第314話 私を中古呼ばわりしたユニコーンはワンパンで仕留めて来た

 3日後、準備が整って第一騎士団がムラマサ城の転移門ゲートを使い、フロンティア基地を経由して異界カリュシエ探索を始めた。


 今回は初回の探索なので、治療役としてエイルとマリナがフロンティア基地に待機し、その護衛としてマリアが同行したのだが、エイル達を送り出してから1時間後にエイル達が戻って来た。


「シルバ、異界カリュシエが荒れてます。あちこちでモンスター同士の戦いが起きてますよ」


「どゆこと?」


 エイルの報告にシルバが首を傾げたところ、そこからはマリアが話を引き継いだ。


「シルバとレイちゃんが死霊王を倒したでしょ。それで勢力の均衡が崩れたみたいね。空から観察してみたけど、どうやら異界カリュシエは戦国時代に突入したみたいね。フロンティア基地周辺を除いてモンスター同士の戦いばかりだったわ」


「マリアなら威力偵察で何体か敵を倒したよね。何がいた?」


「私を中古呼ばわりしたユニコーンはワンパンで仕留めて来た」


「馬鹿な奴がいたものだ」


 ユニコーンは純潔の乙女のみに心を許す性格をしており、マリアと対峙したその個体は血迷ったか出会い頭にマリアを中古と呼んだ。


 それが年齢的な意味なのか、シルバと夜の営みを経験したからなのか真実はもうわからない。


 怒れるマリアの壱式:拳砲で一発KOになり、そのまま素材として持ち帰られたのだ。


 マリアが<無限収納インベントリ>から解体したユニコーンの角と虹魔石を見せると、シルバに抱っこされていたレイがマリアにウルウルした目を向ける。


『ご主人のお師匠様、レイに虹魔石ちょ~だい』


「勿論良いわよ。おあがりなさい」


『ありがと~』


 マリアはレイに魔石を与え、レイがそれを飲み込んで嬉しそうにするのを見て機嫌を良くした。


 更に言えば、マリアには<看破シースルー>があるから新たなスキルや技を使えるようになったことがわかるので、レイの変化にいち早く気づいた。


「おめでとう、レイちゃん。聖域サンクチュアリが使えるようになるなんて立派だわ」


「マリア、聖域サンクチュアリってどんな技? 名前からして<光魔法ライトマジック>に分類されると思うんだけど」


「正解よ。展開した結界の中にいればダメージや体の悪い所が治療され、結界の中にいる間は外敵による攻撃を通さない。消費MPは多いけれど守りと回復を兼ね備えた技ね」


『ドヤァ』


 マリアの説明を聞いてドヤ顔を披露するレイに対し、シルバはその頭を優しく撫で始めた。


 レイの頭を撫でている間、シルバはふとあることに気づいた。


「というか、今更だけど第一騎士団がヤバいんじゃないか? 無茶な探索はしてないよな?」


「大丈夫よ。サイモンが第一騎士団はシティバリアの効果で集まったモンスターを倒すと言ってたから、それ以外に欲をかいて余計なことはしないはずよ」


「サイモンが言うなら第一騎士団が何かすることはないな。でも、今の異界カリュシエは普通じゃない。俺も様子を見に行こう」


『レイも行く~』


 シルバ達は転移門ゲートを通ってフロンティア基地へと向かった。


 まだ第一騎士団はフロンティア基地に戻っていなかったため、シルバ達はレイとマリナの背中に乗って上空から第一騎士団を探した。


 その結果、第一騎士団はフロンティア基地の北西5km地点に集まっているモンスターと戦っているのを見つけた。


「デーモン5体と昆虫集団との三つ巴か。こりゃ面倒そうだ」


「騎士団が三つ巴で戦うなんて機会は早々ないものね。どっちか倒してあげた方が良いんじゃない?」


「そうだな。第一騎士団はシルバー級モンスターなら倒せるけど、この数を相手にするのは厳しい。数の多い昆虫集団を倒すか」


 この場にいるデーモンも昆虫集団もシルバー級モンスターであり、それぞれ悪魔王と蜘蛛女王の配下のようだ。


 昆虫集団はシルバーマンティスとシルバービートル、シルバーバグ、シルバーバタフライの4種類で構成されており、シルバーマンティスとシルバービートルだけ2たいずついる。


「賛成です。デーモンも昆虫集団も好きではありませんが、見た目的には昆虫集団の方が苦手ですから」


 エイルは虫型モンスターが苦手だから倒してほしいと自分の気持ちを素直に告げた。


 それで逆の対応をするようなシルバではない。


「了解。弐式雷の型:雷剃・舞」


 シルバはレイの背中の上から雷を帯びた斬撃を舞うように六連発した。


 色付きモンスターの中でもゴールド級やシルバー級は体表が色と同じ金属になっている種族もいる。


 虫型モンスターの場合、硬度が足りなくて脆い所を突かれてやられることが多いから、ゴールドやシルバーの色付きモンスターは体表が色と同じ金属になっている。


 銀はそのままでは柔らかいけれど、魔力を通せば硬度が上がる。


 それでも、金属は電気を通す特性は変わらないから、シルバの攻撃によって6体の昆虫集団は斬撃と電撃のコンボであっさりと力尽きた。


 空からシルバが援護してくれたと気づき、サイモンは第一騎士団に気合を入れさせる。


「第一騎士団、公王様にここまで助けてもらって何もできないなんてことは認められん! 今こそ日頃の鍛錬の成果を見せる時だ!」


「「「・・・「「おおぉぉぉぉぉ!」」・・・」」」


 サイモンの声に第一騎士団員が応じ、そこから先はデーモン5体を相手に軽傷は負っても犠牲者を出さずに倒してみせた。


「お疲れ様です。負傷された人はこちらに来て下さい。治療します」


 戦いを終えた第一騎士団に対し、エイルはマリナを着陸させて治療を行った。


 <光魔法ライトマジック>の回復ヒールがあれば失った血は戻らないが、それでも傷はちゃんと治せるのだから、負傷者にとってありがたいのは間違いない。


 その間にシルバとレイ、マリアがてきぱきと解体を進めた。


 もたもたしていると新手が来ないとも限らないから、片付けられる物はさっさと片付けるべきだろう。


 戦利品回収と第一騎士団の休憩が終わった後、シルバ達は第一騎士団を連れてフロンティア基地から見て北東5kmの地点に向かった。


 第一騎士団の輸送はレイの<透明多腕クリアアームズ>によって行われたから、騎士達が行軍で疲れることはないだろう。


 北東5kmの地点に到着した時、ここでも悪魔王配下のデーモンと蜘蛛女王配下の昆虫集団が戦っていた。


 北西5km地点との違いは、シルバ達が介入する前から空にいる第三勢力が地上の戦いを見守っていることだろう。


「へぇ、ワイバーンがいるじゃん」


『あいつはレイに任せて』


「わかった。マリア、地上の方は任せる」


「了解」


 地上のデーモンと昆虫集団はマリアと着陸させた第一騎士団に任せ、シルバとレイはワイバーンと対峙する。


「キュア!」


『一度だけ言う。レイに従え』


 そう言うのと同時に、レイは<竜威圧ドラゴンプレッシャー>をワイバーンに向けて放った。


 レイはワイバーンの希少種から進化したニーズヘッグだ。


 そんなレイに希少種でもないワイバーンが逆らえるだろうか。


 絶対に不可能である。


「キュウ・・・」


 ワイバーンは頭を垂れてワカリマシタと頷いた。


 これでひとまずワイバーンが横槍を入れることはなくなった。


 マリアは<竜威圧ドラゴンプレッシャー>の余波で動けなくなった地上のモンスター達を見て、今回はデーモンの群れを倒した。


 エイルに対する嫌がらせではなく、第一騎士団に幅広い戦闘経験を積ませるためだ。


 デーモンとばかり戦っていては、いざデーモン以外の強いモンスターと対峙した時に対応できない恐れがあるのだから、この判断にエイルも文句は言わない。


 第一騎士団がシルバー級の虫型モンスターとの戦闘を始めたのを確認してから、シルバはレイを経由してワイバーンが孤高の一匹狼なのか何処かの勢力に与しているのか訊ねた。


「キュウ」


『元々は竜王様の配下で末端の兵だったって』


「元々?」


『今はレイに従ってるもん』


「そういうことか」


 ドラゴン型モンスターは強さこそ全てだから、相手が自分よりも強い個体だとわかれば逆らえない。


 現時点では竜王と名乗るドラゴン型モンスターがどれだけ強いかわからないけれど、竜王よりもレイの方が自分のずっと近くにおり、逆らえば瞬殺するとわかればワイバーンはレイに従うしか生き残る道がないのだ。


 第一騎士団の戦闘が終わり、エイルが治療を終えてからシルバはレイの配下になったワイバーンを紹介した。


「これからレイの配下になるワイバーンだ。間違って攻撃しないように」


「私のじゅうってまだ最後まで言ってないのに顔を背けるんじゃないわよ!」


 マリアは自分の従魔にならないかとワイバーンに訊ねようとしたが、その途中でワイバーンはマリアから顔を背けていた。


 レイよりも怖い存在だと本能的に察し、その配下になるのは無理だと思ったから全力で聞いていないふりをしている。


「後でティファーナにも会わせてみよう。もしも従ってくれそうなら、孵化させないでワイバーンをテイムした初めての事例になる」


「ぐぬぬ、解せぬ」


 マリアがとても悔しそうにしているが、それは強過ぎるからなので仕方のないことである。


 その後、帰還する時間が来たためシルバ達は転移門ゲートを通ってムラマサ城に帰還した。

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