第325話 アタシ、参上っ
シルバとレイの関係を羨ましく思うファフニールだが、竜王としての立場があるのでいつまでも表情を緩めてはいられない。
ファフニールは顔を引き締めてからマリアに話しかける。
『マリア、今日は不気味な野郎共と敵対するお前達から話を聞くために呼んだんだ。あいつ等について何か知ってるんだろ?』
「全てはわからないけど知ってることなら話すわ。あいつ等はドヴェルグっていう人型種族よ。元々はエリュシカのトスハリ教国に住む人間だったんだけど、何らかの手段で
『そのトスハリ教国ってのはマリア達の敵か?』
「敵ね。ついでに言うと、私を故郷から無理矢理引き離してエリュシカに召喚したのもあいつ等」
それを聞いて両脇に並んでいたドラゴン達がざわつく。
なんと余計なことをとか、命知らずめなんて口にしており、マリアに見られてすぐに黙り込んだ。
口は災いの元という言葉を知らないのかとシルバはツッコミを入れたくなったが、今は余計なことを言うべき時ではないから静かにしていた。
『ドヴェルグって奴等は面倒な連中なんだ。リンドブルム、あいつを連れて来い』
『かしこまりました』
ファフニールに指示されてリンドブルムはこの場から飛んで行った。
少し経ってから、リンドブルムは虹色の鱗に覆われた大蛇を足で掴んで戻って来た。
『おまたせしました。ユルングを連れて来ました』
『ご苦労。マリアよ、今はこいつを眠らせてるからおとなしいが、起きたら面倒なんだ』
「どういうことよ? その口ぶりからして暴れるってだけじゃないの?」
『ただ暴れるぐらいなら可愛いもんだ。問題なのはこいつが操られてることだ』
(急にキナ臭くなって来たじゃん)
シルバはそんなことをする心当たりが1つしか思い浮かばなかった。
レイもマリアも同様のようだ。
「「『ドヴェルグ』」」
シルバ達の声がシンクロした。
『お前達もそう思うか。このユルングは元々一匹狼で他者と群れず、自分以外は全て敵だと暴れ回るような奴だった。それがトスハリ様万歳と譫言のように言い出して暴れ回るものだから原因が知りたくてな』
「また魔法陣じゃないか? 首輪もないし」
『レイもそう思う』
「ドヴェルグ達ならあり得るわね」
シルバの考えにレイとマリアも賛同した。
『魔法陣か。確かそこのワイバーンの報告によれば、落雷のトラップと岩のドームの魔法陣もあったそうだな。あぁ、一番大事なのは転移魔法陣か』
「その通りよ。他にも英雄召喚陣とかいう最低な魔法陣も転生前にドヴェルグ達が使ってたわ」
『なるほど。俺は
「その話、答えるのは私じゃないわ。代表はシルバだもの」
マリアはファフニールの問いに対して首を横に振った。
自分はあくまでも師匠ポジションであり、メインで対応するのはシルバだと思っているからである。
ファフニールもマリアが何を言いたいのか理解したから、シルバの方を向いた。
『シルバ、俺達と協力してドヴェルグの街を潰してくれ』
「わかった。でも、良いのか? マリアの強さはわかってるけど俺の強さは知らんだろう? それにレイの強さも知りたくないか?」
『そうだな。であればそのユルングと戦え。どの道、そいつは倒さにゃならん段階まで頭をやられてるから俺達の代わりに倒してみてくれ』
ファフニールはシルバとレイにユルングを倒してほしいと依頼した。
そうすれば、シルバもレイもここに集まったドラゴン達に自分達の実力を披露できる。
マリアの恐ろしさはわかっていたとしても、シルバとレイの実力を知る者はワイバーンしかいないのだから、ドラゴン達にとって未知数と表現しても過言ではない。
ということで、シルバとレイはリンドブルムの案内でドラゴン達が模擬戦をする場所まで移動した。
シルバとレイが並んで待機していると、ユルングがリンドブルムに起こされて昇天の合っていない目をしながら譫言を言い出す。
『トスハリ様万歳』
(こいつはヤバいぜ)
シルバはすぐにマジフォンのモンスター図鑑機能でユルングの状態を確かめる。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:ユルング
性別:雄
-----------------------------------------
HP:S
MP:S
STR:S
VIT:S
DEX:S
AGI:S
INT:S
LUK:S
-----------------------------------------
スキル:<
<
<
状態:洗脳
-----------------------------------------
状態を記す欄には洗脳の二文字が記されており、手の施しようがないのだとシルバは判断した。
以前マリアに聞いた話によれば、洗脳は毒や麻痺のような状態異常とは違って
呪いならば<
そもそも、洗脳とはとある認識を常識あるいは正しいと思い込むことだから、元の状態に戻すには洗脳された者がその認識は非常識、間違っていると思わなくてはならない。
「レイ、敵は雷と風を使う。霧で迷路を創り出したり、致死性の毒を牙から流し込んだりもするから注意するように」
『わかった。まずはレイからやるね』
シルバから情報を共有してもらった後、レイは
呼吸ができなくなったはずだが、ユルングは大して慌てることなく<
『これがトスハリ様の与える試練だと? 温い』
ユルングが発動したのは
これは海中のような呼吸ができない空間において、使用者が呼吸できるようにする技である。
レイの
「温いのはお前だ。弐式火の型:焔裂」
シルバが放った火を纏う斬撃は
だが、ユルングは<
(タルウィとザリチュの力を借りよう)
長期戦は避けたいところだから、シルバは熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを召喚して装着する。
『アタシ、参上っ』
『出番、ワクワク』
『ちょっとちょっとザリチュ! 次の登場シーンは一緒に決めるって言ったじゃないのよっ』
『私、羞恥心、ある。タルウィ、ない。わかって』
(言い争ってる場合じゃない。今はユルングを倒すことに集中してくれ)
シルバに注意されて熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュは気持ちを切り替えた。
そんなやり取りをしている内にユルングは<
「レイ」
『任せて!』
シルバに名前を呼ばれただけでどうすれば良いか理解し、レイは
反射してバランスを崩した隙をシルバが逃すはずない。
「肆式火の型:祭花火」
シルバが炎を纏った拳でラッシュを繰り出せば、ユルングの体は熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに刺されて蜂の巣のようになる。
それだけでは終わらず、肆式火の型:祭花火の追撃で爆発し、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの効果で火傷と乾燥のダメージが加わった。
これにはユルングの回復も追いつかない。
『レイも攻撃する!』
今度はレイが<
短時間でこれだけのダメージを受けたことはなかったため、ユルングはキレた。
『よくもやってくれたなぁぁぁ!』
自分のダメージなんて知ったこっちゃないから、<
しかし、隙だらけな一直線の攻撃なんて、シルバにとってはチャンスでしかない。
側面に<
「肆式闇の型:黄泉葬送」
既に回復し切れないダメージを負っていた状態で、その上に大ダメージを受ければタフなユルングでも耐え切れず、火傷と乾燥の追加効果を受けて力尽きた。
戦闘が終わったと判断し、ファフニールが口を開く。
『シルバもレイも見事だった。頼もしい味方ができて嬉しいぞ』
『ドヤァ』
レイはファフニールのねぎらいに対してドヤ顔で応じた。
十全に実力を発揮したことで、ファフニールはシルバとレイもマリアに次いで頼りになると判断した。
それはリンドブルムやその他のドラゴン達も同様だった。
こうして、シルバ達はファフニール達と協同でドヴェルグの街を潰すことになった。
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