第317話 今日のサルワは血に飢えてるよ

 ゴールド級とシルバー級のデーモンの群れを倒した後、シルバ達は戦利品回収を済ませてから瓦礫の山に向かった。


 倒したデーモンの中に悪魔王らしきデーモンはおらず、それらとの戦闘を陽動にして逃げた気配もない。


 そうであるならば、悪魔王は瓦礫の山の中にいるはずなので、アリエルは<土魔法アースマジック>で瓦礫を操作して石造りの塔に変えた。


 瓦礫を動かしている時に悪魔王が反応しなかったことから、敵は地上にはいないのだろう。


 塔の中に入ってみたところ、そこには地下に続く階段があった。


「あぁ、残念だ。敵が地下にいるってわかってたらマリナにも来てもらったのに」


「なんで地下に敵がいたらマリナの力が必要なんだ?」


「そりゃ大量の水を流し込んで溺れさせるために決まってるじゃん」


「ナチュラルにえげつねえ」


「この程度じゃ大したことないって。その後にシルバ君の雷で感電させるんだから」


「マジでアリエルは呼吸するように不意打ちのこと考えるなぁ」


 シルバが若干引いていることに気づき、アリエルが慌てて抗議する。


「呼吸するようにじゃないよ! せいぜい食事するぐらいだって!」


 (呼吸よりは自然じゃないけど、それでも食事するぐらい当然に不意打ちする訳か)


 否定するならもっと違うんだとアピールすれば良いのだが、アリエルも不意打ちが基本になっている自覚はあるからなのか見栄を張らない。


 なんにせよ、シルバはアリエルがある程度自分を客観視できていることにホッとした。


 階段を降りて地下に移動してみれば、そこは玉座の間と呼ぶに相応しい空間だった。


 玉座にはだらしのない恰好で座る位の高そうな女悪魔がいて、その隣には一目で近衛とわかる全身武装した男悪魔がいた。


 女悪魔は男悪魔にゴニョゴニョと喋り、男悪魔が女悪魔に変わって話し出す。


「我等の縄張りに攻め込み、同胞を残らず殺した罪は万死に値する! この場から生きて帰れると思うな!」


「そっちこそ僕達に勝てると思わないでよね」


 男悪魔が喋り出した時には既に仕込みを終えていたらしく、アリエルは鋼棘メタルソーンを発動して女悪魔と男悪魔の足元から鋼の棘を生やそうとした。


 ところが、それは男悪魔の方でしか成功せず、男悪魔はアリエルの不意打ちを読んでいたのか攻撃された時には剣を抜いて飛んで来ていた。


『近づかないで』


 リトは<石化眼ペトリファイズアイ>を発動し、男悪魔を石化させようとした。


 ところが、男悪魔は<石化眼ペトリファイズアイ>に耐性があったようで、石化速度が非情に遅かった。


 それだけでなく、石化からの回復も始まっており、3秒とかからずに石化が解除されていた。


「アリエル、気を付けろ。そいつはレインボー級のデーモンロイヤルガードだ。<全激減デシメーションオール>も<自動再生オートリジェネ>も会得してるぞ」


「うーわ、嫌な相手だね」


 シルバから敵の情報を聞いてアリエルは嫌そうな顔をしつつ、爆発エクスプロージョンを発動していた。


 デーモンロイヤルガードは盾を犠牲にして爆発から身を守り、爆炎から飛び出して剣でアリエルを斬り殺さんと接近する。


『えいっ』


 リトは<石化眼ペトリファイズアイ>が駄目ならば、重力グラビティでデーモンロイヤルガードの動きを鈍らせるつもりのようだ。


 僅かながらデーモンロイヤルガードの動きが鈍ったのを感じ取り、アリエルは騒乱剣サルワで敵の剣を受け流した。


「今日のサルワは血に飢えてるよ」


 アリエルはニヤリと笑い、デーモンロイヤルガードの剣を受け流したその隙を突いて鋼棘メタルソーンで敵の足元から鋼の棘を生やした。


 騒乱剣サルワで攻撃するとアピールしておいて、堂々と騙し討ちするのがアリエルクオリティだ。


 流石のデーモンロイヤルガードも正面からの攻撃に警戒してしまい、足元からの攻撃に気が付くのが遅れてしまった。


 気づいた時には鋼の棘が足の甲を貫いており、アリエルがそんなデーモンロイヤルガードに再び爆発エクスプロージョンを発動した。


「ぬがぁ!?」


 爆風によって吹き飛ばされたデーモンロイヤルガードだが、身に着けていた全身の鎧がバラバラになって体のあちこちに傷を負っていた。


 それでも、<全激減デシメーションオール>でダメージ自体は見た目よりも少ないし、<自動再生オートリジェネ>で傷は少しずつ癒えるから、デーモンロイヤルガードはまだまだ戦える。


 シルバは悪魔王と思しき女悪魔が手出ししないように見張っているので、デーモンロイヤルガードとの戦いに参加するのはアリエルとリトだけだ。


「どうしたの? 僕達は万死に値するとか言ってなかったっけ?」


「貴様ぁぁぁぁぁ!」


 攻撃に対する耐性はあっても煽られ耐性がなかったようで、デーモンロイヤルガードは体勢を立て直してから闇弩ダークバリスタで反撃する。


『やらせないよ』


 リトは闇弩ダークバリスタを<石化眼ペトリファイズアイ>で石化させ、敵のアリエルへの攻撃を防いだ。


「ならば直接殺してやる!」


 鎧も盾もなくなったデーモンロイヤルガードのスピードは一段階上がっており、前衛ではないアリエルにとって敵の刺突を防ぐのは困難だろう。


 だが、シルバはアリエルにはまだ余裕があると判断して見守っていた。


 その判断が正しかったと伝えるように、デーモンロイヤルガードは突然創り出された岩の樽に顔だけ出すような形で捕えられてしまった。


「リト、補強して」


『うん』


 岩の樽はリトの重力グラビティによって強度が増し、そのまま地面にめり込んだ。


 (ん? 樽のあちこちに細長い穴がある?)


 シルバは岩の樽をじっと観察したところ、剣の刃ぐらいなら通過させられそうな細長い穴があちこちに開いていることに気づいた。


「マリアさんに聞いたんだけどさ、あの人の故郷には悪人を樽に摘めて順番に剣を突き刺す遊びがあったらしいんだ」


 黒〇げ危機一髪のことを言っているのなら、それはあくまで玩具の話である。


 そこには断じてリアリティが求められていない。


「ま、まさか?」


「そう! 今日のサルワは血に飢えてるって言ったでしょ?」


「止めろぉぉぉぉぉ!」


「リト、こいつの口を塞いで」


『わかった』


 リトはアリエルの指示に従い、デーモンロイヤルガードの口に範囲を絞った重力グラビティを発動した。


 それにより、デーモンロイヤルガードは強制的に口を塞がれて喋れなくなった。


「さあ、お遊びの時間だよ♪」


 この後、アリエルは騒乱剣サルワをいくつもの穴から突き刺しては抜いた。


 何度も何度も突き刺していけば、騒乱剣サルワの追加効果でデーモンロイヤルガードの脳内で幻の悲鳴が鳴り響いて発狂してしまう。


 叫びたくても口を塞がれており、延々と聞かされる悲鳴に心が折れてしまった。


「バイバイ」


 心が折れて虚ろになったデーモンロイヤルガードの首を刎ね、アリエルは戦いに勝利した。


 この勝利の仕方が騒乱剣サルワにとって良かったらしく、自分はすこぶる機嫌が良いんだと使用者アリエルに伝える。


「はしゃぐな駄剣」


 アリエルに冷たく言われてしまえば、騒乱剣サルワはすぐにおとなしくなった。


 騒乱剣サルワはアリエルに完全服従状態だから、これ以上はしゃげば自分が酷い目に遭わされるだろうと悟ったのだ。


『騒乱剣サルワは従順な犬みたいだわっ。シルバ、アタシ達をあんな風に扱っちゃ駄目なんだからねっ』


『今のまま、希望。永遠に』


 (わかってるから安心してくれ。ああいう関係性にはならんから)


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュは、シルバにアリエルのように自分達を扱わないでくれと強く願った。


 シルバもそんな風に扱うつもりは毛頭ないので、今まで通りの友好的な関係でいたいと彼女達に答えて安心させた。


 デーモンロイヤルガードが倒されたところで、目の前の戦いに対して興味を持っていなかった悪魔王が大きく伸びをした。


「ふぁ~あ。護衛のくせに情けないわね」


「その情けない護衛しかいない悪魔王ってのも情けないんじゃないかい?」


「さあ」


「え?」


 さあと言った後に姿が消えたと思ったら、悪魔王が目の前にいてアリエルは冷や汗をかいた。


「死んでちょうだい」


「陸式光の型:流星」


 悪魔王の接近を読んでいたから、シルバの攻撃は速かった。


 先程までのダラダラしていた姿からは考えられないスピードで移動し、悪魔王は玉座の前に逃げていた。


 しかし、悪魔王は無事にシルバの攻撃を回避できた訳ではなく、左頬を掠めていたようで出血していた。


 頬から流れ落ちた血をペロリと舐めると、悪魔王は蠱惑的な笑みを浮かべた。


「貴方との戦闘デートは楽しめそうね」


「ちょっと何を言ってるのかわからない」


 戦闘をデートと捉える趣味はシルバにはないのだから、悪魔王の言い分を理解できないのは当然だ。


 先程の攻防からアリエルは悪魔王には敵わないだろうと判断し、シルバは自分とレイだけで悪魔王を倒すと決めた。

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