第30話 そんなもんあったら俺が知りたい

 新人戦個人の部が終わって夕方になり、職員室には各コースの教師達がコースの1学年ごとに職員会議を開くことになっていた。


 新人戦における学生達の成長ぶりについて報告し合うためだ。


 戦闘コースは教師陣に加えて先程シルバと戦ったソッドの姿もあり、B1-2の担任教師がポールに声をかける。


「ハワード先生、私達も会議を始めましょう」


「そんじゃやるか。まずは昨日今日とお疲れさん。新人戦を終えて報告すべきことをそれぞれ報告してくれ。5組から頼む」


「わかりました。5組ですが、ペアの部も個人の部も下剋上精神が強過ぎて予選の段階でがっつき過ぎでした。以上です」


「4組も同じです。初日も2日目も予選でB1-1を意識し過ぎてました。冷静に判断を下せた者がいなかったのは残念でした。以上です」


「3組も4組と5組と同じです。一足飛びに1組を倒しに行くのではなく、まずは2組を倒すという考えがありませんでしたね。2組の学生に上手く乗せられてしまったのかもしれませんが。以上です」


「2組は1組に勝つために3~5組に同盟を持ちかけました。過去にも似たケースがあったようですが、今年は例年に比べてその打診のタイミングが早かったようです。残念ながら、綿密な作戦を立てる段階までには至りませんでしたのでどの予選でも1組の学生にあっさりやられてしまいました。以上です」


 5組から2組まで順番にてきぱきと報告が行われ、残すはポールの報告だけである。


「最後は1組だな。シルバとアルがやっぱり目立った。ソラとリクの双子が予想外の健闘をしてみせた。以上」


「「「「雑過ぎます! どう考えても1組はもっと報告すべき内容があるでしょう!?」」」」


 ポールは他のクラスの担任の教師陣からもっと詳しく報告してほしいとツッコミを受けた。


「ハワード先輩は相変わらずですね」


 ソッドはポールの報告ならこんなものだろうと予測していたのか苦笑していた。


 仕方がないので4人の教師が順番に質問することになった。


「ハワード先生、アル君について質問があります。アル君の<詠唱省略スペルスキップ>は後天的に会得したものでしょうか?」


「そう聞いてる。先天的に使えたのは<火魔法ファイアマジック>と<土魔法アースマジック>だけだそうだ」


「アル君は<詠唱省略スペルスキップ>を後天的に会得するために何か秘策はあるって言ってませんでした?」


「そんなもんあったら俺が知りたい」


「アル君が披露した戦術はハワード先生が教えたんですか?」


「いや、俺は何も教えてないぞ。なかなか俺好みの作戦だったから感心してたぐらいだ」


 ポールにとって落とし穴や目を見張る戦略だった。


 楽をして敵の戦略を削ぐのはポールにとって有益な内容なので、ハワードは時間のある時にアルに訊ねるつもりである。


 ソッドもうんうんと頷いた。


「確かにあれなら1対多数の戦闘ができますし、こっちの世界に紛れ込んだゴブリンを討伐するのに使えそうな戦術でした」


「ソッド、お前さん若いんだからそう焦らさんな。先日のゴブリンの集落壊滅戦で俺と同じ能天使級パワーになったんだろ? ここから先は昇進すればするだけ自由時間が減るだけだぞ」


「別に急いでる訳じゃないですよ。今回はシルバ君が教えてくれたゴブリンの目撃情報を基に動いたら、ゴブリンの集落があっただけです」


「シルバも生き急ぎ過ぎだよなぁ。そんなにポンポン昇進したら目を付けられて大変なのに」


「派閥争いなんてくだらないことをしてる場合じゃないと思いますが、そうは思わない人が多くて残念です」


 ポールもソッドもやれやれと首を振った。


 人は集団になると派閥を作る生き物だ。


 軍隊でも派閥があり、そのせいで一部実力と相違した役職に就いている者もいる。


 シルバの通う軍学校も同じであり、高学年の学生であれば有望な者は自派閥に取り込もうと各派閥がスカウトをすることも珍しくない。


 既にシルバは注目の的になっているため、各派閥のスカウトがいつシルバに声をかけてもおかしくない。


 話が脱線してしまったが、B1-2の担任教師が軌道修正に入った。


「昇進のことはさておき、シルバ君の話も聞かせて下さい。彼はいくつの属性を使えるんですか?」


「水と氷、雷、光の4属性だ。ただし<付与術エンチャント>しか使えないらしい」


「シルバ君の戦い方は実に面白いですよ。1年生とエキシビションマッチであんなに戦うとは思ってませんでした」


「そりゃ良かったな。つーか校長が止めなかったらソッドはどこまでやる気だったよ?」


「どこまでもやったんじゃないですかね? 正直、エキシビションマッチが楽し過ぎて止められるまで何も考えてませんでした」


「おい。シルバは同学年の中ではずば抜けてるだけでまだ1年生なんだぞ?」


「面目ないです」


 ポールはソッドにジト目を向けた。


 ソッドは軍人として正しいマインドを持っているが、守るべき帝都の民に迷惑が出ない範囲で好戦的でもある。


 ポールもかつてはソッドからちょくちょく模擬戦しようと声をかけられることがあったので、シルバが同じ目に遭うのはかわいそうだと思ったのだ。


「ハワード先生、私も質問です。シルバ君は<格闘術マーシャルアーツ>と<付与術エンチャント>以外に使えるスキルがあるんでしょうか?」


「わからん。本人に聞いたことがないからな。ただ、今日の決勝トーナメントでヨーキの鞘を扱ったのは<剣術ソードアーツ>じゃないぞ」


「<剣術ソードアーツ>なしで<剣術ソードアーツ>に渡り合えるのはすごいですよね。彼、手や脚から斬撃を飛ばしてました」


「あれって純粋な<格闘術マーシャルアーツ>じゃないですよね? 複合スキルですか?」


「シルバ曰く【村雨流格闘術】らしい」


 ポールはシルバに複合スキルの名前を聞いた時に教わったまま伝えた。


「そんな複合スキルは聞いたことないですね。彼のオリジナルですか?」


「いや、師匠がいるんだとよ。師匠から教わったって聞いた」


「その師匠はどんな人なんでしょうか? ハワード先生、何か聞いてます?」


「知らんな。シルバに一度だけ師匠について訊いたことがあるんだが、遠い目をして表現に困ってた。シルバがその師匠の英才教育を受けてたのは間違いないがそれ以上はわからん」


 そんな話をしているところに校長ジャンヌが合流した。


「校長、お疲れ様です」


「オファニム先生、お疲れ様です」


「「「「校長先生!? お疲れ様です!」」」」


 ポールとソッドが頭を下げると、他4人も慌てて頭を下げた。


「ソッド、今日は時間を取ってもらってすまなかったな」


「いえいえ。恩師の依頼とあらば引き受けない訳にはいきません。それにシルバ君と戦えると思って楽しみにしてましたから」


「そうか。それならば良かった。シルバ相手に楽しんでたようだしな」


「シルバ君が強くなったら再戦したいです。彼も強くなったら挑んでくれると言ってましたから」


「良い刺激を与え合うことができるなら好きにしろ」


「ありがとうございます!」


 ジャンヌとソッドの関係性だが、ソッドが軍学校に通っていた頃にジャンヌが空き時間を見つけては稽古をつけていた間柄だ。


 ソッドは上級生同期下級生問わず戦うのに丁度良い相手がおらず、戦闘コースの教師陣すら打ち負かしてしまう学生だった。


 そんなソッドが力を持て余してグレてしまわないようにジャンヌが時間を見つけて稽古をつけていた訳である。


 だからこそ、ソッドはジャンヌを恩師と仰いでいる。


「ハワード、報告会は順調か?」


「概ねシルバとアルの話だけですが質疑応答の形で行いました」


「なるほど。とりあえず、新人戦が終わったことで1年生はクラブ活動が解禁されることになる。毎年大小問わずトラブルが起きてるようだから気を付けるように。今年はシルバを巡って大きなトラブルが起こる可能性があるから未然に防ぐよう心掛けろ」


「かしこまりました」


「「「「はい!」」」」


「よろしい。では先に失礼する」


 ジャンヌは職員室から校長室へと戻っていった。


「ハワード先輩、シルバ君はオファニム先生にも気に入られてるようですね」


「みたいだな。校長はシルバから俺達の想像もつかないような何かを聞いてる。それが何かわからないし調べようとも思わないが、シルバに何かあったら校長の拳骨が落ちるかもしれん」


「あの拳骨痛いですよね」


「受けたことないから知らん。校長の拳骨喰らってよく無事だったな」


「無事じゃなかったです。二度と受けたくないですよ」


「そうかー」


 ソッドが遠い目をしていたのでポールはそれ以上話を深掘りしなかった。


 報告会はジャンヌの登場と質問切れによってお開きとなった。

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