第77話 またつまらぬものを斬ってしまった
シルバ達はアイテル湖のゴブリンジェネラルが目撃された場所に到着した。
馬車から降りたロウは地面にうっすらと残る足跡から調べる。
「ロウ、足跡から何かわかるかい?」
「ゴブリンが群れでいるのは間違いない。その中にゴブリンにしては大きな足跡があるから、多分それがゴブリンジェネラルだと思う」
ソッドに質問されたロウは自分の見立てを告げた。
ゴブリンジェネラルはゴブリンの上位種であり、当然ただのゴブリンよりも目撃される回数が少ない。
「そうか。私も絵で見たことはあっても本物のゴブリンジェネラルは見たことがない。発見が遅れないように気を引き締めなければなるまい」
「兄貴ってゴブリン上位種と戦ったことなかったっけ?」
「私が遭遇して倒したのはゴブリンシャーマンだ。悪霊を操ったり自分の体に憑依させてたが、元々が弱かったから大したことはなかった。ゴブリンジェネラルがあれと比べてどれだけ強いか気になる」
ソッドはまだ見ぬゴブリンジェネラルがきっと強敵なんだろうなと遭遇する時を楽しみにしている。
ロウが足跡の調査を終えてシルバ達は足跡を頼りに進み始める。
前方に長い草むらが見えて来たため、シルバは周囲にゴブリンホイホイGをかけられそうな物を探す。
「良い感じの物がないな」
「そんな時は落とし穴だよシルバ君」
アルがそう言って<
ご丁寧に穴の底には岩の剣山まで設置してある。
「アル、ありがとう。皆さん、準備は良いですか?」
シルバの問いかけにキマイラ中隊全員が頷いた。
それを見てシルバはアルが掘った落とし穴の中にゴブリンホイホイGを投げ入れた。
「「「・・・「「ゴブ!?」」・・・」」」
落とし穴の中でゴブリンホイホイGの試験管が割れた直後、長い草むらからゴブリンの群れが飛び出して来た。
「「「・・・「「ゴブッファァァァァ!」」・・・」」」
どのゴブリンも目をハートマークにしており、落とし穴の中から香る匂いを嗅いで穴の中にダイブしていく。
穴の中を確認せずにダイブするものだから、飛び込んだゴブリンから順番に串刺しになっていく。
「ゴブリンホイホイGの効果は恐ろしいな」
「驚きだねー」
ゴブリンの群れが自ら落とし穴に飛び込んで死んでいく様子を見てマルクスとアリアが顔を引き攣らせていた。
エイルはゴブリンホイホイGと大量のゴブリンの血が混ざった臭いで気持ち悪くなってしまい、その場に蹲ってしまう。
それに気づいたシルバがエイルに近づいてその背中を擦る。
「会長、大丈夫ですか」
「・・・すみません、かなりキツいです」
年下の後輩の前で格好悪い真似はしたくなかったけれど、気持ち悪くなってしまったのならば仕方あるまい。
下っ端のゴブリン達が死んで静かになった後、草むらの中から一際大きなゴブリンが現れた。
そのゴブリンは腰を振りながらドシンドシンと足音を鳴らして落とし穴に向かっていく。
「中隊長、あれがゴブリンジェネラルのようです」
「そうみたいだな。倒してしまおう」
エレンの言葉に応じたソッドが剣を鞘から抜き、雷を付与した斬撃でゴブリンジェネラルの首を刎ねた。
「またつまらぬものを斬ってしまった」
「中隊長、お疲れ様です」
ソッドが虚しさを滲ませた発言をするのに対してエレンが労った。
そこから先は討伐証明になるゴブリン達の耳を削ぎ落すだけの作業の時間だ。
アルが落とし穴を解除してゴブリン達の死体が地上に上がって来たので、シルバ達が手分けして耳を削ぎ落していく。
「私ももう大丈夫です。作業に加わります」
「会長、無理しなくても良いんですよ?」
「大丈夫です。私だって軍人なんです。これぐらい慣れないと今後やっていけません」
エイルはなんとか気力を振り絞って動いているように見えたが、彼女にも覚悟があるのだとわかるとシルバはその意思を尊重した。
耳を削ぎ落した死体は落とし穴の中に戻してアルが<
例外はゴブリンジェネラルであり、ゴブリンジェネラルの死体は帝国軍の研究施設に持ち帰ることになった。
首を落とした以外に外傷はなく、ゴブリンホイホイGが抜群に効いた状態で死んだから、ゴブリンホイホイGの効果に対してゴブリンジェネラルの体がどのように反応したか解剖して調べるべきとエレンが主張したからである。
これで帝国軍の仕事は終わりかと言えば、まだゴブリンジェネラルの巣の確認が終わっていない。
それゆえ、シルバ達はゴブリンジェネラルの巣を探して草むらの中に入ることにした。
まずは様子見ということで、エレンとロウの斥候組が慎重に草むらの中に入る。
草むらの奥にある空間にはゴブリンジェネラルの巣があったが、それはシルバとタオが見た巣よりも秩序が見て取れた。
何故なら、木の実の種や人や動物の骨や糞が穴を掘って1ヶ所にまとめられていたのだ。
もっとも、臭い物に蓋がされている訳でもないから臭いことに変わりはないのだが。
「長居する場所ではありませんね。危険はなさそうですから、中隊長達を呼んで素早く捜索したら引き上げましょう」
「賛成です」
エレンとロウはすぐにシルバ達の待つ場所に戻り、彼等を連れてゴブリンジェネラルの巣に移動した。
ゴミの集積所はアルが<
そのまま放置し解けばただのゴミだが、これが僅かばかりでも肥料としてこの付近の土壌の栄養になってくれれば儲け物という考えだ。
ゴミ処理はこれで良いとして、シルバが他に何か目ぼしい物はないかと調べていくと、ゴブリンジェネラルが座っていたであろう動物の毛皮で作った絨毯の下の地面に掘り返したような跡が見つかった。
「アル、ちょっとこっちに来て」
「どうしたのシルバ君?」
「これって掘り返してるよな?」
「そうだね。調べてみようか」
アルが<
木箱の蓋は半円状になっており、上に何か荷物を置くには不便な形である。
「ソッドさん、皆さん、木箱が出てきました!」
シルバが声をかけたことでキマイラ中隊全員が集まった。
「シルバ君、まだ中身は開けてないんだよね?」
「開けてません。ソッドさんはこの箱の装飾に見覚えはありませんか?」
「ないな。いくつかの盗賊団を潰したけど、どの盗賊団もこんな木箱は持ってなかった」
シルバに訊かれたソッドは自分も見たことのないデザインだと述べた。
そこでロウが口を開く。
「シルバ、まだ誰もこの箱に触れてないんだよな?」
「触れてないです。アルの<
「直接触れる前に適当に何かぶつけてみようぜ。いきなり触るとなんか嫌な予感がする」
「わかりました」
ロウの意見を聞き入れてシルバは落ちていた石を放物線を描くように投げて木箱に当てた。
石が当たった瞬間、蓋がガバッと開いた。
その蓋と木箱の上部には牙が生えており、箱の中にはベロと先の見えない闇が広がっている。
蓋には目が突然現れ、この木箱はモンスターであることが明らかになった。
「キシャァァァ」
「箱に化けるモンスター・・・。こいつがミミックか!」
「知ってるのかシルバ!?」
「はい。俺は今初めて見たんですが、師匠から箱に擬態するミミックというモンスターを聞いたことがあります。モンスターだと気づかずに蓋を開けた者に噛みつくそうです」
シルバの説明を聞いてエレンはソッドに提案する。
「中隊長、ミミックは生きたまま捕獲しましょう。死体として持ち帰るよりもその方が得られる情報が多いはずです」
「そうだな。マルクス、エレキポーションとスタンポーション、縄は持って来てるよな?」
「勿論だ」
「OK。気絶させてから蓋を開けられないように縛り上げるぞ」
「わかった」
マルクスが持ち込んだ荷物からエレキポーションを取り出して投げると、ミミックが痺れてその動きが鈍った。
その隙に近づいてスタンポーションを嗅がせてミミックが気絶すると、ソッドとマルクスが協力してミミックを縄で縛り上げた。
ミミックを無事に捕獲した後、それ以上に気になるようなものはなかったので、シルバ達は帝国軍の基地に戻った。
ゴブリンジェネラルの死体とミミックの生け捕りはすぐに噂として広がり、キマイラ中隊はまたしても注目されることになった。
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