第93話 会長、なんで僕がロウ先輩の補佐なんでしょうか?

 放課後、シルバとアルは学生会室にやって来た。


 今日は2人が一番乗りらしく、まだ上級生は誰も来ていなかった。


「学生会って文化祭の時は何をやるんだろうな」


「実行委員の取りまとめじゃないかな? だから、ハワード先生が僕達を実行委員にさせなかったんだと思う」


「なるほど。そう考えるのが妥当か」


 そのタイミングでロウがやって来た。


「おっす。今日は1年コンビが早かったな。何話してたんだ?」


「文化祭期間の学生会の役割はなんだろうって話してました。ロウ先輩、実行委員の取りまとめをするのが学生会の役割ですか?」


「大体アルの認識通りだ。俺達と各クラスの実行委員が集まり、文化祭実行委員会が立ち上げられる。やることは予算配分や出し物の精査、学外への根回し等々。OBOG会とは違う感じで大変だぞ」


 ロウは去年までに自分が経験した文化祭期間のことを思い出し、遠い目をしながらアルの質問に応じた。


「クラスで実行委員がいるのはわかりましたが、クラブにも実行委員がいるんですか?」


「クラブの実行委員はクラブ長だな。つっても、クラブでの出し物は強制じゃなくて任意だ」


「それなら出し物をしないクラブもありそうですね」


「ところがどっこい、実はそうじゃないんだよな。クラブの予算には文化祭の出し物に充てる金も含まれてるんだ。今年出し物がないと来年は文化祭で使うだろう部分がまるっとカットされるから、やらない訳にはいかないんだよ」


「予算が欲しければクラブも積極的に文化祭に参加しろってことですね」


 アルが苦笑しながら言うとロウが頷いた。


「その通り。まあ、一部の例外はあるけどな。その例外が学生会と風紀クラブだ」


「学生会は実行委員会の運営があるからでしょうけど、風紀クラブは見回りでもするんですか?」


「正解。風紀クラブには俺達が楽をするためにも馬車馬の如く見回りで頑張ってもらわにゃならん。文化祭ってのは盛り上がる反面、何かとトラブルが起きやすい行事でもあるからさ」


「お祭りともなれば良からぬことを企む人も出て来るって訳ですね」


「まあな。基本的には在校生が自分の家族や友人等に招待状を送り、それを持ってる人だけが学内に入れるようにしてるんだ。でも、毎年偽の招待状を作って学内に入り込む奴が後を絶たないんだ」


 毎年なんでその手の輩が現れるかねとロウは溜息をついた。


 そこでシルバは思いついたことを口にした。


「もしかして、新入生ハンターみたいな賞金首が招待状を作ってたりします?」


「ほう、よくわかったな。贋作士がんさくしと呼ばれるそいつの正体はまだ明らかになってないから、性別も外見もわからん。毎年作ってるからなのか、どんどん偽の招待状のクオリティが上がってるんで見分けがつかなくなって来てるんだ」


「自分も学内に入ってるのか、それとも軍学校に入り込もうとしてる者を相手に商売してるのかどっちでしょうね」


「さあな。今まで捕まってないってことは、案外後者で文化祭期間に小銭を稼いでるのかもしれないぜ。前者なら子供目当ての変態かもしれんが」


 ロウがそんな風に話している時にメアリーとイェンが学生会室に入って来た。


 入って早々にイェンはロウに対して軽蔑の眼差しを向けた。


「虫、自分が子供目当ての変態って認めたの?」


「ちょっと待て。誤解を招く発言は止せ。確かに俺はメアリーちゃんを揶揄ったりしてるけど、俺にはクレアって彼女がいるんだ。その時点で年下好きってことにはならんだろ」


「・・・それもそうか」


「ロウ先輩、怪しまれて困るぐらいなら私のこと揶揄うのは止めて下さい!」


 ここぞとばかりにメアリーがいい加減止めてくれと訴えたが、ロウは渋い表情になった。


「仕方のないことなんだ。ちっちゃいメアリーちゃんを見るとこう、揶揄いたくなるんだ。クレアもそれは共感してくれた」


「なんてカップルですか! あんまりです!」


 プンスカとメアリーが頬を膨らませているとエイルが学生会室に入って来た。


「遅くなりました。メアリーはまたロウに何か言われたんですか?」


「会長、ロウ先輩がアバウトな理由で私を揶揄うんです!」


 (アバウトじゃなきゃ良いんだろうか?)


 メアリーの言い分を聞いてふと思ったけれど、それはないとシルバはその可能性をすぐに捨てた。


「ロウ、理由があれば良いとは言いませんが、そろそろメアリーを揶揄うのも止めなさい。クレアがいるのに他の女性にちょっかいを出すのは褒められた行為ではありませんよ?」


「前向きに検討するよう善処する」


「検討を善処じゃなくてそうしなさい」


「へーい」


 とりあえず返事をしたロウを見て、これ以上ガミガミ言っても仕方がないと判断したエイルは本題に入る。


「さて皆さん、明日から文化祭実行委員会を立ち上げることになります。それまでに各々の役割を確認しましょう」


 エイルはそう言って黒板にスラスラと学生会メンバーがやるべき役割を書き連ねていった。


 実行委員長は学生会長が兼任し、それ以外の役職も大抵は今の役割がスライドされる。


 役割として書かれたのは副委員長と会計、書記、委員長補佐と副委員長補佐だ。


 庶務が委員長補佐と副委員長補佐になるあたり、委員長と副委員長はどれだけ忙しいのだろうかとシルバとアルは唾をゴクリと飲み込んだ。


 ちなみに、エイルは委員長補佐にシルバの名前を書き、副委員長補佐にアルの名前を書いていた。


 これにはアルが物申したくなって手を挙げる。


「会長、なんで僕がロウ先輩の補佐なんでしょうか?」


「おい、その言い方は俺に刺さるから止めろ」


 ロウの補佐はちょっと嫌だと言いたい振りをしているが、アルの狙いはエイルとシルバをくっつけないことだ。


 アルはエイルがシルバを狙っていることを察しているため、どうにか2人きりの時間を作らないようにしたいのだ。


「副委員長と副委員長補佐は風紀クラブと同様にトラブル解消に対処してもらいます。シルバ君とアル君ではアル君の方が口が回りますから適任です」


「風紀クラブと似たような役回りならば、近接戦闘ができるシルバ君の方が適切ではないでしょうか?」


「それはそうなんですが、シルバ君を副委員長補佐にすると風紀クラブが自分達は当てにならないと思われたとプライドを傷つけることになります。アル君が弱いとは思っておりませんが、シルバ君をロウに付けるよりも摩擦が少なくなるのは確実です」


 エイルの言葉にロウも納得して頷いた。


「確かにな。目立ちまくってるシルバが俺と一緒に行けば、風紀クラブから無駄に敵視されかねない。アル、ここはおとなしく俺の補佐をしようぜ」


「アル、かわいそう。虫の補佐をさせられるなんて」


「イェンは一言多いっての」


 アルはこれ以上ごねても結果は変わらないと悟って諦めた。


 実際のところ、エイルはこの人選をする際にアルが突っかかって来ることを予想していた。


 自分がシルバに恋心を抱いてからというもの、アルが地味にシルバと自分が一緒になる機会を警戒していると感じたからだ。


 エイルの中でアルは男だけどシルバのことが好きな子という認識である。


 男同士で子供はできないのだから、シルバのことを真剣に狙っている自分に譲ってほしいと思っている。


 だからこそ、文化祭期間で自分がシルバと仲良くなれるようにエイルは彼を自分の補佐に任命した訳だ。


 あわよくば文化祭期間で告白まで持っていきたいなんて期待するエイルだが、それが上手くいくかはまだわからない。


「とりあえず、役割は決まりましたね。シルバ君、文化祭期間は私のサポートをお願いします」


「わかりました」


「ところで、皆さんのクラスの出し物は決まりましたか? 私の把握してる分と照らし合わせて被りがないか確かめたいです」


 エイルが話題を変更すると、それぞれのメンバーが自分のクラスとついでに周囲のクラスについて知っている情報を述べた。


 エイルのクラスはマッサージ屋。


 <付与術エンチャント>を用いたマッサージはエイルがシルバから学んだ技法だ。


 それをクラス内で展開し、衛生コースらしい出し物に昇華させたようだ。


 ロウのクラスは腕相撲大会。


 招待者も巻き込んで腕相撲の実力No.1を決める。


 メアリーのクラスは喫茶店。


 会計コースと支援コースは合同で出し物をやるクラスも少なくなく、メアリーのクラスも同学年の支援コースと合同らしい。


 イェンのクラスは荷運び選手権。


 荷物を持って障害物を躱しながら競争する出し物であり、腕相撲大会同様に招待者を巻き込んで勝負し、チャレンジャーが勝てば商品を出すそうだ。


 その他のクラスについても情報が集まったが、B1-1のようにジャガイモ料理専門店はなかった。


 (これなら問題なくジャガイモ料理を披露できそうだ)


 シルバは各クラスの出し物リストを見てホッとした。

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