第312話 ん。真打ち、登場

 死霊王を探して山の上を飛んでいたところ、シルバとレイの姿を目視確認したアンデッド型モンスターが追いかけて来る。


 そこにはアークレイスだけでなく、馬車の霊や他者を恐れさせることだけを目的とした外見の幽霊までわらわらと集まっている。


「馬車の霊がゴーストキャリッジで、化け物みたいな面の幽霊はスペクターだってさ。どっちもシルバー級モンスターだ」


『シルバー級以下のモンスターが来なくなったんだね。ご主人とレイにビビって逃げちゃったのかな?』


「その可能性はある。俺が1ヶ所に集めたら、まとめて昇天させちゃってくれ」


『は~い』


「參式光の型:仏光陣・掌」


 シルバが技を発動したことにより、その背後から光の仏像が現れてその両手を合わせるようにしてシルバー級のアンデッド型モンスターの群れを挟み込んだ。


 30体以上集まっており、仏像の両手で押し潰すには数が多過ぎた。


 だとしても、1ヶ所にまとまってさえくれれば後はレイの出番だ。


『バイバイ』


 レイの屍者昇天ターンアンデッドによって敵は一掃された。


 仏像の手の中には銀魔石だけが残り、シルバはそれら全てを回収した。


「ゴールド級モンスターが来ないのはどうしたのかね?」


『怖くて動けないんじゃない? もしくは空を飛べる種類じゃないのかも』


「強くて空を飛べないアンデッドってなんだろう?」


『レイはあんまりアンデッド型モンスターに詳しくないからわかんないや』


 シルバとレイがそんな風に話していると、シルバの頭に待っていましたと言わんばかりに声が響く。


『フッフッフ。話は聞かせてもらったのよっ』


『ん。真打ち、登場』


 (タルウィとザリチュは何か知ってる感じ?)


『知ってるわっ。ゴールド級のアンデッド型モンスターで空を飛べないのはスカルレギオンなんだからねっ』


『ゴールド級、アンデッド、飛べない、少ない。ほぼ、確実』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが知る限りでは、飛べないゴールド級アンデッド型モンスターはスカルレギオンというモンスターだけらしい。


 (スカルレギオンってのはどんな見た目なんだ?)


『ありとあらゆる骨が密集して塊になった見た目だわっ』


『変形、注意。素材元、変形、可能』


 (スカルレギオンを構成する骨の素材となったモンスター全てに変形できる骨の塊ってことで合ってる?)


『正解なのよっ』


『当たり』


 シルバの認識に間違いがないと熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュは告げた。


 レイはシルバが急に静かになったから、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに心当たりがないか確認しているのだろうと理解していた。


 それゆえ、シルバ達の会話が終わるまでおとなしく待っており、レイは話しかけても良さそうな雰囲気になってからシルバに訊ねる。


『ご主人、白い山の天辺を見て。よく見てみたら何かがグルグル巻きついてるみたいだよ』


「・・・あれがスカルレギオンっぽいな。とぐろを巻いた蛇に擬態してるみたいだ」


 マジフォンのモンスター図鑑機能で調べてみたら、スカルレギオンは過去にマリアが遭遇したことのある種族らしく、その情報が画面に表示された。


 しかし、マジフォンの画面がブレて一瞬だけ違う種族名とデータが現れては消えた。


 (どゆこと? まさか、スカルレギオンが何かに覆い被さってる?)


 スカルレギオンだけが山頂にいるならば、マジフォンの画面に違う種族名が表示されるはずない。


 それはつまり、シルバが考えている通りスカルレギオンが何かに覆い被さっていると見るべきだ。


『動かないなら先手必勝だよ!』


 レイはそう言って屍者昇天ターンアンデッドを発動した。


 その直後、骨の集合体であるスカルレギオンがカタカタと音を立てて崩れた。


 何も反応もない骨の塊と化したスカルレギオンの中から、毛皮のマントを着たまま座禅を組んだ青白い人型のモンスターが金魔石を取り込んでいる状態で現れた。


 シルバはすかさずモンスター図鑑機能で調べたけれど、該当する情報は表示されなかった。


「マジか。マリアの知らない新種だぞこれ」


『強い新種ならレインボー級モンスターだよね? 虹魔石置いてけ!』


 レイが上空から先制攻撃として突風衝撃ガストインパクトを放ってみたが、青白い人型モンスターはそれを跳躍して躱した。


 着地してすぐに攻撃された方向を睨むそのモンスターは、シルバ達に話しかけて来た。


『先程の攻撃は我をこの辺りを統べる死霊王と知ってのことか? ならば愚かだとしか言いようがない』


「死霊王ってのは二つ名だろ? 種族的にはリッチが近いんじゃないか?」


『我をただのリッチと一緒にするでない。我はリッチを超えるリッチロードである』


「ふーん、ロードねぇ・・・」


 シルバは自分を偉く見せたそうなリッチロードに対し、値踏みするような目を向けた。


 それが気に食わなかったようで、リッチロードは<念話テレパシー>の声を荒げる。


『何がおかしい!?』


「いや、別に大したことじゃないんだ。ロードの癖に適当なモンスターの毛皮を剥いでマントにしてるだけなんだなって思って」


『貴様、この毛皮は我がこの山に君臨する前に倒したケリュネディアーの毛皮ぞ! 適当なモンスターな訳あるか!』


「ケリュネディアーなんてモンスターは知らない。本当に存在するのか?」


 シルバがリッチロードを挑発するような口調で会話しているのはわざとだ。


 事前情報が少ないので、怒りに身を任せて色々喋ってもらう算段である。


『我を馬鹿にすることは許さぬ! ケリュネディアーは金の魔石を持つ二本角のモンスターだ! われは魔法も拳も駆使して倒したのだ!』


 (リッチロードは純粋な後衛じゃなくて接近戦もできるのか)


「でも、弱虫なんだろ? だって、スカルレギオンに守られてたんだから」


『キィィィサァァァマホデュアァァァ!?』


 リッチロードがすっかりシルバとの会話に気を取られていたので、レイは試しに屍者昇天ターンアンデッドを発動してみた。


 会話に夢中だったリッチロードの反応は遅れ、一撃で昇天するようなことはなかったものの光に覆われて苦しそうに叫んだ。


「壱式光の型:光線拳」


 苦しくて身動きの取れないリッチロードに対し、シルバの拳から飛び出した光線が命中する。


 命中と同時に爆発が生じ、爆風によってスカルレギオンを構成していた骨が吹き飛んだ。


 シルバの攻撃で屍者昇天ターンアンデッドの効果範囲から抜け出せたため、リッチロードは反撃だと言わんばかりに暗黒嵐ダークストームを発動した。


 暗黒に染め上げられた槍が暴風雨のようにシルバとレイを襲う。


 もっとも、レイが反射領域リフレクトフィールドを発動した時点でその攻撃がシルバ達に届くことはないのだが。


『チッ、ここまでの<光魔法ライトマジック>の使い手がいるとは』


 そう言いながら、リッチロードは反射された暗黒の槍を躱しつつ、シルバ達に少しずつ接近する。


 空を飛ぶというよりは、シルバやマリアのように空を駆けているようだった。

 

「弐式雷の型:雷剃・舞」


 レイの反射領域リフレクトフィールドが解除されるのと入れ替わりに、シルバが6つの雷を帯びた斬撃を放った。


 暗黒の槍よりも雷の刃の方がスピードのあることから、リッチロードは全てを躱し切ることができずに2発喰らってしまった。


 プライドの高いリッチロードにとって、シルバの攻撃を避け切れなかったことは苛立ちを増すのに十分な理由だ。


『キィィィサァァァマホデュアァァァ!?』


 (学習しろよリッチロード)


 リッチロードがすっかりシルバとの会話に気を取られていたので、レイはまたしても屍者昇天ターンアンデッドを発動した。


 リッチロードの反応は遅れてしまい、今度はもう少しで昇天するレベルの苦痛を受けて叫んだ。


 ここまで弱っていれば、シルバはとどめを刺すためにレイの背中から空を駆けてリッチロードに接近する。


「弐式光の型:光之太刀・斬」


 マリアの動きをしっかり見て会得した光の刃の抜刀術は、リッチロードの体を真っ二つにして戦いを終わらせた。


 山頂に落ちたリッチロードの上半身から虹魔石を取り出し、シルバはレイの頭を撫でてそれを与える。


「レイ、お疲れ様。死霊王の魔石をあげよう」


『いただきま~す!』


 虹魔石を取り込んだレイから発せられるオーラは一段と高まり、レイは上機嫌でシルバに頬擦りする。


『ご主人、<不可視手インビジブルハンド>が<透明多腕クリアアームズ>になったよ! 操れる透明な腕の本数が増えたの!』


「おぉ、すごいじゃん!」


 透明な手を操れる<不可視手インビジブルハンド>ですら羨ましいと思っていたのに、その上位互換のスキルをレイが会得したと聞けば、羨ましい気持ちが更に大きくなってシルバの声も自然と大きくなった。


 その後、死霊王の体とスカルレギオンの骨を可能な限り回収したところで時間になったので、シルバとレイはフロンティア基地の転移門ゲートを経由してムラマサ城に帰還した。

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