第78話 え? なんだって?
ミッションの翌日、シルバとアルは帝国軍の仕事がないので登校した。
「「おはよう」」
「おはよう! ゴブリンジェネラルと戦ったんだって!?」
「ヨーキは元気だな。戦ったというよりは嵌め殺しだったぞ」
「僕もそう思う。あれを戦いと呼んじゃ駄目だね。嵌め殺しだよ」
ゴブリンホイホイGの効果であっさり倒せてしまったことを思い出し、シルバとアルは苦笑した。
2人が苦笑いするものだから、何があったんだろうかとヨーキは首を傾げる。
そこにタオが合流した。
「おはようございます。ゴブリンホイホイGはゴブリンジェネラルにも有効だったんですね」
「おはよう。その通り。腰を振りながらドシンドシンと足音を鳴らして接近したところをソッドさんがバッサリ斬って倒したんだ」
「それだけの効き目があるのなら、もしかしたらゴブリンキングにも通用するかもしれませんね」
「ゴブリンキングも作業感覚で倒せたらゴブリンのせいで死ぬ人が激減するだろうな」
「そうなってくれることを祈るばかりです」
シルバ達が話し込んでいるところにポールがやって来た。
「よーし、全員座ってくれー。今日は予定を変更してお前達にフィールドワークに出てもらう。チーム編成についてももう決まってるぞ」
ポールはそのままフィールドワークについて説明する。
今日のミッションは場所も内容も同一である。
それはへメラ草原でのミミックの捜索だ。
担当はシルバとアルのペア、ヨーキとロック、ソラ、メイのチーム、サテラとリク、タオ、ウォーガンのチームに分かれる。
シルバとアルは軍人だからそれぞれ学生2人分働くだろうという考えにより、2人だけで挑むことになった。
ミミックは昨日帝国で認知された訳だが、近づかなければ危険性はないという判断で戦闘コースの学生による捜索許可が下りたのだ。
ニュクスの森とアイテル湖は他の学年の戦闘コースの学生が捜索することになっており、1年生はへメラ草原を任されている。
1年生がへメラ草原を担当する理由だが、このエリアがディオス付近では初心者向けの場所だからである。
視界が開けていて捜索が容易だからこそ、経験の少ない1年生にも任せられるという訳だ。
シルバ達は準備を整えてすぐに軍学校の馬や馬車に乗ってへメラ草原へ移動した。
ペアまたはチームでの移動なので、シルバとアルは馬に2人乗りし、ヨーキチームとサテラチームは馬車を利用している。
シルバ達は1年生の中で最も早くへメラ草原に到着した。
着いて早々にペアあるいはチームに分かれて捜索を始める。
「シルバ君は周囲の警戒をお願い。捜索は僕に任せてもらえる?」
「別に良いけど何をする気だ?」
「地面をかき混ぜながら進んでみようかと」
「マナ切れで倒れたりしないか?」
マナ切れ、あるいはMP切れと呼ばれる現象は魔法系スキルを会得している者に多い。
スキルを使うにはマナ(MP)を消費しなければならないのが原則である。
魔法系スキルは発動コストが他のスキルに比べて多いからマナ切れになりやすいのだ。
アルの捜索手法は確かに効果的だが、マナの消耗も激しいのではとシルバが心配するのも当然だろう。
「流石にへメラ草原全体をかき混ぜるのはマナが厳しいけど、僕達が進む分ぐらいなら問題ないと思うよ」
「そうか? それならアルに頼もうかな」
「うん。任せてよ」
アルがいけると言うのでシルバはそれを信じて任せることにした。
アルが<
結果として、シルバとアルを狙うような敵は現れずにアルの作業が淡々と行われた。
「シルバ君、何か引っかかったかも」
「マジで? ミミックか?」
「わからない。掘り起こしてみるね」
アルは問題のあった地点の土を掘り起こしていく。
それにより、土の下からミミックが出て来たけれど、そのミミックはシルバ達が昨日見たミミックとは違った。
装飾が昨日のミミックよりも豪華であり、ただのミミックだと断言できないのだ。
「石でも投げてみるか」
「そうだね。それはシルバ君に任せるよ」
「了解」
アルと手短に打ち合わせを済ませた直後、シルバがミミックらしき物体に石を投げて当てた。
「キシャァァァ」
「針? とりあえず、針はキャッチすれば良いか」
シルバがそう言うのに対し、アルは迫り来るモンスターの対処をシルバに任せていた。
殺意の高い罠を仕掛けた以上、このミミックは間違いなく上位種だ。
シルバは飛んで来る針を
針は2,3本続けて発射されたが、シルバがいずれもキャッチしたので罠は完全に無効化している。
この後は昨日みたいにエレキポーションとスタンポーションで使い、身動きが取れなくなったミミック上位種を縄で縛って捕獲した。
「こいつはクラスメイトの馬車に乗せてもらう? それともリュックサックみたいにして背負って帰るか?」
「後者にしようよ。みんなもミミックを捕まえるかもしれないしさ。帰りは僕が前に乗れば良いね」
「おう。俺はアルにしがみついて帰るわ」
「ずっとそうしてほしいな」
シルバが背負うミミックが邪魔ではあるが、シルバから抱き着いてもらえるシチュエーションはアルにとって嬉しいものだ。
思わず本音がポロリと出てしまう。
幸か不幸かシルバにはそれが聞こえていなかった。
「え? なんだって?」
「なんでもないよ」
アルもわざわざもう一度同じことを言うつもりはなかったから、なんでもないと誤魔化した。
その後、もう少しだけ他にもミミックが埋まっていないか調べてみたが、シルバとアルは見つけられなかったので軍学校に戻った。
B1-1で待機していたポールはシルバがミミック上位種を背負って帰って来たのを目の当たりにして、ほんの少しの間だけ口をあんぐりと開けてしまった。
それでもすぐに顔を引き締めてシルバとアルに声をかける。
「帰って来たか。背負って帰って来たのはただのミミックじゃなさそうだな」
「ただいま戻りました。その通りです。昨日発見したミミックは開けた瞬間に針を飛ばしてくることはありませんでしたが、この個体は飛ばして来ました。これがその針です」
シルバはミミック上位種と凍らせた針をポールに提出した。
それらをじっくり見てポールは頭を掻く。
「参ったなー。昨日見せてもらったミミックと装飾が違うじゃんか。これ、ミミックを探してる学生達がうっかり針に刺されるんじゃね?」
「そうかもしれませんね。とは言ってもミミック上位種なんてそんなにポンポン出て来ないと思いますが」
「それはミミックとその上位種を連日捕獲して来た奴のセリフじゃねえんだよなぁ」
「そんなこと言われても偶然ですから仕方ないじゃないですか」
今度はアルがポールに反論した。
実際、今日はミッションだったから狙っていたけれど、昨日はシルバもアルも狙ってミミックを捕獲した訳ではない。
完全におまけとして捕まえたのだから、昨日の分については偶然と言えよう。
「わーってるって。言ってみただけだ。それよりもシルバもアルもあんまり生き急ぐんじゃねえぞ?」
「生き急いでるつもりはないですけどなんでですか?」
「若い内に昇進するとなかなか昇進できずにいるベテランに使い潰されるんだよ。俺の同期もそれで何人も軍を辞めてなぁ。お前達にはそうならんでほしいと思っただけさ」
「嫌な老害もいるもんですね」
「本当にその通りだ」
シルバとアル、ポールは苦笑した。
厳密に言えば老害と呼ぶにはまだ若い者もいるかもしれないが、自分よりも年下が昇格して自分と同格になった時の行動は大して変わらないだろう。
大きな組織ともなると、人間の醜さが見えてしまう場面がちらほらある。
願わくばシルバとアルには犠牲になってほしくないとポールは思っている。
「とりあえず、このミミック上位種についても名前がすぐに付くだろう。それで、開けた時に針を発射してくることもすぐに広められるだろうから恐らく犠牲は最小限で済むさ。シルバもアルもよくやった。2人の授業はここまでとして、後はゆっくり休んでくれ」
「「はい!」」
時間にまだ余裕があったため、シルバとアルは学生会室に顔を出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます