第323話 神が存在しないと証明するのは存在すると証明するのと同じぐらい難しい
昼食後、ムラサメ家全員が集まって談話室に集まった。
シルバ達の
「・・・という訳で、俺達はそのワイバーンのおかげでクワナ基地の方角が分かって帰って来れたんだよ」
「シルバ君って転移され過ぎじゃない?」
「俺は悪くない。悪いのはドヴェルグ共だ」
「ドウェルグ、ねぇ・・・」
シルバの口からドヴェルグと聞いて、マリアは微妙な表情になった。
「マリア、ドヴェルグについて何か知ってるのか?」
「私の故郷、と言っても正確には他所の国なんだけど、そういう空想の生物がいたって話があるのよ」
マリアがオロチ同様に他の世界から来ていることは、シルバ達も既に説明を受けているから、異世界の話と聞いて全く想像できなかった。
「空想の生物ってこんなのでしたか?」
ティファーナは自分のマジフォンで撮影していたらしく、画面に自称ドヴェルグの姿が映し出されていた。
「うーん、私が知ってる話のドヴェルグとは違うわね」
「マリアさんの知ってるドヴェルグとはどんな生物なんでしょうか?」
「サイクロプスなんて比べ物にならないぐらい大きな巨人が死んで、それが大地に還ってそこから生まれた蛆虫って話よ」
マリアの説明を聞いてシルバはドヴェルグ達との会話を思い出した。
「性格は蛆虫と言っても過言じゃなかったな」
「それならドヴェルグでOKだね」
「シルバもアリエルもちょっと待ちなさい。蛆虫ってのはドヴェルグを蔑むための方便よ。実際には常に暗い地下深くで生活する事を好む陰気な妖精らしいの」
「陰気なのは同じだな。いるかもわからないトスハリに祈るだけで自分達は何もしないで文句ばっか言ってるし」
「それならドヴェルグでOKだね」
アリエルは元トスハリ教国民であるドヴェルグ=蛆虫という認識を変えるつもりはないようだ。
自分をデーモン扱いする国の者達なんて蛆虫扱いが丁度良いと思っているのだろう。
マリアもどうしてアリエルがそんなに頑なに蛆虫扱いするのか察し、それ以上ツッコミを入れたりはしなかった。
「話を続けるわね。ドヴェルグは私の知る話では闇の妖精とも呼ばれてて、神に蛆虫から人の姿を与えられたけど性格は陰気なままだったそうよ」
「マリアさんの知ってる話にも神は現れるんですね」
エイルは神の存在が気になって指摘した。
「いまいち私もピンと来ないのよね。生まれてから一度も神なんて見たことないし、私をエリュシカに召喚して失敗したっぽいトスハリ教国の神とも会ったことはないもの」
「マリアも見たことがないなら神なんてきっと存在しないんだ」
「神が存在しないと証明するのは存在すると証明するのと同じぐらい難しい」
マリアの発言にシルバ達は唸った。
その時、ティファーナはふと気になることを口にする。
「あの、私の<
「<
「でも、少なくともトスハリと呼ばれる存在ではないと思います」
「どうしてそう思うの?」
「シルバ様やアリエルさんがトスハリを悪く言った時に<
ティファーナの言い分を聞いてシルバ達はその通りだと頷いた。
だが、シルバは少し考えてから気になることがあって口を開く。
「全員じゃないけどトスハリ教国民が姿を変えて転生したのはどんな仕組みなんだ? 転生する魔法やスキルなんて聞いたことがない。マリアは何か知らないのか?」
「異世界から私やオロチを召喚できるような謎技術を持ってる連中だもの。
「僕的には転生できた人数が限られてるのが気になるね。
そう言ったアリエルには既に自分の考えがあるようだ。
シルバはそう判断してアリエルに声をかける。
「アリエル、どうせなら今考えてることを全部言ってくれ」
「わかった。僕は転生ってすごくエネルギーが必要だと思ってる。ましてや、エリュシカから
「つまり?」
「トスハリ教国の一般教徒は
「「「「うわぁ・・・」」」」
アリエルの仮説を聞いてシルバ達は引いた。
その発想ができるアリエルに引いたのもあるが、それが本当だったらとドヴェルグ達にも引いていた。
そんなシルバ達のことは気にせず、アリエルは持論を更に展開する。
「大体、僕は神なんて偉そうな宗教関係者が信者にそれらしいことを言って都合良く動かすための方便だと思ってるからね。あっ、ティファーナの<
(アリエルは絶好調だなぁ)
シルバが苦笑しつつ、食後からずっと膝の上に座っているアリエルの頭を撫でて心を落ち着かせた。
神の存在証明は今結論を出さなければいけない訳でもないし、存在しようがしまいが自分達のやることは変わらないから、シルバ達はこの議論を終えた。
結論はドヴェルグ死すべし慈悲はないである。
トスハリ教国の偉い連中がこぞって転生したならば、遠くない内に余計なことをしでかすに決まっているので、今度こそきっちり仕留めることで全会一致したのだ。
それはそれとして、シルバはマリアに気になっていたことを訊ねる。
「ところでマリア、竜王って会ったことある?」
「竜王の部下となら戦ったことあるわ」
「マリアの中ではドラゴンと会う=戦うなの?」
「シルバをエリュシカに送った後、私に喧嘩を売って来た馬鹿なドラゴンがいたから、ボコボコにしてから仕留めて食べたことがあるのよ。その尻拭いで来た奴が竜王の直属の部下だって言ってたわ。軽く戦って勝ち目がないと悟ったのか、あっちから相互不可侵の約束を結んでほしいって頼まれたわね」
マリアはドヤ顔で言ってのけた。
<
ドラゴンは他のモンスターに比べてもかなり強い。
その王たる竜王の直属の部下に勝てないと思わせ、相互不可侵の約束を結んでほしいと頼まれるマリアにビビるのは仕方あるまい。
それは本能的なものなので、ビビることなくシルバに頭を撫でられてリラックスしているレイの方が珍しいのだ。
「竜王とは会うのは3日後だ。マリアは行くか?」
「行こうかしら。折角だから、竜王の
「竜王がマリアさんに平伏したりしませんよね?」
「竜王がマリアにお腹を見せて服従したりしないよね?」
エイルが口にしたシーンは想像できるが、アリエルのそれはちょっと想像力を働かせ過ぎではないだろうか。
「アリエルが言ったような事態には流石にならないだろ。そうだよな、マリア?」
「戦いたくなければお腹を見せて服従しろって言ってみる?」
「止めなさい。マリナとリトが怯えてるぞ」
「ごめんね。冗談だから怯えないで」
マリアが立ち上がってガクブル状態のマリナとリトに1歩だけ近づいたところ、マリナとリトはエイルとアリエルにしがみついてしまった。
それを見てシルバがボソッと言う。
「マリアが従魔を手にすることは永久になさそうだな」
「認めたくないものだわ。強さゆえにモンスターに懐いてもらえないだなんて」
「諦めろ。レイが頭を撫でさせてくれるんだし、マリナだって移動する時は背中に乗せてくれるだけありがたいと思うべきだ」
「・・・竜王にあった時、私の従魔になれそうなドラゴンを見繕ってもらえないかしら」
「止めて差し上げろ」
マリアがとんでもないことを言うものだから、シルバがそれは止めてくれと丁寧に言った。
結局、マリアはこの後レイの頭を撫でさせてもらってテイム欲を発散させるのだった。
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