。探索する時はちゃんと事前に作ってもらった料理も食べる」


「それが良いと思うわ。折角レイちゃんが<虚空庫ストレージ>を使えるんだし、私の<無限収納インベントリ>もあるんだから、わざわざ出先の即席料理でお腹いっぱいにする必要はないもの」


「ハンバーガーだけじゃなくてサラダとスープ、デザートにフルーツも付ければバランス良く食べられるよな」


「ハンバーガーからは離れられないのね」


 シルバはハンバーガー好きだから、どうしてもハンバーガーは外せないのだと理解してマリアはしょうがない弟子だと笑った。

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