第316話 速度は重さ。音速の隕石に潰されたことはあるかい?

 翌朝、シルバはアリエルとレイ、リトと共に転移門ゲートを通って異界カリュシエにやって来た。


「待ってろ悪魔王。存在をなかったものにしてやる」


『いっぱい狩ってパワーアップするぞ』


 悪魔王に罪があるかと訊かれれば悩ましいところだ。


 死霊王や蜘蛛女王と共に闇耳長族ダークエルフを包囲していたことから、闇耳長族ダークエルフに逃げ場がなくなり、<外界接続アウターコネクト>で割災を起こさせた。


 そういう意味では間接的に罪があると言えるから、割災に悩まされていたエリュシカに住む者として成敗すべきという考え方もある。


 しかし、アリエルの抱く怒りははっきり言って私怨だ。


 日頃の行いのせいでデーモンよりデーモンらしいと言われているにもかかわらず、悪魔王なんて存在が明らかにされれば余計なことを言われかねないと思って倒す訳だから、悪魔王にとってはいい迷惑だろう。


 だとしても、所詮この世は弱肉強食だから戦うしかないのだが。


 シルバ達はレイの背中に乗り、前に闇耳長族ダークエルフと遭遇した集落の上空までやって来た。


「今後のことを考えると、ここも休める基地にしておきたいよね」


「そうだな。管理する場所が増えるのは手間かもしれないけど、毎回フロンティア基地からの出発じゃ遠いからな」


「ということでリト、合体技といこうか」


『うん!』


 (一体何を始める気だろう?)


 シルバはアリエルとリトの合体技なんて初耳だったから、レイと一緒にどうなるんだろうと見守っていた。


 アリエルが岩円ロックサークルで集落を覆うように円形の岩壁を創り出すのと同時に、リトが重力領域グラビティフィールドで適度に力を加えることで岩壁を頑丈なものにしたのだ。


「おぉ、消費するMPを分散して外壁を創ったのか」


「正解だよ。僕だけで外壁を創るよりも消費は少なくて済むし、重力のおかげで頑丈にもなってる。だったらやらない手はないよね」


「そうだな。でも、悪魔王との戦いの前にMPを使っちゃって良かったのか?」


「これぐらいなら大丈夫だよ。僕達だけならともかく、今回はシルバ君とレイも一緒だからね」


 悪魔王を倒す前にわざわざMPを減らす必要はないとわかっているが、後々のことを考えると外壁ぐらい先に作っておいた方が異界カリュシエのモンスターに対する牽制になるし、シルバとレイがいるなら戦闘中のカバーも期待できる。


 だからこそ、アリエルは悪魔王を本格的に探す前に外壁だけ創ったのだ。


「まあ、アリエルがピンチな時に放置するような真似はしないさ」


「でしょ? じゃあ、このまま西に行こうよ。憎き悪魔王退治だ」


「レイ、そういうことだから頼む」


『は~い』


 アリエルは特に休憩を求めていなかったので、シルバ達は休むことなく西に向かった。


 しばらく飛んでいく内に、デーモンの頭を模った巨大な岩のオブジェクトがシルバ達の視界に映った。


「見るからにデーモンの巣っぽいのがあるぞ」


闇耳長族ダークエルフが他にいるって話も聞かないし、こっちから仕掛けちゃおうか。リト、合体技その2だよ」


『わかった!』


 (合体技は1つじゃなかったのか。いや、1つなんてアリエルは言ってなかったな)


 勝手に合体技が1つだと勘違いしていたのは自分だから、シルバは決めつける思考にならないよう気を引き締めた。


 勝手な思い込みや決めつけは、あらゆるタイミングで致命的なミスに繋がりかねない。


 シルバが気を引き締めようと思うのも当然である。


 それはさておき、アリエルが発動したのは隕石メテオだ。


 リトはその隕石メテオ重力グラビティを発動して隕石の墜落速度がぐんと上がった。


 それはあっという間にデーモンの頭を模った岩に墜落し、その岩を粉砕した。


「『速度は重さ。音速の隕石に潰されたことはあるかい?』」


「あったら死んでるだろ」


『息ぴったりだね。ご主人、レイ達も今度ああいうのやりたい』


 アリエルとリトが決めゼリフをシンクロして言えば、シルバは冷静にツッコんだ。


 レイはセリフの中身に突っ込まず、主従息ぴったりの合体技に興味が湧いたようだ。


 少し前は<付与術エンチャント>でシルバが【村雨流格闘術】の風の型を使えるようにしていたけれど、シルバに風属性の適性が目覚めてからはその出番もなくなった。


 シルバもレイも個として強いから、連係プレーはあっても合体技はまだないのである。


「フッフッフ。名付けて重力隕石グラビティメテオだよ。ドアノックには丁度良いよね」


「待て待て。ドアノックなんて優しいもんじゃないだろ。初手でかなり敵の戦力を削れたんじゃないか?」


「この程度で終わるなら、僕は悪魔王やその配下にデーモンと名乗らせないよ」


「アリエルはデーモンという名称に何を求めてるんだ?」


 アリエルのデーモンに対する拘りがなんなのか気になり、シルバはそれを訊ねた。


 それに対してアリエルは真顔で応じる。


「腐った王族よりも狡賢く、ゴキブリよりもしぶといことかな。それでこそ僕はそんな存在じゃないと声を大にして言える」


「お、おう」


 アリエルは腐った王族ともゴキブリとも違う。


 デーモンがアリエルの考えるような特徴を持てば、確かにアリエルがデーモンよりデーモンらしいなんてことは言われなくなるだろう。


 そんな話をしていると、拠点を潰されてキレたデーモンの群れがシルバ達に襲い掛かって来た。


「レイ、合体技をやってみよう。振り下ろすように光のブレスを頼む」


『わかった!』


「弐式光の型:光之太刀」


 レイが<属性吐息エレメントブレス>で光のブレスを上から下に振り下ろすのと同時に、シルバは腕から伸ばした光の刃を左から右に薙ぎ払った。


 最初からタイミングが合っていたおかげで、光の十字架がデーモンの群れの大半を仕留めた。


「うわぁ、すごいや。流石シルバ君とレイだね。一発で成功するなんて息ぴったりだ」


光十字架ライトクロスが良いと思う』


「それ良いね。僕も賛成」


 リトは技名を決めるのが得意らしく、アリエルもリトの案に賛成した。


光十字架ライトクロスか。決まるとスッキリするな」


『ご主人とレイは仲良しだもん。一発成功するのは最初から決まってたよ』


 すっきりした表情のシルバに対し、レイはこれぐらいできて当然だと得意そうに言った。


 光十字架ライトクロスの攻撃範囲から逃れられたデーモンは3体いた。


 通常のデーモンよりもマッシブな個体とガリガリな個体、細マッチョで槍を持った個体だ。


 シルバがマジフォンのモンスター図鑑に表示された情報を読み上げていく。


「パワードデーモンとラピッドデーモン、テクニカルデーモン。いずれもゴールド級モンスターだ」


「リト、金魔石を3つもゲットするチャンスだよ」


『やったね!』


 リトはアリエルの言う通りだと喜びつつ、重力領域グラビティフィールドを発動した。


 ラピッドデーモンとテクニカルデーモンは効果範囲から逃れられたが、パワードデーモンはスピードが足らず地面にめり込んでしまった。


「1名様ご案内」


 そう言ったのはアリエルで、喋るのと同時に鋼棘メタルソーンを発動して地面にめり込んでいるパワードデーモンを仕留めた。


「よくもやってくれたな!」


 ラピッドデーモンは怒ったせいで動きが単純になり、一直線で飛び込んで来たところをリトの闇弾乱射ダークガトリングで蜂の巣にされた。


「よくも同胞を無慈悲に殺してくれたな、この血も涙もない悪党共め!」


 (世界広しと言えど、デーモンから悪党呼ばわりされるのはアリエルとリトぐらいだ)


 シルバは傍観者のように心の中で感想を述べながら、ゴールド級のデーモン3体とのアリエル&リトコンビの戦いを動画に収めている。


 本来は悪魔王を倒しに行く過程でこんな戦いがあったんだと記録し、留守番組に見せてあげようと思ったのだけれど、テクニカルデーモンがとんでもない発言をしたのも撮れてしまったため、シルバは静かに苦笑している。


「無慈悲なんてとんでもない。仲間外れにならないように、ちゃんと君も倒してあげるよ」


 アリエルは火弾乱射ファイアガトリングでテクニカルデーモンを攻撃した。


 ところが、テクニカルデーモンは手に持った槍を回転させ、火の弾丸を弾き飛ばしながらアリエルに突っ込んだ。


「前からの攻撃が駄目ならから攻撃すれば良いだけだよね」


 その瞬間、テクニカルデーモンは自分の両脇を固めるべく闇壁ダークウォールを発動した。


 だが、それはアリエルのハッタリだった。


 本命はリトの重力グラビティであり、前と横からの攻撃を防ぐことに注意していたテクニカルデーモンは重力に負けて地面にめり込んだ。


「バイバイ」


 アリエルは再び鋼棘メタルソーンを発動し、地面にめり込んでいるテクニカルデーモンを仕留めた。


 (この動画を見たら、またアリエルがデーモンよりもデーモンらしいって言われそうだ)


 シルバはその感想を胸にしまったまま動画撮影を終了した。

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