第326話 焼き払え!

 1週間後、シルバはムラサメ家全員でクワナ基地までやって来た。


 政務の都合をつけ、ファフニール達ともどうやってドヴェルグの街を攻め落とすのか相談した結果、1週間が経ってしまったのだ。


 ちなみに、ティファーナの従魔となったウノについては、ファフニールからあっさり移籍が認められた。


 それが自分に近いドラゴンなら首を縦に振らなかっただろうが、配下のワイバーンはそこそこ数がいる。


 レイに負けを認めてティファーナの従魔になると言うのなら、親としてはレイの戦力が増えて安心だと考えているようだ。


 クワナ基地の外にはファフニールとリンドブルムをはじめとするドラゴンの群れが待っていた。


 壮観な眺めだったから、1枚だけ写真を撮ってからシルバ達は外で待つファフニール達と合流する。


『よう、待ってたぜ』


「まだ集合時間の10分前じゃん。いつからいたんだよ?」


『時間なんてチマチマ数えねえからわかんねえよ』


『竜王様が討ち入りだと張り切っておりましたので、朝食後すぐにここに来ました』


『リンドブルム、余計なことを言うんじゃねえ』


『失礼しました』


 ファフニールは恥ずかしそうにリンドブルムを注意した。


 シルバはやれやれと首を振る。


「気合が入ってるのは良いけど、作戦中は予定外のことをしないでくれよ?」


『わかってるさ。つーか、今日の作戦を考えたのはリトを抱いてる嬢ちゃんなんだろ? 考えることがエグイな』


 (作戦のエグさは竜王のお墨付きか。流石はアリエル)


 シルバ達がドヴェルグの街を攻める作戦だが、簡単に説明するなら4チームによる四方からの同時攻撃だ。


 シルバとレイ、アリエルとリト、エイルとマリナ、マリアとティファーナとウノの4チームに分かれ、そこにファフニール達が分かれて同行する。


 ファフニールは戦力的に不安なエイルとマリナと行動を共にする。


 リンドブルムはアリエルとリトが飛べないから、移動手段も兼ねて共に行動する。


 それ以外のドラゴン達はシルバチームとマリアチームに半々で分かれて同行する。


 どうして四方から同時攻撃するのかだが、それは前回の侵攻でシルバ達が転移魔法陣で退けられてしまったからだ。


 1ヶ所に集まって攻撃すれば、敵に一網打尽にされる可能性がある。


 だとしたら、戦力を分散して四方から攻撃すれば、どのチームを転移させるか迷わせることもできるから同時に攻撃した方が良いとアリエルは考えた。


 エリュシカでトスハリ教国の教都に隕石を降らせた時も、ワイバーンと共にドヴェルグの街を襲撃した時もシルバ達は1ヶ所に固まって攻撃した。


 二度あることは三度あるなんて言葉がある通り、ドヴェルグ達もシルバ達にまた襲撃されるであろうことは予想しているはずだ。


 その対策をするだろうと考え、更に裏をかくのがアリエルの作戦だった。


 戦力の逐次投入は愚かなことだが、ファフニール達の力を借りて同時攻撃かつ強力な戦力に四方から攻められれば、大抵の軍は思うように戦えず潰されてしまうだろう。


 シルバ達は早速4チームに分かれ、目的地まで別々に飛んで行った。


 道中の連絡はマジフォンの掲示板機能を使うため、4チームが一緒に行動する必要はないのだ。


 ウノはマリアとティファーナを乗せて飛んでいる。


 移籍が無事に認められたウノだが、実はこの1週間で進化した。


 進化先の種族はレイと同じくニーズヘッグだったが、ウノは元々が通常種だったので白い鱗の希少種にはなれなかった。


 希少種になるには孵化した時から希少種でなければならないから、そうなるのも当然である。


 進化して強くなったウノだが、進化前と違ってマリアを背中の上に乗せられるようになった。


 マリアを怖いと思う気持ちは変わらないけれど、彼女がティファーナと一緒に自分の背中に乗ることで、ティファーナの安全が約束されたと思えば気持ちが楽になった。


 それに加え、ティファーナに従うきっかけとなったレイが堂々とマリアに接しているのだから、その後輩たる自分がいつまでもビクビクしてはいられないとも思ったようだ。


 もっとも、マリアに撫でられるとまだ体が強張ってしまうのだが、それぐらいは大目に見てほしい。


「私達はドヴェルグの街を東側から攻めるのよね」


「その通りです。一番危険な南はシルバ様が引き受けて下さいましたから」


「あの子もかなり男前になったわねぇ」


「そうなんですか? 私はシルバ様との付き合いが一番短いので、昔のシルバ様を知りません」


「小さい頃なんてそりゃもう可愛かったわ」


「詳しく聞かせて下さい」


 女性陣がシルバの雑談をしている時、ウノや追従するドラゴン達は決戦前にこんな雰囲気で大丈夫なのだろうかと思った。


 しかし、緊張していて攻撃開始時に期待されたパフォーマンスができないのはいただけないから、女性陣ぐらいリラックスしておくべくなのだと思い直した。


 それからしばらく時間が経過し、マリア達は持ち場に到着した。


 四方からの同時強襲ということで、全チームが足並みを揃えなければ効果が薄れてしまう。


 だからこそ、マジフォンの掲示板でタイミングを合わせて強襲を行う。


 そのタイミングがシルバの合図で来たので、マリアは口を開く。


「突撃!」


『了解!』


 進化して<念話テレパシー>も会得したウノが先陣を務め、その後ろにファフニールから借り受けたドラゴン達が付いていく。


 そして、ウノ達の<属性吐息エレメントブレス>がドヴェルグの街の東側の壁を破壊する。


 壁はあっさり壊れ、刻み直したであろう岩のドームの魔法陣が発動する前にマリア達は街の中に侵入した。


 ところが、マリア達の行く手を阻むように待ち受けている存在がいた。


 太陽のように輝く怪鳥である。


「ヴィゾフニルね。まさか、こいつまで洗脳されてるとは」


「知ってるんですかマリアさん?」


「過去にタフさを売りにして私に襲い掛かって来たけど、敵わないとわかって逃げ出した雑魚よ」


「雑魚なんですか。それなら問題ありませんね」


 いや、ちょっと待てとドラゴン達は心の中で突っ込んだ。


 異界カリュシエにいる強いモンスターは彼等もちゃんと記憶しており、ヴィゾフニルはレインボー級モンスターであると理解している。


 間違っても雑魚扱いにはならないのだが、常軌を逸する程強いマリアと人生の大半を軟禁されていて常識知らずなティファーナの会話では彼等との認識がズレている。


『トスハリ様がくれた力、思い知るが良い!』


 ヴィゾフニルはトスハリの存在を信じており、それどころかトスハリに力を与えてもらったと信じて<爆轟デトネーション>を発動した。


 だが、自分が立体的に仕掛けた魔力爆弾が爆発したと思いきや、それらが静かに1ヶ所に集まっていくのを見てヴィゾフニルは言葉を失う。


「伍式火の型:合炎・じゅう


 爆発音と熱、その衝撃が全てマリアに吸収されていき、それに比例するようにマリアの力が高まっていく。


「レーヴァテインはないけど、最高火力で仕留めてあげる。陸式火の型:一輝火征」


 ヴィゾフニルは北欧神話において、レーヴァテインでしか殺せないと言われている。


 それゆえ、マリアはレーヴァテインの代わりに自身が放てる最高火力の火属性の技を放った訳だ。


 白炎の巨槍がヴィゾフニルを貫き、ヴィゾフニルはドサリと音を立てて墜落した。


 それを空を駆けて<無限収納インベントリ>に回収し、マリアはウノの背中の上に戻る。


 攻撃し終えてから3秒で全てを終え、ウノの背中に戻って来たマリアにドラゴン達の戦慄は止まらない。


 そんな中、マイペースなティファーナがマリアに声をかける。


「流石はマリアさん。お見事です」


「これぐらい大したことないわ。さあ、私達に与えられた役割を果たすわよ」


「はい」


 戦闘中にこれ以上雑談をする訳にもいかないので、マリアは気持ちを切り替えてドラゴン達に号令をかける。


「焼き払え!」


 マリアがそう言った瞬間、ウノやドラゴン達が<属性吐息エレメントブレス>を地上に向かって一斉に発射した。


「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁ!」


「トスハリ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 阿鼻叫喚と呼ぶべき景色が広がるが、マリアもティファーナも心を痛めたりしなかった。


 甘い気持ちでドヴェルグ達に生き残りが出ては後で困るし、地上を破壊しておけば魔法陣もまともに機能しなくなるからである。


 ドヴェルグの街の東ブロックは火と瓦礫の海になり、マリアの索敵には誰も引っかからなかった。


「ミッションコンプリートね。次のステップに進みましょう」


「わかりました。ウノ、お願いします」


『承知した』


 マリア達はその場に留まることなく、ドヴェルグの街の中心部へと向かった。

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