第315話 あっ・・・(察し)

 ワイバーンを連れて帰ったシルバ達は、先に第一騎士団を解散させてから留守番していたアリエルやティファーナにワイバーンをお披露目した。


「ワイバーンの通常種を希少種よりも後に見るって僕達はなかなかレアだよね」


『ドヤァ』


 今は進化してしまったが、レイは元々ワイバーンの希少種だった。


 通常種よりも先に希少種を卵から育てるなんて滅多にないことだが、シルバ達はそれができた。


 だから、アリエルはワイバーンの通常種の方が逆に珍しく感じてしまった。


 レイは自分の存在が周囲の人間の常識を変えたのだと知り、シルバの腕の中で得意気な表情になり胸を張った。


 シルバはレイの頭を撫でつつ、ティファーナがワイバーンをテイムできるだろうかと静かに彼女を見守っている。


「レイさんともマリナさんとも違うタイプのようですね」


「キュ」


 ワイバーンは短く鳴いてからティファーナに頭を差し出した。


「撫でさせてくれるのですね。ありがとうございます」


 毎日レイを撫でさせてもらっているからか、ティファーナの撫で方はワイバーンにとって及第点だったらしい。


 嫌がることなくされるがままにしていた。


『ティファーナがお前の主になっても構わない?』


「キュイ」


 レイが訊ねたところ、ワイバーンは首を縦に振った。


 それが嬉しくってティファーナはワイバーンを抱き締めた。


「ありがとう。従魔ならば名前を決めなくてはいけませんね。レイさん、この方は雄と雌のどちらですか?」


『雄だよ。歳は私と変わらないぐらいみたい』


「そうですか。では、ウノにします」


 ティファーナがワイバーンの名前を即決したので、シルバはティファーナに訊ねる。


「ウノって言葉は聞いたことがないけど、何か意味があるのか?」


「はい。闇耳長族ダークエルフの言葉ではウノとは1のことです。マリアさんに聞いたところ、レイさんのレイには0という意味もあるそうなので、それに続く意味で1のウノとしました」


『レイの次ってところが気に入った。賛成だよ』


 実力で勝っていいても、名前で先を越されるのは癪だからレイもティファーナのネーミングセンスを評価した。


「キュイ」


『ウノもこれからはウノと呼んでくれだって』


 当人、いや、当ワイバーンが良いならばシルバ達が反対する理由はない。


 ティファーナが名付けた通り、連れ帰って来たワイバーンの名前はウノになった。


 アリエルは腕を組んでじっとウノを見つめる。


「でもさ、これってすごいことだよね。孵化させて育てた訳でもないのに従魔になるなんて」


「ドラゴン型モンスターみたいにそれぞれが強くて賢く、上下関係がはっきりした種族だけだろ。ウノだってレイがいなかったらあっさりとティファーナの従魔にならなかったんじゃないか?」


「キュウキュウ」


 ウノが何か伝えたがっているのだと思い、シルバはレイに通訳を頼んだ。


『ウノがティファーナの従魔になった理由は2つだって言ってる。1つ目はご主人がレイの関係を見て、自分も降れば良い待遇で迎えてもらえそうと思ったから。2つ目は従魔を持たない者でご主人のお師匠様とティファーナのどちらの従魔になった方が安心できるか比べた時、ティファーナの方が落ち着けると思ったって言ってる』


「うぅ、私はスパルタで育てたりしないのに」


「え?」


「え?」


 マリアの自分はスパルタで育てない発言を聞き、それは本気で言っているのかとシルバが訊き返せば、マリアも自分は何かおかしなことを言っただろうかというリアクションになった。


 シルバ的には、マリアの修行なんてスパルタでしかないと幼少期から思っていた。


 その一方、マリアは地球にいた頃から古くから続く村雨家で過ごしていたため、物心つく頃には修行を開始するのが当たり前だと考えていた。


 両者の考えにギャップがあるからこそ、お互いに何言っているんだこいつはと言いたげな表情になっている。


 ちなみに、ウノがティファーナを主に選んだ本当の理由は消去法である。


 シルバからはマリアとティファーナしか紹介されなかったが、自分がムラサメ家の誰かの従魔になりたいと強く願えば聞いてもらえると予測していた。


 シルバはレイが自分以外の従魔の存在を許さないだろうから主になってもらえない。


 アリエルは自分を見る目が冷めていたから、従魔になった時にリトと同レベルの待遇は厳しいと判断した。


 エイルはレイに及ばずとも強そうなマリナを従えているから、シルバと同様に主にして貰えないと思った。


 マリアは本能的に近付きたくないから却下した。


 そうなると、物腰が柔らかそうで自分に期待している目のティファーナしかウノに選択肢は残っていないのだ。


 それはさておき、シルバは今の異界カリュシエの情報についてもっと詳しくウノに訊ねる。


「ウノ、異界カリュシエの勢力図はどうなってる? わかる範囲で教えてくれ」


 レイがシルバの言葉を通訳し、ウノの言葉をレイが通訳してシルバ達に伝える。


『死霊王のいた山を自分達の領地にしようと悪魔王と蜘蛛女王が戦ってる。そこに勢力に属さないモンスターが気まぐれで参戦してる。竜王は自分達の領地さえ平和ならその他はどうなっても構わないと思ってたけど、血迷った馬鹿が領土に攻め入って来たせいでキレてる。異界カリュシエで逆らっちゃいけない者をわからせて来いと言われて派遣された1体がウノだって』


「なるほどね。マリア、竜王と悪魔王、蜘蛛女王とは面識がないよな?」


「竜王の部下には心当たりがある。竜王とは面識がない。他2体も面識がないわ。異界カリュシエにいた頃の私って基本的にモンスターは見敵必殺サーチ&デストロイだったから」


 悪魔王と蜘蛛女王はついでだが、マリアが竜王と会っていれば相互的に不可侵の取り決めを結べないかと思ったシルバだったが、その目論見は残念なことに現実にはなりそうになかった。


「そうか。まあ、運が良いのは闇耳長族ダークエルフみたいに<外界接続アウターコネクト>を使える種族がいないことだ。もしも異界カリュシエの戦争にエリュシカが巻き込まれたら、大変なことになるのは間違いないし」


 シルバの発言にマリアが待ったをかける。


「その考えは甘いわね。今は<外界接続アウターコネクト>を使えなくとも、いずれ使えるモンスターが出て来ないとも限らないわ。それに異界カリュシエの戦争が更に激化した場合、騎士団を派遣して魔石を回収させるプランは中止しないと駄目よ。負わなくて良い怪我をするリスクを負わせるなんて、上に立つ者として相応しくないもの」


「となると、俺達だけで異界カリュシエに喧嘩を売りに行くか? 話を聞く限りじゃ竜王はこちらから仕掛けなければ戦わなくても済みそうだ。悪魔王と蜘蛛女王、孤高を気取る戦闘狂だけ相手にすれば異界カリュシエが落ち着くよな?」


「私はそれで良いと思うわ。なんでもかんでも倒して回ったら、この先騎士団の遠征ができなくなるからね」


 マリアはシルバの考えに賛成した。


 そこにアリエルが続く。


「次は僕も行きたいな。悪魔王なんて奴が存在すると、余計なことを言いそうな人がいるからね」


「「「「あっ・・・(察し)」」」」


 シルバとエイル、マリア、ティファーナの反応がシンクロした。


 デーモンよりもデーモンらしいと評価されることの多いアリエルだから、その親玉である悪魔王という存在が知れ渡るのは好ましくないのだ。


 元小隊メンバーや元クラスメイトに悪魔王の存在がバレれば、言った後で自分がどうなるか考えずにアリエルに対して余計なことを口にするのは容易に想像できる。


「リト、皆が酷いんだ」


『元気出して』


 シルバ達のリアクションを見て悲しくなったようで、アリエルはリトをモフモフして気持ちをリセットした。


 アリエルが腹黒い話はここまでにして、シルバ達はウノをどこに住まわせるか決めることにした。


 後回しになっていたけれど、マジフォンのモンスター図鑑機能でウノの情報を調べてから決めた方が良いだろうと考え、シルバ達は早速調べ始める。



-----------------------------------------

名前:ウノ 種族:ワイバーン

性別:雄  ランク:シルバー

-----------------------------------------

HP:B

MP:B

STR:B

VIT:B

DEX:B

AGI:B

INT:B

LUK:B

-----------------------------------------

スキル:<属性吐息エレメントブレス><火魔法ファイアマジック

    <毒刺尾ポイズンテイル><全耐性レジストオール

状態:心配

-----------------------------------------



 (<収縮シュリンク>を会得してないのか)


 相手を威圧する要素でもある体のサイズを小さくしようなんて、野生のワイバーンが考えるはずなのだから、<収縮シュリンク>を会得することはないだろう。


 とりあえず、今はウノに転移門ゲートがある部屋の警備も兼ねて住んでもらうことに決まった。

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