第328話 アンコールが聞こえたからサービスだよ

 他のチームがドヴェルグの街を攻撃し始めた時、シルバ達も街の南側から攻撃を開始していた。


「放てぇぇぇ!」


 シルバの合図を聞き、レイとファフニール配下のドラゴン達が<属性吐息エレメントブレス>で南側の壁を破壊した。


 それどころか、壁の向こうにあった建物や地面に刻まれた魔法陣も消し飛ばした。


 魔法陣は一部でも欠ければ起動しないので、今度は転移魔法陣が起動して何処かに転移させられることもないだろう。


『ご主人、モンスターの群れが来るよ』


「モンスターの群れを飼うとは驚いた。どんだけ洗脳してるんだか」


『群れのリーダーだけ洗脳して、そいつに統率させてるのかもよ?』


「なるほど。その手があったか」


 シルバとレイがそんな風に話していると、瓦礫を避けて体に青白い分岐線の浮かび上がった黒い巨狼がワーウルフの群れを従えてやって来た。


 先頭のモンスターの情報がわかれば儲けものなんて思い、シルバはマジフォンのモンスター図鑑機能で調べてみた。



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名前:なし 種族:マーナガルム

性別:雌  ランク:レインボー

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HP:S

MP:S

STR:S

VIT:S

DEX:S

AGI:S

INT:S

LUK:S

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スキル:<闇魔法ダークマジック><氷魔法アイスマジック><恐怖咆哮テラーハウリング

    <破壊爪デストロイネイル><破壊噛デストロイバイト><付与術エンチャント

    <念話テレパシー><全半減ディバインオール><自動再生オートリジェネ

状態:洗脳

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 (調べられたってことは、マリアが同族もしくはこいつと戦ったことある訳か)


 シルバはマーナガルムの情報を確認しつつ、モンスター図鑑機能でマジフォンに情報が表示された意味を理解した。


「お前、マリアから逃げた個体か?」


『逃げた? それは違う。戦略的撤退だ。そして、妾はトスハリ様の力を得てリベンジするのだ』


 適当に言って情報を引き出そうとしたら、シルバはいきなり当たりを引いてしまった。


 手間が省けて良かったと思う反面、マリアに勝てないと尻尾を撒いて逃げた奴じゃ自分の敵としては物足りないと感じた。


 そうは言ってもここで無駄な時間を費やしている暇はないから、シルバは同行しているドラゴン達に指示を出す。


「ワーウルフごと街を焼いてくれ。俺とレイはマーナガルムを倒す」


 ドラゴン達は頷いて散開し、<属性吐息エレメントブレス>でワーウルフを巻き込みながら街を火の海に変えていった。


 ドヴェルグ達の悲鳴が聞こえるけれど、それは気に留める者でもないのでシルバとレイはマーナガルムの動きを見逃さないように注意する。


『パワーアップした妾の強さを思い知らせてやる!』


 マーナガルムは闇付与ダークエンチャントから素早く<破壊爪デストロイ>でシルバを攻撃した。


「伍式闇の型:妲己尾冒」


 マーナガルムから放たれた闇の斬撃は、シルバが体の前に両手で作った三角形に吸収された。


 そのエネルギーが闇の尻尾に変換され、シルバの尾骶骨から4本の尻尾が生えた。


『くっ、あんな良い雄が近くにいたなんて』


 マーナガルムは雌なので、伍式闇の型:妲己尾冒にコロッと魅了されてしまったらしい。


 それがレイにとって不快だったから、隙だらけのマーナガルムに反撃する。


『ご主人を雌犬になんてあげない!』


 レイは窒息領域サファケイトフィールドを発動してマーナガルムを窒息させた。


 シルバにデレデレだったマーナガルムは反応が遅れてしまい、窒息領域サファケイトフィールドの効果範囲から脱出し遅れた。


 それでもレインボー級モンスターなので、シルバは念には念を入れてとどめを刺す。


「弐式闇の型:闇之太刀」


 威力の増した闇の斬撃がマーナガルムの首を刎ね、マーナガルムはドサッと音を立てて地面に倒れた。


 周囲に隠れた敵がいないことを確認した後、シルバはレイのことを労う。


「レイ、ナイスフォローだったぞ」


『でしょ? ご主人の従魔はレイだけなんだからね』


「よしよし。わかってるって。もしもマーナガルムが媚びて来ても、俺は助けたりしなかったから安心してくれ。そんなことより虹魔石だ」


『うん!』


 倒したマーナガルムのことなんて置いといて、シルバはマーナガルムから虹魔石を取り出してレイに与えた。


 それにより、レイの<透明百腕ハンドレッドアームズ>が<透明千腕サウザンドアームズ>に上書きされた。


 レイのパワーアップが済んだ頃には、街の南部は瓦礫と火の海になっており、めぼしい戦利品だけパパっと回収した後にシルバ達は街の中心にある立派な教会まで移動した。


 前回は教会らしき建物と仮定していたけれど、結界で守られている現状から教会だと断定した。


 一番乗りはエイルチームであり、マリアチーム、アリエルチーム、シルバチームの順番で到着した。


「シルバ君達が担当した南側は予想通りに敵が多かった?」


「そうだな。マーナガルムがワーウルフの群れを率いてて若干時間がかかった」


「マーナガルム? あぁ、あの負け犬ね」


 アリエルとシルバの会話を聞き、マリアはマーナガルムを記憶と照らし合わせて負け犬として覚えていたことを明かした。


 レイにしろマリアにしろ、マーナガルムは仮にも狼なのだが狼扱いするつもりはないようだ。


「マーナガルムの話は別に良いよ。それよりもエイル、マリナの背中に縛ってるのは何?」


「ヘイズルーンです。ミルクの代わりに蜜酒を出してくれるらしいですよ。ファフニールさんがモンスターファームで飼って、定期的に蜜酒をくれないかと言ってたのでとりあえず捕まえました」


 それを聞いてマリアがギロリとファフニールを睨む。


「ねえ、ファフニール。私の家族にそんな一方的な注文をするとは良い度胸ね?」


『話せばわかる! ヘイズルーンの蜜酒は美味いんだ! エイルとマリナだけじゃ倒せないから、俺が洗脳を解いてヘイズルーンに自ら俺達と来たいと言うように仕向けたんだ。俺もちゃんと仕事はしたぞ!』


 まだ目的を完全に達成していないというのに、マリアと戦闘する訳にはいかない。


 だからこそ、ファフニールはマリアに必死に弁解した。


 シルバはマリアを落ち着かせるべく口を開く。


「マリア、落ち着いて。ウノの移籍で便宜を図ってもらったんだし、ヘイズルーンの捕獲に力を借りたんだから、ファフニールに蜜酒を上げても良いんじゃない?」


「・・・シルバがそう言うなら仕方ないわね。ファフニール、シルバに感謝しなさい」


『お、おう。シルバ、ありがとな。割とマジで』


 シルバのおかげで無駄で体力も気力も消耗する戦闘をせずに済んだため、ファフニールは本気でシルバに感謝した。


 それから、シルバ達は結界で守られている教会に対処することにした。


 前回ここに来た時は展開されていなかった結界があるということは、ドヴェルグの中でも権力のある者達はこの教会に引き籠っているのだろう。


 彼等は教会の中から魔法陣の罠でシルバ達をどうにかしようとしたようだが、四方からの同時強襲は想定外だったのでシルバ達を追い払うことはできなかった。


 この時点で教会にいる者達は計画が狂っており、今頃屋内でガタガタ震えているだろう。


「ここは僕とリトがやるよ。みんな離れててね」


 アリエルがそう言った瞬間、シルバ達は彼女が何をするつもりなのか察して距離を取った。


 その予想は当たっており、アリエルとリトの合体技である重力隕石グラビティメテオが教会の結界に衝突した。


 一撃で結界はバキバキに罅割れてしまい、リトが追加で重力グラビティを発動したら結界が壊れた。


 それを見てティファーナがボソリと言う。


「アリエルさんとリトさんだけで終わりそうですね」


「アンコールが聞こえたからサービスだよ」


 ティファーナの呟きをアリエルの耳が拾っており、教会に向かってもう一度重力隕石グラビティが落ちた。


 結界のない教会なんてただの石造りの建物なので、重力隕石グラビティメテオによって教会だった場所にクレーターができていた。


 そのクレーターの中には地下へ続く階段だけが残っており、生物の気配探知に長けたシルバとマリアは地下に誰かがいるのを捕捉した。


「アリエルもリトもお疲れ。多分、アリエルの隕石メテオを警戒して地下に閉じ籠ってるようだ。高い所にいたら危険だって思ったんだろ」


「まったく、重力隕石グラビティメテオで逝っておけば手間が省けたのに」


 アリエルが不満そうにするのでシルバが宥めていると、ファフニールがシルバに話しかける。


『シルバよ、俺達のサイズじゃ地下には入れない。俺達は万が一に備えてここで見張っておくってことで良いか?』


「そうしてもらえると助かる。ここから先はムラサメ家だけで行くよ。あっ、申し訳ないがウノはここで待機しててくれ。それとヘイズルーンの監視も頼む」


『わかった。気を付けて』


 ウノは<収縮シュリンク>が使えないから留守番することになり、それ以外の従魔組は<収縮シュリンク>で小さくなってシルバ達と共に地下に続く階段へと進んだ。

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