第322話 この愚か者共に裁きの鉄槌を!

 魔法陣が黄色い光を放ち、街の上空に赤く巨大な雷雲が現れて雷がシルバ達に向かって落ちる。


「伍式雷の型:雷呑大矛」


 シルバが雷を両手の親指と人差し指で形成した三角形で吸収し、レイ達に被害を出さずに済んだ。


 (この手口、間違いなくトスハリ強国と同じだ)


 過去に同じ手口で不意打ちされたことがあったため、シルバは敵をトスハリ強国と断定して反撃しようとした。


 その瞬間に再び雷がシルバ達に向かって落ちる。


「伍式雷の型:雷呑大矛」


 シルバが雷を吸収したおかげで、今回もレイ達に被害を出さずに済んだ。


 (時間をおかずに発動できる仕掛けだったのか)


 雷の魔法陣についてシルバが考察していると、茶色い光が街の地面に浮かび上がった。


 その直後から岩の外壁が高くなり、それがドームへと形を変えた。


『シルバ、アタシ達を使うのよっ』


『見せ場、来た。私達、出番』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが今こそ自分達を使う時だとアピールするので、シルバは彼女達を召喚して両手に装着した。


 レイの背中から跳躍し、空を駆けて岩のドームに手が届く位置でシルバは攻撃し始める。


「肆式土の型:粉化鋼羅」


 シルバのラッシュが岩のドームに命中することで、それが派手な音を立てて粉々になった。


 魔法陣を破壊するべくシルバは攻撃を続ける。


「弐式雷の型:雷剃・舞」


 空中で踊るようにして、両手から6つの雷を帯びた斬撃をを放てば、それらが別々の地点を破壊して魔法陣が機能しなくなった。


 姿を変えたトスハリ教国民達に対する嫌がらせとして、この攻撃は効果的だと言えよう。


 これには隠れていた者達が建物から飛び出し、既にレイの背中の上に戻っているシルバに文句を言う。


「よくもやってくれたな!」


「おのれ神敵め!」


「この愚か者共に裁きの鉄槌を!」


「トスハリ様、ドヴェルグに生まれ変わった私達に更なる力をお与え下さい!」


「喧しい! 弐式土の型:斬鉄剣!」


 シルバが薙ぎ払いによって鋭い斬撃を飛ばした先には、街の中で一番立派な建物があった。


 鉄を斬れるからこそ、弐式土の型は斬鉄剣と名付けられた訳であり、鉄ですらない物質で構成された建物なんて一刀両断である。


 立派な建物が破壊されたことで、ドヴェルグ達は一斉に嘆く。


 その時、シルバ達にとって想定外なことが起きた。


 街の魔法陣は壊したはずだったけれど、雷とも岩のドームとも違う色の魔法陣が起動したのだ。


 シルバは新しく現れた魔法陣に見覚えがあり、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを送還しながら慌ててレイに指示を出す。


「レイ、みんなを掴め! 転移魔法陣だ!」


『うん!』


 レイが<透明百腕ハンドレッドアームズ>でティファーナとウノを掴んだのと同時に、シルバ達は光に包み込まれてしまった。


 光が収まってシルバが目を開けると、そこは荒野のど真ん中だった。


 幸いなことに、レイの<透明百腕ハンドレッドアームズ>のおかげで誰も欠けることなく転移していた。


「ティファーナとウノは無事か?」


「私もウノも大丈夫です」


「ワイバーンは?」


「キュウ」


 無事だと言わんばかりにワイバーンは頷いた。


「レイ、咄嗟によく間に合わせてくれた。偉いぞ」


『エヘヘ♪』


 シルバはレイの頭を優しく撫でると、レイはシルバに褒めてもらえたことを喜んだ。


 レイが満足したのを確認してから、ティファーナがシルバに声をかける。


「シルバ様、ここはどこなんでしょうか?」


「わからん。俺が異界カリュシエにいた時には来たことがないし。レイ、ワイバーンに何かわからないか訊いてみてほしい」


『任せて』


 レイはワイバーンにここが何処か知らないか訊ね、ワイバーンは首を縦に振ってから短く鳴いた。


 ワイバーンの話を頭の中でまとめた後、レイはシルバ達に聞いた内容を説明する。


『ここは竜王の勢力に近い荒野だって。草木がほとんど生えてないから、この辺りの地上でモンスターが留まることは珍しいって言ってるよ』


「地上に留まるのが珍しいなら、地中には珍しくないってことだよな?」


 シルバがそのように訊ねた直後、周囲の地面が音を立てて揺れ始める。


「レイ、飛んでくれ」


「ウノ、飛んで下さい」


『うん!』


「キュウ!」


 シルバとティファーナの指示に従い、レイとウノは離陸して高度を上げた。


 ワイバーンも同時に飛翔しており、先程までシルバ達がいた場所に地中から飛び出して来たモンスターの突撃を回避していた。


 そのモンスターはワームの見た目だけれど、その体表がマーブル色でシルバは初めて見る種族だった。


 シルバがマジフォンのモンスター図鑑機能で確認したところ、該当するモンスターのデータがあった。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:キメライトワーム

性別:雄  ランク:ゴールド

-----------------------------------------

HP:A

MP:A

STR:A

VIT:A

DEX:A

AGI:A

INT:A

LUK:A

-----------------------------------------

スキル:<掘削ディグ><破壊突撃デストロイブリッツ><土魔法アースマジック

    <吸収成長ドレイングロウ><全半減ディバインオール><自動再生オートリジェネ

状態:苛立ち

-----------------------------------------



 (俺達を喰えなかったから苛立ってるっぽいな)


 奇襲して相手を丸呑みし、それを<吸収成長ドレイン>で消化して自分の血肉にするのがお決まりのパターンらしく、それが上手く決まらなかったことからキメライトワームは苛立っていた。


『あいつはレイがやる』


「わかった。任せるよ」


 レイがキメライトワームを倒したいというのであれば、シルバにそれを止めるつもりはない。


 シルバに任されたレイは、<透明百腕ハンドレッドアームズ>でキメライトワームを拘束した。


 光鎖ライトチェーンを使わずに<透明百腕ハンドレッドアームズ>を使った理由だが、全社は光の鎖なので見えてしまうからだ。


 <透明百腕ハンドレッドアームズ>ならば文字通り透明なので、発動する使用者レイにしか腕が何処にあるかわからない。


 そのおかげで、キメライトワームはあっさりと100本の腕に掴まれて動けなくなった。


『凍っちゃえ!』


 動けないキメライトワームに対し、レイは窒息領域サファケイトフィールドで窒息させた。


 呼吸できなくなったキメライトワームは拘束を解こうと必死に暴れたが、その努力も空しく力尽きてしまった。


 キメライトワームがピクリとも動かなくなり、周囲に後続の敵がいないことを確認してからシルバ達は着陸した。


「レイ、俺がアドバイスしなくても余裕で倒せたな。やるじゃん」


『ドヤァ』


 レイは達成感から渾身のドヤ顔を披露した。


 シルバはそれを愛らしく思い、優しくその頭を撫でてあげた。


 その後、解体を済ませてからシルバはレイを経由してワイバーンに帰る道を尋ねた。


 ドヴェルグに転生したと言っていたトスハリ教国民は、いくつもの魔法陣を駆使して自分達と戦うつもりだった。


 雷と岩のドームの魔法陣は壊したけれど、厄介な転移魔法陣は壊せていない。


 無策で突っ込めば、再び何処かわからない場所に転移させられてしまうから、一度ムラマサ城に帰還して対策を練ってからリベンジしたいとシルバは考えている。


『ご主人、ここから南にずっと行くとドヴェルグ達の街があるんだって。そこから南東に向かうとクワナ基地があるみたいだよ』


「わかった。今日の探索はここまでにして帰ろう」


『ちょっと待って。ワイバーンが日を改めても構わないから竜王様に会ってほしいって言ってるけどどうする?』


「積極的に敵対したいとは思わない。友好的な関係を築けるならそれに越したことはないから、次に来た時に会いに行くよ。手隙な日の方が良いな。3日後で良いかワイバーンに訊いてみてくれ」


 シルバの答えをレイが通訳し、ワイバーンはそれで問題ないと頷いた。


 ワイバーンとはその場で別れ、シルバ達はクワナ基地を目指して南下し始める。


 ドヴェルグ達の街に近づかず一直線にクワナ基地まで飛んだため、到着した時にはウノが疲れていた。


『ウノはまだまだだね。ティファーナを守るならこの程度で疲れたなんて言っちゃ駄目だよ』


「キュイ!」


 精進しますとウノが上官に対する部下のように返事をするので、シルバは温かい目をウノに向けた。


「ウノ、銀魔石を多く取り込むんだ。ゴールド級になれば進化できるかもしれないし」


「キュウ!」


 わかりましたとウノが頷き、ティファーナはそんなウノの頭を撫でた。


「一緒に頑張りましょうね」


「キュイ」


 ウノはティファーナに対してだけ力まずに返事をした。


 仲良くやれているならば何よりだと思いつつ、シルバはレイ達を率いて転移門ゲートをくぐり、ムラマサ城に帰還した。

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