第292話 勉強させてもらう

 模擬戦を終えてムラマサ城に戻り、シルバ達は談話室でお茶を飲みながらティファーナの質問を受けていた。


「マリアさん、双修って私と公王様でもできますか? 私、闇属性に適性があります」


「ティファーナ、貴女が言ってるのは私がシルバとやった方のこと? それとも基本的な双修の方を言ってる?」


「私が公王様と互角に戦える訳ないじゃないですか。子作りの方に決まってますよ」


「駄目に決まってるでしょうが。貴女はシルバと結婚してないでしょ?」


 ティファーナがとんでもないことを言い出したので、マリアがそれは認められないと伝えた。


「だって修行なんでしょう? 疚しい目的じゃないなら夫婦じゃなくても良いと思います」


「相性が大事なの。シルバと知り合って間もないティファーナができる程、双修は甘くないわ」


「その話、僕にも聞かせて下さい」


「私も気になります」


 (アリエルもエイルもなんてタイミングで来るかねぇ)


 抱えていた仕事が一段落したようで、アリエルだけでなくエイルも一緒だった。


 双修はできればマリア式のやり方にしたいと思っているシルバにとって、この話題で女性陣が集まるのは勘弁願いたかったのだが、中々都合良くいかないようだ。


「後でちょこちょこ訊かれるのは面倒だから、まとめて説明することにするわ。基本的な双修は気の交換が肝心だから、武道の心得がない者にはできないわね。少なくとも、<格闘術マーシャルアーツ>を会得してなきゃできないと思ってちょうだい」


「そんなぁ。その条件がなかったら双修を理由にシルバ君と終日イチャイチャするのに」


「残念です」


「思ってた以上にアリエルもエイルも煩悩塗れだったわね」


 マリアはアリエルとエイルが想像以上にシルバと交わりたいと思っているのだとわかり、若者の性は乱れているという評価をした。


 実際のところ、シルバは毎晩交代する形でアリエルと子作りをしている。


 成年擬制で成人扱いされることに加え、配下の者達からも世継ぎを求められているから予定よりも前倒しているのだ。


 マリアは我慢できているようだが、アリエルやエイルはもっと寝室でイチャイチャしたいらしく、双修はシルバとイチャイチャする口実としてピッタリだったから、2人は前のめりになった。


 しかし、このメンバーの中でシルバと基本的な双修ができるのはマリアだけだから、アリエルとエイル、ついでにティファーナもがっかりしていた。


「オホン、とりあえず、今後は土属性と闇属性についても模擬戦を通じてシルバには適性を得てもらうつもりだから、そこんところよろしく」


「了解。次に割災が起きた時、オロチが強くなって襲撃して来る可能性は高いから、できるだけ強くなるさ」


 今はカリュシエの民が<外界接続アウターコネクト>を使って割災を起こしてこないから良いが、もしも割災が再び起きるようになったなら、オロチが戻って来る可能性は高い。


 しかも、自分を倒したシルバにリベンジしなければ、オロチの心の靄ははれないだろうから割災が起きたら真っ先に彼はシルバを倒しに来るだろう。


 オロチが何処まで強くなるかわからないが、シルバも強くなれるだけ強くなっておくことに越したことはない。


「それにしても、シルバ君は6つの属性に適性があるなんて羨ましいな。僕は火属性と土属性だけなのに」


「私なんて光属性だけです」


 アリエルもエイルもシルバが6つの属性に適性を持っていると知り、羨ましそうな視線をシルバに向けた。


「俺は結構裏技使ってるからな。そんなことより、師匠の方が狡いぞ。なんてったって、元々全属性使えるんだから」


「そうだったね」


「そうでした」


「ドヤァ」


 シルバがアリエルとエイルに羨ましがる対象が違うと告げると、その話を聞いていたマリアが胸を張った。


「<完全体パーフェクトボディー>もあって全属性持ちとか狡いです」


「横暴です。持つ者と持たざる者の格差を思い知らされました」


「なんか嫉妬のスケールが大きくなってない?」


「私だけ仲間外れにしないで第四公妃にして下さい」


「それは違うね」


 マリアは冷静にツッコミを入れ、ちゃっかり便乗するティファーナにも対処していた。


 双修や女性陣の持つ持たないの話を聞いていると居心地が悪いから、シルバは昼食の準備をする口実で談話室から離脱した。


 ムラマサ城にはコックがいるのだが、シルバ達が作りたい時はそちらの料理が優先される。


 もっとも、余った料理はレイが<無限収納インベントリ>にしまうから、食品ロスになることはなく後日シルバ達が美味しくいただくので何も問題ない。


 昼食後、シルバはレイとマリア、ティファーナを連れてもう一度闘技場にやって来た。


 午後はマリアが【村雨流格闘術】の土の型を披露し、それを見て勉強するための時間なのだ。


「早速壱式から見せるわ。しっかりと見ておきなさい」


「勉強させてもらう」


「壱式土の型:破岩拳はがんけん


 マリアが技名を言いながら拳を突き出すと、拳を模った岩が飛び出して予め用意していた的に命中した途端に的ごと壊れた。


 破壊のインパクトの後に岩の破片が飛ぶことで追撃になる。


 硬い相手に打撃を飛ばすならば、壱式土の型:壊岩拳が相応しい。


「弐式土の型:斬鉄剣ざんてつけん


 フォームは弐式光の型:光之太刀と変わらないが、腕に纏っているのは押し固められた上に薄く鋭い岩の刃だ。


 弐式土の型:斬鉄剣は本当に鉄を斬れる技だから、スクラップになった鉄屑を固めて的の代わりにしたけれど、技名に偽りなく鉄塊が一刀両断された。


「シルバ、次の技を見せるから壊れた的とか鉄塊の残骸とか投げて」


「了解。・・・それっ」


 言われた通りにシルバが残骸を投げてみせれば、マリアは次の技を披露する。


「參式土の型:我守左手マインゴーシュ


 土付与アースエンチャントを施していた左手を使い、シルバの投擲した残骸を次々に受け流してみせた。


 それから続けて肆式に繋げていく。


「肆式土の型:粉化鋼羅こかこうら


 土をグローブのように固めた状態で両手に纏わせ、マリアは的も鉄塊の残骸も粉々に砕いてしまった。


 (何あれヤバい。生身で受けたら終わるやつだ)


 シルバは肆式土の型:粉化鋼羅がトータルで与えるダメージを考えて戦慄した。


 參式と同様に伍式も守りがメインの攻撃なので、シルバはキープしていた鉄の残骸を投げた。


「伍式土の型:利再来りさいくる


 残骸は吸収されてマリアを覆う土付与アースエンチャントの効果が増加した。


 蓄えた力は放出しておかなければ勿体ないから、マリアはどんどん技を切り替える。


「陸式土の型:牙壊土崩がかいどほう


 伍式土の型:利再来で蓄積したパワーを放出し、マリアが突き出した右腕から圧縮された鋭い岩の槍が飛び出した。


 それが的の中心を射抜き、射抜かれた的は土に還って崩れ落ちた。


「シルバ、ちゃんと見て学んだかしら?」


「技の原理やポイントは掴んだと思う」


「それな実践してちょうだい。しっかり見て学んだのなら技を再現できるはずよ」


「そこで不二流と同じことをしなくても良いと思うんだ」


 マリアがいきなり一度見た技を真似して実演せよと言い出すものだから、シルバはオロチが口にした不二流の継承方法と同じだと気づいてそれを口にする。


「何言ってんのよ。その不二流がパワーアップして【村雨流格闘術】みたいになるかもしれないの。不二流にできて村雨流にできないことはない。一緒に頑張りましょう」


「わかったよ。それじゃ、土付与アースエンチャントを頼む」


「よろしい」


 シルバの覚悟が決まったのを良しとして、マリアは彼に土付与アースエンチャントを発動した。


「壱式土の型:破岩拳」


 シルバが技名を言いながら拳を突き出すと、拳を模った岩が飛び出して予め用意していた的に命中した途端に的ごと壊れた。


 マリアと同じ結果が出せて幸先が良いとシルバは少しだけホッとする。


「弐式土の型:斬鉄剣」


 シルバは用意した鉄のスクラップの塊を一刀両断した。


 これも成功したところで、マリアが突然シルバに向かってスクラップを掴んで投げ飛ばした。


「參式土の型:我守左手」


 シルバはマリアの投擲を防いでからすぐに次の技に移る。


「肆式土の型:粉化鋼羅」


 闘技場に残っていたスクラップが粉々になった。


 再びマリアが取っておいた残骸を投擲しても、シルバはそれを冷静に対処する。


「伍式土の型:利再来」


 残骸は吸収されてシルバを覆う土付与アースエンチャントの効果が増加した。


 シルバはそのまま最後の技に移行する。


「陸式土の型:牙壊土崩」


 シルバの攻撃が的の中心を射抜き、射抜かれた的は土に還って崩れ落ちた。


 一連の演武を見てマリアは満足そうに頷く。


「上出来よ。土の型もちゃんと形になってるから、早々に私式の双修で土属性も得られるように毎日鍛えること」


「わかった。今日は土の型の練習に付き合ってほしい」


「構わないわ。頑張りなさい」


 マリアは弟子シルバの意欲的な言葉を聞いてにっこりと笑った。

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