第190話 アリエルさんや、エッジが効き過ぎじゃないかな?
ディオスに戻って来たシルバ達はハイパーミミックの死体とハーミットクラブの卵を研究部門に預け、アルケイデスに報告するべく城に向かった。
ハーミットクラブの卵はアリエルもロウもテイムしたがらなかったため、研究部門で孵化してもらうことにしたのだ。
アリエルはハーミットクラブがお目当てのモンスターではなく、レイやマリナに釣り合っているとも思っていなかったから、テイムする気はなかった。
ロウはハーミットクラブをテイムすると斥候の役割を果たすのに不都合だから、自分もテイムするのは見送ると言った。
そんな訳でワイバーン特殊小隊の従魔は引き続きレイとマリナのみである。
「ワイバーン特殊小隊諸君、ご苦労様。ハイパーミミックへの進化方法の発見とハーミットクラブの卵の奪取を成し遂げて来るとは予想外だったぞ」
「まあ、色々と都合良く進んだんですよ」
「運も実力の内さ。スーパーミミックからハイパーミミックへの進化は研究部門では成し遂げられなかったから、実現できたことに相当驚いてたな」
「レッドキャップの巣を潰してもその死体全部を持ち帰るには無理がありました。スーパーミミックの進化実験の結果を思い出して、レッド級あるいはそれと同等のモンスターの死体を与え続ければ進化するのではと閃いたので、死体処理も兼ねて実験したら進化しました」
「残念なことに帝国軍の他の戦力では大量のレッド級モンスターの死体を確保できる実力の持ち主は少ない。それが実験の結果に影響を出したか」
アルケイデスは研究部門の実験が失敗に終わったのも仕方あるまいと判断した。
今の帝国軍では1人でレッド級モンスターを倒せる実力者が100人程度で、その100人がディオスに固まっている訳ではない。
更に言えば、最近どんどん目撃されるようになったブラック級モンスターの討伐のため、その実力者達が率いる隊が合同で出征するのだ。
実力者に数えられない者達が束になって倒す程度のレッドモンスターでは、スーパーミミックを進化させるのに数が足りない。
サタンティヌス王国とトスハリ教国が要らぬちょっかいをかけて来るせいで、国内が不安定な現状のディオニシウス帝国では軍人の育成を急がねばなるまい。
それと併せて従魔の数が増えれば、強い帝国をアピールして他国に付け入る隙を与えずに済む。
「ハイパーミミックについては<
「そうだな。その検証は研究部門に引き継がせるから、シルバ達まで検証に付き合わなくて良いぞ」
「助かります。レッド級モンスターを倒すのは簡単ですけど、それを全部回収して運ぶは大変ですから」
「輸送手段もどうにか強化したいところだ。ところで、ハーミットクラブの卵は倒した希少種と同じく希少種になると思うか?」
アルケイデスはこれ以上ハイパーミミックの件で話すことはなかったため、ハーミットクラブに話題を移した。
「その可能性がないとは言いませんが、希少種から希少種が生まれるならそれはもう別種なんじゃないでしょうか?」
「それもそうか。となると、孵化の段階で何か適当な属性の
「ハーミットクラブが普段使わない属性ですね。今思ったんですが、ワイバーンもレイクサーペントも通常種は光属性を使わないので」
「わかった。そのように研究部門に伝えておこう。そうだ、シルバ達には知っといてもらいたい話があったんだ」
シルバの意見を聞いて話を切り上げると、アルケイデスは自分も話しておきたいことがあったと切り出した。
「何事でしょうか?」
「サタンティヌス王国とトスハリ教国の関係が悪化し、トスハリ教国が宣戦布告したようだ」
「アルケイデス殿下、質問してよろしいでしょうか?」
「構わんよ。アリエルは何が訊きたい?」
大嫌いな生まれ故郷だから、栄えようが滅びようが自分に影響がなければどうでも良いと思っていたはずのアリエルがアルケイデスに質問して良いか訊ねた。
アリエルの出自を把握しているから、アルケイデスはアリエルがどんな質問をしたいのか気になって許可を出した。
「王国の第一王女が帝国の売国モンスターと内通し、王国の第一王子がそれに対抗して教国と通じてたことは把握してますが、王国と教国が戦うきっかけはなんでしょうか? 第一王女が劣勢ならば、そのまま第一王子が教国と手を組んでた方が良いのではありませんか?」
売国モンスターとはモンスターに変身する過程で死んだイーサンのことであり、売国奴とはいえ一応は皇族のことをそんな風に呼んで良いのかとロウはツッコミを入れたかった。
しかし、アルケイデスの面前でツッコミを入れるなんてできないから、ロウはその気持ちを我慢した。
その一方、ロウ以外のメンバーはイーサンを害虫と同類ぐらいに思っているため、アリエルが売国モンスターと言っても当然のように聞き流していた。
「常識的に考えればアリエルの言う通りなんだが、第一王子は帝国の力を借りられない第一王女を相手取るのにこれ以上教国の力は要らないと手の平を返したらしい。それに教国がキレて戦争になったそうだ」
「他人様に迷惑をかけるしか能がない屑しかいないんですね、サタンティヌス王家は」
(アリエルさんや、エッジが効き過ぎじゃないかな?)
アリエルの気持ちは理解できるので、シルバはそう思いつつも顔に出さなかった。
「その通りだな。トスハリ教国もこの国にちょっかいをかけて来た点で友好的にはなれないが、それでも小指の爪ぐらいの同情はしてやろうと思える」
いつまでもサタンティヌス王家をdisっている訳にもいかないから、シルバは話の軌道を修正する。
「兄さんは王国で第一王女と第一王子がどうしてるか知ってるんですか?」
「密偵によれば、最初は第一王子が第一王女を追い詰めて幽閉したらしい。だが、トスハリ教国から宣戦布告されて自分だけでは太刀打ちできないと判断したのかすぐに第一王女を外に出したそうだ」
「仲が良いのか悪いのかわかりませんね。帝国の方針はどうされるのでしょうか?」
「無論、どちらの味方にもなるつもりはない。理由は2つだ。わかるか?」
全部言わなかったのはアルケイデスがシルバの賢さを試すためだ。
レイが心配そうな顔で自分の顔を見るので、大丈夫だと笑いかけながらその頭を撫でてシルバは回答する。
「1つ目の理由は、どちらかに味方してその国が勝ったとしてもいずれ敵対するからです。これは盗賊団という形で帝国を荒らした両国を信用してないことが前提ですね」
「正解だ。既にちょっかいをかけられてる以上、どちらの国も信用するに値しない。そんな国と手を結ばなければならない程今の帝国は落ちぶれちゃいないさ」
シルバが1つ目の理由を言い当てた。
アルケイデスに正解と言われてシルバは当然だと言わんばかりに得意気だった。
「2つ目ですが、帝国に他国の戦争に干渉してる余裕がないからです。派兵したり工作活動をしてる暇があるならば、割災に備えて軍人の強化や従魔の拡充に力を注ぐべきでしょう」
「その通りだ。姉貴がこっそり何か仕掛けることはあったとしても、帝国全体としてはまず軍事力を強化しなければこの先の割災を乗り越えられないだろう。だから、軍人を育成して従魔を増やすことが求められてる。それゆえ、シルバ達の働きが重要なのだ」
「そうですね。引き続き、モンスターの卵の回収ミッションに励みます。その過程で思わぬ発見があるかもしれませんが」
シルバがそう言うとアルケイデスは笑い出した。
「ハッハッハ! そうだな! むしろ多く発見してくれることを期待するぞ! シルバは帝国随一のモンスター学者だからな!」
だからこそ、アルケイデスはシルバがモンスターを相手に閃いて何かしでかしてくれることを期待しているのだ。
「毎回上手くいくとはいきませんが、モンスターと遭遇した時は注意深く観察することにしましょう」
「よろしく頼む」
報告会はこれで終わり、シルバ達は応接室を出て今日は解散した。
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