第294話 シルバ君に抱き着いて深呼吸しろって?
1週間後、朝食を済ませたタイミングでティファーナは相談があるとシルバに告げた。
「相談?
「それはまだ止めておきます。相談というのは私の<
<
ところが、その予想を裏切る形で<
「どんな声が聞こえたんだ?」
「強大なモンスターが目覚めたことへの警告です。この国のフーチマンに火山がありますよね? そこの火口に危険なモンスターがいて、眠りから目覚めて暴れ出すだろうと告げられました」
フーチマンの火山は第六騎士団の管轄であり、定期的に彼等が様子を見に行っている。
しかし、火口付近の気温はサウナなんて目じゃないぐらいに暑いから、見回りをしていると言ってもマグマの上に何か浮かんでいないか確認するぐらいしかできていない。
つまり、マグマの中にモンスターがいてそれが表に出て来ていなかったならば、第六騎士団に気づかれることなく力を蓄えられるのだ。
「火口のモンスターが暴れて大噴火なんて事態は困るから、修行を中断して火山に行ってみるよ」
「私はお留守番でしょうか?」
「そうだな。ティファーナを守り切れるかわからないし、そもそも高温な場所にティファーナが耐えられるかもわからない。悪いんだけど、今回はマリアと留守番しといてくれ。戦いの様子はエイルに録画してもらうからさ」
「わかりました。公王様の雄姿は後で見させていただきます」
ティファーナはシルバに同行したいと思ったけれど、我儘を言えば自分が足を引っ張ってしまうことも理解していたため、おとなしく留守番すると言った。
マジフォンの動画機能があれば、シルバ達の戦闘の様子が口頭で話してもらうよりもよくわかる。
臨場感がないのは残念だけれど、それでも百聞は一見に如かずという言葉があるように、動画で戦闘を見れるのなら口頭で100回聞くよりも詳しく戦闘のことを知れるから、ティファーナは無理を言わなかった。
シルバは事情を説明してマリアにティファーナのことを任せた後、アリエルとエイル、それぞれの従魔と共にフーチマンの火山に急行した。
火山は第六騎士団のおかげで山道にモンスターがおらず、邪魔者が入らずに火口で戦える条件を満たしていた。
火口に到着したシルバ達はその暑さにうんざりする。
「長居したくないな」
「早く帰りたいね」
「クールポーションは効いてるはずなんですが、見た目のせいで暑さを感じますね」
クールポーションとは日中の砂漠や火山では携帯必須の薬品であり、名前の通り飲むだけで涼しくなる効果がある。
ただし、火口から見えるマグマは目に暑さを主張してくるから、どうにも熱く感じてしまうのである。
ちなみに、レイ達従魔組は<
「用事をさっさと済ませて帰ろう。エイル、撮影は任せた」
「任せて下さい。シルバもアリエルも無理は禁物ですよ」
「わかってる」
「勿論さ」
シルバ達がそんな風に話をしていると、魚の下半身を持ったオレンジ色の馬がマグマの中から現れた。
(あれがティファーナの言ってた危険なモンスターか)
シルバはすぐにマジフォンのモンスター図鑑機能で現れたモンスターについて調べ始める。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:マグケルピー
性別:雌
-----------------------------------------
HP:A
MP:A
STR:A
VIT:A
DEX:A
AGI:A
INT:A
LUK:A
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スキル:<
<
状態:不機嫌
-----------------------------------------
「若干僕とスキル構成が被ってるのがムカつく」
「まあまあ。深呼吸でもして落ち着いて」
「シルバ君に抱き着いて深呼吸しろって?」
「言ってない。敵を前にしてそんな余裕はないってば」
アリエルの耳が自分に都合の良いように聞き取ったものだから、シルバはやれやれと苦笑した。
その一方、マグケルピーは寝起きに強者達が自分の頭上にいることで不機嫌になっていた。
だからこそ、マグケルピーは<
『まずは私が対応します』
マリナは
水の壁に触れたマグマが冷やされて勢いを失うが、それでも下から突き上げて来るマグマによって再びマグマへと戻って行く。
『レイも手伝うよ!』
レイは
蒸発し始めていた水の壁だったが、レイの
「次は僕の番だよ」
アリエルが
ただのゴールド級モンスターならば、今のシルバ達にとってそこまで脅威にはならない。
だが、それは地の利がそのゴールド級モンスターにない場合の話だ。
戦う場所が火山の火口ならば、マグケルピーの脅威度はレインボー級と言っても過言ではない。
マグケルピーはマグマの中から一切姿を見せずに戦う方針に切り替え、<
シルバはレイの背中からジャンプし、右脚に
「弐式氷の型:氷結刃」
腕から放つよりも脚から放つ方が隙は大きくなるけれど威力は高い。
冷気を纏った刃がマグケルピーを模ったマグマを上下真っ二つにして凍らせ、それが刃と共にマグマに落ちる。
「レイ、追撃頼む!」
『任せて!』
シルバの求めに応じ、レイは再び
攻撃をマグマに潜って躱されるならば、マグマごと凍らせてしまえば良いじゃないのという発想である。
マグマを凍らされてしまうと、流石のマグケルピーも<
それどころか、マグマと一緒に凍らされては困るので、マグマが凍り切る前にマグケルピーが姿を現した。
「ヒヒィィィィィン!」
よくもやってくれたなと言わんばかりに<
「煩いんだよ、雌馬風情が」
その声にイライラしたため、アリエルが
咄嗟にマグケルピーが
そこでホッとしてしまったのがいけなかった。
「油断大敵だ。陸式氷の型:
シルバが狙い定めて腕を突き出し、そこから放たれた氷の槍がマグケルピーの体を貫いた。
地の利を失ったマグケルピーなんて恐れるに足らない。
シルバの一撃が決め手となり、マグケルピーは凍った火口の底で力尽きた。
「これでティファーナの言ってた危機は去ったと見て良いかな?」
「良いんじゃない? マグマにまだ敵が潜んでたならとっくに出て来てるだろうし」
「そうですね。黙って氷漬けにされるなんてことにはならないはずです。さっさとマグケルピーを回収して帰りましょう」
「そうだな。マリアとティファーナが待ってる」
マグケルピーの金魔石はリトに与えられた。
リトは今回の戦いで出番を作れなかったものの、アリエルが3番目にこの戦いで貢献したからその報酬としてリトに金魔石を与える権利を貰ったのだ。
リトは金魔石を貰って上機嫌であり、ムラマサ城に帰る間はアリエルの腕の中でずっと鼻歌を歌っていたとだけ言っておこう。
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