第293話 可能性を自ら狭めるのは愚か者のすることよ
翌日、シルバは昨日と同じメンバーと一緒に闘技場にやって来た。
「シルバ、闇の型も先に教えとくわ。本当は土属性の適性を得てから教えたかったけど、貴方の器用さなら両方先に教えといた方が良さそうだもの」
「思い返してみれば、水の型と氷の型、雷の型の時も同時だったもんな」
「そういうこと。幸い、ティファーナは<
「わかりました」
次に割災が起きる時、マリアはシルバの手札を多くすることを優先したため、【村雨流格闘術】の土の型の熟練度を高めることよりも土の型と闇の型の両方を使えるように方針を変えた。
ティファーナがいれば、闇の型の防御系統の技を見せるのに都合が良いのも方針変更を決めた理由である。
「壱式から順番に見せるわ。ちゃんと見ておきなさい」
「今日も一度見たら実演させられるんですね、わかります」
シルバの言葉にわかっているならよろしいと無言で頷き、マリアは壱式の実演に移る。
「壱式闇の型:
マリアが技名を言いながら拳を突き出すと、重々しい闇を纏った拳の衝撃が飛んで行き、予め用意していた的に命中して壊れた。
それだけに留まらず、的を支えていたポールに重力の負荷がかかり、ズズズと音を立てて地面に沈んでいった。
(デバフ効果のある攻撃か。そりゃ先に教えておく気になるよな)
重力負荷のデバフが追加効果として現れるなら、全く使えないよりも使えた方が良いに決まっている。
マリアが土の型だけじゃなくて闇の型を学ばせようとした意味がわかり、シルバは彼女の意図を改めて理解した。
シルバがより一層真剣な表情になったのを見て、マリアは満足して次の型を披露する。
「弐式闇の型:
フォームは弐式光の型:光之太刀と変わらず、腕に纏っているのが光ではなく闇なだけだ。
闇に鋭いイメージはなかったシルバだが、マリアの纏う闇は薄く鋭かったため認識を改めた。
「シルバ、參式を見せるから何か適当に攻撃してちょうだい」
「わかった。陸式光の型:流星」
流星の如く光の槍がシルバから放たれると、マリアは慌てずに対処する。
「參式闇の型:
マリアの全身から闇が球体状に広がっていき、その球体に入り込んでしまったものが重力に負けて地面に落ちていった。
これにはシルバも苦笑するしかない。
「光の型もそうだけどさ、闇の型も參式って<
「双修の時に言ったでしょ? 気が大事なんだって。これは気を用いた技なんだから<
「今更だけど気ってなんでもありだな」
「可能性を自ら狭めるのは愚か者のすることよ」
言外に貴方は愚か者じゃないならわかるでしょうと伝えられれば、シルバもそれ以上何も言わなかった。
マリアもシルバが納得したと判断して肆式の実演に移る。
「肆式闇の型:黄泉葬送」
これはとてもシンプルな技だった。
肆式光の型:過癒壊戒は過剰な治癒によって敵の体を壊すのに対し、肆式闇の型:黄泉葬送は闇を両腕に纏わせてラッシュして相手の体を壊して動けなくするだけだから、シルバにとって理解しやすかった。
「ティファーナ、<
「わかりました。撃ちます」
ティファーナは観客席から無詠唱で
彼女は長い軟禁生活の中で、<
「伍式闇の型:
マリアがティファーナの
『シルバ、しっかりするのよっ』
『シルバ、喝』
(・・・危なかった。タルウィもザリチュもありがとう)
『良いってことなのよっ』
『私達、優秀。サポート、万全』
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュと魂約をしているおかげで、フラフラとマリアに近づきそうになったシルバは正気を取り戻すことができた。
シルバは彼女達にお礼を言い、彼女達は自分達がこういった時にも役に立つんだとアピールできて満足した。
その一方、マリアは悔しそうな表情になっていた。
「ぐぬぬ。予定ではシルバが私に抱き着いて来るはずだったのに」
「マリア、俺は真面目に勉強してるんだからそっちもちゃんとやってくれよ」
「ちゃんとシルバを誘惑してたのよ!」
「目的が違うだろ!」
シルバはマリアが違う目的を果たそうとしていたので声を荒げてツッコんだ。
マリアは悪びれもせずに技の説明をする。
「伍式闇の型:妲己尾冒は副次的効果で異性に対する魅力が一時的に上がるだけで、本来の効果は次に放つ闇属性の技の威力を高めることにあるわ。だから、目的は最初から2つよ。シルバは誘惑できなかったけど、パワーアップしてるから安心して」
「副次的効果を優先してるのはいかがなものか」
シルバにジト目を向けられてしまい、マリアはバツが悪くなって陸式の実演に逃げる。
「陸式闇の型:
陸式光の型:流星の闇属性バージョンと呼ぶべき一撃が的を粉砕した。
これも肆式闇の型:黄泉葬送と同様にシルバにとってイメージしやすかった。
「それじゃ、シルバにもやってもらうわね」
「了解」
マリアはシルバに
付与と気持ちの準備が整ってからシルバは実演を始める。
「壱式闇の型:暗黒拳」
シルバが技名を言いながら拳を突き出すと、重々しい闇を纏った拳の衝撃が前方に発生して的に命中した。
それが壊れるのと同時に重力負荷がかかり、熟練度はさておき技は成功したのでシルバはホッとした。
「初めてにしては上出来ね。次は弐式よ」
「ああ。弐式闇の型:闇之太刀」
フォームは弐式光の型:光之太刀と変わらないから、壱式闇の型:暗黒拳よりも完成度は高かった。
マリアはシルバの反射神経を確かめるついでに、合図もせずに攻撃を仕掛ける。
「壱式光の型:光線拳」
「參式闇の型:奈落柩」
シルバの全身から闇が球体状に広がっていき、その球体に入り込んでしまったマリアの攻撃が重力に負けて起動が逸れた。
それでも、完全に当たらなくなるまで重力負荷をかけられなかったため、シルバはジャンプしてマリアの攻撃を躱した。
「參式は要練習ね。でも、ちゃんと発動してるから安心して良いわ。次は肆式よ」
「おう。肆式闇の型:黄泉葬送」
これは弐式闇の型:闇之太刀と同程度の完成度で発動できた。
単純な攻撃技だから会得も早いのだろう。
マリアから続いて攻撃が来ることを警戒していたシルバだったが、次の攻撃はいつの間にか闘技場に降りて来ていたティファーナから放たれた。
「伍式闇の型:妲己尾冒」
シルバがティファーナの攻撃を吸収して尾骶骨から闇の尻尾を生やした直後、マリアとレイ、ティファーナがシルバに飛びついた。
三方向から同時に飛びつかれれば、シルバも避ける訳にはいかないのだ。
マリアとレイは丈夫だからぶつかっても平気かもしれないが、ティファーナは彼女達と比べて肉体強度が高くない。
もしも自分が避けてぶつかれば、ティファーナは大怪我するかもしれないと思ってシルバはティファーナがダメージを負わないように受け止め、マリアとレイは自由にダイブした。
「これはいけないわね。これはいけないわ」
『ご主人大好き~♡』
「公王様、早く娶って下さい」
(レイとティファーナはともかく、マリアは魅了にかかったフリをしてるな)
シルバはやれやれと首を振り、どうにかマリア達に離れてもらおうと考えた。
少し考えた結果、修行にもなってこの状況も打破できる方法を思いついたので実践してみる。
「參式闇の型:奈落柩」
一度目は未完成な出来だったけれど、今回は出力が上がったおかげで完成形として発動できた。
重力負荷がかかってマリア達の拘束が緩んだ隙に<
陸式光の型:凶星の実演は問題なく終え、シルバはジト目のままマリアに近づいた。
「な、何かしら?」
「さっき魅了されたフリして抱き着いて来ただろ」
「そんなことないわ」
「俺の目を見てもう一度言ってみろ」
「・・・ごめんなさい。あのビッグウェーブに乗るしかないと思って抱き着きました」
「よろしい」
シルバはマリアが素直に謝ったので彼女の行動を許した。
その後、修行を終えてムラマサ城に戻り、今日の修行で起きたことをアリエルとエイルに話したところ、なんで自分達を今日の修行に呼んでくれなかったのかと抗議したのはまた別の話である。
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