第32話 おのれヨーキめ。余計なこと言うなよ

 筋肉トレーニングクラブのパフォーマンスの後も上級生によるクラブ紹介は白熱した。


「拳者研究クラブです! 拳者の偉業を調べて発表しています! 今年は拳者の戦闘を再現するのに必要なスキルを調査中です!」


 (ごめん、それ知ってる)


 シルバは研究するまでもなく【村雨流格闘術】をマリアから直接学んでいる。


 マリアがこちらの世界でどんな功績を積み上げて来たのか気にならないではないが、今年の研究テーマに魅力を感じないのは仕方のないことだろう。


「サバイバルクラブです! 割災に巻き込まれて異界に遭難しても生き残れるよう鍛えてます! さあ、みんなでサバイバルしよう!」


 (割災で異界に行って帰って来たから間に合ってる)


 拳者研究クラブに続いて紹介したサバイバルクラブについても、シルバからすれば既に経験しているから目新しさがない。


 仮にシルバが入部したならば、部員はシルバの知識を学んで成長できるかもしれないがシルバにメリットはほとんどないだろう。


「スキル研究クラブです! スキルを組み合わせてオリジナル技を編み出したい方は必見です!」


「オリジナル技かぁ・・・」


 アルがスキル研究クラブの紹介を聞いて興味を示していたので、シルバはアルに声をかけてみた。


「アルはオリジナル技に興味があるのか?」


「うん。シルバ君の【村雨流格闘術】みたいにすごい技を編み出したいんだ」


「なるほど。でもさ、多くの部員の前でオリジナル技を開発してたらすぐに対策されるんじゃないか?」


「それは嫌かも。完成させた時には対策されてるんじゃ意味がないもん」


 シルバの指摘を受け、アルはスキル研究クラブへの興味を失った。


 シルバとアルが話している間にもクラブ紹介は次々に行われていく。


「商業研究クラブや! お金を稼ぎたいならウチに来るんやで! がっぽがっぽ儲けるために頭を使うんがウチのクラブや!」


「戦術研究クラブです! 仮想敵国との戦争や割災時のモンスターとの戦闘に備え、ありとあらゆる戦術を練る活動に興味はありませんか!? 目指せ作戦参謀!」


「ダンスクラブです。社交界でトップを目指すべく、日々踊りの技術を磨いております」


 (特に興味ないな)


 紹介された3つのクラブを否定するつもりはないが、自分が求めているものではなかったのでシルバはいずれのクラブにも興味を示さなかった。


 それよりも次に紹介されるクラブに興味を示していたと言っても良い。


「1年生の皆さんこんにちは。私はH5-1に所属するクレア=オファニムです。調合研究クラブについて紹介します。傷を治す薬や風邪に聞く薬、野営で使う薬等あらゆる薬を作ります。材料費は学校持ちですから、衛生コース以外の学生も興味がある方は私まで声をかけて下さい」


 (調合か。マリアも必要な薬は自分で作れって言ってたよな)


 クレアの紹介を聞いてシルバはマリアからの教えを思い出した。


 異界に薬屋があるはずなく、必要ならば自分で作るしかなかった。


 異界から戻って来た今、薬を買おうと思えば店で買える。


 しかし、薬は総じて高いのが問題だ。


 異界から戻って来てちょくちょく稼いでいるが、孤児院での生活がお金の大切さをシルバに叩き込んでいた。


 材料費を軍学校が補助してくれるならば、自分の財布からお金を出さずとも薬を作れる。


 これはシルバにとって魅力的だった。


 シルバが考え込んでいる姿を見て、アルがシルバに話しかける。


「シルバ君、調合研究クラブに興味あるの?」


「あるぞ。薬は大事だからな」


「そうなんだ。入るの?」


「まだ候補だけどな。一応全部の説明を聞いてから決める」


「そっか」


 アルはシルバの言い分を聞いて頷いた。


 まだどこに入るか決めていない以上、今は他のクラブの説明をしっかり聞くべきだと納得したらしい。


「読書クラブです。軍学校の保有する本の数は帝都でも有数です。貴重な本を読みたい方は読書クラブにお越し下さい」


「農業研究クラブです! 国民が飢えない作物の品種改良に取り組んでます! 食糧の生産に興味がある方は僕に会いに来て下さい!」


決闘バトルクラブだ! 対人戦の実力を磨きたい者は来い! 切磋琢磨して軍学校最強を目指そうぜ!」


 (対人戦、ねぇ・・・)


「あれ、シルバ君は決闘バトルクラブに興味ないの?」


「ない訳じゃないけど、対人戦だけ鍛えてもなって思ってさ」


「割災が起きた時のことを想定してるの?」


「正解。モンスターがいざ尋常に勝負なんて言ってくれると思う?」


「・・・思わない」


 異界での戦闘経験があるシルバの発言から、アルはモンスターが正々堂々と勝負してくれるとは限らないのだろうと察した。


「対人戦ならソッドさんが付き合ってくれそうだし、決闘バトルクラブはパスしようかな」


「そうだったね。シルバ君ってばソッドさんに気に入られてるもんね」


「幸か不幸かわからんけどな。アルは入らないのか?」


 シルバはアルがどのクラブに興味を持っているのかいまいちわからなかったので、このタイミングでその疑問をぶつけてみた。


「僕はシルバ君と一緒のクラブに入るから」


「主体性持てよ」


「一緒に行動してくれないといざって時に困るでしょ?」


「そうだった」


 アルが男装している訳を知っているのはシルバだけなので、アルはもしものことがあった時のためにシルバと同じクラブを選ぶつもりらしい。


 アルは接近戦こそ得意ではないが、シルバに続いて学年2位の頭脳の持ち主である。


 それゆえ、大抵のことはこなせるのでシルバと同じクラブを選んでも問題ないと考えたようだ。


 アルの意向が分かったため、シルバは再度クラブ紹介に意識を傾けた。


魔法道具マジックアイテム研究クラブです! 魔法道具マジックアイテムを作成する機会もあります! 魔法道具マジックアイテム好き必見の物も保有してるので気軽に遊びに来て下さい!」


「モンスター研究クラブです! 災厄の発生やモンスターの習性に関する研究を行ってます! 卒業後に異界関連の業務で活躍したい学生は来なきゃ損です!」


 シルバは魔法道具マジックアイテムとモンスターについて興味があったため、調合研究クラブと同じぐらい真剣に話を聞いていた。


 そんなシルバの横顔を見て、アルはこの2つのクラブも加入候補だろうと判断した。


「遊戯クラブだ! 学業は学業! 遊びは遊び! 割り切ってやるからこそ最高のパフォーマンスを発揮できるってもんだ! 俺とデュエルしようぜ!」


「料理開発クラブです! 農業研究クラブと共同で新たな料理も開発してます! 勿論チャレンジメニューも開発してます! 食糧生産に向いてなくても料理は好きって人は気軽に参加して下さい!」


「歴史研究クラブです! 故きを温ねて新しきを知ると拳者様は言いました! 全く持ってその通りです! 歴史という知識を積み重ねて自分の力にしましょう!」


 (料理開発クラブは気になるけど、チャレンジメニューって響きが不安だ)


 シルバの持論だが、メシマズになる原因は余計な工夫をすることである。


 余計な一手間のせいでそれまで美味しくできていた料理を台無しにしてしまった経験があるから、何ができるかわからない料理開発クラブはシルバの加入候補に挙がらなかった。


 全てのクラブの紹介が終わると、1年生がクラスごとに担任の先生に連れられて講堂を出て行った。


 ポールはB1-1に戻ってきたところで、解散する前に連絡事項を伝達する。


「よーし、全員クラブ紹介は聞いてたなー。繰り返しになるが、1年生に対するクラブ活動の勧誘期間が今日から始まる。入らないって選択肢は認められてないからどこかしらにちゃんと入れよー。んじゃ、今日は解散」


 それだけ言ってポールは教室を出て行った。


 ポールがいなくなった教室は騒がしくなる。


 クラスメイトがどのクラブに入るのかみんな興味津々なのだ。


「何処入るよ?」


決闘バトルクラブかな」


「何でもありなら風紀クラブの方が強いんじゃない?」


「ロマンを求めて失伝道具アーティファクト研究ってのもありでは?」


「シルバはどうするんだ?」


 クラスメイトから質問されたシルバは隠す必要がないので正直に話す。


「今のところ、調合研究クラブか魔法道具マジックアイテムクラブ、モンスター研究クラブで悩んでる」


決闘バトルクラブや風紀クラブにしないの?」


「戦いたきゃ授業中に戦うし、強くなりたいならソッドさんと戦えばその方が効率的だ」


「なるほどなー。でも、シルバなら学生会から声がかかるんじゃね?」


 そんなフラグをヨーキが立てた瞬間、B1-1に学生会長のエイルがやって来た。


「シルバ君、アル君、学生会の見学に来ませんか?」


 (おのれヨーキめ。余計なこと言うなよ)


 ヨーキが立てたフラグは即座に回収された。

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