第76話 ケースバイケースですね、わかります
3日後の朝、学食で朝食を取っていたシルバとアルはロウに声をかけられた。
「小隊長とアル、丁度良い所にいた。エレンさんから第二小隊は9時にキマイラ中隊の部屋に集合だって連絡があった」
「ロウ先輩、エレンさんと仲が良いですね。浮気ですか?」
「・・・アル、お前それ絶対クレアの前で言うなよ?」
いつになく真剣な顔で言うロウにアルは首を傾げた。
「もしかして、過去に浮気と疑われてクレア先輩が大暴れしたんですか?」
「アルはなんでそーいうことに勘が鋭いかね? 言っておくが俺はその時も今も浮気をしてない。同じクラスの女子から相談を受けてただけだったんだ。それなのにクレアは、クレアは・・・」
ロウが体をガクガクと振るわせるものだから、シルバもアルもゴクリと唾を飲み込んだ。
「おっと、そんなことを話し込んでる場合じゃなかった。エイルを見つけたから連絡しに行くわ」
「えっ、ちょっと、ロウ先輩!? そんな面白そうな所で話を止めるなんて意地悪です!」
「いや、絶対アルの方が意地悪だろ! そのネタで俺のことを強請るつもりにしか見えないからな!? また後で会おう!」
ロウはエイルを見つけてシルバとアルのいたテーブルから去っていった。
「シルバ君はロウ先輩がどんな酷い目に遭ったと思う?」
「酷い目に遭ったのは確定事項なのか?」
「うん。ロウ先輩のあの怯え方はクレア先輩が何かすごいことをやったに違いないよ。後で訊き出さなきゃ」
「程々にしとけよ?」
止めておかないとアルがロウに話すまで会う度に訊き出そうとすると思い、シルバは釘を刺しておいた。
朝食後、支度を整えてからシルバとアルは帝国軍の基地内部にあるキマイラ中隊の部屋に移動した。
2人が時間に余裕をもって移動したこともあって第二小隊では一番乗りだった。
「「おはようございます」」
「おはよう。シルバ君とアル君、早かったね」
「いえ、5分前行動をしただけですから」
シルバがソッドに答えた直後にロウがエイルを連れて入室した。
「「おはようございます」」
「おはよう。少し早いけど全員揃ったし話を始めようか。エレン、お願いするよ」
「わかりました。こちらを見て下さい」
ソッドに頼まれたエレンは黒板を見るように中隊のメンバー全員に声をかけた。
黒板にはエレンがアイテル湖の簡単な地図を描いており、指差し棒を持って説明を始める。
「昨日、シルバ君がクラスメイトとアイテル湖でゴブリンの巣を潰したと聞きましたが、今回のミッションはそれに関するものです」
「俺達が潰した場所以外にゴブリンの巣があったんですか?」
「ある可能性が高いと言うのが正直なところです。シルバ君達が潰した巣よりも北部でゴブリンジェネラルが目撃されました。巣もなしにゴブリンジェネラルだけいるとは考えにくいので、軍の参謀部門が100体超えの巣があるだろうと推測してます」
ゴブリンジェネラルはゴブリン派生種の中でも賢く、力もあるので自分よりも弱い他のゴブリン派生種を束ねて軍団を組織を作る。
過去の報告によれば、割災でエリュシカに紛れ込んだゴブリンが密かに力を蓄えた結果、ゴブリンキングになったなんてこともあった。
ゴブリンジェネラルの巣はゴブリンジェネラルが1体しかいないが、ゴブリンキングの巣にはゴブリンジェネラルも含んだゴブリン派生種が山のようにいる。
「エレンさん、参謀部門はゴブリンキングがいる可能性もあると見てますか?」
「その可能性がないとは言えません。私達に与えられたミッションはアイテル湖にあるゴブリンジェネラルの巣の調査です。ゴブリンジェネラルが1体いるだけの巣なのか、それともゴブリンキングが出て来てもおかしくない規模なのか調べるミッションです」
シルバの質問にエレンが答えると、今度はロウが手を挙げた。
「ロウ君、質問をどうぞ」
「はい。今回のミッションは潰せるなら巣を潰して来いというものでしょうか?」
「勿論です。ゴブリンは生かしておいても百害あって一利なしです。ゴブリンベビーがいたら実験台として捕獲するようにと指示書にはありましたが、基本的には見つけたゴブリンを倒せるだけ倒しつつ巣について調べろと書かれてます」
「僕からも良いですか?」
「アル君、なんでしょうか?」
アルも気になったことが出て来たので手を挙げてエレンがそれを当てた。
「キマイラ中隊は8人全員でアイテル湖を調査するんでしょうか? それとも、二手に分かれて4人ずつで動きますか?」
「最初は全員で動く想定ですが、アイテル湖は広いですから途中から二手に分かれるかもしれません」
「ケースバイケースですね、わかります」
情報が少なければ少ない程予定は未定であり、どんな状況でも泣き言を言わずにそれに応じて動くのが軍人だ。
ひとまずアイテル湖に行くことは間違いないので、ここから先はマルクスが主導して持っていく荷物の相談である。
マルクスは大きな体で
アルもマルクスの仕切りをしっかり見ており、自分がメインとなって準備する時はどのように動くのか学んだ。
持ち運べる物資と馬車で運べる物資の分け方、いつまでにどれをどのくらい用意すれば良いのか等知るべきことは多い。
学生会室でもアルがメアリーやイェンに質問していることも知っているので、シルバはアルに任せておけば第二小隊だけで動くとしても、兵站の分野で困ることはないと確信した。
ソッドは用意された物資の中で気になる物があって手に取った。
それはタオが完成させたゴブリンホイホイGだ。
いつまでも試作品のゴブリンホイホイ改良版という長ったらしい呼び方で管理するのは面倒だから、既存のゴブリンホイホイよりもグレートな効果があるのでGを後ろに付けた。
彼は自分の目で効果を確かめていないため、実際に効果を目の当たりにしたシルバに訊ねる。
「シルバ君、ゴブリンホイホイGの効き目は既存の物とそんなに違ったのかい?」
「全然違いますね。異常な即効性もそうですが、ゴブリンが発情しておかしくなりました」
「「「発情」」」
エレンとエイル、アルが三者三様の表情になりながら同じ言葉を発した。
エレンはゴブリンを発情させる薬の効き目に戦慄している。
エイルは発情したゴブリンに生理的な嫌悪感を抱いている。
アルはシルバの口から発情という言葉が飛び出したことに驚いている。
ロウはその3人の反応をスルーしてシルバに追加で質問する。
「小隊長、ゴブリンがおかしくなるってどんな感じだ? ただ暴れ回る訳じゃなくて女子を狙うのか? 確か、小隊長はクラスメイトの女子と一緒にフィールドワークをしたんだろ?」
「女子を狙うというよりもゴブリンホイホイGを振りかけた場所目掛けてゴブリンが殺到します。いずれも目がハートマークになっており、酷い個体なんて腰を振りながら歩いてました」
「それ、マジで言ってる?」
「嘘だと思うならB1-1のタオに訊いてみて下さい。彼女も同じように証言するでしょうし、なんなら彼女はゴブリンホイホイGの作成者として
俄かには信じられないと言いたそうなロウに対し、シルバは自分と同じように証言するだろうからとタオに確認しても良いと言った。
「いやいや、それを俺から下級生の女子に聞いたらセクハラだろ。それがクレアにバレたらどうなるか・・・」
「ロウ、もしもタオさんに確かめるならば、私はフォローしませんからそのつもりで訊いて下さいね」
「確かめないからね!? エイル、そこは同じ小隊のメンバーとしてフォローしてくれよ! 俺に疚しい気持ちはないんだからさ!」
ロウがエイルに頼む姿は必死であり、アルがクレアのやり方に更に興味を持ったところでソッドが口を開く。
「はいはい。脱線してるぞ。とりあえず、シルバ君が目で見て効果を確認してるんだから、私はそれを信じよう。みんなもこの話は一旦止めて出発の準備をしてくれ」
「「「・・・「「
返事をしてすぐにシルバ達は準備を整えて基地から馬車を走らせてアイテル湖に向かった。
今回は小隊ごとに馬車に乗り込んでおり、第一小隊と第二小隊が縦に並んで走っていく姿がディオスに住む人々に目撃された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます