第212話 言葉選びが若干物騒なんだけどスルーした方が良いかな?

 夜襲を警戒し、帝国最北端の街で一夜を過ごしてからシルバ達はスロネ王国に入った。


 スロネ王国は山に囲まれた国であり、国内にもいくつもの山がある。


 普通ならスロネ王国の最南端から城のある王城まで馬車を走らせて5日はかかるのだが、レイが馬車を足で掴んで飛んだおかげであっさりと山を越えてしまい、シルバ達が王都に到着したのはディオスを出た翌日の夕方だった。


 王都のはずれで着陸した後、<収縮シュリンク>で馬ぐらいのサイズになり、レイは王城まで馬車を牽いた。


 王城に到着すると、再び<収縮シュリンク>を発動してレイはシルバに抱っこしてもらえるサイズになった。


『ご主人、頑張ったよ~』


「よしよし。レイはすごいな。俺の自慢の従魔だ」


『ドヤァ』


 レイはシルバに褒めてもらって嬉しそうにしている。


 頭を撫でられて気持ち良さそうにしているレイを見て、王城の門番達はディオニシウス帝国ってすごいと目を丸くしていた。


 国王代理の第一王女ユリが嫁ぐ国の使者はどんな者達なのか、王城に勤めていて気にならない者はいない。


 それが実際に目の前に予想外の手段でやって来たのだから、門番達がびっくりするのは当然だ。


 馬車でやって来るにしても、まさかワイバーンに馬車を牽かせるなんてことを考える者はいなかったのである。


 ユリは予想よりもかなり早く到着した護衛を待たせる訳にはいかないので、仕掛中の仕事を大急ぎで終わらせてから応接室で待つシルバ達に会いに行った。


 ドアをノックした後、メイドがドアを開けてからユリが応接室に入る。


「お待たせしました。スロネ王国の国王代理を務めるユリ=スロネです。遠いところをようこそおいで下さいました」


「はじめまして。ディオニシウス帝国第三皇子のシルバ=ムラサメです。この者達は私が率いるワイバーン特別小隊のメンバーです。お見知りおきを」


「皆様の武勇伝はこの国まで届いておりますよ。シルバー級モンスターを容易く屠り、国内に巣食う盗賊の群れを大々的に掃除しただなんて素晴らしいです」


 (言葉選びが若干物騒なんだけどスルーした方が良いかな?)


 シルバはユリがおしとやかな雰囲気を出しつつ、その口から出た言葉が物騒であることに気づいて心の中で苦笑した。


 更に言えば、ユリの佇まいが戦う者のそれであることにも気づき、これならばアルケイデスと戦いの話で盛り上がるかもしれないとも思った。


「皆の協力があってのことです。私だけでは被害を最小限に抑えることはできなかったでしょう」


「謙虚な方なのですね。ところで、アルケイデス様はどのような方なのでしょうか?  お手紙でしかやり取りをしたことがないので、アルケイデス様を知ってる貴方の口から教えていただきたいですわ」


 (アルケイデス兄さんがどういう人か、ねぇ。俺も兄だって知ったのは割と最近だからなぁ)


 血の繋がった兄弟ではあるものの、シルバとアルケイデスが兄弟だと発覚したのはかなり最近のことだ。


 したがって、シルバが知っているアルケイデスの人となりは限定的なものである。


 それでもユリが聞きたいならばとシルバは思いついたことを口にする。


「よく食べます。ハンバーガーが大好きですね。後は元々皇太子になるつもりがなかったこともあり、現場で戦ってましたからかなり戦える部類です。その気になれば、ブラック級モンスターも単独で倒せるでしょうね」


「まぁ、いっぱい食べられる方なんですね。それと、ハンバーガーとはどんな料理なのでしょう? もしも私に作れるものならば、その作り方を教えていただきたいですわ。戦える皇太子だなんて頼りになりますのね。私はそのような方に嫁げるだなんて幸せですわ」


 シルバはユリがアルケイデスの話を好意的な受け取ってくれたため、上手く伝わってくれたことにホッとした。


「ハンバーガーの作り方なら簡単ですよ。厨房に求める食材があれば夕食に用意することも可能ですが、いかがいたしましょう?」


「流石に今から作ってはシェフ達が困ってしまいますわ。出発は明後日ですので、明日のお昼にでも作り方を教わりたいのですがそれでもよろしいかしら?」


「私は構いませんよ。無理を言ってしまい申し訳ありません」


「いえいえ。元はと言えば、私がハンバーガーの作り方を知りたいと言ったことがきっかけですもの。シルバ様が謝ることではありませんわ」


 ユリはアルケイデスに少しでも気に入ってもらいたいから、ハンバーガーの作り方をシルバに教えてほしいと頼んだ。


 皇太子と国王代理という言葉を並べれば、ほとんど同じレベルのように思うかもしれないが、大国の皇太子と小国の国王代理では話が変わって来る。


 アルケイデスに関して言えば、そんな小細工をせずとも素直に接すればユリと打ち解けられそうだけれど、ユリはこの結婚にスロネ王国の行く末が懸かっていると思っているので必死である。


 表情には見せないけれど、ユリはシルバと仲良くしてもっとアルケイデスに好かれる女性にならなくてはと焦っていた。


 シルバ達に泊まってもらう部屋の用意が整ったらしく、メイドがノックして応接室に入り、その旨ををユリに耳打ちする。


「長旅の後に私のおしゃべりに付き合っていただきありがとうございました。皆様をお泊りいただく部屋にご案内いたしますわ。夕食までの間、そちらでお休みになって下さいませ」


 シルバ達はメイドに連れられてそれぞれ部屋に案内された。


 当然のことながら、シルバとアリエル、エイルは別々の部屋に案内されており、アリエルが少し不満そうな顔をしていたけれどシルバはスルーした。


 シルバが部屋に入って椅子に深く腰掛けると、その膝の上にレイが乗っかってぐでーっとした。


『疲れた~』


「よしよし。お行儀良くできて偉かったぞ」


『エヘヘ』


 レイは応接室にいる間、本当はもっとシルバに甘えたかったのだ。


 それでも初対面の国王代理ユリがいるから、自分がだらけてシルバの評判を下げてしまっては不味いと思い、凛々しい態度をキープしていたのである。


「レイはこの国の国王代理をどう思った?」


『ん~、良い人なんじゃない? 悪意は感じなかったよ』


「そうだな。政略結婚ってことで緊張してる感じはあったけど、悪い人には見えなかったな」


『ご主人のお兄さんと歳も近いし、仲良くできると良いね』


 レイの素直さが愛らしかったため、シルバはレイの頭を優しく撫でた。


 そんな時、シルバはピクっと反応した。


 人の気配が通路ではなく、部屋の壁や天井から感じられたからである。


「警戒するのもわかりますが、こちらも兄のために貴国の国王代理を護衛しに来た身です。探りを入れないでいただきたい」


 シルバが言葉に力を込めて告げれば、すぐに人の気配はシルバが感じ取れる範囲から去っていった。


 それを待ってから熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが話し出す。


『まったく、監視だなんて失礼しちゃうんだからねっ』


『警戒、大事。ただ、相手、見極め、もっと大事』


 (それだけ国王代理のことを心配してるってことだろ)


 熱尖拳タルウィがプンプンと怒り出し、渇尖拳ザリチュは静かに不快であることを告げた。


 シルバは彼等が失礼であるとわかりつつ、それでもユリのことが大切だから自分を監視しようとしたことに理解を示した。


 自分が警告して引き下がったのだから、少なくとも話の通じる相手という認識らしい。


『ご主人、手が止まってるよ?』


「はいはい。レイは甘えん坊だな」


『エヘヘ』


 シルバはレイに催促されてその頭を再び撫で始めた。


 そこにドアをノックする音が聞こえる。


「どうぞ」


 シルバが入室を許可したところ、ドアを開けて入って来たのはアリエルとエイルだった。


 それぞれリトとマリナを連れて来ている。


「あっ、この部屋も監視がいなくなってるね」


「シルバが追い払ったんじゃないですか?」


「正解。平和的に引き下がってもらったよ。そっちは?」


 エイルはともかくアリエルなら強硬手段に出ているかもと不安になり、シルバは恐る恐る訊ねた。


「僕の場合はリトが気づいてくれたんだけど、気づいた時には撤退を始めたんだよね」


「私の部屋もマリナが監視を察知したのですが、何もしてないのに引き下がりました。だから、シルバが追い払ったんじゃないかと思ってここに来たんです」


「エイルは俺をよく理解してるね」


「婚約者として当然ですよ」


 エイルはドヤ顔で胸を張った。


 珍しくドヤ顔を披露するものだから、シルバはすかさずエイルの写真を撮った。


 その後、恥ずかしくなってその写真を消してくれとエイルがお願いしたのは言うまでもない。

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