第308話 話の途中だがデーモンの群れだ
午後になってシルバ達は西に進んでみた。
エリュシカならばムラマサがある場所に行けば、カリュシエの民の別の集落があるのではと思ってのことだ。
その読みは当たり、ウェスティアよりも大きな集落がそこに存在した。
(集落があって良かった。カリュシエの民はいるだろうか?)
集落があってもまたもぬけの殻だった場合、探索に進展がなくてモチベーションが下がってしまう可能性がある。
それは勘弁してほしいから、どうか何か見つかってくれとシルバ達は目を皿のようにして探した。
違和感に気づいたのは<
「この集落、当たりかもしれない。引っかかる反応を見つけた」
「家の中に隠れてるの?」
「その可能性は高いわね。ゴールド級モンスターが2体とレインボー級モンスターが1体いれば、まともに戦ったところで勝てないもの。やり過ごそうと息を潜めてるんじゃないかしら」
マリアの考えは当たっていた。
レイ達の上にシルバ達が乗っていることに気づいていたならば、彼等とコンタクトを取るべきだろう。
ところが、カリュシエの民はモンスターを<
「シルバ君、どうする? 揺さぶる?」
「揺さぶるって具体的に何をするつもり?」
アリエルならばやり過ぎな方法を選ばないとも限らないから、シルバはアリエルに何をしようとしているのか訊ねた。
「何って
「物理的に揺らすのか」
「うん。
「自由になるために逃げ出したとはいえ私の同族です。アリエルさん、痛いのは止めて下さい」
ティファーナは軟禁生活が嫌で逃げ出したけれど、同族が無慈悲に殺されるのをよしとしなかった。
アリエルも無益な殺生は好むところではないので頷く。
「安心して良いよ。僕だって誰かれ構わず殺したいだなんて思ってないから」
「それなら良いのですが」
アリエルにカリュシエの民を皆殺しする気はないとわかったため、ティファーナはホッとした表情を見せた。
「じゃあ、揺らすよ」
そう言ってアリエルは<
地面が揺れたその時から、何語かわからない言葉が聞こえ始める。
ティファーナは既にレイの<
建物から出て来た者達は女子供ばかりであり、地震に慣れていないからか顔色が真っ青だった。
次に動くのはレイだ。
『静まれ~!』
レイだけでなく、マリナやリト、ジェットも<
カリュシエの民の声は姿を偽装しているティファーナが聞き取るから、レイが一方的に喋ったとしても相手の言い分を考慮して話ができる。
それはさておき、レイの声が届いてカリュシエの民はおとなしくなった。
揺れは既に収まっており、レイの機嫌を損ねたら身の破滅と思っているから従順だった。
レイは打ち合わせ通りに話を進める。
『代表者は誰? 名乗り出てくれる?』
『私です』
名乗り出たのはティファーナの母親世代の女性だ。
良い意味で予想が外れたが、<
『レイはニーズヘッグのレイだよ。そっちも名乗って』
『カリュシエの民の先々代巫女、ヒストリアです。族長ではございませぬが、留守を預かる者として最も位が高いのは私ですのでご容赦下さい』
ヒストリアが名乗った瞬間、ティファーナがシルバに耳打ちする。
「ヒストリアは私の前の巫女です。族長がヒストリアを愛してしまい、処女じゃなくなってしまったことで<
(族長だからってそれで良いのかよ? いや、ちょっと待て。先々代?)
シルバはヒストリアが名乗る時に先々代と言ったことを思い出した。
「ティファーナの次の巫女が決まってるのか」
「当然ですね。カリュシエの民は巫女がいないことを恐れますから。多分、今も外に出て来れずどこかの建物の中に軟禁されてるはずです」
「大事なのはわかるけど軟禁はやり過ぎだよなぁ」
「そんな退屈で空しい人生から解放された私なので、是非ともシルバ様には嫁として迎え入れてほしいですね」
辛い話からしれっと自分の要望を口にするあたり、ティファーナは精神的にタフだと言えよう。
シルバはレイがヒストリアと交渉しているので、人差し指を口の前に持って来て静かにするようにと伝えた。
ティファーナも空気を読まないでこれ以上強引に攻めるのは悪手と判断したらしく、首を縦に振っておとなしくした。
シルバ達が静かになったのを確認してからレイは話を再開する。
『レイ達はお前達が<
レイの言葉を聞いてヒストリアは、カリュシエの民に通訳することなく押し黙った。
もしもレイの言葉を通訳すれば、パニックになること間違いなしだからだ。
族長が出かけている今、勝手に返事をすることができないから、ヒストリアはどう返答したものかと悩んでいた。
そんな時、族長らしき男が率いる集団が集落に戻って来た。
「¥*+#$!」
シルバ達の聞き取れない言語で何か言った後、彼等はシルバ達に向かって
シルバはそれを撃ち落とすべく行動に出る。
「壱式水の型:散水拳」
水を纏った正拳突きが彼等の攻撃を撃ち落とし、それでも勢いが止まらなかったシルバの攻撃が彼等に降り注ぐ。
『お止め下さい! 私共は逆らいませぬ! どうかお止め下さい!』
ヒストリアは自分達ではシルバ達に敵うはずがないとわかったから、地面に頭を擦りつけて懇願した。
カリュシエの民の女子供もそれに倣うようにして土下座をした。
シルバも好きで相手を甚振るような真似はしないから、自分の攻撃で心が折れた者達に追撃することはしなかった。
その後、ヒストリアの隣に並んで土下座したのは先程攻撃を仕掛けたカリュシエの民の族長である。
ヒストリア達が襲われていると思い、不利な戦力さとわかっても諦めきれずに攻撃したとのことだ。
シルバ達も地上に降りており、交渉は第二フェーズへと移っている。
『もう一度だけレイ達の要件を伝える。<
ヒストリアは顔を真っ青にした族長の返答を聞いて通訳する。
『貴方達はこの場で死ぬか後で死ぬかと私達に突き付けるのですか?』
ここですぐに同情すると調子に乗るだろうから、シルバはレイに次に話す内容を指示する。
レイは任せてと頷いて話を続ける。
『お前達の無責任で野蛮な行動のせいでエリュシカでは大量に死傷者が出た。レイ達の被害の分だけ今その数を減らしてやっても良いんだよ?』
『申し訳ございませぬ! 私達とて好んで周囲に迷惑をかけた訳ではないのです! 強いモンスターを相手に使える手段が<
レイに言われてヒストリアが再び地面に頭を擦りつけた。
その必死さから通訳されずともヤバい状況にあると察し、族長以下全ての者が土下座して地面に頭を擦りつけた。
(先程の攻撃からして、あれじゃブラック級モンスターを倒すのも無傷ではいられまい)
シルバは先程の攻防でカリュシエの民の実力を測っており、正攻法でシルバー級モンスター以上を倒すのは困難だろうと判断した。
そこでレイにアイコンタクトして交渉を進めさせる。
『モンスターがいない所に移り住まないのはなんで?』
『西の悪魔王、北の死霊王、南の蜘蛛女王に阻まれて移住できないのです。それどころか、奴等は私達を少しずつ甚振ろうとモンスターを送り込んで来るのです。もう、私達だけでは捌けず<
(初耳な勢力が3つもあるぞ。どうなってんだよ
シルバはティファーナにジト目を向けるけれど、ティファーナはそんな事実は初耳だと首を横に振った。
その時、ロウがシルバの肩を叩いた。
「話の途中だがデーモンの群れだ」
シルバがロウに指し示された方向を見ると、確かにデーモンの群れが迫って来ていた。
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