第33話 先輩最低です
学生会長のエイルがわざわざB1-1に来た以上、結構ですと断るのは悪手だ。
マリアから頼れる仲間を見つけろと書かれていることを考慮すれば、軍学校において学生会と繋がりがあって損することはないだろう。
調合研究クラブや
気になるならば明日以降に見学すれば良いだけの話だ。
シルバはそのように考えをまとめて頷いた。
「わかりました。アルはどうする?」
「行きます」
アルにはシルバが行くのに行かない選択肢なんて存在しない。
シルバが行くと言った時点でアルも行くと決めていた。
「それは良かったです。では、早速参りましょうか」
「「はい」」
シルバとアルはエイルに連れられて学生会室へと向かう。
学生会長という誰からも一目置かれる存在に連れ歩かれれば、当然のことだがシルバとアルが目立つ。
学生達のひそひそがやがやとした声はシルバ達が学生会室に入るまでずっと聞こえた。
学生会室は奥の窓際に学生会長の机があり、そこから手前に向かって横向きに副会長と会計の机、書記と無人の席、距離が離れているが学生会長と向かい合うように無人の席が配置されている。
既に副会長と会計、書記の3人は揃っており、エイルが学生会室に入った瞬間に立ち上がった。
「エイル、無事に連れて来れたんだな」
「「おかえりなさい」」
「ただいま戻りました。断られないか心配でしたが、断られずに来てもらえました。早速ですが、この2人に自己紹介して下さい」
エイルがそう言うと背が高いバンダナをした男子学生から名乗り出した。
「俺は副会長のロウ。B5-1に在籍する
「ロウ先輩ですね。武器はトンファーを使ってるんですか?」
「へぇ、新入生1号はトンファーを知ってるのか。マイナーな武器を使ってる自覚はあるが、まさか知ってるとはね」
「俺の師匠が武器は一通り使いこなせるんで少しかじっただけです。俺もできなくはありませんが素手が一番楽です」
「なるほどねぇ。時間が合えばトンファー教えてやろうか?」
「よろしくお願いします」
マリアから【村雨流格闘術】を習うので精一杯だったため、シルバの認識では自分の武器の扱いはまだまだだと思っている。
実際のところ、それでも同学年の学生よりも武器の扱いは長けているのだが、今まで比較していたマリアの印象が強過ぎて自信がないのだ。
「ロウ、シルバ君がトンファーを知ってるからといってはしゃぎ過ぎです。まだ全員の紹介が終わってないのでそれ以上は後にして下さい」
「へーい」
ロウはエイルに注意されておとなしく引き下がった。
次に口を開いたのは茶髪のサイドテールが良く似合う背の低い女子学生だった。
「こんにちは。私はF4-1のメアリー、会計よ。階級は
メアリーは自分が4年生であることを強調した。
身長が低いことを気にしているらしい。
シルバもアルもそれに気づいたから敢えて何も言わなかったが、ロウはメアリーの自己紹介を聞いてニコニコしながら口を開く。
「大丈夫だってメアリーちゃん。ちっちゃいけど胸はあるから」
「先輩最低です」
「ロウ、その発言はこの場では不適切です」
「死んだ方が良い」
発言が一番辛辣だった女子学生はダークブラウンの髪を前下がりボブにしており、メアリーよりも背が高かったがスレンダーな体型だった。
学生会は今まで男子:女子が1:3だったため、ロウが余計なことを言っては女子3人にジト目を向けられていたのだろうとシルバ達は悟った。
「最後は私。書記を務めるイェンよ。S3-1に所属してる。メアリー先輩と同じく
3人のメンバーが自己紹介をすると、エイルももう一度自己紹介し始めた。
「改めて私も自己紹介しますね。学生会長のエイル=オファニムです。H5-1に在籍する
エイルの自己紹介は事前によく質問されるであろう内容を先取りしていた。
オファニムという苗字から校長とクレアとの関係性を問われることが多いのである。
毎回質問されるのも面倒だから、エイルは自己紹介で質問を潰した訳だ。
エイル達学生会のメンバーが自己紹介をすれば、シルバ達も自己紹介をしない訳にはいかない。
「B1-1のシルバです。新人戦で
「同じくB1-1のアルです。新人戦で
顔合わせが終わると、エイルが学生会の活動について説明を始める。
「学生会は学生の取りまとめや各種行事の運営、先生方のサポートを行う組織です。クラブ説明会でも言いましたが、自分が軍学校を支えたいと思う方にとってはこれ以上ない組織です。軍学校の学生は卒業後、必ず軍に配置されます。その際に学生会の経験は必ず活きますから入って損はありません」
「そうだぞ。学生会のOBOGとコネがあるから、配属先について多少の融通が利く。学生会の仕事はぶっちゃけ雑用だけど、そういった点で見返りがあるから入って損はないぜ」
「・・・ロウ、身も蓋もない言い方は止めて下さい。なんでそう生々しく言うんですか」
「こーいうのははっきりとメリットを提示すべきだ。そうじゃなきゃミスマッチになって早期退会するんだよ。去年みたいにな」
ロウの反論を受けてエイルは何も言えなくなった。
本当は昨年エイルが学生会長になった時に庶務として組閣した2年生がいたのだが、その学生は学生会の仕事を勘違いして入会した結果、辛くなって長続きせずに辞めた。
今年は最大2名入会させようとしているのも、どちらか一方が辞めても良いようにという目論見があってのことだったりする。
(要は何を優先するかだな)
シルバはエイルとロウの言い合いを聞いてそのように判断した。
学生時代に苦労して軍に上がった時に楽をするか、学生時代にやりたいことを優先して軍に上がった時に身を流れに任せるかの二択である。
どうせ軍学校に入ったならば、シルバは学生時代を有意義に過ごしたいと考えている。
それゆえ、シルバは率直にエイルに訊ねてみることにした。
「会長、庶務の業務内容と業務量はどれぐらいでしょうか?」
「おっ、良いね。シルバはわかってるな。庶務の仕事は」
「ロウ、私から話すから黙ってて下さい」
「へーい」
ロウにこれ以上喋らせてはいけないと判断し、エイルはロウを黙らせた。
ロウもエイルと意見が合わずとも喧嘩をするつもりはないのでおとなしく指示に従う。
「庶務の業務内容は書類整理や作成、各役職のサポートがメインです。校内の巡回は風紀クラブの担当ですから、基本的にはデスクワークを行ってもらうことになります」
「1日当たり何枚ぐらいの書類の対応をするんですか?」
「繁忙期だと30枚ぐらいで普段は10枚ぐらいです。もっとも、関係各所から回って来る書類もありますから、あくまで目安としか言えませんが」
(俺とアルの2人で対応すればその半分で済むけど、自分の書類を仕上げたから後は自由時間とはならないよな?)
シルバは加入するかどうかを真剣に悩んだ。
学生会加入によって将来受ける恩恵は悪くないが、それでこれから先の学生生活の放課後をデスクワークで終わらせたくないからである。
シルバが何かに引っかかっていることを察し、エイルはそれが何か突き止めるために声をかける。
「シルバ君やアル君には何かやりたいことがあるのですか?」
「俺は調合研究クラブや
「僕も同じです」
「モンスター研究クラブなら戦闘コースの学生もいますが、調合研究クラブや
エイルはシルバとアルの目の付け所が戦闘コースの学生とは違うと思った。
それはロウ達も同じようであり、ロウは面白いと笑っており、メアリーとイェンは目を丸くしていた。
しかし、入試の成績で主席と次席の2人を逃がしたくないエイルはある決断をした。
「それであれば、私から各クラブの部長に研究内容の閲覧許可を取り付けることを約束しましょう。また、調合や
エイルはシルバとアルを学生会に迎え入れるために動くことにしたらしい。
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