第80話 この前プロポーズして婚約しました
B1-1の学生が全員帰還した後、1年生を担当する教師陣の結果報告を受けて殻ポールは校長室にやって来てドアをノックする。
「ポール=ハワードです。入室してもよろしいでしょうか?」
「うむ。入ってくれ」
「失礼します」
ポールは部屋の中に入って
ジャンヌはポールが目の前に来たので書類から顔を上げた。
「ミミックに関する報告か?」
「はい。戦闘コースの1年生でミミックを発見したのはB1-1だけでした。具体的にはシルバとアルのペアです」
「やはりその2人か。それにしても、へメラ草原にまで潜伏してたとは少し驚いたぞ」
「別の場所から持って来た盗賊やモンスターが不気味がって埋めたんでしょうね」
ポールはへメラ草原にミミックがいた理由について自分の仮説を述べたが、それは正解だったりする。
ミミックに手足は存在せず、<
それに加え、箱に化けて蓋を開けた者を襲って喰らう習性から考えて、開けてもらわなければ襲えないのだから隠れる理由がない。
そうだとすると、土の中に埋まっている理由は他者に埋められたからと考えるのが妥当だ。
「一理あるな。報告を聞いた限りでは自ら埋まるメリットがない。他者に埋められたと考えるべきだろう。シルバとアルはどうやって見つけたんだ?」
「アルの<
「軍は<
「そうですね。試してみる価値はあると思います。それと補足ですが、今日あの2人が捕獲して帰って来たのはミミックの上位種です」
ポールが既に軍の研究施設に提出したミミック上位種のスケッチを渡すと、ジャンヌが昨日受け取った通常種のスケッチを引き出しから取り出して見比べる。
「・・・本当にすごいな。昨日シルバ達が新種のモンスターを見つけたと思いきや、その翌日にはその上位種を捕獲して来るなんて」
ジャンヌは軽い感じで情報を更新していくシルバ達に対し、感心したとも呆れたとも言える様子でコメントした。
「俺も最初に見せられた時は驚きましたよ。しかも、ミミック上位種は開けた途端に針を発射するそうです。シルバはそれをキャッチして提出してくれました」
「下手をすれば初見殺しにもなり得るだろうに大した奴だ。いや、そもそも軍の誰も知らないミミックを知ってた時点でシルバの知識量は私達よりも上かもしれん」
「学生のそれも1年生に知識量で負けるのは悔しいですが、シルバの師匠が学校のどの教師よりも賢く知識量が多いのは間違いないでしょう」
「だろうな。知識も力も私が勝てるとは微塵も思ってない」
その発言を聞いてポールが目を見開いた。
「校長が勝てないとはかなりの手練れですね」
「詮索は止せと言ったはずだが?」
「・・・失礼しました。ただ、校長が負けを認めるということが珍しくてついそのようなことを申し上げてしまいました」
ポールが知る限り、ジャンヌはビッグマウスではないが実力が伴った自信家である。
そんな彼女が勝てないという相手なんているのだろうかと思ってしまったが故の発言だった。
「それはそうだな。まあ、私達が強いと言ってもそれはあくまでこの国の内部での話だ。世界にはもっと強い者がいる。私もデスクワークばかりではいかんな。実戦の勘を取り戻さねば」
「校長、俺は絶対に貴女と模擬戦はしませんからね? 命がいくつあっても足りないので」
「そんなことはないだろうが、まあ良いだろう。私も本気のハワードを相手にするには錆落としが必要だからな」
ポールはジャンヌが何かしら理由をでっち上げて自分と模擬戦をしようと考えないでくれと本気で願った。
願うだけでは駄目だと考えてポールは話題を変える。
「校長の前線復帰はさておき、2学期に入ってからB1-1の学生達の成長が見られる機会が増えたことは喜ばしいですね」
「成績上位者を抜いてタオが
「シルバの柔軟な発想に影響されたんですよ。1学期までの彼女はレシピ通りに薬品を作ってそれを戦うだけでした。それが2学期になってからはアレンジを加えるようになった。シルバのような飛び抜けた存在がいなきゃ彼女が殻を破るのはもっと先だったはずですから」
「若い世代が育ちつつあるのは良いことだ。軍もそろそろ旧態依然たる考え方から脱却せねばならん。そうでなければブータスみたいな肥え太った豚やイブリスのような売国奴が巣食ってしまうからな」
ブータスやイブリスのような
それらを排除した今、ジャンヌやポールは帝国軍に新しい風を取り込むべきだと本気で考えている。
「そうですね。そーいう連中ばかりいるから俺の同期が何人も軍から去る羽目になったんです。もう一度軍に戻らないかって声はかけちゃいますが、今のところ応えてくれそうなのは1人か2人ぐらいしかいません」
「ほう。誰がハワードの呼びかけに応じてくれそうなんだ?」
「シルビアとアイザックです」
「それは是非とも復隊してほしいものだ」
ジャンヌはポールが告げた名前を聞いて僅かに目を見開いた。
彼女の記憶ではどちらとも優秀であり、除隊したと聞いて残念に思ったからだ。
もしもその2人が復隊してくれるならば、きっと帝国軍の力になってくれるとジャンヌは確信していた。
ちなみに、ポールとシルビア、アイザックはかつてポールが小隊長だった小隊のメンバーだ。
そこまで思い出したジャンヌはまだ呼ばれていないメンバーが1人いることに気づく。
「ユリアはどうした?」
「あー、ユリアはその・・・」
「どうした? 歯切れが悪いぞハワード」
「この前プロポーズして婚約しました」
「ん?」
予想外な言葉がポールから出てジャンヌは聞き間違いではないかと訊き返した。
ポールはあまり照れ臭くってもう一度言うのは避けたかったが、黙っていて不信感を抱かれるのも面倒なので腹を括った。
「俺がユリアにプロポーズしまして、彼女はそれを受け入れてくれました。なので、復隊せず俺の嫁になってもらうことになりました」
「・・・おめでとう。まさか無気力なハワードがプロポーズするだなんてな。ハワードが嘘をつかないから信じられたが、普通は考えにくいカップルだぞ?」
ジャンヌはポールが嘘をつかないことをよく理解していたため、本当にポールからプロポーズしたのだと察した。
だが、ポールとユリアのカップルというのは信じにくいという気持ちも正直に伝えた。
彼女が何故そう言ったかだが、ユリアは軍を辞めるまでとても活発な性格だったのだ。
ブータスの派閥の者がユリアのことを気に喰わなく思っており、それが理由でユリアはブータスの派閥から色々と業務を振られてキャパオーバーになって潰されてしまった。
ユリアは軍を辞めてからはディオスにある実家の花屋を継いでいた。
ポールはそれ以来地道に花屋に通い、ユリアの心に負担にならない程度に会話を重ね、
元々、ユリアはポールのことを憎からず思っており、軍を辞めてからも自分のことを気にかけてくれるポールには店で見せる作り笑いじゃなくて本当の笑顔を見せていた。
それだけでなく、潰されてしまった自分の分までポールには頑張ってほしいと思っていた。
だからこそ、ポールに結婚して自分を支えてほしいと言われた時、ユリアはポールに笑顔で頷いたのである。
「ありがとうございます。まあ、そーいうことなんでユリアは復隊しません。とりあえず、復隊させられそうなのはシルビアとアイザックだけです。他の同期とはまだ話せてないので未知数です」
「いや、一度辞めた者に再び軍に戻ってくれと頼むのは難しいことだ。それは私も重々承知してるから急かすつもりはない。しかし、そうか。ハワードも遂に結婚か」
「ニヤニヤしないで下さいよ」
「すまん。シルバ達によってミミック上位種が発見されたことと同じぐらい驚いたもんでな」
どうやらしばらくの間はジャンヌが自分を見てニヤニヤするんだろうなとポールは心の中で溜息をついた。
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