第215話 それってお前の都合なだけで常識じゃないよな
ロウとノマノスが火花を散らしながら激しい攻防を繰り広げるが、ノマノスはロウを倒すことに注意を向け過ぎて死角から飛んで来た
「くそったれ。汚い真似しやがって」
「主人と従魔が一緒に戦うのは当然のことだろ?」
「正々堂々戦う気概はねえのか? ああ゛ん?」
「それってお前の都合なだけで常識じゃないよな」
「つくづくムカつく野郎だな!」
ノマノスはイラっと来て双剣でロウに斬りかかるけれど、ロウはトンファーでその攻撃を弾く。
それだけが反撃ではなく、軍服の袖に仕込んでいたナイフを投げてノマノスのバランスを崩しにかかる。
「キィ!」
ノマノスが大袈裟に仰け反ってバランスを崩し、そのタイミングを逃さずジェットが
発動から着弾までが速い技だったこともあり、ノマノスはジェットの攻撃を膝裏に喰らった。
ロウとジェットの連係プレーが上手くいき、ノマノスに膝カックンが決まった。
その隙を逃すことなく、ロウはノマノスの脳天にトンファーをクルクルと回転させながら殴った。
脳天にキツい一撃が決まり、ノマノスはドサリと音を立てて地面に倒れた。
ノマノスの息の根は止められなかったが、完全に気を失っていたのでロウはノマノスの双剣を奪って武装解除した。
「アリエルー、こいつ埋めといてー」
気絶したノマノスが目覚めるのを待ち、その上で尋問しようとすればそこそこ長い時間この場にいなくてはならない。
そんな事態はユリの護衛をするなら避けておきたいから、ロウは馬車の中にいるアリエルにノマノスを土の中に生き埋めにしてくれと頼んだのである。
アリエルがロウのリクエストに応じて
「えっ、どゆこと? シルバ、何かやったのか?」
「ロウ先輩、俺じゃなくて敵です。おい、木に隠れてないで出て来い」
ロウがギリギリ気づけない距離にいたものに対し、シルバは石を投げて姿を見せるように声をかけた。
自分の居場所が完全にバレていると悟ったその者は、諦めてシルバ達の前に出て来た。
ロウは現れた者を息を吸うように煽る。
「四の剣の後に出て来たってことは三の剣ですね、わかります」
「話が早くて助かる。だが、勘違いしないでもらおう。奴は四剣の中でも最弱。三の剣ルシド様と対峙して首が繋がったまま帰れると思うなぁぁぁ!?」
ルシドが名乗っていた間に準備を済ませ、アリエルは無詠唱で
そのせいでルシドは名乗りながら落とし穴の中に落ちていった。
「奇襲でウチのアリエルに勝てると思ったら大間違いだ。ジェット、ルシドがちゃんと落ちてるか確認してくれ」
「キィ」
落とし穴に落ちたように見せかけて、穴を除いた自分を奇襲するかもしれないと思ったから、ロウはジェットに上空から落とし穴の様子を見に行かせた。
「キィ!」
穴の中を見たジェットはすぐに穴から離れた。
それと入れ替わるように日光に当たって何か細長い線が光った。
シルバはそれを見て光の正体に気づく。
(ルシドは鋼線使いか。しかも、鋼線がかなり細い)
ジェットを攻撃した鋼線は重力に負けて地面に落ち、それから穴の中に吸い込まれていった。
シルバがアリエルにハンドサインで穴を閉じるよう指示すると、アリエルは地形を操作して落とし穴を埋める。
生き埋めにされてなるものかとルシドが大きく跳躍し、何もなかったように地上に戻って来た。
「このルシド様の策略をよく見破った」
「自分のことを名前で呼んでその上様付けかよ。プークスクスクス」
「ざっけんなコ」
「弐式雷の型:雷剃」
ルシドに最後まで言わせず、シルバが2人の会話に割り込んで雷を纏った手刀を放った。
ルシドは雷の斬撃を避けたけれど、彼が避けた後にプツプツと鋼線が切れる音がするだけでなく、雷が鋼線を伝ってルシドに命中した。
「あばばばば」
感電したルシドはそれだけ言い残して気絶した。
ロウは用心しながらルシドに近づき、ルシドの武装解除作業を始めた。
鋼線をどうやって操っていたのか疑問に思っていたロウだが、その疑問はルシドの籠手を見て解決した。
ルシドの籠手は鋼線の射出と巻き取りができる絡繰りになっており、これを使ってルシドは鋼線で戦っていたのだ。
ロウは糸を巻き取った籠手をルシドから回収し、ノマノスが入った穴にルシドを放り込んだ。
アリエルが穴を閉じれば、刺客2人の処理も完了してシルバ達は旅を再開した。
レイが退屈そうにしていたため、シルバは座る場所を御者台からレイの背中に変更した。
馬車の上にはロウとジェットがいて、馬車の中にはアリエル達がいるから問題ないだろうと判断してのことだ。
『ご主人、四剣の残りはどんな武器を使うのかな?』
「どうだろうな。今までに出て来た2人が双剣と鋼線だから、王道の剣士が1人くらい出て来ても良いのにとは思うけど」
『もしかしたら、メイスを持って来るかもしれないね』
「あり得るな。メイスって切れ味がなくても問題ない武器だから、極論殴れればそれで良いから長く使える。継戦能力の高さからメイスを持つ刺客が出て来ないとも限らない」
シルバとレイが雑談している頃、馬車の中ではアリエル達がノマノスとルシドから奪った武器を観察していた。
「これが当代の四剣の武器ですのね」
「こうなったらあと2人の武器も集めたいですね」
「そんな都合良く襲って来るでしょうか?」
ユリとアリエルがコレクターのような会話をしていると、エイルがそもそも残り2人が襲って来るのかと疑問を口にした。
エイルの疑問に答えるのは当然だがユリである。
「襲って来ると思います。アルケス共和国はスロネ王国がディオニシウス帝国の後ろ盾を得ることを阻止したいはずですから、この先で邪魔をされないはずありません」
「そうですか。ちなみに、当代の四剣の残りはどんな人物なのかユリ様はご存じですか?」
「二の剣ディネと一の剣マンダですね。ディネはメイス使いでマンダは不思議な剣を使うと聞きます」
「不思議な剣、ですか?」
不思議な剣と聞いてエイルはアリエルと目を見合わせた。
アリエルの騒乱剣サルワと同じく呪われた剣の可能性があるからだ。
「そうです。密偵の情報によれば、剣の見た目は半円に曲がった刃を持つもので、盾に防がれないように敵を攻撃する剣のようです。あぁ、剣の種類で言うとショーテルのはずです」
ここまで聞いてから、この件はエイルが訊くよりも自分の方が適任と判断してアリエルが質問を引き継ぐ。
「その剣って使用者におかしな影響が出たりしたって報告はありませんでしたか?」
「・・・あったような気がします。タリア、その剣の使用者について不思議な話が付いて回らなかったかしら?」
「確か、斬られた傷口がすぐに腐るという話を聞きました。また、使用者が蠅に集られるようになり、剣を所持した時間に比例して集られる蠅の量が増えるとも聞いております」
「嫌な効果が付いてますね。話を聞く限り、呪われた剣のようですね」
タリアから話を聞いたアリエルは、そのショーテルが自分の所有する騒乱剣サルワに並ぶ呪いの剣だと確信した。
アリエルの言葉にユリがなるほどと頷く。
「呪われた剣ですか。しっくりきますね。もしかして、サタンティヌス王国と争うトスハリ教国で突然背教者が剣を握って暴れ出したというのもその影響でしょうか?」
「その通りです。トスハリ教国が保有してる呪われた剣の名は背教剣タローマティと言います」
「背教とは教国にとっては死活問題の呪いですね。そんな剣を使って国民は許すんですか?」
「僕達もなんでも把握してる訳ではありませんから、教国内がどうなってるかわかりません。ただし、教国は宗教国家のくせに僕たちの国をグチャグチャにしようと宗教関係者に盗賊と同じ振舞いをさせるような国ですから、臭い物に蓋をするのは得意なんでしょうね」
「恐ろしい話です。そう考えると、一の剣マンダのショーテルにも十分警戒が必要ですね」
アリエルから話を聞き、ユリは何ということだと体をブルッと震わせた。
危険な剣を持つ者に自分が狙われていると改めて実感したのだろう。
「ユリ様、安心して下さい。僕達の言うことをちゃんと聞いていただけるのならば、無事に僕達の国に辿り着けますので」
「頼りにしております」
アリエルが堂々と言い切ったことで、ユリの不安は和らいだ。
未成年のアリエルに言われて安心できたのは、無傷で四剣の内2人を倒したからだ。
ユリを護衛する旅はまだ始まったばかりだ。
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