第309話 見ろ、デーモンがゴミのようだ!

 デーモンの群れが集落に向かって来たと知り、カリュシエの民はパニックになる。


 それがシルバの邪魔になると判断し、レイが<竜威圧ドラゴンプレッシャー>を放つ。


『落ち着け!』


 遠くから迫って来る敵の集団よりも、目の前にいるレイの威圧が怖くてカリュシエの民はすぐに静かになった。


「マリア、ここの守りは任せた」


「良いわ。存分に戦ってらっしゃい」


 マリアがこの場に残ってくれるならば、シルバは後ろを気にせずに戦える。


 ついでにティファーナも戦えないからこの場に残り、それ以外のメンバーはレイとマリナ、ジェットの背中に乗ってデーモンの群れを迎え撃つつもりだ。


 デーモンは光属性の攻撃を嫌がるので、レイとマリナが開戦の合図として<属性吐息エレメントブレス>で光のブレスを放つ。


『喰らえ~!』


『いきますよ!』


 レイとマリナの十字砲火は凄まじく、少なくないデーモン達がそれを喰らって墜落した。


「見ろ、デーモンがゴミのようだ!」


 ロウが調子に乗ってそう言った途端、デーモン達のヘイトがロウに向けられた。


「おい、何やってんだロウ。忍べない斥候とか駄目だろ」


「すみませんでした」


 自分の発言でここまでヘイトを稼げると思っていなかったため、ロウはポールのジト目に即座に謝った。


「しょうがねえなー」


 ポールは<隠密ハイド>を発動し、<無音移動サイレントムーブ>も併用して襲い掛かって来るデーモンを足場にしながら迎撃する。


 不義剣ドゥルジ・ナスで不意打ち気味に首をどんどん刈っていくから、傍目から見るとロウとジェットに近づくだけでデーモンの首が落ちていくように見える。


 しかも、不義剣ドゥルジ・ナスのせいで切断面から腐っていくから、デーモン達は次第にロウが何かやったのではと怯えて近寄らなくなった。


 ジェットの背中にポールが戻ってスキルを解除すると、ロウは深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


「おう。次は自分の尻拭いくらいしろよなー」


「はい。以後気を付けます」


 どの従魔の方向に進んでもヤバい結果にしかならないとわかったため、デーモンの群れは遠距離から闇弾乱射ダークガトリングで蜂の巣にする戦法を選んだ。


『無駄だよ』


『そんな攻撃通しません』


 レイとマリナは反射領域リフレクトフィールドを発動し、デーモンの群れの攻撃を反射した。


『守ってみせる』


 ジェットは竜巻壁トルネードウォールを展開し、自分達を守るように竜巻の壁を創り出して身を守った。


 デーモンの群れは自分達の攻撃を反射されてダメージを負ったけれど、闇属性による攻撃に耐性があるようで大したダメージにはならなかったようだ。


 シルバはデーモンの数を減らすべく、自分も攻撃を開始する。


「壱式光の型:光線拳」


 同一直線上にいたデーモン達がシルバの攻撃を喰らって墜落した。


 弱点となる光属性の攻撃は厳しかったようで、レイとマリナの十字砲火同様にごっそりと戦えるデーモンの数を減らした。


「ええいっ、貴様等に任せてはおけぬわ!」


 デーモンの群れの奥から偉そうな声が聞こえ、紫色の雷がシルバに向けて放たれる。


 その攻撃はシルバと発射した存在の同一直線状にいるデーモンを犠牲にして発射されたが、威力はほとんど減衰することなくシルバまで届いた。


「伍式雷の型:雷呑大矛」


 それでも、シルバは紫色の雷をあっさりと吸収して自分の力に変換してしまうので、フレンドリーファイアで敵の数を減らしてくれたようなものだ。


 背後から撃たれたデーモン達が墜落し、シルバ達はデーモンの群れの奥にいた個体を目視で確認した。


「鱗の鎧を着たデーモン?」


「魚の鱗かな?」


「もしそうだとしても、普通の魚ではないでしょうね」


 シルバとアリエル、エイルはそう言いながらマジフォンのモンスター図鑑機能でスケイルアーマーを身に着けたデーモンを調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:スケイルデーモン

性別:雄  ランク:レインボー

-----------------------------------------

HP:S

MP:S

STR:S

VIT:S

DEX:S

AGI:S

INT:S

LUK:S

-----------------------------------------

スキル:<闇魔法ダークマジック><雷魔法サンダーマジック><格闘術マーシャルアーツ

    <恐怖霧テラーミスト><魔力吸収マナドレイン><闘気鎧オーラアーマー

    <全半減ディバインオール><自動再生オートリジェネ

状態:歓喜

-----------------------------------------



 (なんで歓喜? いや、俺達と戦えるとわかって喜んでるんだろうな)


 スケイルデーモンの状態欄を見て困惑したシルバだったが、すぐにその原因を察して顔を引き攣らせた。


「俺様が直々に相手をしてやる」


 <闘気鎧オーラアーマー>を発動した後、スケイルデーモンはシルバ達に向かって一直線で突っ込んで来た。


 シルバが空を駆けて接近すると、スケイルデーモンは闘気砲オーラキャノンを放った。


「伍式:吸気功」


「おいおい、電磁銃レールガンだけじゃなくて闘気砲オーラキャノンまで吸収できんのかよ」


「後先考えない馬鹿のおかげで強化が捗るね」


「黙れ!」


 スケイルデーモンは頭に血が上って単調な正拳突きを放ってしまった。


「陸式雷の型:鳴神」


「ぐぁぁぁぁぁ! 腕がぁぁぁぁぁ!?」


 シルバが突き出した拳から雷の槍が放たれ、それがスケイルデーモンの右腕を貫いて破壊した。


 <自動再生オートリジェネ>があるから再生するものの、攻撃したはずの自分の攻撃が打ち破られ、それどころか自分の右腕を破壊されたのはスケイルデーモンにとってショックだったようだ。


「おのれぇぇぇぇぇ!」


 遠距離系の攻撃はシルバに吸収される可能性が高く、肉弾戦をするには右腕の回復を待たねば厳しい。


 そのように考えたスケイルデーモンの次の策は、<恐怖霧テラーミスト>によってシルバの視界を遮る時間稼ぎだった。


 (追い込むならタルウィとザリチュの力を借りた方が効率的か)


 シルバはスケイルデーモンに回復する時間を与えたくなかったので、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを召喚して装着した。


「肆式風の型:嵐濫乱世」


 両腕に嵐を纏わせたラッシュを繰り出すことにより、シルバは<恐怖霧テラーミスト>をあっさり吹き飛ばした。


 その余波で後退するスケイルデーモンのバランスを崩し、空を駆けてスケイルデーモンとの距離を詰める。


「肆式土の型:粉化鋼羅」


 <自動再生オートリジェネ>があるからこそ、少しでも回復が遅れるような技をチョイスしてシルバは発動した。


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの効果で火傷と乾燥も加わり、スケイルデーモンの体は蜂の巣のようになってすぐに木っ端微塵に粉砕した。


 回復力が高く<自動再生オートリジェネ>を使えるモンスターでも、体が砂粒レベルまで粉砕されればよっぽどのことがない限り回復はできない。


 だとしても、万が一があっては困るから、シルバは砂の山の中からスケイルデーモンの虹魔石を回収した。


 魔石を取り上げられてしまえば、<自動再生オートリジェネ>は発動しない。


 これでスケイルデーモンは復活することなく砂のままという訳である。


『シルバがアタシ達を使えばレインボー級だって余裕なんだからねっ』


『私達、強い。シルバ、召喚、安心。利用、推奨』


 (今日も力を貸してくれてありがとな。次も強敵が現れたら力を貸してくれ)


『勿論なのよっ』


『楽しみ。待ってる』


 シルバは熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを送還し、他のデーモン達を掃討してお利口に待機しているレイに話しかける。


「レイ、お疲れ様。最初の十字砲火はすごかったな」


『エヘヘ、マリナと息を合わせていっぱいやっつけたよ』


「よしよし。虹魔石をおあがり」


『いただきま~す♪』


 レイは喜んでスケイルデーモンの虹魔石を取り込んだ。


『ご主人、<全激減デシメーションオール>が<竜硬鱗ドラゴンスケイル>になったよ!』


「名前からしてドラゴン専用スキルっぽいな」


『うん! 格下の攻撃を無効にして同格、格上の攻撃に対する耐性が著しく上がるんだって!』


「スケイルデーモンの魔石だからなのかね。まあ、レイが強くなって俺は嬉しいぞ」


 シルバは得意気に胸を張るレイの頭を優しく撫でた。


 レイが満足したところでアリエルがシルバに声をかける。


「シルバ君、デーモンの解体を手伝って。すごい量なんだ」


「わかった。アリエルもレイ達をフォローしてくれてありがとう」


「どういたしまして」


 シルバは自分がスケイルデーモンと戦っている時、アリエルが中心となってデーモンの群れと戦っていたことを耳で聞いていたからお礼を述べた。


 シルバは戦いに集中していたはずなのに、自分の頑張りに気づいてくれていたと知り、アリエルはそれが嬉しくて笑顔になった。


 後片付けを済ませて集落に戻ったところ、カリュシエの民はシルバ達の強さに頭が上がらなくなったのか平伏していた。


 カリュシエの民に顔を上げさせた後、シルバ達は邪魔者が消えたことから交渉を再開した。

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