第324話 結論から言おう。レイは俺の娘だ
3日後、シルバはマリアとレイと共に竜王に会いに
大勢で押し掛けると刺激してしまうし、国内の政務もあることからアリエルとエイルは留守番することにしたのだ。
ティファーナとウノは当事者だから連れて行った方が良いかもしれないと考えたが、よくよく考えるとウノは竜王の元配下であり、連れて行くと面倒なことになるかもしれないので留守番する。
「あら?」
「マリア、あのドラゴンは知り合いか?」
「ああ、私と個人的に停戦協定を結んだ竜王の部下よ」
「へぇ、あれがそうなのか」
シルバ達の視界に映るそのドラゴンは、藍色の体に蝙蝠のような翼と鏃のような尻尾を生やした見た目だ。
『ご主人、あのドラゴンは強いよ。悔しいけどレイはまだ勝てないと思う』
「そうみたいだな。今までに見たどのレインボー級モンスターよりも強そうだ」
シルバはレイの発言を受けて気持ちを引き締めた。
シルバ達がシティバリアから出ると、そのドラゴンはマリアに話しかけた。
『マリアよ、久しいな。報告を聞いて今回招待した者がお主の関係者ではないかと思ったから、私も迎えに来たぞ』
「久しぶりね、リンドブルム。良い勘してるじゃないの」
ドラゴンの種族名はリンドブルムであり、マリアが知る限りリンドブルムという種族は目の前の1体だけだ。
それゆえ、マリアは種族名を個体名のように呼んでいる。
『このワイバーンの報告で聞いた技に心当たりがあったのでな。其方、名はなんと申す?』
「俺はシルバ=ムラサメ。マリアの弟子であり夫だ」
『・・・マリア、お前は幼き弟子を夫に迎えたのか』
「何よその目は? 良いじゃないの。シルバは私の次に強いのよ?」
(幼きって言われた。今年で15なんだけどな)
シルバはリンドブルムに幼いと言われてショックを受けた。
ムラサメ公国の公王になり、アリエルやエイルと結婚した時に成年擬制の仕組みで成人扱いされているが、年齢的には今年の誕生日を迎えてようやく成人だ。
ドラゴンは長命の種族だから、15歳に満たないシルバなんて幼く思うのが当然だろう。
それに、マリアの年齢も把握しているようなので、年の差婚ってレベルじゃないだろうとリンドブルムはマリアにジト目を向けた訳だ。
ショタコン扱いされたままでは納得がいかないから、マリアはシルバが強い男であって一方的に庇護すべき相手じゃないと抗議した。
リンドブルムはこんなことでマリアと揉めたくなかったため、シルバと共にいるレイに視線を向ける。
『シルバの隣にいるニーズヘッグよ、其方の名はなんと申す?』
『レイだよ。ご主人の従魔で希少種なの』
レイは舐められたくないと思ってか、胸を張って堂々と名乗った。
通常種とは違うのだよ、通常種とはと言いたげなドヤ顔もオプションで付いている。
『ふむ。シルバに大切にされてるようだな。それでいて、戦闘経験もなかなかあるようだ。これはうかうかしてられないな』
リンドブルムは将来的にレイが自分を超すかもしれないと思い、自分も今の強さに胡坐をかかず鍛えた方が良さそうだと判断した。
『おっと、自己紹介がまだだったな。私は竜王様の近衛を務めるリンドブルムだ。よろしく頼む』
「へぇ、近衛になったんだ。竜王の次に偉いの?」
『まあ、色々あってな。その辺りも竜王様の所で話そう。さあ、竜王様を待たせる訳にも行かないので早速移動するぞ』
リンドブルムに先導され、シルバ達は竜王の縄張りへと向かった。
そして、1時間半経過したところでシルバ達は目的地に到着した。
(なんとなく予想してたけど、竜王の縄張りはエリュシカでいうディオスか)
シルバは到着した場所を
もっとも、ドラゴン達の住処が人間の街と同じはずがなく、そこはディオスにはない標高の高い山だったのだが。
リンドブルムの指示に従って頂上に着陸すると、玉座と呼ぶべき場所にどっしりと構える赤眼の黒竜がおり、玉座とシルバ達の間の両脇に強そうなドラゴン達が並んで待機していた。
『リンドブルム、客人の案内ご苦労だった。久しぶりだな、マリア』
「久しぶりね、ファフニール。まさか貴方が竜王になってるとは知らなかったわ。前会った時にリンドブルムの兄弟って名乗ったのは、身分を隠すためだったのね」
『すまんな。あの時はゴタゴタしてたのでな。それにしても、俺にそんな口を利けるのはお前ぐらいだ。隣の子供がいけ好かない奴等に嫌がらせをした男か』
「シルバよ。私の弟子で夫なの」
『夫? ハッハッハ! マリアのお眼鏡にかなう夫がいたのか! これは面白い!』
ファフニールはマリアが結婚したという事実が面白いらしく、マリアの前で大笑いした。
この反応にはマリアが不満に思ったらしく、マリアから全方位に向けて殺気が放たれる。
その瞬間、ファフニールは揶揄い過ぎたことを悟って笑うのを止めた。
『マリア、俺が悪かったから殺気を止めてくれ。部下達の顔色が悪くなってる』
「次にこの話題を口にしたら翼を捥ぐから覚悟しなさい」
そう言ってマリアは殺気を引っ込めた。
マリアの殺気に耐えられたのはシルバとレイ、ファフニール、リンドブルムだけだ。
それ以外のドラゴン達は軒並み震えており、マリアには勝てないと精神に刻み込まれたらしい。
『俺とリンドブルムが耐えられたのはさておき、シルバとそのニーズヘッグがマリアの殺気に耐えられたのはなんでだ?』
「そりゃマリアとの修行で殺気に慣れたからだ」
『レイももう慣れたよ』
『・・・お前等すげえな』
ファフニールはシルバとレイの評価を上方修正し、リンドブルムや他のドラゴン達も同様にシルバとレイに尊敬の眼差しを向けた。
シルバは特に表情を変えないけれど、レイはここぞとばかりにドヤ顔を披露してみせる。
そんなレイに対してファフニールはあることに気づいた。
『ニーズヘッグの希少種よ、レイと言ったな?』
『そうだよ。レイはご主人の従魔なの』
『そうか。レイは何処で生まれた?』
『ご主人の腕の中だよ』
レイはシルバが卵を抱えて寝ている間に目が覚め、刷り込みによってシルバを親と判断した。
だからその回答で間違っていないのだが、ファフニールが欲しかった回答とはズレていた。
『シルバよ、お前はレイの卵をどこで手に入れた?』
「エリュシカってわかる? ここじゃない世界で悪党から回収した」
『あぁ、そう言えば肌の浅黒い長耳の連中が、モンスターをコソコソ送り込んでたな。なるほど、そういうことか』
「何がそういうことなんだ?」
ファフニールだけが納得したような発言をするが、シルバはいまいちピンと来ていないので何が言いたいのか訊ねた。
『結論から言おう。レイは俺の娘だ。第三王妃が産んだ卵だろう』
「ファフニールがレイの父親? 母親はどこに?」
『死んだよ。出産した後に馬鹿野郎共の権力争いに巻き込まれてな』
シルバ達はずっとレイの両親が誰なのかわからなかったが、ファフニールには確信があった。
その情報はシルバ達が知っておくべき情報だったけれど、それと同時に悲しい情報まで知ることになってシルバは言葉を失った。
マリアはそこまで説明を受けて納得した。
「それでリンドブルムが近衛に昇進してたのね」
『その通りだ。身内の恥を晒すようで悲しいが、第一王妃と第二王妃が次期竜王にするのは自分の子供だって争ってな。それに追随する馬鹿達も現れて、派手な戦いになった。レイの母親である第三王妃はそういう争いが好きじゃなくて中立だったんだが、王妃達の争いに巻き込まれて死んじまった。その時に第三王妃の産んだ卵が失われたんだが、どうやらいろんな偶然が重なってシルバに拾われたらしい』
レイは静かにその話を聞いていたが、気になることがあってそれを訊ねる。
『なんでレイを自分の娘だと思ったの?』
『ドヤ顔があいつに似てたんだよ。生き写しと言っても良いくらいそっくりだぜ』
(レイも王族のトラブルに巻き込まれてたんだな)
シルバはレイが自分と似たような境遇だったことを知り、レイの頭を優しく撫でた。
レイはそれが嬉しくてそのままシルバに甘える。
『良い奴に拾われて本当に安心した。いや、今更父親ぶるのもおかしいか。レイもそれは望まないだろ?』
『うん。レイはご主人と一緒に生きる。権力争いとかどうでも良いもん』
『わかった。シルバ、これからもレイのことを頼む』
「勿論だ。レイは俺のかけがえのない従魔だからな」
シルバはファフニールから改めてレイを託され、任せてくれと力強く言い切った。
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