第94話 よっしゃ! 完全無敵なグーの勝利だぜ!

 翌日の放課後、軍学校の会議室には学生会と各クラブのクラブ長、全学年の実行委員が集まっていた。


「全員揃ったようなので、これより第88回ディオニシウス軍学校文化祭の実行委員会のキックオフミーティングを始めます」


 エイルが話し始めた時には会議室が静かになっており、限られた時間内で終わるように会議が進む。


「まずは全員の自己紹介から済ませましょう。私が今回の文化祭実行委員長を務めるH5-1のエイル=オファニムです。よろしくお願いします」


「副委員長を務めるB5-1のロウ=ガルガリンだ。よろしく」


「会計のメアリーです。F4-1に所属してます。よろしくお願いします」


「S3-1のイェンです。書記を担当します。よろしくお願いします」


「委員長補佐を務めるB1-1のシルバです。よろしくお願いします」


「副委員長補佐を務めるB1-1のアルです。よろしくお願いします」


 学生会メンバーの自己紹介が終わると風紀クラブのクラブ長がその後に続く。


「風紀クラブの部長を務めるB5-1のヤクモだ。風紀クラブ念願の贋作士の逮捕並びに軍学校の治安維持に全力を尽くそう。よろしく頼む」


「調合研究クラブの部長のクレア=オファニムです。H5-1に所属してます。よろしくお願いします」


 ヤクモとクレアに続いて座った席の順番に各クラブのクラブ長が自己紹介し、その後に5年生のクラスの実行委員が自己紹介のバトンを繋いだ。


「ありがとうございました。では、早速それぞれがどんな出し物をするか確認しましょう。シルバ君とアル君、リストを配って下さい」


「「はい」」


 エイルに頼まれてシルバとアルはリストを手に取り、テキパキとリストを参加者に回していく。


 全員に行き届いたリストは2枚になっており、1枚目には以下のように出し物が記されていた。



 ・失伝道具アーティファクト研究クラブ:失伝道具アーティファクトに関する考察報告会

 ・鍛冶研究クラブ:作品展示会

 ・筋肉トレーニングクラブ:ボディービルコンテスト

 ・サバイバルクラブ:たった独りでも生き残れる生存術報告会

 ・スキル研究クラブ:スキルの会得と習熟に関する考察報告会

 ・商業研究クラブ:売上1位の出し物を当てまSHOW

 ・戦術研究クラブ:はぐれモンスターを効率的に倒すための討論会

 ・ダンスクラブ:ダンスコンテスト

 ・調合研究クラブ:調合体験教室

 ・読書クラブ:ソムリエが選ぶ貴方の一冊

 ・農業研究クラブ:巨大野菜グランプリ

 ・決闘バトルクラブ:No.1決定戦(トーナメント形式)

 ・魔法道具マジックアイテム研究クラブ:魔法道具マジックアイテム作成体験教室

 ・モンスター研究クラブ:モンスターの生態に関する発表報告会

 ・遊戯クラブ:オリジナルゲーム体験会

 ・料理開発クラブ:携帯食料開発コンテスト

 ・歴史研究クラブ:軍学校建設秘話報告会(演劇)



 (報告会は聞いてる途中で眠くなりそうだ。体験型とか盛り上がるやつが良いな)


 シルバは1枚目の各クラブの出し物を見てそんな感想を抱いた。


 それからすぐに2枚目の各クラスの出し物は以下の通りだ。



 ・B5-1:腕相撲大会

 ・B5-2:縄跳び選手権

 ・B5-3:健康体操教室

    ・

    ・

    ・

 ・H5-1:マッサージ屋

 ・H5-2:よくわかる応急手当講座

    ・

    ・

    ・

 ・F4-1&S4-1:執事・メイド喫茶

 ・F4-2&S4-2:僕達私達のステーキ

 ・F4-3&F4-3:焼き玉蜀黍屋

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    ・

    ・

 ・S3-1:荷運び選手権

 ・S3-2:梱包の達人

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    ・

    ・ 

 ・B1-1:じゃがいもの可能性

 ・B1-2:反復横跳びダービー

 ・B1-3:腕立て伏せ選手権

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    ・

    ・

 ・F1-1&S1-1:フレッシュメンハンバーガー

 ・F1-2&S1-2:串焼き屋

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    ・

    ・

 ・T1-1:リバーシチャンピオンシップ

 ・T1-2:インテリジェンスディベート



 (B1-1、浮いてないか?)


 メアリー達のクラスが地味に執事・メイド喫茶だったことにツッコみたい気持ちもあったが、戦闘コースが思ったよりも体験型の出し物を選んだせいでシルバは自分のクラスが浮いているように思えた。


 もっとも、出し物は既に決まっているから今更変えようがないのだが。


 大前提として、基本的にクラスの出し物が優先とは言いつつもどうしてもクラブを優先してしまう学生もいる。


 そういった学生は高学年の割合が多い。


 これはクラブの主役が高学年であることが要因である。


 その反面、低学年はクラブの出し物では雑用がメインになってしまうため、自分達が主役になれるクラスの出し物に力を入れる学生が多いのだ。


 シルバのクラスの場合、自分達が主役になりたいというのもそうだが、学年毎の最優秀賞を狙っている。


 そう考えると他の1年生のクラスよりも気合の入り方が違うのではなかろうか。


 (パッと見てライバルはジーナとサリーのフレッシュメンハンバーガーだな)


 ジーナとサリーは実行委員であり、今この場にもちゃんと参加している。


 シルバ達の出し物は目新しさという点でアドバンテージがあるけれど、商売慣れという点ではジーナとサリー率いる出し物の方が有利だ。


 シルバはF1-1とS1-1という明確なライバルの動きには注意すべきとヨーキに伝え忘れないようにせねばと思った。


 各団体の出し物の確認が終わると、場所の割り当てについての話し合いが始まる。


 基本的にはそれぞれの教室やクラブ室を使うことになっているが、出し物の種類によっては与えられた場所では不十分なケースもある。


 それゆえ、どこで出し物をしたいのかこの場でそれぞれの意見を回収するのだ。


「筋肉トレーニングクラブは講堂を希望します!」


「ダンスクラブは講堂を希望します!」


「歴史研究クラブは講堂を希望します!」


 その瞬間、筋肉トレーニングクラブのクラブ長とダンスクラブのクラブ長の視線がぶつかって火花が散った。


 しかし、喧嘩になる前にエイルが割って入った。


「落ち着いて下さい。どちらのクラブも一日中パフォーマンスをする訳ではありませんよね? まあ、講堂を使いたいと考えてるのは2つのクラブだけではないようですから、時間制にさせてもらいます」


 エイルが1団体あたり準備と発表を含めて90分という制限時間を設け、それからシフトが組まれた。


 希望する時間帯が被ったらじゃんけんで決め、講堂を使用したい者達の争いはシルバが想定しているよりもずっとおとなしい決着を迎えた。


失伝道具アーティファクト研究クラブは図書室を希望します!」


「サバイバルクラブは図書室を希望します!」


「読書クラブは図書室を希望します!」


 それ以外にも図書室を希望するクラブは多かった。


 どのクラブもクラブ室はあるのだが、図書室の方が在校生にもその家族や友人にも知られているため、そちらを使った方が集客できるのだ。


 図書室については講堂よりも使用したい団体数が多かったため、1団体あたりすべてひっくるめて1時間となった。


 グラウンドの使用は決闘バトルクラブと戦闘コースの一部のクラスが場所を分けて使うことが決まり、後は屋台をやろうとしているクラスの場所決めだ。


 喫茶店や体験型の出し物はクラスの教室を使うことになっているが、屋台については屋外でも教室でも好きな方を使っても良い。


 屋台をやる場合、集客のことを考えると外でやった方が良いからポジション取りが大事なのだ。


 学生や招待客の動線から離れた場所になってしまうと、一学年の最優秀賞を狙うのが厳しくなる。


 各クラスの実行委員は来るべき勝負じゃんけんに向け、それぞれ思い思いの必勝祈願を行う。


「屋台の場所については私とのじゃんけんに勝った人から好きな場所を選んでもらいます。あいこと負けは手を降ろし、勝った人だけがじゃんけんを続行して下さい」


 ジーナとサリーのクラスは共同でやるため、ジーナがじゃんけんに参加するらしい。


 周囲を見渡して準備ができたことを確認してからエイルは口を開く。


「最初はグー、じゃんけん、ポン!」


 ヨーキとジーナはチョキを出し、エイルはパーを出した。


 一戦目はヨーキもジーナも勝った。


「じゃんけん、ポン!」


 二戦目はヨーキとジーナがパーを出し、エイルはグーを出してどちらも勝利した。


 この時点で残っているのはヨーキとジーナだけになり、ラストは一騎打ちになった。


「「最初はグー、じゃんけん、ポン!」」


 ヨーキがグーを出してジーナはチョキを出したことにより、場所取り勝負はヨーキに軍配が上がった。


「よっしゃ! 完全無敵なグーの勝利だぜ!」


 (ヨーキ、決勝以外ではチョキもパーも出してたぞ)


 シルバは敢えて口には出さなかったが、心の中ではしっかりツッコんだ。


 そして、場所取りはそのままサクサクと決まり、注意事項の読み合わせと最優秀賞の説明を最後に行ってからキックオフミーティングは終了した。

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