第3章 拳者の弟子、クラブ活動を選択する

第31話 そうだけどそうじゃない

 新人戦の次の日は体を癒すために休日と定められており、シルバ達がB1-1の教室に集まったのはその次の日だった。


 昼休み明けのこの時間、ポールは午前中よりも気だるげである。


「よーし、全員揃ってるなー。今日から1年生に対するクラブ活動の勧誘期間が始まるぞー。入らないって選択肢は認められてないからどこかしらにちゃんと入れよー」


 (面倒だから入らないって選択肢も考えたけど、先に封じられちゃったか)


 座学と実技の授業以外は自由時間だったため、シルバはその時間を使って日々のトレーニングを行っていた。


 そのトレーニングの時間が失われるのは困るので、シルバとしてはどのクラブにも入らないということも考えた。


 ところが、ポールにその選択肢を事前に潰されてしまったので使うことができない。


 シルバは仕方なく配られたクラブ活動のリストに目を通した。



 ・失伝道具アーティファクト研究クラブ

 ・鍛冶研究クラブ

 ・筋肉トレーニングクラブ

 ・拳者研究クラブ

 ・サバイバルクラブ

 ・スキル研究クラブ

 ・商業研究クラブ

 ・戦術研究クラブ

 ・ダンスクラブ

 ・調合研究クラブ

 ・読書クラブ

 ・農業研究クラブ

 ・決闘バトルクラブ

 ・風紀クラブ

 ・魔法道具マジックアイテム研究クラブ

 ・モンスター研究クラブ

 ・遊戯クラブ

 ・料理開発クラブ

 ・歴史研究クラブ

 ・学生会



 19のクラブと1つの運営組織が今の軍学校には存在する。


 失伝道具アーティファクト研究クラブは文字通り失伝道具アーティファクトを研究クラブである。


 それに似て非なる活動をしているのが魔法道具マジックアイテム研究クラブだ。


 元々は魔法道具マジックアイテム研究クラブが母体だったのだが、失伝道具アーティファクトだけを研究したい学生が集まって失伝道具アーティファクト研究クラブを発足した。


 魔法道具マジックアイテム研究クラブは実際に魔法道具マジックアイテムを作成する機会もあるが、失伝道具アーティファクト研究クラブでは失伝道具アーティファクトを調べるか目撃証言があればフィールドワークを行う。


 筋肉トレーニングクラブとダンスクラブ、読書クラブ、遊戯クラブは下校時刻まで好きなように筋トレとダンス、読書、遊戯を楽しむクラブだ。


 座学や実技で疲れた放課後ぐらい気分転換で趣味を楽しみたいと思う者達が入るクラブであり、少なくない学生が在籍している。


 鍛冶研究クラブや調合研究クラブ、農業研究クラブ、料理開発は生産活動とレシピ作成をメインに行うクラブである。


 偶にクラブ活動中に役立つ発見があり、それが帝国内に広まっていくケースもある。


 拳者研究クラブとモンスター研究クラブ、歴史研究クラブは史実や記録を調べて発表する学術的なクラブであり、スキル研究クラブはどのようにしてスキルを会得するのか実践しながら研究するクラブだ。


 スキル研究クラブには在籍していなくとも他のクラブの学生が意見を求めて足を運ぶこともある。


 サバイバルクラブは野外活動をメインに行うクラブである。


 軍学校卒業後にフィールドワークを行うことが多い戦闘コースと支援コースの学生が同程度の割合で在籍している。


 商業研究クラブは会計コースの学生ばかりであり、戦術研究クラブも戦術コースの学生ばかりが在籍する。


 それに対して決闘バトルクラブだが、戦闘コースだけでなく一部の支援コースと衛生コースの学生が自衛のために在籍していることもある。


 残りの2つは毛色が違う。


 風紀クラブは軍学校内の風紀を取り締まるクラブだ。


 校内行事の運営や各クラブの取りまとめを行うのが学生会であり、風紀クラブは学生会の代わりに校内を取り締まる役割を担っている。


「リストだけ渡して選べってのも無理がある。だから、2年生以上の学生が今からクラブ説明会でそれぞれのクラブを紹介する。つー訳で今から講堂に移動するぞー」


 シルバ達はポールに連れられて講堂へと移動した。


 講堂には他のクラスの1年生達も集められており、どんなクラブだろうかと楽しみにしている学生達の声で賑わっていた。


 シルバ達が着席してからしばらくの間は講堂内で話し声があちこちで聞こえていたが、校長ジャンヌの姿が壇上に見えた途端にピタッと止まった。


「これより1年生に向けたクラブ説明会を開催する! 上級生諸君、今日がクラブにとっての大きな転換点だ! 悔いの残らないように最高のパフォーマンスを見せろ! 以上だ!」


 力強い開会宣言を手短に済ませたジャンヌは教師達が集まる席に移動した。


 ジャンヌと入れ替わるように壇上に出て来たのはジャンヌをそのまま学生にしたような女子学生だった。


「1年生の皆さん、私はH5-1に所属する学生会長のエイル=オファニムです。本日は皆さんの学校生活を大きく左右するクラブ説明を行います。どんなクラブが自分に合うかしっかりと見極めましょう」


 (校長の顔で丁寧な口調って違和感しかない)


 エイルがジャンヌの娘であることは有名だから、シルバはジャンヌとエイルを比較して違和感を抱いた。


 どちらも堂々と話すところは変わらないが、口調が人の上に立つ者を意識したものと柔らかく優しい印象を与えるものでは全くの別物と言えよう。


「まずは学生会から案内させていただきます。学生会は現在、会長の私と副会長、会計、書記の4人で学校行事を運営しております。私が選挙で当選してから4人で回して来ましたが、1年生が入学して状況も変わって来たことから庶務を1~2人採用するつもりです。自分が軍学校を支えたいと思う方は学生会室まで来て下さい。よろしくお願いします」


 エイルは最初に学生会の説明を行った。


 これは学生会がクラブ説明会を取り仕切る役得のようなものだ。


 どのようなジャンルにおいても最初の発表というものは聴衆の印象に残りやすい。


 それを利用して最初に発表する権利を行使するあたり、エイルも優しそうなだけではないのだろう。


 シルバの隣に座っていたアルがシルバに話しかける。


「シルバ君、どう思う?」


「あの顔で丁寧語は違和感の塊」


「そうだけどそうじゃない」


 アルは自分が訊いているのはそれじゃないとシルバにジト目を向けた。


 シルバもわかっていてわざとそう言ったので冗談だと謝ってから自分の意見を述べる。


「俺とアルでも迎え入れようって考えじゃないかな? 目が合ったし」


「やっぱり? 僕もなんとなくエイル会長がシルバ君を見てた気がしたんだ」


「学生会室に行くかどうかは他のクラブの紹介を聞いてから決めようぜ」


「そうだね」


 シルバとアルが頷き合った後、エイルが風紀クラブの代表者にバトンタッチした。


「風紀クラブのクラブ長を務めるヤクモだ。B5-1に在籍してる。人が集まれば賑やかになる。それ自体は大いに結構だ。だが、困ったことに人が集まったせいで気が大きくなり、残念なことに羽目を外す者も出て来てしまう。そういった学生を取り締まるのが風紀クラブの役目だ。風紀クラブには強い者しか入れない。だから、入りたければ強さを示すように。以上だ」


 (ヤクモって人の方が校長と喋り方似てるな。どうでもいいことだけど)


 シルバはヤクモのプレゼンを聞いてそのようなことを考えていた。


 風紀クラブに興味がなかったからこそそう考えているのであり、風紀クラブに興味がある学生は風紀クラブになんとしてでも入ってやると気合を入れているようだ。


 風紀クラブの後は失伝道具アーティファクト研究クラブから順番に紹介が行われた。


失伝道具アーティファクト研究クラブです。私達と一緒に数少ない失伝道具アーティファクトというロマンを調べませんか?」


「鍛冶研究クラブだ! 鉄は熱いうちに打て! オリジナル武器を打ちたいって1年生は大歓迎だ!」


「筋肉トレーニングクラブの紹介を始める! 筋肉は良いぞぉ! 鍛えた分だけ成長するからな! 見ろやこの筋肉!」


「キレてる! キレてるよ!」


「ナイスバルク!」


「デカいよ! 他が見えない!」


 (この声はどこから?)


 制服を脱ぎ捨ててポージングを始める筋肉トレーニングクラブの代表者に対し、講堂内のあちこちから掛け声が聞こえる。


 どうやら筋肉トレーニングクラブの部員を配置して声を出させていたらしい。


「シルバ君、筋トレが好きでもこのクラブにだけは入らないで」


「アル?」


「お願い」


「安心しろ。他人と筋トレの疲れと達成感を分かち合うことに興味ないから」


「良かった」


 アルが真剣な表情で筋肉トレーニングクラブだけは駄目と訴えるので、シルバはアルを安心させるようにはっきりと筋肉トレーニングクラブには入らない旨を伝えた。


 本気でホッとしている様子から、アルはシルバが筋肉ムキムキで黒光りした姿になってほしくないのだろう。


 クラブ説明会はまだまだ続く。

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