第327話 ちょっと宣戦布告された国の都に隕石を落としたぐらいですよ

 マリア・ティファーナチームが東側からドヴェルグの街を襲撃し始めた頃、反対の西側からエイルとマリナ、ファフニールが襲撃していた。


 ファフニールの<属性吐息エレメントブレス>は火のブレスであり、瞬く間に岩の壁をドロドロに溶かしてみせた。


 マグマは街中に広がっていき、ドヴェルグ達が悲鳴を上げる。


「あり得なぁぁぁぁぁい!」


「マグマ・・・だと・・・!?」


「死ぬのは嫌だ! 死ぬのは嫌だ!」


 マグマは家の壁を飲み込むように広がり、壁に近い家にいる者達はあっという間に溶かされて死んだ。


 そんな中、エイル達はマグマが流れ込んだ途端に家の屋根に飛び乗り、マグマに飲まれずに済んだ家の屋根まで後退したモンスターを見つけていた。


 それは雌の山羊のような見た目だが、サイズは馬に劣らないぐらいある。


『ヘイズルーンじゃねえか。あいつは殺すの勿体ねえぞ』


 ファフニールはヘイズルーンを知っているようだが、マジフォンのモンスター図鑑機能にはヘイズルーンの情報が出て来ない。


 つまり、マリアはヘイズルーンと遭遇したことはないのだ。


 そう判断してエイルはファフニールに訊ねる。


「ファフニールさん、ヘイズルーンとはどのようなモンスターなんでしょうか?」


『あいつの乳は美味い蜜酒なんだ。昔はそこそこ数がいたんだが、今は絶滅寸前だぜ。お前等、あいつのことを飼って定期的に蜜酒を分けてくれないか?』


「それには生け捕りが必須条件ですが可能ですか? ついでに言えば、洗脳されてるようですけどそれを解けるでしょうか?」


『シルバとレイがユルングと戦った時、ボコボコに痛めつけた終盤で洗脳が解けてた。おそらく、強い感情で染められると洗脳が解けるんだろうよ。それなら、俺にだってできらぁ』


 ファフニールは伊達に竜王を名乗っていない。


 シルバとレイがユルングと戦っていた時、少しでも何か見落とすことのないようにしっかりと観察していた。


 そして、ユルングが最後は怒りのままに反撃していただけであることを見抜いていた。


 別にユルングの洗脳が解けていようと助けるつもりはなかったから、あの場では止めなかったファフニールだが、ヘイズルーンの蜜酒は飲んでみたいから洗脳を解いて保護しようと考えた訳である。


『トスハリ様の街になんてことを』


『黙れ小娘! 喰らうぞ!』


 ファフニールが声を荒げた瞬間、ファフニールからヘイズルーンに向けて<竜威圧ドラゴンプレッシャー>が放たれた。


 その余波で近くにいたエイルとマリナは空気がピリピリするのを感じているけれど、ヘイズルーンはプレッシャーを一身に受けて恐怖した。


 ファフニールへの恐怖でヘイズルーンの心は染め上げられ、ヘイズルーンは立っていられなくなった。


 ペタンと座り込んでしまった今、ヘイズルーンの戦意はすっかり折れており、恐怖のせいで体が震えている。


『エイルとマリナ、ここから先はお前等の出番だ。俺は割り当てられた区画を焼いて来るから、ヘイズルーンのことを任せた』


「わかりました。マリナ、行きましょう」


『了解です』


 ファフニールは自分がいればヘイズルーンを懐柔できないと判断し、マグマが広がっていない辺りに<属性吐息エレメントブレス>を放って燃やす作業に移る。


 エイルとマリナは腰が抜けてしまったヘイズルーンに近づき、<治癒キュア>でヘイズルーンを治療した。


 恐慌状態から助けられたヘイズルーンはゆっくりと立ち上がって頭を下げる。


『竜王に食べられるところを助けて下さりありがとうございました』


「いえいえ。貴女は操られてたのですが、その認識はありますか?」


『あります。私が私でないような感覚に囚われてましたので。ですが、竜王のおかげと言いますか、竜王のせいで正気に戻りました。もっとも、トラウマ級の恐怖までセットで付いてきましたが』


「私達が穏便に助けられれば良かったのですが、その手段がなかったんです。ごめんなさい」


 エイルは自分の力が及ばなかったことを謝ったが、ヘイズルーンはとんでもないと首を横に振った。


『私が弱かったのが悪いのです。ところで、私は竜王に囚われることになったのでしょうか?』


「そんなことはありませんよ。私達と一緒に来てもらいます。ファフニールさんに食べられることはありませんから安心して下さい」


『そうですか。それなら安心ですね。お世話になります』


 エイルの優しさはヘイズルーンに安心感を与え、ヘイズルーンはおとなしくエイル達に付いて来ることに同意した。


 余談だが、担当していた区画を焼き払って来たファフニールを見て、ヘイズルーンが気絶してしまったため、マリナがヘイズルーンを光鎖ライトチェーンで自分の体に縛り付けて運搬することになった。


◆◆◆◆◆


 時は四方からの強襲開始のタイミングまで遡る。


 アリエルとリトはリンドブルムの背中に乗り、ドヴェルグの街の北側から強襲を開始した。


「うん、壊し甲斐のありそうな街だね」


 アリエルはそんなことを言いながら爆発エクスプロージョンで岩の壁を粉砕した。


 リトもそれに合わせて爆発エクスプロージョンを使っていたようで、爆発の規模は通常の爆発エクスプロージョンの比ではない。


 凄まじい爆発音が起きれば、建物の中にいたドヴェルグ達が何事なのかと不安になって出て来る。


 彼等が外に出て来て最初に見たものは、リンドブルムの背中に乗るアリエルとリトの姿だった。


「アイエエエ!? アリエル!? アリエルナンデ!?」


「デーモンよりデーモンらしいイカレ女じゃないか!?」


「トスハリ様、何故我等にこのような試練をお与えになるのですか!?」


 言いたい放題なドヴェルグ達を見て、リンドブルムはアリエルに訊ねる。


『一体何をしたらこんな反応になるんだ?』


「ちょっと宣戦布告された国の都に隕石を落としたぐらいですよ」


『それはちょっとでは済まないのでは?』


 リンドブルムの言い分は正しい。


 彼はファフニールがガンガンアクセルを踏むタイプなので、それに対して冷静にブレーキを踏めるタイプのドラゴンだ。


 だからこそ、アリエルの容赦のないやり方にツッコミを入れられた。


 そんなリンドブルムに対してアリエルは母親が子供を諭すような目を向けて応じる。


「僕はね、害虫は根絶やしにするべきだと思ってるんだ。与える慈悲はないよ」


 そう言いながら、アリエルは隕石メテオを発動した。


 リトは声をかけられていなくても、アリエルが隕石メテオを発動した時には既に重力グラビティを発動しており、アリエルとリトの重力隕石グラビティメテオが街の北部をクレーターに変えた。


「魔法陣も機能できなくしたし、一石二鳥だね。リト、お疲れ様」


『エッヘン』


 リトはアリエルにモフられつつもドヤ顔だった。


 そこに鷲の巨人とも呼ぶべき存在が街の中心部からやって来た。


 マジフォンのモンスター図鑑機能を見てみたけれど、アリエルは敵の情報を閲覧できなかった。


「該当なしか。ってことは、マリアさんも見たことのないモンスターって訳だね」


『あいつは弱者嬲りで有名なフレースヴェルグだ。自分よりも強い相手の前には決して現れないはずなんだが・・・』


「その口ぶりからして、僕達の前に現れるような強さじゃないんだね?」


『まあな。一応、お主達の言うところのレインボー級モンスターなんだが、私の知る限りではリトよりちょっと強い程度だ。私がお主達と共にいる時点で現れるはずないんだがな』


 リンドブルムはフレースヴェルグが自分達の前に姿を現したことに驚いていた。


 臆病者で自分より弱い相手ばかり倒して来たにもかかわらず、自分よりも強い相手の前に姿を現すなんて正気を失っているとしか思えないのである。


「それが洗脳ってことじゃないですかね。リト、やっちゃって」


『うん!』


 警戒心が薄れているならば効くかもしれないと思い、アリエルはリトに<石化眼ペトリファイズアイ>を使うように指示した。


 勿論、<念話テレパシー>が使えるだろう相手を前にスキル名は言わないけれど、リトはアリエルの意図を正確に読み取って<石化眼ペトリファイズアイ

を発動した。


 格上相手なので失敗するかもしれないと思っていたけれど、アリエルの予想は外れてフレースヴェルグの体が端の方から徐々に石化し始めた。


「ありゃ? 効いちゃったよ。リンドブルムさん、あいつの動きが鈍るだろうからやっちゃって下さい」


『わかった』


 ツッコミを入れたい気持ちはあったけれど、そんなことよりも作戦の遂行の方が優先度は高い。


 リンドブルムは<属性吐息エレメントブレス>で氷のブレスを放ち、動きの鈍ったフレースヴェルグを一撃で仕留めてみせた。


『リンドブルムおじちゃん強いね』


『おじちゃん!? オホン、失礼。生まれて数年のリトからすればおじちゃんと呼ばれても仕方ないか』


 リトの発言でリンドブルムが予期せぬ精神的ダメージを負ったが、アリエルチームも自分達のやるべきことをきっちりと成し遂げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る